
売れなきゃかっこ悪いのか? 激動のインディシーン20年を振り返る
ワイキキレコード- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
- 撮影:豊島望 編集:柏井万作(CINRA.NET編集部)
「楽しそう」っていうのは重要ですよね。昔のメジャーも楽しそうだったからよかったわけで。(小宮山)
―ワイキキも2000年代はインディバブルの恩恵を受けたような時期があったのでしょうか?
サカモト:いや、全然儲かってなかったので、普通にバイトして、ただのフリーターでした。
―(笑)。それって、将来への不安とか危機感はなかったですか?
サカモト:まったくなかったです。バンドをやってると、許される気がするというか、2年後どうなってるのかも考えてなかったので、「来月の支払いどうしよう?」をずっと続けてました。好きで始めたことなので、周りがどうこうも関係なかったし……まあ、角張くん(カクバリズム / 星野源が所属していたSAKEROCKやcero、YOUR SONG IS GOOD、二階堂和美などをリリース)とは途中から明確な差が出てきたので、最終的には気になってましたけど(笑)。
―レーベル業が最も活発だった時期というと、いつ頃になりますか?
サカモト:OverTheDogsと奇妙礼太郎トラベルスイング楽団の両方に関わってた2010年前後が一番忙しかったですね。OverTheDogsはメジャーデビュー後もスタッフとして関わったので、メジャーの仕事を経験できたり、得るものがいろいろありました。
2010年6月発売の1stアルバム『A STAR LIGHT IN MY LIFE』収録
サカモト:逆にメジャーの契約が終わった後は、手元に残ったお金が10万円くらいで、「これはマズイ」と初めて思いましたね。わかりやすく言うと、「田舎に帰ろうかな」と思って、でもそのタイミングで雄飛さんの事務所のお話(現在サカモトはホフディランの事務所GENIUS AT WORKで勤務)があって……。
小宮山:サカモッちゃん……暗い話が多いなぁ(笑)。
サカモト:いやでも(笑)、自分で言うのもなんですけど、弱小レーベルなのに、「出したい」っていうオファーは定期的にあったんです。なので、結局楽しくやって来れちゃって、「何年後やべえ」とかはあんまり考えてなかったんですよね。
―徐々にインディレーベルの数も減っていく中、ワイキキはずっと続けたからこそブランド化して、「出したい」っていう声も定期的にあったのかなと。まさに「続ける」ことのすごさだと思いますが、そのモチベーションはどこにあったと言えますか?
サカモト:好きだったものが嫌いになるのは嫌だなって、そこですかね。今回20周年イベントに出てもらうThe Apples In Stereoのロバート・シュナイダーもエレファント6のオーナーなんですけど、バンドもレーベルも20年以上やってて、全然悲壮感がないんですよ。「現行のシーンに追いつかなきゃ、アップデートしなきゃ」じゃなくて、出会ったころと変わらず「サイケデリックっていいよね」みたいな感じで。そういうのがかっこいいなって思うし、僕もそういう気持ちでいたい。
2007年発売のアルバム『New Magnetic Wonder』収録
サカモト:僕はThe Beatles的なものがずっと好きなので、そこは今後も変わらないし、変わりたくない。さっき「自分のアイデンティティを持ってリリースしてるわけじゃない」みたいな話もしましたけど、今回の出演者を並べてみると、ちゃんと好きな人たちばっかりいて、そういうのは不思議だなって思います。

