
ナツノムジナ×ピープル波多野の野外REC&対談 音が音楽になるとき
『Punctum』- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
- 撮影:田中一人 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
上野を散策し、野外REC。フィールドレコーディングをし、その音を音楽に使う理由は?
―今日はお互い音楽に対する思索を深めるべく、粟國さんと波多野さんに上野を散策しながらフィールドレコーディングをしてもらいました。まず、実際やってみての感想を聞かせてください。
粟國:録りっぱなしで歩き回る経験はほぼなくて、フィールドレコーディングのために歩くと、耳の立て方が違うなと感じました。今までやったフィールドレコーディングは、「この音を録りたい」って最初からフォーカスしていたんですけど、全体像で見ると、思ったよりいろんな音が、豊かな音が鳴ってるなと。
ただ最初は、「音の意味を剥ぎ取らないと、曲を聴いた人にとって気持ち悪いんじゃないか?」と、ちょっとナーバスになったりもしたんです。耳で聴くときは自然に音を選び取っているけど、マイクで録ると、もっと混沌とした状態で提示されてしまうとも思ったので。
粟國:でも、外にある音って意外と調和していて、そんなに意識を過敏にする必要もないなって、途中からは聴き耳を立てながらもリラックスしてできました。
波多野:最初は「どの音を録ろう?」って、対象の一つひとつに耳がいくよね。でも録ってると、「上野ってこういうところだな」みたいに思うというか。一つひとつの音に耳をフォーカスして考えを巡らすんだけど、ふと顔を上げると「ああ、上野だ」って。当たり前の話なんですけど(笑)。
―波多野さんは今回みたいに音を録り歩くことってありますか?
波多野:僕は結構録っちゃうんです。でも、曲に使うことはあんまりないんですよね。記念写真のような意識というか。去年末にインドに行ったんですけど、そのとき録ったものは『Tabula Rasa』(2019年)でも一瞬使っています。「使えるものなら使ったろう」って邪念はあるんです(笑)。でも、そんな上手くいくものでもなく、狙って録ったやつほど全然ハマらない。
―そういうものなんですね。
波多野:ただ、作品のなかに実際(フィールドレコーディング)の音を使うこと自体は好きで、それによって音楽と日常の境目が曖昧になる感覚を聴く人の耳に忍び込ませたいんです。
―ピープルでは、『Kodomo Rengou』(2018年)のオープニングとラストがそうですよね。
波多野:あれも「音楽は現実と繋がっている」っていう意味合いです。作っているときは、そこまで厳密に考えてはいないんですけどね。
People In The Box『Kodomo Rengou』を聴く(Apple Musicはこちら)
―ナツノムジナが『Temporary Reality Numbers』のオープニングとラストにフィールドレコーディングの音を使ったのは、どんな意図があったのでしょうか?
粟國:そもそも1stアルバムは内側の表現だったんですけど、2ndアルバムを作る段階になったとき、その物語が終わったあとに、なにか感覚をする自分だけが残っていたんです。それで今度は現実のほうに目が向いていった。フィールドレコーディングの音で始めたのは、その決意表明でもあったんです。
ナツノムジナ『Temporary Reality Numbers』を聴く(Apple Musicはこちら)
音を扱い、「曲を作る」という行為について。そこにある超自然的な感覚
―実際にはどこでどうやって録ったんですか?
粟國:メンバーみんなと共同生活をしている家にある、ミックスとか作業をする部屋にマイクを立てて録りました。どちらも同じ場所で録っているんだけど時間は変わっていて、音楽の力でその場所の持つ意味や感覚がグイッと変わってしまう。そういう音楽の強力な作用みたいなものを表現できたかなと感じています。
―窪田さんは、東京藝術大学で音楽環境創造科の出身だそうですね。
窪田(Ba):そうなんです。2ndアルバムのオープニングとラストに関しては、環境音と楽器とを一緒に録っていて、めっちゃ安いマイクとちゃんとしたコンデンサーマイクで録ってるんです。ちょっと示唆的だなって思ったのは、1stアルバムは波の音で始まるんですけど、あれは実際の波の音じゃなくて、ホワイトノイズにフィルターをかけて揺らして作った音なんです。
だから、架空のサウンドスケープみたいなところから、2ndアルバムでは、現実の、地に足の着いたサウンドスケープに変わっている。まあ、僕らも録ったときは、そこまで厳密には考えてなかったんですけど(笑)。
波多野:今の波の話は面白くて、最近考えていることと繋がるような気がします。というのも、音楽というのは結局のところある種のメタファーで、意識的であろうがなかろうが、現実のなにかを音でたとえようとした結果なんじゃないかなと。
たとえば曲を作っているときに「この曲に合ったテンポはこれだ」としっくりくるポイントが見つかるのって、おそらくその曲が表そうとしている現実のなにか、情景なり心情なりの動きに寄せているからそう感じるんだと思うんです。ビートにしろ、音色にしろ、和声が変わる周期にしても、無意識的になにかをたとえようとしてるんじゃないかと。たとえば、4曲同時に作っていて、ひとつずつ違うタイプの曲にしようとしたら春夏秋冬に対応するそれぞれの曲が自然とできあがる、というようなことって起こるんですよね。
―面白いですね。
波多野:あらかじめテーマとしてそういうことを設定するのはよくあると思うんですが、それとも違う、いわゆる言葉どおりの「コンセプト」として後から立ち上がってくる場合がある。そういった意味においては、ピープルはコンセプトに忠実なバンドなんです。
波多野:(曲なりアルバムなりを)作っている途中でなにかが浮かび上がってきて、メンバー全員でそれを見つめながら制作していく。そうすると次第に「これでしょ」っていう着地点が見えてくるんです。
そこを「~みたいに」「~のスタイルで」って記号で埋めていく場合が多いと思うけれど、僕らはそうはしないんです。同じようにナツノムジナも、曲作りにおける着地点を感覚で見つけようとしてるんじゃないか、って思ったんです。
イベント情報

