PS4のゲームで日本のバンドを世界に発信 uchuu,×山岡晃対談

センシティブさと強さを併せ持つソングライター・Kを中心に、エモーショナルなロックサウンドとエレクトロなダンスミュージックのコアが融合した繊細かつダイナミックな音世界を紡ぐ5人組バンド、uchuu,。大阪を拠点にファンを増やし続け、各種のライブイベントでも話題を集めるuchuu,が、初のフルアルバム『+1』を完成させた。そのなかでも注目したいのが、今年リリース予定のPlayStation®4用オンラインアクションゲーム『LET IT DIE』に収録される書き下ろし楽曲“LET IT DIE”だ。ゲーム音楽とは無縁のuchuu,が、なぜ『LET IT DIE』に起用されたのか? その楽曲に込めた想いとは何か? 『LET IT DIE』とのコラボレーションが新たなサウンドの転機になったというK、uchuu,の起用を熱望した『LET IT DIE』音楽プロデューサー・山岡晃に、互いのクリエイティブについて、たっぷりと語ってもらった。

今回やったのは、ゲームをプラットホームにして、日本の音楽を世界に広めるということです。(山岡)

―まずはなぜ、この二組がコラボレーションすることになったのか教えていただけますか?

山岡:僕は、グラスホッパー・マニファクチュアというゲーム制作会社にいて、今は主に音楽プロデューサーとしてゲーム作りに関わっているんですが、今作っている『LET IT DIE』は、ジャンルの垣根を超えた国内のアーティストの楽曲をゲームに起用したかった。そこでuchuu,のオフィシャルサイト宛てに、「ぜひ、参加していただきたい!」と直接メールを出したのが最初でした。

K:はい。本当に、突然ものすごくテンションの高いメールをいただいて。「!」マークがいっぱい並んだ(笑)。

左から:K、山岡晃
左から:K、山岡晃

山岡:「大好きなんです、uchuu,大好きなんです!」って。

K:スタッフもかなり驚いていました。かつてないハイテンションのメールが来たので。

山岡:ぶっちゃけ、4~5年くらい前までは、日本の音楽は全然かっこよくないと思っていたんですよ。でもある時、日本の音楽にセンシティブな何かを感じて、ネットやCDを聴き漁っていたら、uchuu,に出会ったんです。「なんじゃ、このサウンドは! なんてかっこいいんだ!」とファンになり、「!」メール事件に繋がった(笑)。

K:僕らとしては、『LET IT DIE』のお話をいただいてすごく嬉しかったです。僕もゲームだったりアニメーションだったり、音楽以外のエンターテイメントもすごく好きなので。

―uchuu,は、GROUNDRIDDIM、VJ chaosgrooveといった映像畑の方ともコラボレーションしていますよね。

K:そうですね。異ジャンルの人と一緒に世界を作りたいと思っているので、もう願ったり叶ったりで、「そう言っていただけるのなら、是が非でも!」とお返事したんです。ワクワク感がありましたね、お誘い自体に。

K

―お互いのクリエイターとしての初期衝動で、このコラボが実現したと。でも日本のバンドの書き下ろし曲を100曲以上収録するゲームなんて、今まで聞いたことがないですね。

山岡:でしょうね!(笑) もともと僕はコナミの『ビートマニア』シリーズの楽曲や、ホラーゲーム『サイレントヒル』シリーズの音楽制作やプロデュースをしていたんですけど、当時からずっと言い続けてきたことが、「ゲームの音楽を変えたい!」なんです。そのひとつとして、今回やったのが、ゲームをプラットホームにして、日本の音楽を世界に広めることでした。

K:なるほど。すごいスケールの大きい……。

山岡:ありがたいことに、『サイレントヒル』や、グラスホッパーで手掛けているゲームは、海外でも非常に受け入れられていて人気がある。僕のFacebookにコメントをくれるのも、ほぼ外国人ですからね。

―すでに世界的な広がりがあると。

山岡:そうです。であれば、僕の関わるゲームそのものを、色々な音楽を世界で知ってもらうプラットホームにできるなと。特に今回の『LET IT DIE』はオンラインゲームなので、PS4があれば誰でも音楽が聴けるわけです。僕が大好きな日本のバンドを世界に広めるいいチャンスだと思い、独断と偏見で参加いただくアーティストを選ばせてもらいました。

自分の世界観になかったものに触れて、逆に、自分たちのやりたかったことに120%挑戦できました。(K)

―実際はどのようにゲーム中で音楽が楽しめるんですか?

