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動員すればそれで良い?芸術の消費に対する『プラータナー』の挑戦

動員すればそれで良い?芸術の消費に対する『プラータナー』の挑戦

『プラータナー:憑依のポートレート』
インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影:豊島望 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

コンテンツ業界に溢れる「動員」という言葉は、それほど万能なものだろうか? たしかに、人が集まることは大事だろう。そのための苦労もある。しかし集まってもらうだけではダメなのだ、そこで社会的な体験をしてもらえるようなデザインをしなければ、と彼女たちはいう。目指すべきは、新たな観客、この不確実な世界を好奇心と共に旅する「トラベラーの創出」だと。

タイの作家による原作小説を、岡田利規ら日本勢のスタッフとタイのキャストが4時間の舞台に仕上げた『プラータナー:憑依のポートレート』。2019年6月~7月の公演にあたって、観客同士のポストトーク(終演後の座談会)や、観劇しながらのグラフィックレコーディングなど、斬新な企画がいくつも行われた。企画制作のprecog代表・中村茜、ワークショップデザイナーの臼井隆志、グラフィックレコーダーの清水淳子、『AWRD』編集長・金森香に、演劇の枠に留まらない試みの収穫と課題を尋ねた。

人を集めるのが「動員」なのだとしたら、我々が求めているのは、「経験しに来る」ということ。(中村)

―今回「新たな観客の創出」を試みた背景について伺えますか?

中村:複数の理由があるのですが、ひとつは、演劇に限らず音楽でも美術でも、「フェスティバルと単独公演(ワンマンや個展)」の構造があります。単独公演は、それぞれ目の前の観客に伝えていく。それに対してフェスティバルは、その垣根を乗り越えて、いろんな人や関心をかき混ぜて、マーケットを豊かにしていく役割がある。正直にいうと近年、演劇に関しては、このフェスティバルがあまりうまく機能していない、という実感を抱いていたんです。

中村茜(なかむら あかね)<br>precog代表 / 『プラータナー:憑依のポートレート』統括プロデューサーを担当。パフォーミングアーツ・プロデューサー。吾妻橋ダンスクロッシング、チェルフィッチュ・岡田利規、ニブロール・矢内原美邦、飴屋法水などの国内外の活動をプロデュース。海外ツアーや国際共同製作の実績は30か国70都市におよぶ。
中村茜(なかむら あかね)
precog代表 / 『プラータナー:憑依のポートレート』統括プロデューサーを担当。パフォーミングアーツ・プロデューサー。吾妻橋ダンスクロッシング、チェルフィッチュ・岡田利規、ニブロール・矢内原美邦、飴屋法水などの国内外の活動をプロデュース。海外ツアーや国際共同製作の実績は30か国70都市におよぶ。

中村:ここ2年ほど私はバンコクとニューヨークに住んでいたのですが、日本に戻ってきたら驚くほど演劇のお客さんが減っていました。さらに今回は、上演時間が4時間で、お客さんが入りにくい国際共同制作、かつアジアとのコラボレーションという3拍子が揃っており、「絶対に人が入らない」といわれまして……。

「だったら意地でも入れたるわ!」と一念発起したんですね(笑)。そこで、旧知の間柄だった臼井さん、金森さんにまずは声をかけさせていただいて、そこから清水さんにもご参加いただき、アイデアを練っていきました。

左から:中村茜(プロデューサー / precog代表)、臼井隆志(ワークショップデザイナー)、清水淳子(グラフィックレコーダー)、金森香(『AWRD』編集長)
左から:中村茜(プロデューサー / precog代表)、臼井隆志(ワークショップデザイナー)、清水淳子(グラフィックレコーダー)、金森香(『AWRD』編集長)
『プラータナー:憑依のポートレート』メインビジュアル 宣伝美術:松見拓也
『プラータナー:憑依のポートレート』メインビジュアル 宣伝美術:松見拓也(サイトを見る)(Vimeoで見る

臼井:僕は普段、子どもと関わるアート教育の分野を中心にワークショップデザイナーをしています。今回は観客が公演を観る「前」と「後」の経験のデザインを担当しました。具体的には「観劇ガイド」の編集と執筆、ファシリテーターやグラフィックレコーダーを集めた「『プラータナー』スクール」、観客同士の対話を促す「あなたのポストトーク」の3つです。

「あなたのポストトーク」ではキャストやスタッフ、識者が話すのではなく観客同志の対話を促す場を作りました。「『プラータナー』スクール」はそのイベントのファシリテーター(中立的な支援者)を育成する場でした。並行して、観劇しながら上演の様子を絵に描くグラフィックレコーディングのワークショップも行いました。このグラフィックレコーディングによって観客同士の対話を支援するのがねらいです。

