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「みんなにとっていい曲」はあるのか? 小谷美紗子インタビュー

「みんなにとっていい曲」はあるのか? 小谷美紗子インタビュー

インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:柏井万作
2013/12/16

今の時代において、小谷美紗子ほどその言葉が求められているシンガーソングライターというのはいないのではないだろうか。<やさしさは苦しみの中から生まれる>と歌った“眠りのうた”を例に挙げるまでもなく、小谷はこれまで常に悲しみから目をそらさず、その本質を見つめ続け、それを最終的にはポジティブに解釈し、希望として歌を届けてきた人である。前作『ことの は』からは3年半ぶり、フルアルバムとしては『OUT』以来実に6年半ぶりで、震災後は初の正規作品となる新作『us』には、そんな希望を歌う表現者としての小谷がより明確に表れている。つまり、この作品は小谷にとって決して「変化」の作品ではなく、あくまでその強度が増した作品なのだ。それは今までと何ら変わることなく、それでいて格段の進化と深化を遂げた、玉田豊夢と山口寛雄とのトリオ編成の演奏にもはっきり表れていると言っていいだろう。

とはいえ、震災以降の2年半が、小谷にとって大きな葛藤と戦った2年半だったこともまた間違いない。2011年の9月に無料配信された“3月のこと”で、小谷は<歌なんか 今そんなもの 聴いても しょうがない>と、自分のこれまでを否定するような言葉を綴っていたりもする。果たして、小谷はそれからどんな時間を過ごし、「僕ら」へと呼びかける『us』を作り上げるに至ったのか。その変遷をじっくりと語ってもらった。

「頑張れ」とは言えなかったし、「頑張るな」とも言えない、どっちでもない、どうしようもない感情がある。それを私は知ってる、分かち合える、だから歌えると思ったんですよね。

―今回の作品は震災後の小谷さんの想いが詰まった作品になっていると思うので、改めて当時の心境から聞かせてください。すぐに音楽に向かうことはできなかったという話を聞いていますが、まず自分は何をしようと考えましたか?

小谷:私はホントに細かいことですね。募金をするとか、物資を送るとか、そういう誰にでもできることを個人的にやっていました。ファンに「募金しようよ」とか呼びかけるんじゃなくて、黙々と一人の人間として活動を続けようと思って。それから少し経って、直接被災地に行って物資を渡したりできるようになってから、「歌を届けたら、目の前のこの人たちが元気になってくれるかな?」とか、ようやくそういう風に考えられるようになりましたね。

小谷美紗子
小谷美紗子

―震災後に最初に発表された曲は“3月のこと”でしたね。あの曲は震災が起きてからどれくらいで書いた曲だったのですか?

小谷:何かしら言葉はずっと書いてたんですけど、それを曲にするとかではなく、自分の頭の中を整理するために書いてたんです。被災地に向けて、私だったらこういう言葉をかけたいけど、果たしてこの言葉が合ってるのか、力になるのか、逆に傷つけてしまうんじゃないか、そういうことを思いながら、とりあえず書き留めていました。

―実際に“3月のこと”が無料配信されたのは2011年の9月でした。半年経って、やっと発表できたと。


小谷:震災直後だと、あの歌は生々し過ぎたと思うんですよ。震災から少し時間が経ったり、自分の目で被災地を見て「この場所にはこの言葉が必要かもしれない」と思ったり、そういう過程を経て、やっと世に出そうっていう気持ちになりました。

―<歌なんか 今そんなもの 聴いても しょうがない>っていう歌い出しは、これまでずっと歌ってきた小谷さんにとって、非常に重い言葉ですよね。

小谷:そうですね。頭の一行は、全否定ですからね。

―でも、それが当時の偽らざる心境だったわけですよね。

小谷:ホントに個々にいろんな悲しみがあって、家が流されて悲しい人がいれば、家族が死んでしまって悲しい人もいるし、原発のことでやりきれないって人もいる。「みんなにとっていい曲」っていうのは、ないのかもしれないって思ったんです。

―確かに、人それぞれの悲しみがありますよね。

小谷:シンプルに「頑張れ」って言ってほしい人もいただろうし、「今は頑張らなくていいよ」って言ってほしい人もいただろうし、誰も気づいてないけど、ホントはここが悲しいっていうことに気づいてほしい人もいただろうし。そういう中で、私は「誰も気づいてないけどホントはここが悲しい」っていう、少数派に向かってだったら歌えると思ったんです。「頑張れ」とは言えなかったし、「頑張るな」とも言えない、どっちでもない、どうしようもない感情がある。それを私は知ってる、分かち合える、それだったら歌えると思ったんですよね。

―特に東京ではそういう黒でも白でもない、グレーな感情を抱えた人が多かったですもんね。今一番怖いのって、震災が風化してしまうことだと思うんですけど、そういう個人的な感情、ある種のドキュメントを歌にしておくことで、これから何度でも再生できるっていうのはすごく重要なことだと思います。

小谷:「アーティスト」とか、そういうことを考えるのはやめようと思ったんですよ。みんなと同じように、一人の人間としてできることをとにかく続けるしかない、それだけですよね。ある種自己満足の世界ですけど、「小さなことだけど、力になってるかもしれない」っていう、「何かできてる」っていうことで自分を保つ、そういう部分もあったと思いますね。

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イベント情報

小谷美紗子 Trio Tour『us』

2014年4月8日(火)OPEN 18:30 / START 19:30
会場:大阪府 梅田 Shangri-La

2014年4月10日(木)OPEN 18:30 / START 19:30
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO

2014年4月24日(木)OPEN 18:30 / START 19:30
会場:東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE

料金:各公演 前売4,800円 当日5,500円

リリース情報

小谷美紗子<br>
『us』フォトブック特別仕様盤(CD+BOOK)
小谷美紗子
『us』フォトブック特別仕様盤(CD+BOOK)

2013年12月14日からMusic For Lifeで発売
価格:3,300円(税込)
HSR-1003

1. enter
2. 正体
3. 誰か
4. 手の中
5. runrunrun
6. 果てに
7. universe
8. 東へ
9. すだちの花
10. recognize
※Music For Lifeのみの取り扱いで一般流通での販売は予定しておりません
※2014年4月に開催されるレコ発ツアーのチケット先行予約情報が封入
※購入者先着2,000人に特典として小谷美紗子のメッセージカード付属

小谷美紗子<br>
『us』通常盤(CD)
小谷美紗子
『us』通常盤(CD)

2014年1月22日発売
価格:2,800円(税込)
HSR-0003

1. enter
2. 正体
3. 誰か
4. 手の中
5. runrunrun
6. 果てに
7. universe
8. 東へ
9. すだちの花
10. recognize
※収録曲は特別限定盤と同一ですが、通常盤はジュエルケース仕様となります
※一般流通の店頭では通常盤のみの販売となります

プロフィール

小谷美紗子(おだに みさこ)

1996年、『嘆きの雪』でデビュー。ピアノの弾語りを中心とした楽曲で、日々身近に感じる「葛藤」や「疑問」、そして生きることへの素直な「喜び」や「悲しみ」を独自の世界観で歌う。ときに赤裸裸な告白を、またときには辛辣な言葉を用いて書かれる私小説的な作風で多くの人の共感を得てきた。京都出身。幼少の頃にクラシックピアノを始め、13歳の頃から本格的に作詞作曲を始めた。オーストラリアへの留学経験をもつ。

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