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村田沙耶香と松井周が観察する、傲慢で変な「人間」という生き物

村田沙耶香と松井周が観察する、傲慢で変な「人間」という生き物

inseparable『変半身(かわりみ)』
インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影:前田立 編集:中田光貴(CINRA.NET編集部)

自分で「これいいな」と思って戯曲に書いていることでも、「あ、村田さんが言っていたことだ」と気づく瞬間がある。(松井)

村田:私も作品の世界観としては、自分の根源にある疑問に還ってきたのだと思いますが、その上で、書きながら松井さんの影響も受けているんです。地方に移動する間もずっと、今日みたいな会話をしていましたし。

松井:僕も、それぞれの設定をどちらがオリジナルで出したのかは、もう忘れているというか。3年って、それくらいの時間ですよね。だからある意味で気持ち悪くて、自分で「これいいな」と思って戯曲に書いていることでも、「あ、村田さんが言っていたことだ」と気づく瞬間があって。

村田:島の伝説に残る神様「ポーポー様」(『変半身』に登場する神様の名称)って、どちらが名づけたんでしたっけ?

松井:それ、村田さんのような気がするんですけど……。

村田:あれ、そうですか……?

左から:松井周、村田沙耶香

―不思議なやりとりですね(笑)。でもそれがまさに、分けきれない=「inseparable」という感じがします。そしておふたりだけではなく、人間自体がそうなんだろうな、と。

村田:そういえば、LINEグループに貼り忘れた記事があるんです。ある人が小さい頃に、ファービーを唯一神にした「ファービー教」を友だちとつくったという話で。ポイントを貯めたら昇級できる階級制度もつくって遊んでいたら、先生にバレてすごく怒られたらしいんです。きっと松井さんも、似たようなことやっていたんじゃないかなって(笑)。

松井:言われてみれば、本当にやってました。子どもの頃、先生が「隠し事や嘘はダメだ」というので、じゃあ友だち同士、隠し事をしないためにみんな全裸になろうって。それでもまだ隠しているところがあるんじゃないかと思って、お尻の穴を見せ合って、それでやっと友だちだ、と。

でもある日、公園で見せ合っていたら、転校してきたばかりの子が裸になる前に逃げ出した。僕たちは全裸で自転車に乗って追いかけたんです。だって、先生が隠し事はダメだっていうから……(笑)。

彼はセブンイレブンの中に入っていったんですが、僕らは「なにより友情だ。嘘はついちゃいけない。なにも怖いことはない」とセブンイレブンに全裸で入っていって……。

村田:ひどい……(笑)。

―本当にひどいですね……(苦笑)。でも、中国をはじめ日本でも導入されてきているスコアリング制度って、基本的にはそういうことですよね。行動が監視されてスコア化され、場合によっては就職や旅行などが制限されるという。

松井:ああ、すごく関心があります。監視カメラの精度がすごく上がっているから、中国では街中でも誰でも特定できて、信号無視をしただけでスコアが下がるとか。

村田:私が通っていた小学校でも、牛乳瓶の蓋がポイント制度みたいになっていました。「あの子はこの子のことが好き」といったことを知っている情報屋みたいな子がいて、蓋を何枚かあげると情報を教えてくれるんです(笑)。今思えば、ただの蓋なんですけどね。でも、いつも使っている貨幣だって、「こんなの紙じゃん」って思うときないですか?

松井:思います、思います。それにしても、村田さんのギアが入ると、毎回こういう話の連続になっていきますね(笑)。

左から:松井周、村田沙耶香

人間って、地球の代表は自分たちだと思っていますよね。(村田)

―おふたりとも作品世界の「設定」をされるタイプですが、そもそも人間自体が基本的になにかしらのフィクションの中に生きている、ということを話されている気がします。そしてそのフィクションを、私たちは部分的に共有して生きているのかもしれないな、と。

村田:私はいつも、「宇宙人の目で人間を見たい」と思っているんです。だって人間って、すごく変な生き物ですよね。体のほとんどに毛がなくて、髪だけフサフサと生えていて、布を体に巻いて……今日の私のお洋服みたいに、ヒラヒラしていていることもあって。生き物として、変じゃないですか。