9月23日に東京・渋谷のTSUTAYA O-WEST、TSUTAYA O-nestで開催される『WaikikiRecord 20th Guaranteed to Make You Feel Good!』のロゴ。ELEKIBASS、ワンダフルボーイズ、ホフディラン、奇妙礼太郎、Robert Schneider + John Ferguson of The Apples in Stereo、OverTheDogsなどが出演(詳細はこちら)
―当然「出したい」と言われたものをすべて出すわけではなく、サカモトさん自身の「いい」とか「好き」という気持ちを軸にリリースをしてきたということでしょうね。
サカモト:結局レーベルや事務所の名前よりも、「この人と何かしたい」っていう、コミュニティ的なワクワクがあるかどうかだと思うんです。バンドメンバーにしても、惰性で続けてると顔も合わせたくなくなるけど、未だに面白いと思うからやれてるわけで、そこはレーベルもバンドも同じ。僕、今回ロバート・シュナイダーが来るのめちゃめちゃ楽しみですもん。この気持ちが大事で、「会いたい人に会える」って、シンプルに凄いことじゃないですか?
小宮山:そういう「楽しそう」っていう空気感は重要だよね。昔のメジャーも楽しそうだったからよかったわけで、今の若い人は「メジャー楽しそう」っていう感覚はあんまりないんじゃないかな。でも、それこそ渋谷系だったらリトル・バード・ネイション(スチャダラパー、TOKYO No.1 SOUL SETなどが集ったヒップホップチーム)は純粋に楽しそうだったし、さっき話に出た角張くんのところも楽しそうな空気あるもんね。
サカモト:あと雄飛さんからは、「家族や普段の生活を大事にしなさい」っていうのを勝手に感じていて。「売れるためにこうする」とかじゃなくて、ちゃんと自分の生活とともに音楽があるっていう……至極当然のことではあるんですけど。
小宮山:ちょっと前にはるさん(Theピーズの大木温之)が食道がんを公表しましたけど、やっぱり20年以上やってると、全部が成立する難しさを感じるんだよね。曲が作れて、ビジネス的にも回っていて、なおかつ健康でって、ちゃんとした生活がないと成り立たない。
昔は無茶してても「売れたもん勝ち」と思ってたけど、売れてもダメになっちゃう人も見てきて。別にロック魂がなくなったわけじゃなくて、続けるために必要なことなんです。あのミック・ジャガーだって、健康のことをちゃんと考えてるでしょ(笑)。
文脈とか歴史を紡いでいくことを信じられないと、「売れなきゃかっこ悪い」みたいになっちゃう気がするんですよ。(サカモト)
―20周年イベントにはPARIS on the City!や空中カメラのような下の世代も出演するわけですが、The BeatlesやThe Apples In Stereoに象徴されるワイキキの系譜が下の世代にも受け継がれているという感触は感じていらっしゃいますか?
サカモト:ワイキキの系譜というより、自分も含めて上から下へ受け継いできたポップミュージックのシーンがあって、それが今でもずっと好きだし、歳上のみなさんがちゃんと音楽を愛しながら活動しているのをすごく尊敬しているので、僕も下からそう見られたいなとは思います。
そういう文脈とか歴史を紡いでいくことを信じられないと、「売れなきゃかっこ悪い」みたいになっちゃう気がするんですよ。売れてても、売れてなくても、「こういうのが面白い!」っていうのを打ち出して……まあ、すでに星野源くんとかめっちゃデカい規模でそれをやってるんで……僕がいなくても大丈夫だとは思うんですけど……(徐々に小声に)。
―いやいや、今後にも期待しています!(笑) では最後に、20周年以降のレーベルの展望を話していただけますか?
サカモト:えっと、先の展望はですね…………。
小宮山:これはない人の感じだなあ(笑)。
サカモト:正直言って、何とか20周年に奮起して、自分のバンド含め「やらなきゃ!」とは思ったんですけど、最近は裏方の仕事が多いので……。
サンデー:夢があるかないかだけ教えてください。
サカモト:できたら……ブラジル人が、たまたま中古屋で回ってきたELEKIBASSのCDを聴いて、「何語かわかんないけど、これ面白い」って言ってくれるような未来が待ってるといいなって思ってますけど……。
小宮山:……何それ?(笑)
サカモト:音楽を作った以上、どこかで流れてるわけですから、まったく予想してない場所の人が、まったく予想してないタイミングで出会ってくれたら嬉しいなって。それが宇宙でも、他の惑星でもいいんですけど……。
小宮山:ないよ、そんなこと!(笑)
―逆に言えば、それだけ今回の20周年イベントに賭けていると。
サカモト:はい、なので、ぜひ遊びに来てもらいたいです!
イベント情報

- 『WaikikiRecord 20th Guaranteed to Make You Feel Good!』
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2019年9月23日(月・祝)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-WEST、TSUTAYA O-nest出演:
ELEKIBASS
ワンダフルボーイズ
ホフディラン
奇妙礼太郎
Robert Schneider +
John Ferguson of The Apples in Stereo
PARIS on the City!
空中カメラ
尾島隆英
ゆーきゃん
OverTheDogs
徳永憲
SPIRODJ:
ヨッシー&ズンドコ・ロッポンギ(TKC)
洞澤&近藤(The Bookmarcs)
菅原潤
長坂(夢見る港)VJ:
onnacodomoFOOD:
Lottie料金:前売4,000円 当日4,500円(共にドリンク別)
※高校生以下は身分証明書提示で入場無料
プロフィール

- ELEKIBASS(えれきべーす)
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1998年に結成し、強い海外志向を持ち、後にアメリカで人気バンドとなるOf montrealと早くから交流を重ね、現在までに8度のアメリカツアーを実施。一方、国内でも渋谷系の流れを組むバンドとしての評価も獲得。また、自ら主宰するレーベルWAIKIKI REOCRDからは国内外のアーティストの作品を数多くリリースしているサカモトヨウイチ率いる60年代後半のブリティッシュロック、ブルース調のリズム、ミュージックホールメロディー、そして風変わりなサイケデリックさの要素をあわせ持つバンド、ELEKIBASS。2016年8月にアメリカのジョージア州アセンズで開催されている、インディポップミュージックのフェスティバル「Athens Popfest」へDeerhoofやElf Power、DANIEL JOHNSTONらとともに出演。アメリカでの7inchレコードシングルのリリースも決定している。

- ホフディラン
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日本が誇る2ピースPOPグループ。1996年『スマイル』でデビュー。1998年には“遠距離恋愛は続く”、“欲望”、“極楽はどこだ”などお馴染みの曲は多数。『FUJI ROCK FESTIVAL』への参加、日本武道館でのワンマンライブを成功させる。約3年半の活動休止後、2006年9月に活動再開。10月18日には「5年ぶり」のニューアルバム『帰ってきたホフディラン』を古巣ポニーキャニオンより絶賛発売中!
- ワンダフルボーイズ
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OSAKAUNDERGROUNDのPOPMAKER、Sundayカミデを中心にCLUBMUSICをbaseにしたパフォーマンスは常にDANCE and MELLOWでフロアを沸かせている。2019年4月遂にVictor EntertainmentよりAlbum『We are all』でメジャーデビュー。「君が誰かの彼女になりくさっても」「天王寺ガール」などの代表作のイメージとは異なるDANCETUNEの連続で踊るステージは90年代のCLUBCULTUREを彷彿とさせている。