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小林武史が音楽プロデューサーとして語る、1990年代と現在の変化

小林武史が音楽プロデューサーとして語る、1990年代と現在の変化

小林武史『Takeshi Kobayashi meets Very Special Music Bloods』
インタビュー・テキスト
柴那典
撮影:中村ナリコ 編集:矢島由佳子
2018/04/04

今、小林武史を、単に「数々のヒット曲を生み出した音楽プロデューサー」というイメージで捉えている人は、少ないのではないだろうか。

2003年に非営利団体「ap bank」を設立し、2017年には東北・石巻にてアートと音楽と食の総合芸術祭『Reborn-Art Festival』を立ち上げるなど、音楽という枠組みを超え、社会を動かす活動に長らく携わってきた彼。CINRA.NETでも、たびたびその意志と構想を記事として伝えてきた(参照:『Reborn-Art Festival』関連記事)。だからこそ、この記事では改めて小林武史の音楽に焦点を当て、「プロデュースワークとは」「今の時代における音楽やクリエイティブの『新しさ』とは」というテーマでインタビューを行った。

4月4日には、近年のプロデュース作品を集めたアルバム『Takeshi Kobayashi meets Very Special Music Bloods』がリリースされる。2年間にわたり携わってきた東京メトロのCMシリーズを中心に、『Reborn-Art Festival』など様々なプロジェクトのために制作された楽曲を集めた1枚だ。ここでは「佐藤千亜妃と金子ノブアキ」や「クリープハイプ×谷口鮪(KANA-BOON)」「絢香&三浦大知」のように、世代や性別やジャンルを超えた多様な歌い手が共演を果たしている。その背景にはどんなアイデアやモチーフがあったのか。小林武史が企む「出会い」について語ってもらった。

プロデューサーというのは、「一期一会」をずっと日々繰り返していくものだと思うんです。

—まず、小林さんにとって「プロデュースワーク」というのはどういうものなのでしょうか? 「プロデュース」という仕事はどういうものか、というところから教えていただければと思うのですが。

小林:難しいですね。たとえばMr.Childrenと僕が長く関わってやってきたことと、今回のアルバム(『Takeshi Kobayashi meets Very Special Music Bloods』)でクリープハイプと関わってやったことは、当然違う。関わっている時間の量が違いますから、「プロデュース」という言葉の指す内容も変わってくる。それは、みなさんの人生に当てはめて考えてみてもわかる通りです。

ただ、基本的には「一期一会」みたいなものですね。改めて思うのは、プロデュースワークというのは、こういう形がひとつの基本なんじゃないかということで。

小林武史
小林武史

—こういう形、というのは?

小林:プロデューサーというのは、一期一会をずっと日々繰り返していくものだと思うんです。当然、ずっと一緒にやっていけば時間の堆積になっていくから、関係が深くなっていく。それでも、新しい出会いを起こしていきたいと思うんですよね。

今も東京メトロのCMソングのシリーズで、[ALEXANDROS]と一緒に新しい曲を作っているんですけど、一期一会とは言え、相当濃密な時間になっているんです。終わるときには離れがたいようなくらいのことがあって。若い頃を思い出したような感じもあったし、自分のプロデュースワークがもう一度浄化されたような気もしたくらいでした。

CMには[ALEXANDROS]がカメオ出演している。使用楽曲:[ALEXANDROS]×最果タヒ“ハナウタ”

「切ないが、前に進むのだ」というような表現が、日本のメジャーシーンにはずっと変わらずある。

—小林さんが今の時代の空気をどう見ているのかについても訊かせてください。1980年代から音楽家、プロデューサーとして活動されてきて、1990年代、2000年代、2010年代と、世の中に受け入れられる音楽はどう変わってきたという感覚がありますか?

