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町田康からbetcover!!へ。約40年の表現活動で得た確信を伝える

町田康からbetcover!!へ。約40年の表現活動で得た確信を伝える

betcover!!『中学生』
インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:前田立 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

言葉の流れも、川の流れのようなものだと僕は思っているんです。(ヤナセ)

ヤナセ:僕は曲を作るとき、メロディー先行と歌詞先行のどちらでもなくて。まず伴奏を作り、コード感を作ってから、そこに日本語の適当な言葉を当てはめていくんです。それは、ひとつずつ言葉をコラージュのように並べていく感覚で。

なので、「ここまでこういうことを言っていたのに、次の瞬間にまったく違う言葉が出てくる」みたいな脈絡のない形になるんですけど、それは決して、言葉の流れを意識していないわけではなくて。僕の住んでいる場所の近くに多摩川があるんですけど、言葉の流れも、川の流れのようなものだと僕は思っているんです。

町田:意味としては段差があるけど、言葉としては流れているっていうことですよね。

ヤナセ:そうです。なので、言葉自体は影響し合っているんですよ。全体に流れがあるから、宇宙のことを歌っていて、急にバナナのことを歌ったとしても、それによって生まれる悪影響はないんです。

ヤナセジロウ(betcover!!)

ヤナセ:音楽ってイメージとして、プレイボタンがあって、そこからひとつの方向に音が流れていくようなイメージがあるかもしれないけど、僕の場合は、絵のような感覚で全方向に矢印が向いている感じなんです。そこには、ジャンルもないし、言葉の前後関係もない。上流も下流もなく、全部に流れがある感覚。

だから、全然意味のない言葉もあれば、全然意味のない曲もある。新しい『中学生』っていうアルバムには、まったく意味がない曲もあるんですよ。でも、そういう曲があることによって、他の言葉や音や曲が、「流れ」のなかで引き立つんじゃないかって思っているんです。

betcover!!『中学生』を聴く(Apple Musicはこちら

町田:もし全体に流れがなければ、本当に脈絡のない言葉の羅列になってしまって、聴き手がまとまったイメージを感じることはできない。でも、ヤナセさんは言葉に脈絡がなくても全体に流れを持っているから、聴き手がイメージできるんですね。

詞が先にできるのでも曲が先にできるのでもないというのは恐らく、言葉によってメロディーが呼び出されているし、メロディーによって言葉が呼び出されているっていうことなんですよね。瞬間的に言葉とメロディーが移動しながら、常に両者が生まれてきている。これは、作詞としては唯一にして無二の手法だと思いますし、短歌や俳句のような日本の短詩系も、そういうふうにして言葉の響きと、言葉そのものが持っている雰囲気などが連鎖しながら作られてきたんだと思います。

町田康

言葉を覚えた頃には、もう人生終わっています(笑)。でも、人間が生きるって、そういうことなので。(町田)

ヤナセ:ただ、僕は歌詞を書くことに対しては苦手意識もあって。僕は高校を半年で退学しているし、勉強ができなくて。なので、「ここはなんて言えばいいんだ?」みたいな苦しみが常にあるんですよね。ボキャブラリーが少ないんです。ホースを手で絞めて、弱い水量で押し出している感覚というか……本当はもっと全開で気持ちよく出したいんだけど、歌詞が出てこないせいで、曲が1か月くらいできないこともあるんですよ。

町田:語彙を自分のものにするには方法はひとつしかなくて、時間はかかりますけど、簡単ですよ。とにかく、本を読むしかないです。ただ、語彙って、受験勉強で英単語を覚えるようにしても身につかなくて。やっぱりバックグラウンドに自分の実感がない語彙は身につかないんですよね。自分の人生の体験と結びついたときに初めて、その語彙が自分の身に沁みてくるんです。

左から:ヤナセジロウ(betcover!!)、町田康

町田:僕なんかは、昔、落語で聞いた言葉をあとから本で読んで「あ、そういうことだったのか」って理解することも結構あって。でも、そうやって語彙を自分のものにしていくのって、4~50年かかることなんです。で、満足いくほどに語彙が身についた頃には、なにかをやる体力もなくなっているんです(笑)。

