セコリ荘が提案する「モノの温度」。日本の繊維産業を月島のおでんバーが救う!?

東京・月島。もんじゃ焼きを求める観光客と地元の人々で賑わうこの町の一角に、『セコリ荘』はあります。築90年の古民家を仲間と一緒にリノベーション。懐かしい店構えに安らぎを感じられる『セコリ荘』は、週末だけオープンする良質なアイテムを扱うセレクトショップとおでんバーであり、日本の伝統的な繊維産業と作り手たちを繋ぐコミュニティスペースでもあります。まるで友達の家に遊びにきたような、「ものづくり」を軸にした新しくも懐かしい出会いの場。そこに込めた想いを『セコリ荘』オーナーの宮浦晋哉さんにお話を伺いました。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

日本の繊維業界の仕組みを再生したい

地下鉄・東京メトロを挟んで、もんじゃストリートとは逆側に伸びる住宅地。広い公園には子供からお年寄りまで賑やかな声が響き、休日には家先でバーベキューを楽しむ家族の姿が見える。『セコリ荘』は、そんな気の置けない下町風情が今も残る月島の、セレクトショップとおでんバーが合体したユニークなコミュティスペース。

「こんにちは! すみません、おでんバーは夕方からなので、ちょっと店先が散らかっちゃってて」と、にこやかに私たちを出迎えてくれたのは、『セコリ荘』を営むオーナーの宮浦晋哉さん。気になったのは、まず「セコリ荘」というネーミング。日本語のようでもあり、外国語のようでもある、“セコリ荘”の由来を宮浦さんに聞くと、

「“セコリ”の源流はイタリアの地名なんですが、“セコリ式”という洋服の製図法があって、僕が大学生のときにそれを専攻してたんです。そのスペルをちょっと替えて、僕が長年、自分のニックネームにしていたので、このスペースを立ち上げるときにもそのまま使ったんですよ」

それもそのはず、宮浦さんは学生時代、杉野服飾大学でデザイナーを目指して、卒業後はイギリス・ロンドンに留学。服飾の本場ヨーロッパで、日本の伝統的な繊維加工技術への評価の高さを目の当たりにした。しかし、いざ帰国すると国内の職人が手がけている高い技術が、どんどん廃れゆく現状に衝撃を受ける。

「手作業が主流の国産生地は高価なこともあり、ディオールやエルメス、グッチなどの海外ハイブランドからは引っ張りだこですが、国産の本当の一等品的な生地や変化球的な素材を日本のデザイナーが入手できる場がほぼない。そして数が出ないから、問屋もそういった生地を取り扱わない。だから手作業が入る独創的な古い技術が廃れ始めている。大手のアパレルメーカーやファストファッションで使われるのも、安くて流行の色柄の中国産の生地ばかりです。その現状が悲しくて、デザイナーと生地を作っている職人を直接結び付けて、優れたものづくりの手助けができないか? と思って立ち上げたのが、『セコリ荘』なんです」

なぜセコリ荘はおでんバーでもあるのか?

イギリスから帰国後、宮浦さんは自ら日本の工場や産地をまわり、日本の繊維産業の現状を見ると共に生地サンプルを集めた。それをファッションデザイナーやアパレル関係者に自由に見てもらう場として生まれたのが、住居兼事務所の『セコリ荘』だったのだ。しかし、なぜそれがおでんバーに……!?

「やっぱり『誰でもどうぞ』と言ったところで、来づらいんですよね。服飾と無関係な人にとっては。そこで、もっといろいろな人が気軽に訪れる場所にしたくて、店舗としての営業許可を取り、僕が生地の産地を回っている間に気に入った手作りのものや、お付き合いのあるデザイナーさんの商品を並べつつ、飲食もできるスペースに変えていきました」

『セコリ荘』が週末だけの営業にしているのは、平日、宮浦さんが今も年間150社から200社以上、全国各地の産地を巡り、お店を空けることが多いから。その産地巡りで得た知識や職人たちの現状は、宮浦さんの執筆によってウェブマガジンや雑誌、単行本の記事にもなっている。

“いい表情した人の作るハンバーグっておいしそうじゃないですか?”

