博多は「ちょっといい加減」で「ちょっといい」。777年続く博多織が今、B印 YOSHIDAとコラボした理由

着物好きにとっては憧れの「博多織」が、この11月、約30年ぶりに福岡県で開催される「KOUGEI EXPO(第35回 伝統的工芸品月間国民会議全国大会in福岡)」を機に、人気セレクトショップBEAMS(ビームス)の「B印 YOSHIDA」とコラボレーションを果たす。 日本三大織物の1つして知られ、今年で777周年を迎える博多の伝統工芸「博多織」と、若者のファッションシーンを牽引するBEAMS。新しさと古き良き伝統を融合する、斬新なクリエイティブがどう生まれ、何にこだわっているのか。博多織工業組合の理事長である博多織着物「OKANO」の岡野博一さんと、「B印 YOSHIDA」ディレクターの梨本大介さんにその真意を伺った。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

今年で777周年を迎える、日本三大織物の1つ「博多織」

―岡野さんが、BEAMSと吉田カバン「ポーター」のコラボブランドである「B印 YOSHIDA」と博多織でのコラボレーションを企画されたきっかけは何でしたか?

岡野:今年で、博多織」は777周年を迎えました。その記念の意味もあり、長い歴史を持つ博多織も新しい動きをしようと。そこで課題になったのが、今現在、博多織を知らない若い世代にどうリーチしていくかでした。そこで、地元の広告代理店と博多織をアピールするためのアイデアを考えました。最初は、アーティストとのコラボ話が出たのですが、博多織はそもそも人々の生活に根ざした織物。もっとリアルに身につけてもらえるものが作りたい。そこでBEAMSさんとのコラボはどうだろうと、ダメ元でお話しさせてもらったんです。

―数あるジャパニーズブランドや企業の中から、BEAMSをチョイスされた理由は?

岡野:僕自身も、何度かBEAMSで商品を買っていますが、一番の魅力はオリジナル性。ブランド全体に「ものづくり感」を感じます。日本のセレクトショップの先駆けとしてリスペクトもしていますし、セレクトショップでありながら、マーケティング重視ではなくプロダクトアウト型でいいものをしっかりクリエイトしていこうという精神が伺える。

梨本:とても良いようにおっしゃっていただいて恐縮です。ただの自由な集団なんですけどね(笑)。

岡野:そういうブランドとなら、いいもの作りができるだろうと思いました。すると、オファーも快諾いただけて。

梨本:はい。そこから、「B印 YOSHIDA」のディレクターである僕がこの企画を一任されたんですが……今だから言いますが、博多織さんとのコラボは、岡野さんにお会いするまで最初、ちょっと躊躇していたんです。

岡野:そうだったんですか?

梨本:なにせ博多織には777年もの歴史と伝統がある。果たして、僕らが自由にもの作りすることはできるのか? こう取り扱ってくれなければ困るという縛りが結構多いんじゃないかと(苦笑)。ところが岡野さんは、「博多織を洗ってもいいし、削ってもいい」とおっしゃってくれて……。

岡野:はい、たしかにそう言いました(笑)。

梨本:「え? 本当ですか? いいんですか?」と僕のほうが驚いたのと同時に、すごく面白そうなことができるだろうと確信もしましたね。

伝統というのは、革新の連続でしかない

一般的に伝統工芸というと、硬いイメージがありますが、そこは柔軟なんですね。

岡野:結局、伝統というのは、革新の連続でしかないんですよね。長く続く伝統は、変わっていないように見えて、続いていくための変わり方をしています。その意味では、この数十年間、江戸時代あたりに完成したスタイルを守り続けてきた博多織は今、進化すべき時に差し掛かっている。そろそろ“今風の博多織”に進化していないと、次の777年はないと思うんです。

梨本:時間軸の幅がすごいですね。僕自身も、博多織を今まで手にしたことなかったんですが、岡野さんに織物を見せていただき、生地そのものの良さを、今の若い人にもぜひ伝えたいと思ったんです。なにしろ織物として非常に手が込んでいますし、博多織には、日本の伝統工芸のすごさが詰め込まれている。

―それはどういうところなのでしょうか?