松井:そうですね。どこか完成されていない感じがありますね。

村田:文化をまとっている、といったらいいんでしょうか……動物としてすごく変だと思うんです。たとえば宇宙人が来たら、「自分たち人間が話しかけられる」と絶対に信じている人が多いですよね。そういうところも、すごく傲慢で変だなあ、って。

松井:宇宙人は人間と交渉するだろう、と信じていますよね。宇宙人とコンタクトするような映画を見ても、常に大統領が出てきますし(笑)。

村田:人間って、地球の代表は自分たちだと思っていますよね。でも、猫でもなんでも、他の動物にだって、宇宙人は話しかけるかもしれないじゃないですか。ランクとして、人間は豚の次だって言われるかもしれない。そのときたぶん人間の一部は、イラっとすると思うんです(笑)。いやいや、この星のマスターは自分たちだって。

他の生き物が地球代表として選ばれるかもしれないですよね。でも、その傲慢さも好きなんです。まさに人間っぽくて、かわいい。そして、そうした自分たちのあり方に気づくときもあるんだけど、結局またすぐに違う価値観をインストールして凝り固まっていく。それもすごくいい(笑)。

松井:いいですよねえ、勘違いしている感じが……(笑)。家族でも友人関係でも、プレイをしていて、たまに失敗して、生々しい反応が出てくる。でもそれは一瞬で、すぐにまた別のフィクショナルなものに属そうとする。そうやって乗り換えていく感じは、浅はかなようなんだけど、生存するための知恵でもある。

フィクショナルであることと、人間であることというのは、切っても切れないと思います。そういうことを、ふたつの『変半身』で表現できたらいいですね。

左から:村田沙耶香、松井周
 
『変半身』チラシビジュアル ©鳥飼茜
『変半身』チラシビジュアル ©鳥飼茜(公式サイトを見る
村田沙耶香『変半身』(筑摩書房)
村田沙耶香『変半身』(筑摩書房)(Amazonで見る
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イベント情報

『変半身(かわりみ)』
『変半身(かわりみ)』

原案:村田沙耶香 松井周
脚本・演出:松井周
出演:
金子岳憲
三村和敬
大鶴美仁音
日髙啓介
能島瑞穂
王宏元
安蘭けい

東京公演

2019年11月29日(金)~12月11日(水)全15公演
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 シアターイースト
料金:
前売 一般4,200円 学生3,000円 高校生以下1,000円
当日 一般4,500円 学生3,000円 高校生以下1,000円

三重公演

2019年12月14日(土)、12月15日(日)全3公演
会場:三重県 津 三重県文化会館 小ホール
料金:一般3,000円 U-25券1,500円

京都公演

2019年12月18日(水)、12月19日(木)全3公演
会場:京都府 ロームシアター京都 ノースホール
料金:一般3,500円 25歳以下2,000円 18歳以下1,000円

兵庫公演

2019年12月21日(土)、12月22日(日)全2公演
会場:兵庫県 神戸文化ホール 中ホール舞台上
料金:一般3,500円 U-25券2,000円 U-18券1,000円

書籍情報

『変半身(かわりみ)』
村田沙耶香
『変半身』

2019年11月27日(水)発売
発行:筑摩書房
価格:1,485円(税込)

プロフィール

村田沙耶香(むらた さやか)

1979年、千葉県生れ。玉川大学文学部芸術文化学科卒。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)受賞。2009年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、2013年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島賞、2016年『コンビニ人間』で芥川賞受賞。累計発行部数100万部を突破した。著書に『マウス』『タダイマトビラ』『地球星人』『殺人出産』『消滅世界』『生命式』などがある。2019年11月には『変半身』を筑摩書房より発表予定。

松井周(まつい しゅう)

1972年東京都出身。1996年劇団「青年団」に俳優として入団後、作家や演出家としても活動を開始する。2007年『カロリーの消費』より劇団「サンプル」を旗揚げ、青年団から独立。バラバラの自分だけの地図を持って徘徊する人間たちを描きながら現実と虚構、モノとヒト、男性と女性、俳優と観客、などあらゆる関係の境界線を疑い、踏み越え、混ぜ合わせることを試みている。2011年『自慢の息子』で第55回岸田國士戯曲賞を受賞。2016年『離陸』で2016Kuandu ArtsFestival(台湾)に、2018年『自慢の息子』でフェスティバル・ドートンヌ・パリ(仏)に参加した。

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