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気持ちよさを求めて。映画に尽くした井手健介が、音楽を作る理由

気持ちよさを求めて。映画に尽くした井手健介が、音楽を作る理由

インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:矢島由佳子
2015/08/18

現実には目に見えないはずの何かを見せること。あるいは、かつては存在していたが、今はもう失われてしまった何かを目の前に蘇らせること。本記事の主人公、井手健介は、そんな効能の中に身を寄せる行為を「トリップ」と呼んだ。現実社会からの離脱、異世界への没入、繰り返される酩酊……時に反社会的な意志を持って行われてきたこれらの行為こそ、まさに「トリップ」であり、その効能を果たすアートに、我々はどうしても身を委ねてしまう。

2014年夏に惜しまれつつも閉館した映画館、吉祥寺バウスシアターで働きながら、「井手健介と母船」名義で音楽活動を続けてきた井手。彼はバウスシアターの閉館後、本格的なレコーディングを開始、この度リリースされる1stアルバム『井手健介と母船』を作り上げた。「母船」と呼んでいるかねてからのバンドメンバーに加え、石橋英子や柴田聡子、須藤俊明など豪華アーティスト陣と共に作り上げられた本作には、井手の言う「トリップ」感が渦巻いている。美しく穏やかなバンドアンサンブルが奏でる、まるで水面をたゆたうようなメロウネス。時折垣間見える、狂気的なサイケデリア。そして、どこまでも現実から乖離し続ける言葉。あなたは、ここに何を見るだろう? 丸眼鏡の奥にエロスとタナトスへの憧憬を秘めたアナーキスト、井手健介。彼がこの幽玄なる音世界に辿り着くまでを訊いた、彼にとって人生初インタビューをどうぞ。

バウスシアターでやっていた『爆音映画祭』を通して、僕の人格が形成されていったと思います。

―元々、井手さんは吉祥寺バウスシアター(以下、バウス)で働いてらっしゃったんですよね?

井手:はい、大学を卒業してから9年間働いていました。大学時代に映画部で映画を撮っていたんですけど、その時の先輩がバウスで働いていて、「行くところないんだったら、どう?」って誘ってもらって。

―もともとは、ご自身で映画を撮られていたんですね。

井手:高校生の頃から先生のカメラを借りて、それこそ『桐島、部活やめるってよ』みたいな、まさにスクールカーストの世界で映画作りをしていました。普段全然しゃべらない奴にスポットを当てて、「でも、こいつは男だけの時はめっちゃ面白い!」みたいなことを発信するのがモチベーションだったんですよね。

井手健介
井手健介

―映画はずっとお好きだったんですか?

井手:高校の頃まで宮崎県に住んでいたんですけど、映画館もないし、CD屋もないし、本当に自然しかないド田舎で。だから、よく「18歳の頃に何に触れていたかが重要である」みたいな言い方をしますけど、恥ずかしいくらいに何も見てなかったし、聴いてなかったんです(笑)。でも、その頃から映像を撮ること自体は好きでした。

―じゃあ、映画館に足しげく通うようになったのは、大学生になってからですか?

井手:そうですね。映画館にいる時の非日常な感覚がひたすら好きで。1時間半とか2時間は完全に外のことを忘れて映画の世界に没入できるのは、真っ暗な映画館でしかあり得ない体験じゃないですか。それがよかったんですよね。でも、文脈や時代を理解して映画を見るという行為を始めたのは、バウスに入ってからです。

―今振り返ってみて、バウスは井手さんにとってどんな場所でした?

井手:バウスでやっていた、『爆音映画祭』(音楽ライブ用の音響セッティングを用いて大音量で映画を上映するイベント)を通して、僕の人格が形成されていったと思います。その9年間で自分の趣向がどんどん変わっていったというか。最初に『爆音映画祭』で『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(2005年公開、カントリーミュージシャンであるジョニー・キャッシュの伝記映画)を観たんですけど、それが最高で。その後にThe Bandの『ラスト・ワルツ』(1978年公開、アメリカのロックバンド・The Bandの解散ライブドキュメンタリー)を観て「なんだ、この映画は!」って衝撃を受けたり。あと『クリスタル・ボイジャー』(1973年公開、デヴィッド・エルフィック監督作品)っていうサーフ映画があって、後半25~30分くらい、ひたすらPink Floydの“Echoes”がかかるんですけど、それがめちゃくちゃかっこよくて。

―映像と音の関連性の部分で影響を受けることが多かったですか?

井手:そうですね。『爆音映画祭』は、チョイスが批評的というか。主催者の樋口泰人さん(映画・音楽評論家)が批評家目線で、「この映画の中では、この音が大事だ」って感じたところに焦点を当てて、音をミキサーで調整するんです。それは、単に映画の中で一番目立つ音を大きくするといった調整ではなくて。たとえば、『GERRY ジェリー』(2002年公開、ガス・ヴァン・サント監督作品)だと、砂漠を二人の男がトボトボとひたすら歩くシーンがあって。足音がずっと鳴ってるんですけど、爆音にすると、その音は歩いている映像とは明らかにずれているのがわかるんですよ。要するに、あえて音をずらすことによって、新たな見えざる何者かの存在を浮かび上がらせようとしたのではないかと。そうやって「見えないものの存在を感じる」という価値観と出会った時に、映画って面白いなと思って、どんどん惹かれていったんです。音に気をつかえば、観ている人の意識は拡張されて、スクリーンの外にまでグワッと世界が広がるんだなって。

―『爆音映画祭』で得た「見えないものの存在を感じる」という感覚は、今、音楽を作る上でも影響を受けていると思いますか?

井手:コードとメロディーができた時に、それが持っている性格みたいなものを感じて、ずっと鳴らしていると、画が見えるというか……エモーションと映像が合わさった、トータル的な情景みたいなものが見えることがあるんです。それが掴めたら、あとはただそれを歌詞にするだけという感じで曲を作ってるんですけど、そこには映画を見てきた経験が関係しているかもしれないですね。

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リリース情報

井手健介と母船 『井手健介と母船』(CD)
井手健介と母船
『井手健介と母船』(CD)

2015年8月19日(水)発売
価格:2,592円(税込)
PCD-24415

1. 青い山賊
2. 帽子をさらった風
3. 幽霊の集会
4. 雨ばかりの街
5. ロシアの兵隊さん
6. 誰でもよかった
7. あの日に帰るよう
8. ふたりの海
9. 魔法がとけたら

イベント情報

『井手健介と母船 1stアルバム発売記念ツアー』

2015年10月12日(月・祝)
会場:兵庫県 神戸 旧グッゲンハイム邸

2015年10月13日(火)
会場:愛知県 名古屋 K.D ハポン

2015年11月10日(火)
会場:東京都 吉祥寺 STAR PINE'S CAFE

プロフィール

井手健介と母船(いでけんすけとぼせん)

東京を拠点に活動する井手健介を中心としたバンド。現在のレギュラーライヴメンバーは、井手健介(ヴォーカル&ガットギター/エレキギター)、墓場戯太郎(ベース)、清岡秀哉(ラップスチールギター/エレキギター)、山本達久(ドラムス)、ジュネーヴの4時(コーラス&キーボード)。ほか、幅広いミュージシャンの参加を得ながら活動中。2013年に『2月のデモ(長い犬と黒い馬)』(井手健介ソロ)、2014年に『島流し』と2枚のCDRをライブ会場限定で発表。1stアルバム『井手健介と母船』を2015年8月19日にP-VINE RECORDSよりリリースする。

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