
韻シストが認めてもらうまでの戦いとは?20年の軌跡を全員で語る
韻シスト『Another Day』- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
- 撮影:田中一人 編集:飯嶋藍子
1998年から大阪を拠点に活動する韻シストは、日本における生演奏ヒップホップバンドのパイオニアである。自らのスタイルを模索し続けた最初の10年を経て、2009年に現在のメンバーが固まると、PUSHIMやCharaといったボーカリストとのコラボレーションが話題を呼び、昨年にはこれまでの集大成とも言うべき傑作『CLASSIX』を発表。それから約1年という速いペースで、通算7枚目となる新作『Another Day』を完成させた。
韻シストへの影響も大きいネイティブタン~ソウルクエリアンズといった1990年代から2000年代初頭のアーティストたちが注目され、一方ではフリースタイルがブームとなり、再び「ヒップホップ」が時代のキーワードとなる中、それを生演奏するバンドも増えつつある。
しかし、韻シストはそんな時代の追い風にただ乗るのではなく、「誰もやってないことをやる」という自分たちの本質を貫き、唯一無二の領域に歩みを進めている。メンバー全員インタビューで、20年の足跡と、晴れやかな現在地について語ってもらった。
イメージだけはあっても、プレイは様にならない状態が何年も続いていた。(Shyoudog)
―今日は改めて、バンドの結成からお伺いしたいと思います。もともとはShyoudogさんとサッコンさんが高校の同級生だったそうですね。
Shyoudog(Ba):そうです。卒業してからサッコンに誘われて、どんなことがやりたいかを考えたときに、「誰もやってないことがやりたい」っていう気持ちが強かったんです。それで、当時はヒップホップをバンドでパフォームしてる人がいなかったので、「それ、めっちゃかっこいいんちゃう?」ってなって。
左から:TAKU、TAROW-ONE、BASI、サッコン、Shyoudog
―そこからメンバーを集めたんですか?
Shyoudog:「ヤバいラッパーがおる」ってBASIのことも知ってて。そこからはブレーメンの音楽隊みたいに、徐々にメンバーが増えていきました。
―当初のイメージとしては、よくThe Beatnutsの名前を出されていますよね。
サッコン(MC):当時僕らの周りにはラッパーやDJがあんまりいなくて。ただ、バンドマンの知り合いは何人かいたので、The Beatnutsの“Props Over Here”というウッドベースをトラックに使った曲を聴いて、最初はそこを目指そうと思いました。「これは俺らにしかできへんのちゃう?」って。
Shyoudog:ジャズやソウルのサンプリングでトラックを作るのが流行っていた時代なので、イメージだけはあったんですよ。でも、もちろん「バンドでやろう」って言ってすぐにできるものではなくて、イメージはあっても、プレイは様にならない状態が何年も続いていたんです。
ただ、前作の『CLASSIX』は、「当時こんなんやりたいと思ってたな」っていうイメージがそのまま音になりました。それが実感できてすごく嬉しかったと同時に、「むっちゃ時間かかったやん」とも思いましたけど(笑)。
―BASIさんは、結成当時どんなイメージを持っていましたか?
BASI(MC):僕は正直先のことは全然見えてなくて、ひたすらリリックを書いてました。すごくリラックスした感じで書き続けられていたので、「これがずっと続いたらええな」くらいの気持ちで。ただ、Shyoudogが言ったように、僕も『CLASSIX』を作って自分たちのやってきたことがやっと板についた感覚はありましたね。
ミクスチャーの人たちと一緒にやることも多かったけど、俺らずっとラップやから「いつ叫ぶんやろって思って観てた」とか言われたり(笑)。(Shyoudog)
―結成当時、「シーン」と呼べるようなものはあったのでしょうか?
Shyoudog:今はバンドセットで演奏できる環境が整っているクラブがいっぱいありますけど、昔はホンマなかったですね。だから、バンドとヒップホップのアーティストが一緒にやる機会はほとんどなくて。
―じゃあ、どんな人たちと一緒にライブをしていたんですか?
Shyoudog:最初はハードコアのバンドとかとやることも多かったです。そういう状況の中で、同い歳だったGELUGUGUの当時のギターの子が、すごく気に入ってくれて、イベントに呼んでくれたりしていました。
シーンとしては、ミクスチャーのシーンが発展してきた時代でもあったので、そういう人たちと一緒になることも多くて。ミクスチャーだと「静かなところから、一気にシャウトする」みたいなフォーマットがあるけど、俺らはずっとラップやから、「いつ叫ぶんやろうと思って観てた」とか言われたりして(笑)。
TAKU(Gt):ロス・ロビンソン系ね。KORNとかLIMP BIZKITとか。高校生くらいにそういうジャンルのライブをよく観に行っていて、「シーンどっかん系」って呼んでた(笑)。
サッコン:一緒に出るアーティストからは「お前らかっこいいな」って言ってもらえるけど、お客さんは僕らのときは三角座りで、体力を温存してる感じだったよね。
Shyoudog:そうそう。でも、自分の中では「ほら、他に俺らみたいなバンドおらんやん。やっぱ俺らかっこいいやん」って思いながらやってたし、たまにめっちゃ踊ってる人がおると、「わかる人はわかってくれる。時間の問題やな」って思ってました。
サッコン:あとはAFRAとかGEBOサンとか、そういう関西の中でも際立ったラッパーとは、小さなカフェバーで一緒にセッションしたり。
BASI:一方では、ACIDMANが僕らのライブをたまたま観てくれて、『Cinema』という彼ら主催のイベントに呼んでもらって、そこでバンドの人たちとも仲良くなりました。
―やっぱり、生演奏のヒップホップバンド自体珍しかったから、シーンというよりも、ピンポイントで面白いと思ってくれた人と一緒にやる感じだったわけですね。
BASI:その分当時は苦労もあったけど、いい感じに遠回りして来られたというか。韻シストをやることで、めちゃくちゃ幅広くアーティストと繋がることができたので、すごくラッキーやったなって。
リリース情報

- 韻シスト
『Another Day』(CD) -
2017年7月19日(水)発売
価格:3,000円(税込)
TKCA-745201. Intro
2. Don't leave me
3. ピースマインド
4. Call me
5. are sore kore
6. Party is...
7. Your dance
8. Jam & Jam
9. Touching The Sky feat. ルンヒャン
10. to you
11. ライムにならない
12. W
13. やっとけば
プロフィール

- 韻シスト(いんしすと)
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BASI、サッコンの2MC、TAKU(Gt)、Shyoudog(Ba)、TAROW-ONE(Dr)からなるヒップホップバンド。数度のメンバーチェンジを経て現メンバーとなる。1998年結成当初から大阪を拠点として活動。日本のヒップホップバンドのパイオニア的存在として、またミュージシャンズミュージシャンとして高い評価を受け続けている。2001年、デビュー作『ONE DAY』をリリース。これまでに6枚のフルアルバム、4枚のミニアルバム、4枚のシングルを発表。TAKU、Shyoudog、TAROW-ONEからなる韻シストBANDとしても1枚のアルバムをリリースしている。2016年、PUSHIM主宰のレーベル「Groovillage」へ合流し、約2年8か月ぶりのオリジナルアルバム『CLASSIX』を発表。その他、客演も多数。偶数月には主催イベント『NeighborFood』を大阪・東京で開催している。2017年7月に通算7枚目のアルバム『Another Day』をリリースする。