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ジンイ・ワン×小崎哲哉対談 お金を超えたユニークな価値の必要性

ジンイ・ワン×小崎哲哉対談 お金を超えたユニークな価値の必要性

『TPAM - 国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2019』
インタビュー・テキスト
内田伸一
撮影:豊島望 編集:川浦慧、宮原朋之

岡﨑乾二郎、真鍋大度、BCL、ティム・エッチェルス、チェルフィッチュらの作品を、お金がなくても競り合えるオークションが開催される。いや、正確にはお金でも良いし、別の形であなたが提供できる「価値」を入札しても良い。日本初開催となる『ポスト資本主義オークション』は、今年の『TPAM - 国際舞台芸術ミーティング in 横浜』で実現する。

仕掛け人のジンイ・ワンは、中国出身、ノルウェー在住のアーティスト。10代で抱いた「なぜお金がすべてを決めてしまうのか?」というナイーブな疑問を、10数年を経て奇妙な観客参加型パフォーマンスに結実させた。このアートオークションでは、アーティストたちが自作を出品し、観客はビッダー(入札者)として参加する。一番の特徴は、入札に使えるのがお金だけでなく、作品や作家に対する「理解」「機会」「交換」というかたちで自分ならではの提案もできること。それは資本主義のオルタナティブを考える実験でもある。

今回、開催を前に来日したワンと、著書『現代アートとは何か』(河出書房新社)が注目を集めるジャーナリストの小崎哲哉の初対談を企画した。硬軟を織り交ぜた語りで現代アートをめぐる「価値」を再考した小崎と、『ポスト資本主義オークション』を通じて新しい価値観を探るワン。「お金(だけ)じゃない世界」をめぐる、彼らの意見交換をお届けする。

このオークションではお金「も」使えます。(ワン)

—ワンさんの『ポスト資本主義オークション』(『POST CAPITALISTIC AUCTION』以下、『PCA』)における一番の特徴は、入札に使えるのがお金だけでなく、別の価値も提示できることですね。まず、どんな意図でこれを始めたのかを伺えますか?

 

ワン:最初のきっかけは18歳のころで、「なぜお金がすべてを決定してしまうのか」「なぜアートさえもすべて金持ちの手に落ちてしまうの?」という素朴な疑問でした。いとことの議論で「そんなの当たり前でしょ?」と返されて、私は不満を感じました。

当時はそれきりでしたが、次のきっかけは社会のさらなる変化です。大学を出て広告の仕事をした後、渡欧して演劇を学び、アーティストになりました。他方、中国では2012年ごろに大きな経済発展があり、新技術や無数の企業が生まれ、誰もがお金の話ばかりするようになった。「どの大学を出ればどれくらいの年収が得られるか」といった具合です。

—ヨーロッパから母国を眺めることで、客観視できたのでしょうか。

ワン:ネットで中国の様子は常にチェックしていたので、むしろそのインパクトを私も受けていました。だから、自分が引き裂かれたような感じでしたね。つまり、次々と新しいものが生まれることに興奮している私がいて、でも他方では、お金で全てが翻訳されていく状況に怒りを覚えました。知性や美、教育、優しさなど、お金に換算できない、それ自体で価値を持つものもあるはずだと思ったのです。

—そこから「お金だけが対価ではないアートオークション」という発想が生まれた?

ワン:2015年ごろ、あるアートコレクターと親しくなったことが3つ目の契機でした。彼を通じてアート市場やオークションについて詳しく知るなかで、突然、10代から抱えてきた問題意識がすべてつながったのです。アートは、商品であってそれだけでもない複雑な存在。それを扱うオークションは、これらの問題を考えるための完璧な媒体だと思えました。

ジンイ・ワン
ジンイ・ワン

—小崎さんは著書『現代アートとは何か』で、タイトル通りの問いをゴシップからセオリーまで用いて、多角的に再考しています。現時点で『PCA』にどんな印象を持っていますか?

小崎:まず、動機が良いですよね。「愛のない結婚は不純では?」みたいなところから始まっている。そして、面白いのはワンさん自身がアーティストだということ。

『PCA』の試みは、僕の本でも問題点として挙げたアート市場のクレイジーな状況と切り離しては考えられない。その意味でも、関心と期待とがあります。

小崎哲哉
小崎哲哉

ワン:最初はもっとラディカルに「非資本主義オークション」なるタイトルを考えました。途中で「ポスト」(~の後の、~の次の)に変えたのは、お金を排除するのをやめたから。このオークションではお金「も」使えます。貨幣は数世紀にわたり機能してきた制度ですから、好き嫌いや良し悪しは別に、尊重すべきだと思ったのです。何より、私自身もお金を完全否定して生きてはいませんし(苦笑)。そこは正直であるべきだと思いました。

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イベント情報

『TPAM - 国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2019』

2019年2月9日(土)~2月17日(日)
会場:神奈川県 横浜 KAAT神奈川芸術劇場、Kosha33(神奈川県住宅供給公社)、横浜市開港記念会館、象の鼻テラス、横浜赤レンガ倉庫1号館、mass×mass 関内フューチャーセンター、Amazon Clubほか複数会場

『ポスト資本主義オークション』
『ポスト資本主義オークション』

内覧会:2019年2月12日(火)~14日(木)
オークション、ディスカッション:2019年2月14日(木)
会場:神奈川県 横浜 横浜市開港記念会館(内覧会、オークション)、mass×mass 関内フューチャーセンター(ディスカッション)
※入札をお考えの方は、オークションにご参加いただく前に内覧会にお越しいただき、入札の計画を立てておくことをおすすめします。入札にはスマートフォンのアプリをお使いいただきますので、十分に充電されたスマートフォンをお持ちください。

プロフィール

ジンイ・ワン

1984年北京生まれ。2013年からノルウェーのベルゲンを拠点に、コンテンポラリー・パフォーマンスのクリエイターとして、パフォーマーでなく現代美術作品が舞台に上がり時間の流れを作り出す「スタティック・シアター」、『ポスト資本主義オークション』がその一例である「パフォーマティブ・イベント」など、オリジナルの領域横断型パフォーマンスの形式を作り出している。北京と香港で広告やコミュニケーションの分野で教育を受け働き、その後フランス、ベルギー、デンマーク、ノルウェーでアートを学んだ自身の職業/文化横断的バックグラウンドからも、パフォーマンスへのユニークなアプローチを引き出している。

小崎哲哉(おざき てつや)

1955年、東京生まれ。京都在住。カルチャーウェブマガジン『REALKYOTO』発行人兼編集長。京都造形芸術大学大学院学術センター客員研究員。同大学舞台芸術研究センター主任研究員。2002年、20世紀の人類の愚行を集めた写真集『百年の愚行』(Think the Earth)を企画編集し、2003年に和英バイリンガルの現代アート雑誌『ART iT』を創刊した。2013年には「あいちトリエンナーレ2013」のパフォーミングアーツ統括プロデューサーを担当。2014年に『続・百年の愚行』(同前)を執筆・編集。近著は2018年3月に上梓した『現代アートとは何か』(河出書房新社)。

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