山岡:詳細は今後発表していきますが、単にBGMとしてゲーム中で流れている訳ではなくて、世界中のユーザーに「ゲーム音楽ってこうだよね」という固定観念なく、より自然で新しい感覚でゲームと音楽を一緒に楽しめるような作りにしています。

―それが、「ゲーム音楽を変えたい!」という山岡さんの新たな提案だと。

山岡:そうそう。しかも各バンドへの楽曲オーダーも、自分で言うのもなんですけど……斬新で。テーマとタイトルが「LET IT DIE」ならいいので、自由にしてくださいとお願いしました。

K:そうでした。そこから、どういうゲームなのかの紙資料と、トレーラー映像を見て……。

山岡:トレーラー、どう思いました?

K:あのー……すごいなって(笑)。人が死ぬじゃないですか、リアルに首が飛んだり。自分の許容範囲をオーバーした怖さがあったので……。

山岡:僕らが作るゲームってああいうのばっかりで(苦笑)。

K:自分の世界観になかったものなので、曲作りも面白かったです。そういうものに触れて、逆に、自分たちのやりたかったことに120%挑戦できました。

山岡:いちファンとしても、過去のuchuu,の楽曲と『LET IT DIE』の世界観は、一見合わないと思うんです。だからこそ、「LET IT DIE」というお題を、uchuu,はどう解釈をしてくれるんだろうという楽しみがありました。曲を聴いた時は「こう来たか!」と思ったんですが……。ひとつKさんに聞きたかったことがあって。

山岡晃

K:なんでしょう?

山岡:イントロにSEっぽい音が入ってるじゃないですか? ピーン、ピーン、ピーン……という。あの音の意味って何なんですか?

K:あれは心拍を表現してるんです。サウンドだけで「LET IT DIE」というテーマを伝えようと思って。曲自体も単純にAメロ、Bメロ、サビという流れではなく、色んなシーンを作りました。

山岡:そう! 曲だけでストーリーが感じられるんですよね。

K:どこ切り取っても、ちゃんと別の世界観というか……別の「LET IT DIE」のシーンになるように。だから同じ展開をするセクションがほぼないんです。

K

山岡:そこはあえて意識したんですか?

K:そうですね。僕、あまり考えながら楽曲を書くタイプじゃないんですけど、“LET IT DIE”は、「普通なら次はこういう展開だけど、こうもいけるな」みたいな発想の転換をしながら、何日間かかけて作ったんです。僕は好きなゲームは何回もプレイするので、“LET IT DIE”も何回やっても、何回聴いてもいいなと思える曲にしたくて。

山岡:なるほどね。その、何度聴いても飽きない曲にしようというのは、僕らが普段やっているゲーム音楽の作り方に、すごく似てますね。

K:そうなんですね。“LET IT DIE”は、僕らの1stアルバム『+1』に収録しているんですけど、他の収録曲でも似たことをやりました。例えば“Yellow”という曲は、いわゆる起承転結の楽曲構成で、同じセクションは二度と出てこないんです。そういう作り方も、今回のコラボがなかったら、やらなかったかもしれないなと。だから、“LET IT DIE”には、すごく感謝してるんです。

左から:K、山岡晃

―イントロのサウンドでも世界観を伝えたかったとおっしゃいましたが、歌詞はさらにuchuu,が考える『LET IT DIE』の世界を語っているわけですよね?

K:「自分が仮にゲームの世界にいるなら?」と考えて、歌詞を書いたんですけど、「LET IT DIE」というテーマを「誰かのために死ぬ」と解釈しました。頭に<DIVE FOR YOU>という歌詞があるんですけど、誰かのために、なりふり構わずそこに向かって飛び込む……という意味を込めました。

山岡:なるほど。今回の試みで面白いのは、「LET IT DIE」という言葉をどう扱うかが、本当に人それぞれで。メタファーにしている方もいれば、ストレートに解釈する方もいるし、「DIE」=「死」を、ポジティブに捉えた前向きな表現をしている方もいる。uchuu,はまさにそれですよね。

K:「死ぬ」って、第三者がいて初めて使われる言葉だなと思ったんです。生きている他人がいないと使えない言葉だから、「人のために死ぬ」んだなと。僕はバンドをやっていて常々思うことがあって、自分ひとりで「アーティストだ」と言っても、それを観測する人がいないと、アーティストとして成立しない。だから音楽も、どこまでいっても「誰かのための音楽」だと思う。同じことを“LET IT DIE”に関してもブレずにやりたかったんですよね。

「すべてはリズム」という部分で、音楽もゲームとシンクロする。(山岡)

K:逆に僕も山岡さんにお聞きしたいんですが、ゲームを作る側は、どういう意味で『LET IT DIE』というタイトルにしたんですか?