築90年という古民家を改造した『セコリ荘』の店内は、1階部分の居間だったであろう畳敷きの部屋と玄関先がショップスペース、もう半分がおでん鍋を取り囲むように作られたカウンターとコーヒースタンドがある飲食店スペースになっている。おでんバーの営業は夜からだが、昼間から飲食スペースの扉は開かれていて、2階で暮らしている宮浦さんのご家族と近所の方が集って、のどかにおしゃべりをしたり、宮浦さんのお子さんを遊ばせたり。微笑ましい下町の温かさが感じられる光景が広がっている。

「この古民家と出会えたのも、いい方との繋がりがあったから。お世話になった不動産屋さんが『空き家になっている実家が月島にある。そこなら好きなようにできるんじゃないか?』と格安で融通してくれたんです。とはいえ、僕にはお金がない(笑)。そこで、デザインと監修を知人の建築家ユニットにお願いして、リフォームは全部、自分たちでやりました」

職人の手作りの品物を扱うセコリ荘は、スペース自体も手作り。その温かみあふれる店内は、親戚や友達の家に遊びにきたような、落ち着きと居心地の良さを感じて、いつも良い空気が流れている。

現在、ショップスペースで扱っているのは、個人注文も可能な高品質の生地のほか、大阪の「MITTAN」や兵庫の「hatsutoki」などの服飾ブランドを筆頭に、器、箸などの食器類、陶芸など様々。その『セコリ荘』に並ぶ商品のセレクト基準を宮浦さんに伺うと、 「ポジティブな感情があるもの」と話す。

「創業100年だろうが、創業3年だろうが、作っている人が良ければ僕は応援したい。やっぱり作っている人なんですよね。食べ物だってそう。いい表情した人のハンバーグっておいしそうじゃないですか?」

SNSで知った若者も地元のご年配の方も集うのがセコリ荘

商品を売るだけではなく、日本の良いものとユーザーを結び付ける企画にも『セコリ荘』は積極的に取り組んでいる。取材に訪れた日も、創業1928年オーダーシャツの専門メーカー「ツルヤ」と宮浦さんがセレクトした各地の良質な生地をコラボレーションして、オンリーワンのシャツを作れる人気企画「オーダーシャツの受注会」が開催。複数のお客が、熱心に生地を選んでいた。

「おかげさまでオーダーシャツの会は大盛況で。ウェブサイトやSNSで興味を持たれた若い方や、昔、シャツやスーツを仕立てるのが当たり前だった時代を過ごされたご年配の方、いつもコーヒーを飲みに来てくださるご近所の主婦の方まで、幅広い方がお見えになります。これからも、いろいろなオーダーメイド会や産地、デザイナーさんとお客様が出会える場を、積極的に設けていくつもりです」

飲食店のほうにも、宮浦さん推薦の手作りのものにあふれている。知り合いの美味しい豆を提供する焙煎所から取り寄せたコーヒーや、産地巡りで知り合った奈良のお茶農家から取り寄せたオーガニックティー、スタッフが味にこだわったおでんや自家製梅酒など。いまは、おでんバーを目当てにセコリ荘を訪れる方も増えているのだとか。

「おでんバーに通ってくださるうちに仲良くなって、それが仕事に結びついたりと、嬉しいお話もありますね。ショップのほうも、最近は外国人観光客の方が来てくださることも多く、最初に目指していた新しい出会いも生まれて良かったと思います」

量産品では味わえない、ダンボールを開ける瞬間のワクワク感。

セレクトショップも飲食店も、いいと思ったこと、いいと思ったものに楽しくトライしてくのが『セコリ荘』のポリシー。その背景には、宮浦さんが守り、広めていきたい“日本のものづくり”への情熱がたしかに感じられる。

「ものづくりに関わって、作る現場も売り場も行き来していて思うのは、何ができるかわからないところに参加するのが一番ワクワクする、その楽しさと豊かさです。生地を発注して、送られてきたダンボールを開ける瞬間のワクワク感。それを僕だけじゃなく、お客さんにも広げたい。洋服のカスタムオーダーも、生地を選んで作り手とあれこれ話して、商品が届くまでの一か月、すごくワクワクが続く。その感覚は量産品では味わえない。その温度感が、僕らが一番求めていることであり、そこにセコリ荘のアイデンティティーがあります」

そんな『セコリ荘』は今年、様々なジャンルのものづくりの職人が集まる北陸・金沢市に2号店をオープンした。

「金沢店がオープンして約半年。もう少しシステム化して地方でのロールモデルが確立したら、いろいろな地方に『セコリ荘』を展開させたい。日本の職人のこだわりや努力は、実際に商品を手にとらないとわからない、目に見えないところにあると思うんです。『セコリ荘』を通じて、その良さをみなさんに感じてもらえたら、僕も嬉しいです」

日本のものづくりの良さをもっと多くの人に再認識させる。そんな地続きな活動を続けている宮浦さんに、今の『セコリ荘』がある月島という街について聞いてみた。

「やっぱり都心より離れていることはいいですよね。来てくださるお客さんも、わざわざ来るわけだから、すぐ寄って帰るんじゃなくて、2~3時間ゆっくりしてくれる。僕も会った人とは、がっつりコミュニケーションを取りたいし、話しがしたい。月島は、歩いていても生活感が溢れているし、それが良い演出にもなっているんだと思います。本当に良い場所ですよね、この街は」



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