
大橋トリオも唸る才能。姉妹連弾ユニット・Kitriが大橋Pと語る
Kitri『Primo』- インタビュー・テキスト
- 黒田隆憲
- 撮影:豊島望 編集:中田光貴、山元翔一(CINRA.NET編集部)
子どものときから、決められたことをするよりは、人がやってないことをやっちゃおうっていう気持ちはあったかも。(モナ)
—お話を聞いていて、「誰もやっていないことをやる」というモナさんのこだわりが、Kitriのオリジナリティーの源だと思うんですよね。ある意味、オルタナティブ精神というか。それはどこで育まれたものなのでしょう。
モナ:うーん……子どものときから、決められたことをするよりは、人がやってないことをやっちゃおうっていう気持ちはあったかもしれないです。
大橋:あまのじゃく……なの? 俺もそうだから何となく気持ちがわかるんだけど(笑)。
モナ:そうかもしれないです(笑)。例えば、教室で順番に挨拶していくとき、みんなが同じだったら自分だけ変な挨拶を入れてみようとか(笑)。実際にやると目立ってしまうので、心のなかで勝手に妄想して楽しんでいただけなんですけど。
—(笑)。メロディーは、どんなところから思いつくのでしょうか。
モナ:それが、自分でもよくわかっていなくて(笑)。試行錯誤しながら作っているところなんですけど、これまでずっとクラシックのピアノ曲に親しんできたので、そのなかのお気に入りの旋律をメロディーに発展させたりしているのかなと思います。意識をしているわけではないんですけど。
Kitiri『Opus 0』(2017年)収録曲
—クラシックと大橋トリオ以外では、どんな音楽を聴いていましたか?
モナ:子どもの頃は童謡とかから、J-POPも流行りの音楽を浅く広く聴いていました。ものすごく深く音楽を掘っていく感じではなかったですが。
ヒナ:私は映画音楽が好きでした。そんなに詳しくはないんですけど、見た映画のなかで、好きな曲が流れていたらサントラを買ったりして。子どもの頃はディズニーの映画音楽や、ジブリの久石譲さん、吉俣良さん(2008年放送のNHK大河ドラマ『篤姫』などで知られる作曲家)の音楽も家族でよく聴いてましたね。
いろんな音楽を聴いて「どう感じるか?」が大事なのだということを伝えましたね。(大橋)
大橋:今作『Primo』を作る前に、まず、例のデモ音源を再録音した『Opus 0』をパイロット盤として作ったんですけど、そのときに僕の家のスタジオに来てもらったんですよ。そこでいろいろ話したら「これまでほとんどJ-POPを聴いてこなくて、クラシックしか知らない」って。
それで「どうしたものかなあ」と思ったんですね。変にいろいろ聴かせてしまうと、せっかく純粋培養された彼女たちの才能に、邪念を植えつけてしまうんじゃないか? とか考えて。でも一方で、自分が好きな音楽を彼女たちに教えたいという気持ちも抑えられず(笑)、とにかく片っ端から聴かせたんです。
Kitri『Opus 0』を聴く(Apple Musicはこちら)
モナ:あれは本当に貴重な体験でした!
大橋:そのとき、何を聴かせたかな。神谷(洵平。赤い靴のメンバーで“羅針鳥”の編曲も務める)もいたよね?
モナ:スティングの“Seven Days”とか、ニルス・フラームとか。
ヒナ:あとニーナ・シモンさんも。
大橋:最後のほうは、べろんべろんに酔っ払って覚えてないんだけど(笑)。
—いろいろ聴かせてもらって、どんなふうに思いました?
モナ:本当に、恥ずかしいくらい何も聴いてきてなかったんだなって思いました。聴かせてもらった音楽すべてが自分にとっては新鮮で、「え、すごい!」「こんな音楽もあるの?」「こんな曲作ってみたい!」と、衝撃を受けながらもすごく吸収したのを覚えています。大橋さんにも「もっと自由でいいんだよ」っておっしゃっていただいたし。
大橋:「君たちにこうなって欲しいわけではないからね?」というのはすごく念を押した覚えがある(笑)。いろんな音楽を聴いて「どう感じるか?」が大事なのだということを伝えましたね。
—大橋さんは、それこそ平井堅さんや小泉今日子さんなど、本当にたくさんの方のプロデュースをされていますが、やり方は基本的には同じですか?
大橋:僕にプロデュースを依頼してくる人たちって、「大橋トリオの『あの曲の感じ』にしたい」みたいなリクエストが多いんですね。でもそれって、楽曲そのものがどんなに僕らしくても、歌う人が違うから「大橋トリオ」にはならないんですよ、当たり前なんですが。Daft PunkがThe Weekndをプロデュースしても、Daft Punkにはならないじゃないですか。
The Weeknd『Starboy』収録曲(2016年)
大橋:なので、これまで聴いたことのない感じというか、その人の「新しい部分」をいかに掘り出すかということをメインに考えていますね。ある程度キャリアのある人をプロデュースする場合は、それをやらなきゃ意味がないなと思っています。
—でも、Kitriのようにこれから世に出るアーティストをプロデュースする場合は、それとは少し違ってきますかね?
大橋:そうですね。「より多くの人に届けやすくするにはどうしたらいいのか?」ということを常に考えています。もちろん、そのアーティストの軸となる部分はちゃんと残しつつですが。
Kitri『Primo』を聴く(Apple Musicはこちら)リリース情報

- Kitri
『Primo』 -
2019年1月23日(水)発売
価格:1,944円(税込)
COCB-542801. 羅針鳥
2. 細胞のダンス
3. sion
4. 一新
5. 羅針鳥 –naked-(pianoバージョン)
イベント情報
- 『キトリの音楽会 #1』
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2019年1月25日(金)
会場:大阪府 Soap opera classics-Umeda-2019年2月1日(金)
会場:東京都 JZ Brat SOUND OF TOKYO2019年2月2日(土)
会場:福岡県 ROOMS2019年2月3日(日)
会場:熊本県 tsukimi
プロフィール

- Kitri(きとり)
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幼い頃よりクラシックピアノを習い始め大学では作曲を専攻。2015年~京都を拠点に、姉妹ユニット「キトリイフ」として音楽活動を開始。2016年ライブで京都を訪れていた大橋トリオの手に自主制作盤が渡り、その音源を聴いた大橋が絶賛。大橋が手掛ていた、映画「PとJK」(廣木隆一監督、亀梨和也・土屋太鳳主演)の劇伴音楽に、テーマ曲のボーカルとハミングで参加する。2017年、過去の音源を大橋トリオプロデュースにより再録音して、ユニット名「Kitri」として、パイロット盤「Opus 0」が完成する。試験的にストリーミング配信をしたところ反響を呼び、自主音源にしてラジオのパワープレイや出演スタジオ演奏披露などを行う。

- 大橋トリオ(おおはしとりお)
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2007年にデビュー。テレビドラマやCM・映画音楽の作家としても活動。代表作に映画『余命1ヶ月の花嫁』『雷桜』『PとJK』など。最近では、NHK Eテレ子供向け番組『にゃんぼー』の音楽や、TBS番組『世界遺産』のテーマ曲も担当。2017年にデビュー10周年を迎え、2019年2月13日に最新アルバム「THUNDERBIRD」をリリース。2019年全国ホールツアー『ohashiTrio HALL TOUR 2019 ~THUNDERBIRD~』開催決定。