山岡:たしか最初は『LET IT GO』だったんですよね。

K:え?……あの?(笑)

山岡:はい。あの「ありのままの」(笑)。あと、THE BEATLESの“LET IT BE”は避けたくて。消去法で『LET IT DIE』だな、みたいな(笑)。

K:でも、なんで「DIE」なんですか?

山岡:「サバイバル」をテーマに、食糧とか武器を調達しながらギリギリで戦っていくというコンセプトなので、『LET IT LIVE』という案も出たんですけど、語感が悪いから……。ゲームのタイトルって、大体そういうノリ半分というか、冗談みたいな話で決まっていきます。

K:へえー、意味がしっかりあるんだと思っていました。

左から:K、山岡晃

山岡:だって、『サイレントヒル』も、「熱海みたいな寂れた町のホラーっていいよね。あそこってなんか怖いよね」みたいな話をしていて、熱海は静岡県だな……じゃあサイレントヒルでいいかなって(笑)。

K:静……岡……えー! ほんまや!

山岡:なので、『LET IT DIE』に、こうしてKさんが素晴らしい意味を与えてくれて嬉しいですよ(笑)。

K:すごい……考えすぎた……(笑)。

―(笑)。上手いタイトルですよね。受け取った人がその言葉の力によって考えさせられちゃう。

K:そうですね。そういう意味では、音楽にも言葉の力ってすごく影響すると思います。意味を持たせないことが正解な音楽もあるわけで。いわゆるミニマルテクノとかエレクトロなダンスミュージックって、おそらく言葉があると聴き込んでしまって踊れなくなるから。

―ゲームのタイトルも語感やノリを重視するのは、フィジカルなプレイを意味性が邪魔しないように、という意識があるのかも知れないですね。

K:固定した意味を持たせないほうが「踊れる」という意味では、音楽とゲームは共通する部分が絶対あると思います。

―意味のある言葉が耳に入ると踊れなくなるというのは、英語詞と日本語詞が混在するuchuu,の楽曲でもすごく意識されているように感じますね。

K:僕は、会話も音楽もすべてリズムだと思っていて。だから英語のほうが破裂音が多くてリズムも出やすいし、日本語より抽象的。ひとつの言葉で何通りも捉え方があるから、聴く人が受け取りやすく、イメージしやすいと思うんです。曲によって、より具体的に意味を伝えたい部分では、英語の中に日本語を混ぜて使っていますね。

K

山岡:なるほど。今の話を聞いて、uchuu,の歌詞から受ける独特の感覚が何か分かった気がしました。英語で無意識に何かを届けて、日本語で強調させる。聴いている側が構えなくても、世界に入り込める感じは、そこから来ているんだなって。

―その方法は、山岡さんが『サイレントヒル』の音楽で表現したことに近いですよね。怖さを強調するために、あえて音楽を止めて間を作るとか。

山岡:ああ、そうですね。ゲームプレイを時間の線で考えて、音楽をつけたり演出したりというのは、Kさんの曲作りに近いかもしれない。さっきの「すべてはリズム」という話も、ゲームとシンクロしますね。遊ぶ人によってゲームの進行、スピードが違うので、それをプレイヤーごとのリズムと捉える。それに加えて、こちらが演出を仕込むんです。あたかもプレイヤーが主導しているようだけど、もともとの世界、時間の流れは僕らが作っていて、演出によって感覚や感情を制御していくんです。

K:それは音楽も同じですね。フックになる場所とか、ここで引っかかってもらいたいってところを曲の中に作っているので。

人に伝えるためには、人が手をかけるほうが絶対いいです。(K)

―こうして話を伺うと、音楽アーティストとゲームクリエイターとして関わるジャンルは違えど、お二人のクリエイティブの波長には近しいものがある気がしますね。

山岡:それでいえば僕、uchuu,の一番好きなところが、ライブで「人力」を非常に大事にしているところなんです。クリックに負けないように頑張る、人のリズムの音っていうのが好きなんですよ。

K:uchuu,は、昔は5人がひとつのグルーヴを作るバンドやったんですけど、今は5人がそれぞれのグルーヴで1曲を支えるスタイルになりつつあるんです。グルーヴが多ければ多いほど、そのグルーヴを多角的に捉えてもらえるし、いろんな方向からuchuu,の音楽を聴いてもらえるんじゃないかなと。

―それでいてバラつきがないというのは強力ですよね。

K:5つのグルーヴがちゃんとひとつに帰結するんです。特にそれが、今回のアルバムは顕著に出ています。まだ人前で演奏していないですけど、“LET IT DIE”も他の曲も、シーケンスに頼らない人力で再現できるライブセットを組むつもりでいます。

山岡:あのテクニカルな曲を人力で!