ヤナセ:はぁ……。

町田:でも、みんなそうだから仕方がないですよ。言葉を覚えた頃には、もう人生終わっています(笑)。でも、人間が生きるって、そういうことなので。頑張ってやるしかないです。

ヤナセ:はい(笑)。

左から:ヤナセジロウ(betcover!!)、町田康

僕がbetcover!!を好きになった最も大きな部分をひと言で言うと、「人間存在」に肉薄している、ということ。(町田)

―おふたりのお話を聞いて改めて思いますけど、ヤナセさんの曲というのは、どれだけ時代が変わろうとも変わらない、人間のなかにある普遍的で本質的なものを表現し得ていますよね。

町田:そうですね。いろいろお話しましたけど、僕がbetcover!!を好きになった最も大きな部分をひと言で言うと、「人間存在」に肉薄している、ということなんですよね。そのひとつの特徴として、そこには悲しみがあるんです。悲しみというか、哀弔というか、哀感というか。わかりやすく言うと、切なさですね。人間が存在しているということに当然付随する切なさが、とても甘美な形で表されていると思います。

左から:町田康、ヤナセジロウ(betcover!!)

―ただ、そうしたものは「そういうものを作ろう」と思ってできるものでもないような気がするんです。先ほどヤナセさんが語ってくださった歌詞の構造についても、狙って作り出せるものではないように思えます。表現の当事者の意識として、それはどのように向き合うものなのでしょうか?

町田:それは、表現をしている者にしかわからないメカニズムだと思うんですけど、「これを描こう」とか「こういう表現をしよう」っていうことではないです。「それは南南西からやってくる」んです、勝手に(笑)。で、それはなにかをやっていないと、やってこないんですよ。やっているから、やってくるんです。だから、やっていないとダメなんです。

なにかを見て「これをやろう」と思うのではダメで、やっているから、「なにかをやろう」と思う。少なくとも僕はそうです。だから僕は、「これによって、人にこんな感銘を与えてやろう」みたいな効果を狙った詞を読んでも、感動しないんですよね。だけどbetcover!!の音楽を聴くと、一見、意味がない言葉にもすごく意味を感じるし、リアルを感じる。感動するんですよね。

ヤナセ:ありがとうございます。

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リリース情報

betcover!!
『中学生』(CD+DVD)

2019年7月24日(水)
価格:3,564円(税込)
CTCR-14973/B

[CD]
1. 羽
2. 水泳教室
3. 異星人
4. 決壊
5. 雲の上
6. 世界は広いよ
7. ゆめみちゃった(アルバムver.)
8. 海豚少年(アルバムver.)
9. 素直な気持ち
10. 中学生

[DVD]
・“異星人”PV
・“海豚少年”PV
・レコーディングドキュメント

betcover!!
『中学生』(CD)

2019年7月24日(水)
価格:3,024円(税込)
CTCR-14974

1. 羽
2. 水泳教室
3. 異星人
4. 決壊
5. 雲の上
6. 世界は広いよ
7. ゆめみちゃった(アルバムver.)
8. 海豚少年(アルバムver.)
9. 素直な気持ち
10. 中学生

イベント情報

『1st.フルアルバム発売記念 単独公演「中二魂」』

2019年8月23日(金)
会場:東京都 渋谷WWW

プロフィール

betcover!!(べっとかばー)

1999年生まれ多摩育ちのヤナセジロウによる音楽プロジェクト。小学5年生でギター、中学生のときに作曲をはじめ、2016年夏に本格的に活動を開始。同年レーベル主催企画で初ライブ、その次はロッキングオン主催の『RO JACK for COUNTDOWN JAPAN』で優勝し『COUNTDOWN JAPAN 16/17』に出演。2019年7月24日、メジャーデビュー作となる1stフルアルム『中学生』をリリースした。

町田康(まちだ こう)

1962年大阪生まれ。作家・詩人・パンクロッカー。町田町蔵名義で歌手活動を始め、1981年パンクバンド「INU」の『メシ喰うな!』でレコードデビュー。96年、処女小説『くっすん大黒』で文壇デビュー。2000年『きれぎれ』で『芥川賞』、2005年『告白』で『谷崎潤一郎賞』、2008年『宿屋めぐり』で『野間文芸賞』を受賞。

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