- 『Punctum』
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2019年12月4日(水)
会場:東京都 渋谷 WWW出演:
ナツノムジナ
People In The Box
CHIIO
リリース情報

- ナツノムジナ
『Temporary Reality Numbers』(CD) -
2019年7月10日(水)発売
価格:2,484円(税込)
PCD-830161. temporary,reality
2. 煙の花束
3. 優しい怪物
4. 台風
5. 報せ
6. タイトロープ
7. 漸近線
8. 金星
9. (temporary,reality)
- People In The Box
『Tabula Rasa』(CD) -
2019年9月7日(土)発売
価格:2,5002,700円(税込)
BXWY-0241. 装置
2. いきている
3. 風景を一瞬で変える方法
4. 忘れる音楽
5. ミネルヴァ
6. 2121
7. 懐胎した犬のブルース
8. まなざし
プロフィール

- ナツノムジナ
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2010年、沖縄にて、高校の入学を目前に粟國智彦の呼びかけにより小学校の頃の同級生でナツノムジナを結成。同年の10月ごろにベーシストが抜け、現メンバーの窪田薫が加入。2011年7月、bloodthirsty butchersのライブのオープニングアクトを務めたことをきっかけに音源作成を決意。2017年9月、初の全国流通版1stフルアルバム『淼のすみか』をリリース。2018年3月、CINRA.NETの企画で田渕ひさ子氏とライブセッションと対談を行う。2019年7月、2ndアルバム『Temporary Reality Numbers』をリリース。12月4日には、ナツノムジナとPeople In The Boxによる企画ライブ『Punctum』を渋谷WWWにて開催する。

- People In The Box(ぴーぷる いん ざ ぼっくす)
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2005年に結成した3ピースバンド。2008年に福井健太(Ba)が加入し、現在のメンバーで活動し始める。3ピースの限界にとらわれない、幅広く高い音楽性と、独特な歌の世界観で注目を集めている。2019年9月7日に7thアルバム『Tabula Rasa』をリリース。