岡野:例えば、織物には2種類の織り方があります。ひとつは博多織のように、経糸(=縦糸)を中心に柄を織り込んでいく「経錦(たてにしき)」と、京都の西陣織のように緯錦(=横糸)を中心に柄を作る「緯錦 (よこにしき)」がある。文化人類学でも、世界で経錦圏と緯錦圏で文化圏の違いが分かるんですよ。なかでも博多織は日本の「経錦」の代表。長い経糸上に柄を織り込む「経錦」は、とても高度な職人技が必要で、色柄は出しにくいのですが、そのぶん非常にスキッとしていて、凛とした味わいがある。しかも、実用性も高いんです。

―相撲界では博多織の化粧まわしが最高のステータスとも言われていますが、それだけ、織物としても丈夫な高級品なんですね。

岡野:はい。元々は武士が刀の鞘を収めるために、滑りが良くて緩みにくく、刀でも斬れないし、槍も刺さらない博多織を重宝していたそうです。そこから、強いものの象徴として、力士に伝わったのかも知れないですね。

工業製品と伝統工芸の一番の違いは、「劣化」と「風化」にある?

—プロジェクトを進めていく上で、新たな発見などは何かありましたか?

梨本:僕は、博多織がいかに丈夫で長く使える織物なのかを知って驚いたんです。とくに、岡野さんが使い続けていらっしゃる博多織を見せていただいたら、経糸が削れて緯錦が表に現れてきていて、まるで革製品のような経年変化が楽しめた。それがとても素敵でしたし、新鮮で。

岡野:工業製品と伝統工芸の一番の違いはそこですよね。使い続けることで、「劣化」するのか「風化」するのか。工業製品は出来上がった時は100点で、後は劣化してボロボロになっていくイメージがありますが、伝統工芸品は使えば使うほど「風化」して味が出てくる。梨本さんに見ていただいた博多織も、「経錦」だからこその風化なんです。

―織りそのものの密度が濃いので、破れには繋がらないと。

岡野:はい。普段、緯錦は生地の中に埋もれているのでほぼ見えない。それが、使い込んで経糸が擦れて削れることで、緯錦の色が表に見えてくるんです。漆器の世界にも「曙塗(あけぼのぬり)」という技法がありますが、あれも下に朱色を塗ってから黒い漆を塗り、使い込んでいくと黒が少し剥げてきて、朱色が見えてきますよね。その風化がいい。その技法が博多織だと、緯糸に赤を使えば、ほわっと色が浮き上がってくるんです。

梨本:僕も仕事柄、今までたくさんの生地を見てきましたが、経年変化を出せるものを見たのは初めて。使い込んでこそ味が出るのが、博多織の良さだと知りましたね。

岡野:今で言うとエイジングっていうんですかね?(笑) そもそも伝統工芸の世界では、エイジングの要素が昔から取り入れられているんですよ。梨本さんに伺ったら、今はファッションの世界でも、あえて漁師さんに穿いてもらった中古のデニムが、とても人気があるそうですし。

梨本:そうですね。しかも博多織は、職人さん一人ひとりが、魂を込めて手織りされているところもすごい。

岡野:やはり、魂込めて作ったものに「風化」が宿るのだと思います。かつて松尾芭蕉は、俳諧の理念に「不易流行(ふえきりゅうこう)」を掲げました。「不易」は変わらない美しさ、「流行」は変わっていく美しさ。昔の日本人は「不易流行」の美意識を持っていましたが、最近は「流行」ばかりがもてはやされるようになってしまった。もっと「不易」に対する美学を持ってもいいんじゃないか? というのが、今回のコラボレーションで伝わってくれると非常に嬉しいですね。

新しさと古き良き伝統工芸が、B印 YOSHIDAとコラボする意味

―そこで梨本さんは、今回の「博多織×B印 YOSHIDA」製品として、「ショルダーバッグ」「ヘルメットバッグ」の2種類のバッグと、大小の「財布」をラインナップされたそうですが、その意図は?

梨本:経年変化を楽しめる博多織だからこそ、日常で使い込めるものがベストだと思って。商品構成においても普段使いできるもので、博多織のエレガントさを出せるもの。その2つをコンセプトに考えていきました。実際に商品を製作する「ポーター」の吉田カバンさんも、鞄業界では異例といえる80年以上の歴史がある。日本で職人が作ることにこだわったブランドですし、博多織とのコラボも過去経験があるので、素材の良さも熟知している。相性がとても良かったです。

―博多織にも様々な色柄がありますね。どの織物を使うかや商品自体のデザインは、どのように決められましたか?

