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クレア・カニンガムが教える、変革すべき「障がい」のある社会

クレア・カニンガムが教える、変革すべき「障がい」のある社会

クレア・カニンガム『Give Me a Reason to Live』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:田中一人 編集:飯嶋藍子 取材協力:ブリティッシュ・カウンシル

クレア・カニンガムは、松葉杖との応答を通じ、「障がい者」とされる自身の身体の可能性を探り続けているスコットランドの振付家、ダンサーだ。

いわゆる「障がい者」と「健常者」の境界線は、それほど自明ではない。たとえば、人は老化によって、誰でも何らかの不自由さを抱える可能性がある。この社会にはもとから、さまざまな人間が存在している。だからこそカニンガムは、「障がいを持つ人を特別なものとして考えないことは、自分の将来への投資にもなる」と語るのだ。

2012年の『ロンドン五輪』においては、障がいを持つアーティストを支援するプログラム『アンリミテッド』に参加するなど、本国でも注目を浴びる彼女。今回は、そんなカニンガムが日本に招聘され、「障がい」や「他者への共感」をテーマとした『Give Me a Reason to Live』を上演したことを機に、ダンスとの出会いや、障がいに関する思考を訊くことができた。インタビューは、冒頭から発せられた彼女の問題提起をきっかけに、表現論を超え、広くマイノリティーへの社会の認識を問うものになった。彼女の目指す未来像とは一体?

障がいを特別だと捉えるのではなく、社会の問題と考えることは、自分の将来への投資にもなるんです。

―はじめに、クレアさんのお身体について聞かせてください。

クレア:やはり、どの国に行っても最初にその質問をされますよね(笑)。そうした質問にどう答えるか、いつも考えさせられるのですが……。私は生まれたときから骨粗鬆症で、骨が人より脆いため、松葉杖を使った生活をしています。

しかし、今、こうして私の身体についてお話ししながらも、私は自分の身体の医学的な状況について、人に説明する必要はないとも思っているんです。なぜなら、それは生活の上ではあまり重要ではないことですから。

クレア・カニンガム
クレア・カニンガム

―重要ではない、というのは?

クレア:私のまわりにもさまざまな障がいのある人々がいますが、私自身、彼らがどんな病状なのかはくわしく知らないんです。だけど、「段差では支えが必要」とか「言葉が話せないから手話通訳が必要」というニーズは把握しているし、生活にはそれで十分。なので、障がい者についてまず知らなくてはいけないのは、病状ではなく、「何を必要としているか」だと思っています。

―医学的な情報ではなく、具体的なニーズを知ることが重要。なるほど。

クレア:とはいえ、その人がどのような障がいを持っているかという問いが出るのは自然ですし、私は公の場に立つことを選んだ人間として、医学的な情報もみんなと共有したいと思っています。そのふたつの気持ちの間で、つねに揺れているんですよね。今ではこうして堂々と話すことができていますが、やはり昔は自分の身体をネガティブに思うこともありました。

―今回の公演『Give Me a Reason to Live』のトレーラー映像でも、「『障がいは治療すべき』とする社会の影響を受けてきて、『障がいは間違い』と自分でも思うようになっていた」とお話しされていますね。

クレア:若いころはそうでした。そこで重要なのは、そうしたネガディブな気持ちがもともと自分の中にあったわけではなく、社会や障がいを持たない人の中にある、障がいへのネガティブな気持ちを、自分自身に投影していたということです。個人の主観にも、じつは大多数の人の考え方が投影されてしまっていたんですね。

―自分の障がいに対する認識は、社会の側から与えられたものだったと。

クレア:たとえば、多くの人は障がい者にあまり期待をしませんよね。「障がいがあるから舞台には立たないだろう」「雑誌には載らないだろう」という認識の社会にいると、障がいを持っている本人にもその気持ちが伝染する。

障害学に「障がいの社会モデル」という考え方があるんです。私はこの考えに強い影響を受けたのですが、そこでは「障がいは社会が作り出すものだ」という捉え方をします。一方、それと対照的な考え方は「医学モデル」と呼ばれます。

クレア・カニンガム

―恥ずかしながら、僕も今回の取材に当たって、はじめて「社会モデル」と「医学モデル」という言葉を知りました。簡単に言うと、「医学モデル」は障がいのある人が「できないこと」に目を向けて、障がいを個人的な問題と考える。一方で「社会モデル」は、人に多様性があるのは当然で、それを包摂できない社会の側に障がいがあると考えるということですよね。

クレア:そうです。車椅子の人が段差を越えられないとき、この段差を社会的な障がいと考えることができれば、その障壁は変えたり、排除したりすることができますよね。このような考え方は、世界のいろんな場所で、徐々に広まってきています。

でも、そのためには今までの社会通念的な考え方を180度変えなくちゃいけないので、変化にはすごく時間がかかる。メディアがいまだに、「理想的な身体」を発信し続けているのも、大きな問題だと思います。

―そうですね。

クレア:社会の価値観が標準化されると、その中に入れない人は評価から外れてしまい、どんどん周辺に追いやられてしまいますが、それは見直さなければならないと思います。

実際、障がいというのは、歳を重ねる中で誰にでも生じる得るものです。よほどラッキーでなければ、普通は加齢とともに耳や目が悪くなったり、物覚えが悪くなったりしますよね。

クレア・カニンガム

―誰でも、いずれは不自由さを抱える場面が出てきますね。

クレア:あるいは、精神的な困難を抱えることもあるでしょう。だから、障がいを特別だと捉えるのではなく、社会の問題と考えることは、自分の将来への投資にもなるんです。

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プロフィール

クレア・カニンガム

スコットランドのグラスゴー在住。松葉杖の使用 / 乱用、観察、変形という方法で、障害者としての独自の身体性をよりどころに世界と関わり、クラシックなダンスのテクニックに挑戦を突きつけている。最近の作品は、ソロ作品『ME(Mobile/Evolution)』(2009)からカンドゥーコ・ダンス・カンパニーのためのアンサンブル作品『12』などの領域横断的な創作、ヒエロニムス・ボスの画中の物乞い / 身体障害者にインスピレーションを得た『Give Me a Reason to Live』とその長編作品『Guide Gods』(2015)など。これまでに『ウィメン・オブ・ザ・ワールド・フェスティバル』(ロンドン)および『ベルファスト・フェスティバル、パース・インターナショナル・アーツ・フェスティバル』のレジデントアーティスに選ばれ、またグラスゴーのフェスティバル『トラムウェー』ではアソシエートアーティストを務めた。ジェス・カーティスとのデュエット最新作『The Way You Look (at me) Tonight』(2016)は、アンリミテッドによる委託を受け、これまでにイギリス、アメリカ、ドイツで上演された。

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