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菊池亜希子が『海のふた』で腑に落ちた、自分の居場所の見つけ方

菊池亜希子が『海のふた』で腑に落ちた、自分の居場所の見つけ方

インタビュー・テキスト
藤田ひとみ
撮影:西田香織
2015/07/10

よしもとばなな原作の同名小説を、女優・モデルとして活躍する菊池亜希子主演で映画化した『海のふた』。東京で舞台美術の仕事をしていた主人公・まりは、都会の暮らしの中でふと我を見つめ直し、故郷の西伊豆に戻って小さなかき氷のお店を始める。地元は昔のにぎやかさを失い、さびれてしまっていたが、まりはこの海辺の小さな町で自分の一番好きなことで生きていく決意をするーー。顔に火傷の痕が残り、一緒に暮らしていたおばあさんを亡くしたばかりで心に傷を抱えるはじめ(三根梓)や、地元で生きる元彼・オサム(小林ユウキチ)と触れ合いながら、地方都市の問題や、故郷に残した人々との人間関係、自分の居場所といったテーマを背景に新しい人生を踏み出そうとする一人の女性の物語。菊池自身が「自分を見ているようだ」と語る主人公へのシンパシーについて語ってもらった。

※本記事は『海のふた』のネタバレを含む内容となっております。あらかじめご了承下さい。

原作も映画も、「自分が好きなもので生きていく」という覚悟を決めることの尊さを描いた作品だと思います。

―よしもとばななさんの原作が世に出た2004年当時は、かき氷だけの専門店ってまだあまり一般的ではありませんでしたよね。かき氷というのはレストランや喫茶店の夏季限定メニューで、1年中食べられるものではなかった。本作でかき氷の監修を務めている「埜庵」が、真冬でも行列ができるかき氷専門店を成立させて、その常識が覆ったように思います。

菊池:ここ数年はかき氷がブームになっているので、「田舎に帰ってかき氷屋さんを始める話」と聞くと、まるで流行りに乗っかった人物のように主人公を誤解してしまうかもしれないんですけど、そうではないんです。まりが「これなら誰にも負けないぐらい好きだ」と自分の内面に向き合って、都会の暮らしを投げ打ってまでやりたかったことが、かき氷のお店を持つことだったんです。原作も映画も、「自分が好きなもので生きていく」という覚悟を決めることの尊さを描いた作品だと思います。


―かき氷ってすぐに溶けてなくなってしまう、非常に刹那的な食べ物ですよね。一瞬の感動と清涼感のために対価を払う。

菊池:一瞬だからこそ、キラキラともろくて儚い氷を一匙すくって口に含んだ瞬間、言葉にできない幸せが訪れる。時間がたつと価値がどんどんなくなってしまうから、その場で食べることを含めて「体験」を楽しむものですよね。

共感という言葉を超えるぐらい、まりの発言や意地の張り方が、自分を見ているようで恥ずかしかった。

―たしかに劇中で、菊池さんがかき氷のてっぺんにシロップをとろりとかけるシーンは唾を呑みました……。はじめに脚本を読まれたとき、まりがどういう人間なのかがつぶさに理解できて、役作りに時間がかからなかったと伺いました。どのあたりにご自身との共通点を感じられたのでしょうか?

菊池:共感という言葉を超えるぐらい、まりの発言や意地の張り方が、自分を見ているようで恥ずかしくて、脚本を読んでいられなくなるほどでした。理想を振りかざし過ぎて、誰かのことを傷つけてしまったり、キレイごとを語ってしまいがちなところなど、生き方の根幹になっている部分がまりと私は近いのか、自分の嫌な部分を客観視させられているみたいで。正直、初めからすごく好きだなとは思えませんでした。ただ、映画でまりは幼馴染のオサムによって、自身の弱点を突きつけられることになるのですが、原作よりもオサムの存在感が大きく描かれているからこそ、まりの嫌な部分もようやく受け止めて愛することができたと思います。

菊池亜希子
菊池亜希子

―故郷を離れ、東京へ出てきたという点も同じですよね。

菊池:まりの故郷は、有名な観光地というわけでもなく、なんていうか中途半端な田舎町。私も岐阜出身で田舎生まれなので、周りの人からどんなところなの? ってよく聞かれるけど、これといって特にないんですよね。「木曽川や長良川とか、川がたくさん流れていて水がキレイなんだよ」とか言うけど、「いいところなんだね」って思ってほしいから、過剰に演出しているところもあると思うんです。そうは言っても、心のどこかでずっと故郷とは繋がっている。自分にとっての居場所が、東京か故郷の二択しかないという状況は私も同じなので、まりの役を作り込んでいくために特別な作業はしませんでした。ただ、まりは原作で読むとすごく快活で男勝りなイメージだったので、その部分は監督とも話し合って、仕草や姿勢を意識して演じました。

『海のふた』 ©2015 よしもとばなな/『海のふた』製作委員会
『海のふた』 ©2015 よしもとばなな/『海のふた』製作委員会

―故郷に戻ってさっそく自分のお店の内装を手作りで仕上げていくシーンでは、歩幅でサイズを測ったり、大胆な動きを見せていましたよね。

菊池:私は高校生の頃、建築を専攻していて、かなりガテン系というか、体力がないとやっていけない学科にいたんです。だから建築現場や内装現場で大きな模型を作ったり、重い金槌を振り上げたりすることに実は慣れていて。歩幅でサイズを測ったのも、スケール感覚を自分の体のサイズを使って身に付けるというのは、建築学生にとっては基本中の基本だったので、自由演技でいいよって監督に言われてやらせてもらいました。

―どうりで! 電動ドリルの使い方とか、すごく馴染んでいらっしゃいましたもんね。

菊池:自前の電動ドリルを持っているぐらいなので(笑)。

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イベント情報

『海のふた』

2015年7月18日(土)から新宿武蔵野館ほか全国で公開
監督:豊島圭介
原作:よしもとばなな『海のふた』(中公文庫)
主題歌:蘭華“はじまり色”
挿入歌:原マスミ“海のふた”
出演:
菊池亜希子
三根梓
小林ユウキチ
天衣織女
鈴木慶一
配給:ファントム・フィルム

プロフィール

菊池亜希子(きくち あきこ)

1982年岐阜県生まれ。独特の存在感で女優としても注目を集め、2010年映画『森崎書店の日々』(日向朝子監督)で初主演。その後『ファの豆腐』(11 / 久万真路監督)、『よだかのほし』(12 / 斉藤玲子監督)、『グッド・ストライプス』(15 / 岨手由貴子監督)で主演を務めている。また、著書として『みちくさ』『菊池亜希子のおじゃまします 仕事場探訪20人』を刊行。12年から年2回で発売している書籍『菊池亜希子ムック マッシュ』では編集長を務め、累計32万部を超えるヒットシリーズとしてカルチャー好きの男女から強く支持されている。

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