K:はい。やっぱり音楽って、人じゃないと伝えられない部分がいっぱいあるんですよ。ライブでは二度と同じグルーヴはない。それが人がやる良さだし、人に何かを伝えるためには、人が手をかけるほうが絶対いいです。それに、uchuu,はいわゆるダンスミュージックですけど、もともとコンピューターから派生したダンスミュージックじゃなく、ファンクとかソウルから派生しているので、人力に必然性があるんですよね。

―そこにテクノ / ハウスの手法も合致しているから面白い。

K:でも、その両方が好きな人ってなかなかいないんですよ。ハウスが好きな人はジャズ好きも多いけど、テクノが好きな人はスクエアなものがかっこいいと思うというか……。でも、uchuu,のメンバーは両方好きなので、なんか理解し合えてるんです。

山岡:それでいてキャッチーですしね。規定のジャンルからははみ出ているけど、誰もついていけない未知の方向に行って評価を求めるようなことにはならない。聴く人の顔をちゃんと見て音楽をやっているというのが、曲やライブから分かるんです。僕も変わったことばかりやりたがる人間だけど、遊ぶ人のことを忘れちゃいけないと思っているから、すごく共感できますね。

左から:K、山岡晃

―そういう視点からアルバム『+1』を紐解いていくと、uchuu,の変化をより深く感じられますね。そしてKさんにもうひとつ伺いたいのが、今回の『LET IT DIE』のコラボで世界にuchuu,の音楽を発信したいという山岡さんの想い。それについては、どう思われますか?

K:僕の個人的な夢は、『グラストンベリー・フェスティバル』(イギリスで開催されている世界的な音楽フェス)に出ることなので、英語詞で歌っているところもあるんです。でも「世界だから、日本だから」みたいなことは考えず、ありのままでいたい。その上で、海外で受け入れてもらえるなら喜ばしいですよね。

山岡:uchuu,は、日本、海外を意識せずともグローバルで、みんなが聴けるサウンドを持っていますよね。そういう素晴らしい音楽にゲームを利用してもらいたいし、僕もuchuu,といろんなことをやってみたいです。音楽家としてリミックスもさせてもらいたいし。

K:そういうお話、ぜひしたいです! じっくり作品作りについてお話ししたのは、実は今日が初めてで(笑)。山岡さんがどういう方か知らない時に“LET IT DIE”を書いたので、こうして山岡さんを知った上で何か一緒にできたら、もっと面白いと思いますね。

リリース情報
uchuu,
『+1』(CD)

2016年6月22日(水)発売
価格:2,300円(税込)
PECF-3165

1. TAKE ONE
2. overflow
3. Yes or No
4. Fireworks-#000000-
5. SI(G)N SEKAI
6. NANIKA TALINAIYO
7. Today...
8. LET IT DIE
9. Sing for You
10. 夜間飛行
11. Yellow

製品情報
『LET IT DIE』

2016年発売予定
対応機種:PlayStation®4
発売元:ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社
開発元:株式会社グラスホッパー・マニファクチュア

プロフィール
uchuu,
uchuu, (うちゅう)

大阪を拠点に活動する5人組ロックバンド。ダイナミズム&エモーションを備えたロックミュージックをベースに、ダンスミュージックの本質を解き、身体揺さぶるグルーヴ感溢れるサウンドで注目を集める。『Weltraum;Gate』『HAPPY』『HELLO,HELLO,HELLO』と3枚のミニアルバムをリリースし、2015年12月に初の自主企画『Weltraum;Gate-vol.1-』を開催。同日から初のデジタルシングル『overflow』、2016年2月に『Yellow』、4月に『SI(G)N SEKAI』とデジタルシングル3部作を発表。この3曲を含む、レコーディングからMIXまでをメンバーが手掛けた1stオリジナルアルバム『+1』を6月22日にリリースする。

山岡晃 (やまおか あきら)

新潟県直江津市出身。グラスホッパー・マニファクチュア所属。ゲームミュージックを始めとする作曲家、音響監督、ゲームデザイナーで、ホラーゲーム『サイレントヒル』シリーズ(コナミ)の音楽制作を担当。DIR EN GREYのリミックスなども手掛ける。今年リリース予定のPlayStation®4用新作ゲーム『LET IT DIE』で日本のミュージシャンを100組以上起用。



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