梨本:B印 YOSHIDAらしさという意味で、「ユニセックス」と「カジュアルさ」は意識しています。色柄に関しても、博多織工業組合さんからいただいた多数のサンプルから選ばせていただきましたが、博多織を全面に使うと商品化した際、非常に高価になってしまうのも苦労したところで(苦笑)。B印 YOSHIDAの若い顧客層に合わせた価格帯を実現するためにも、部分使いによるカジュアル感を出しつつ、博多織らしい高級感にもこだわったデザインと縫製を心掛けました。

岡野:とても若々しく、使いやすいものになっていて、いいですよね。

梨本:博多織独特の経年変化を活かす意味でも、レザーとの相性がとても良いと思いました。なので、財布は片側には細かい柄の博多織、もう片側はレザーを配置して、手にも馴染みやすく「風化」を楽しめるようにしています。また、「ヘルメットバッグ」と「ショルダーバッグ」には、「魔除け」や「家族の象徴」という意味である、博多織伝統の柄である「献上柄」を使っているんです。そういった伝統的な意味合いも、ぜひ今回のコラボから知ってもらいたいですよね。

博多織の生まれた博多は、実は日本最古の港湾都市!?

―こうして、伝統的な質実剛健さと凛とした美しさを両立している博多織が、今回、新しいジャンルとコラボし、新しい歴史の構築をスムーズに図られたのは、博多という土地柄、博多人の人柄も影響しているのではないかと思いました。博多に長く暮らされている岡野さんは、地元博多の魅力をどう感じていますか?

岡野:そうですね。私は「OKANO」の代表として、東京、京都、博多をここ20年ずっと行き来しているんですが……博多は日本のみならず、世界的にも珍しい、2000年以上、都市機能が続いている街なんです。なので、昔から“来るもの拒まず”の精神が息づいていますよね。

―たしかに、福岡市はIT産業で先進的な試みが多かったり、産学連携の取り組みに積極的だったりと、マイペースで新しいものを採り入れ、全国に影響を与える活性的な街という印象があります。

岡野:たしかにそうですね。また、位置的にも博多はアジアと日本の境目にある。東名阪の都市は、欧米を向きがちですが、これからはアジアの国々がさらに大きく発展していく時代でもあるので、福岡・博多の日本における役割は、ますます重視されていくと思います。新しいこと、新しいものにチャレンジする気風も、さらに磨かれていくのではないでしょうか。

梨本:地元愛が強いのも、博多の方の特徴ですよね。BEAMSの店舗を見ても、他の都市には観光客の割合が多い店舗もありますが、博多店のお客様は圧倒的に地元の方なんですよ。

岡野:そうなんですね。ただ、博多の人間は、新しいものに寛容だからなのか、博多織を筆頭に古くからの地元の伝統、良き伝統工芸が本当にたくさんあるのに古くから続くものに関するPRが下手(苦笑)。それは博多人が、肝心なところはキッチリしているんですけど、普段はけっこういい加減だという気質も影響しているかも知れないです(笑)。

—いい加減!?

岡野:良い意味でも悪い意味でも博多人はいい加減なんですよ(笑)。いい加減だから、あんな街中に空港ができる。普通だったら、危ないって作れませんよ。東京や京都だったらなおさら。だから、ルーズなんだけど、ギリギリのところでちゃんとしているのが、博多人(笑)。後は、みんな短気なんですよ。例えば、ラーメンだって、考えられないくらい細いじゃないですか? 

—確かにバリカタっていうくらい……。

岡野:そうです。短気で飽きっぽいからこそ、新しいものを受け入れる土壌ができているとも言える。そして博多には、際立って一番ではないけど、そこそこいいものが揃っている。食事もそこそこ美味しいし、交通の便だっていい。

―確かに。今回のコラボレーションが、博多そのもののPRにも一役買えそうですね。11月のイベント会場では、博多織以外にも、博多人形や久留米絣など、7つの福岡県の伝統工芸と著名クリエイターとのコラボ商品が、多数展示・販売されるというのも楽しみです。

岡野:そうですね。博多の魅力、福岡の魅力を存分に味わっていただけるイベントになると思います。そして私ども、長く博多織に携わってきた立場としても、B印 YOSHIDAさんとのコラボはとてもいいチャンスだと。これを一度きりのコラボで終わらせず、博多織の技術を使った、新たな素材開発などにも発展させていきたい。BEAMSさんとは、これからもいいお付き合いをさせてもらえたらと思います。

KOUGEI EXPO(第35回 伝統的工芸品月間国民会議全国大会in福岡)

日程:11月2日(金)~4日(日)10時~18時(2日は11時開始、4日は16時終了)
※今回のコラボアイテムは、以下にて展開予定。10/22(月)~10/28(日)@BEAMS JAPANにてお披露目(一部、予約販売)11/2(金)~11/44(日)@マリンメッセ福岡でも展示・販売(一部、予約販売)


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