小林:全体を括ってなにかを言うのは難しいかな。でも、今は本当に、どこかが全体を引っ張っているという感じはなくなっていますよね。

—たしかに、それぞれの趣味嗜好が多様化しているのは間違いないですね。

小林:基本的にはそれでいいと思うんだけれど、どうしても、次の扉を開けていくものに期待をしてしまいますね。焼き直しを喜ぶ人たちもたくさんいるし、それもわかるんです。音楽ファンも時代とともに歳を重ねていくから。でも、僕個人としては、新しく起こる化学反応に興味がある。

音楽のスタイルも「次はこれだ」と近視眼になって新しいものに飛びつくようなところが多々あるけど、もう一度、古典的なものから、新しいものまで、自由にセンスを活かして作り上げるものがもっと出てきたらいいのにと思います。いろんな枠組みを取っ払って、射抜くようなものが出てきてほしいという思いはありますね。

小林武史

—歌詞については、1990年代と今で、日本国民に受け入れられるものが変わってきていると思いますか? アルバムに収録されている絢香&三浦大知“ハートアップ”について、「『切実だけれど、希望を失わずに生きる姿勢』みたいなものが、多くの共感を集めるのではないかなと思います」とライナーノーツに書かれていますよね。

小林:そこは変わらないと思います。「切ないが、前に進むのだ」というような表現が、日本のメジャーシーンにはずっと変わらずある。かつて“innocent world”(Mr.Childrenの楽曲。1994年発表)を手がけたとき、僕のなかに「これだったんだ」という気持ちが芽生えて。その「切ないが、前に進むのだ」という感覚には、今もみんなどこかで惹かれているように思います。

もちろん、歌詞の書き方は多様だし自由なんですよ。もっとシニカルだったり、ドライだったり、ハードボイルドだったり、逆に過剰なまでにロマンティックなのもある。ただ、「切ないが、前に進むのだ」というのが日本人の心であると、若干悩ましいところもありつつ、そう思っているんですよね。

—悩ましいところ、というと?

小林:「桃太郎主義」という言葉があるんです。辺見庸さん(1944年生まれ。作家、ジャーナリスト、詩人)が『1 9 3 7(イクミナ)』(2015年)という本で、そのことについて書いていて。桃太郎は鬼ヶ島に行って、征伐を行うわけですよね。それは内側からだと純粋な思いを持っているように見えるけれど、外側から見ると無知でしかない。そのことが「切ないが、前に進むのだ」という感覚と、背中合わせにある。数年前、そのことに気づいたんです。

そういう意味で、世界のなかで日本人を評するのに「桃太郎」という言葉がぴったりくる。ピュアなようでいて、無知であるという。それを変えていかないといけないという思いはあります。だから、自分がやってきたことを、苦い気持ちで振り返るようなところもあるんですよね。

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リリース情報

小林武史『Takeshi Kobayashi meets Very Special Music Bloods』
小林武史
『Takeshi Kobayashi meets Very Special Music Bloods』(CD)

2018年4月4日(水)発売
価格:3,240円(税込)
UMCK-1595

1. to U(Tokyo Metro version) / Bank Band with Salyu
2. ハートアップ / 絢香&三浦大知
3. Happy Life(unreleased version) / 中島美嘉×Salyu
4. What is Art? / Reborn-Art Session(櫻井和寿 小林武史)
5. my town / YEN TOWN BAND feat.Kj(Dragon Ash)
6. reunion / back numberと秦基博と小林武史
7. 太陽に背いて / 佐藤千亜妃と金子ノブアキと小林武史
8. 陽 / クリープハイプ×谷口鮪(KANA-BOON)
9. こだま、ことだま。 / Bank Band
10. 魔法(にかかって) / Salyu×小林武史
11. 70(Live version) / novem(大木伸夫(ACIDMAN)、ホリエアツシ(ストレイテナー)、黒木渚、桐嶋ノドカ、小林武史)

プロフィール

小林武史
小林武史(こばやし たけし)

音楽家、音楽プロデューサー。1980年代から日本を代表する数多くのアーティストのプロデュースを手掛ける。1990年代以降、映画と音楽の独創的コラボレーションで知られる『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』など、ジャンルを越えた活動を展開。2003年に「ap bank」を立ち上げ、自然エネルギーや食の循環、東日本大震災の復興支援等、様々な活動を行っている。

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