臼井隆志(うすい たかし)<br>ワークショップデザイナー。株式会社MimicryDesignディレクター。ワークショップデザインの手法を用い、乳幼児から中高生、ビジネスパーソンを対象とした創造性教育の場に携わっている。
臼井隆志(うすい たかし)
ワークショップデザイナー。株式会社MimicryDesignディレクター。ワークショップデザインの手法を用い、乳幼児から中高生、ビジネスパーソンを対象とした創造性教育の場に携わっている。
『プラータナー』観劇ガイド。2019年4月発行、安心して公演に迷い込むためのガイド。広げると1枚のポスターに、ハサミを入れると一冊の冊子になる。編集・執筆:臼井隆志、アートワーク:関川航平、写真:松見拓也、デザイン:藤井瑶(コズフィッシュ)、マネジメント:藤末萌(PARADISE AIR)。
『プラータナー』観劇ガイド。2019年4月発行、安心して公演に迷い込むためのガイド。広げると1枚のポスターに、ハサミを入れると一冊の冊子になる。編集・執筆:臼井隆志、アートワーク:関川航平、写真:松見拓也、デザイン:藤井瑶(コズフィッシュ)、マネジメント:藤末萌(PARADISE AIR)。

―なぜ公演の「前後」をデザインしたのでしょう。

臼井:演劇を観て楽しむということだけではなくて、「学ぶ」というコンセプトで広報してみよう、ということですね。「人は経験によって学ぶのではなく、経験をふりかえることで学ぶ」というのは経験学習の理論的基盤となっているジョン・デューイの考え方ですが、演劇にもこれを適用できるだろうと。観劇前は「観劇ガイド」を通して上演内容について予測をし、想像を膨らませてもらう。観劇後は「あなたのポストトーク」で上演内容やそこでの経験をふりかえって言葉にしてもらう、という構造です。ファシリテーターやグラフィックレコーダーの募集は金森さんが運営する『AWRD』で募集させていただきました。

金森:私はその『AWRD』という、クリエイティブなコンペティションやハッカソンを誰もが手軽に企画して、コミュニティーを形成できるデジタルプラットフォームの編集長をしています。私は長らく演劇ファンでして、以前から中村さんとお仕事はご一緒していたんです。

今回は「あなたのポストトーク」ファシリテーターと、グラフィックレコード(以下、グラレコ)のワークショップの2つの参加者の募集を行いました。また長文と短文の観劇レビューも、『AWRD』で募集しました。

金森香(かなもり かお)<br>『AWRD』編集長。2001年に「シアタープロダクツ」を設立、広報、コミュニケーションにまつわる企画やマネジメント業務を担当。2010年、NPO法人「ドリフターズ・インターナショナル」理事に就任。2018年よりロフトワークに参加。
金森香(かなもり かお)
『AWRD』編集長。2001年に「シアタープロダクツ」を設立、広報、コミュニケーションにまつわる企画やマネジメント業務を担当。2010年、NPO法人「ドリフターズ・インターナショナル」理事に就任。2018年よりロフトワークに参加。

金森:『AWRD』には普段から、3万人近くのクリエイターの方々が集って、コミュニティーを形成しているんです。イラストレーターやデザイナーなどいろんな職種の方がいますが、これまで演劇にまったく興味がなかったとしても、今回のような企画でなら足を運んでもらえるので、それによってコミュニティーがミックスされていくのでは、と感じたんですね。

清水:グラレコについていうと、私はこの方法を通じて、「目に見えないコトを取り扱う業界」のお手伝いをしてきました。たとえば医療や教育の現場って、目に見えない繊細な心の動きや揺れがある世界で、それがなかなか外に伝わらないものですよね。

清水淳子(しみず じゅんこ)<br>グラフィックレコーダー。2013年Tokyo Graphic Recorderとして活動開始。同年、Yahoo! JAPAN入社。データサイエンティストと協業して、UXデザイナーとしてアプリ開発に携わる。著書に『Graphic Recorder ―議論を可視化するグラフィックレコーディングの教科書』(BNN新社)がある。現在は多摩美術大学情報デザイン学科 専任講師 / フリーランスで活動。
清水淳子(しみず じゅんこ)
グラフィックレコーダー。2013年Tokyo Graphic Recorderとして活動開始。同年、Yahoo! JAPAN入社。データサイエンティストと協業して、UXデザイナーとしてアプリ開発に携わる。著書に『Graphic Recorder ―議論を可視化するグラフィックレコーディングの教科書』(BNN新社)がある。現在は多摩美術大学情報デザイン学科 専任講師 / フリーランスで活動。

清水:演劇も同じく、劇場という空間に身を浸さないと見えてこないものがあって、それをうまく周りに伝えられずに自分の中で消えていくということが起こりがちです。そこを可視化できれば、観客が発見した価値が、社会に還元され、カルチャーになっていくはずだ、と感じてお引き受けしました。

―そもそも今回、「動員」ではなく「創出」という言葉を使っているのが興味深いです。

中村:そうですね。ただみんなに観に来てもらって、終わったら帰っていく、そうやって人を集めるのが消費活動としての「動員」なのだとしたら、我々が求めているのは、皆さんが「経験しに来る」ということなんだろうと思います。

『プラータナー:憑依のポートレート』2019年6月26日ゲネプロ  セノグラフィー・振付の塚原悠也(contact Gonzo)も役者と共に舞台に立った 写真:高野 ユリカ
『プラータナー:憑依のポートレート』2019年6月26日ゲネプロ  セノグラフィー・振付の塚原悠也(contact Gonzo)も役者と共に舞台に立った 写真:高野 ユリカ
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イベント情報

『プラータナー:憑依のポートレート』
響きあうアジア2019
ウティット・へーマムーン×岡田利規×塚原悠也
『プラータナー:憑依のポートレート』

2019年6月27日(木)~7月7日(日)全11公演
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 シアターイースト
脚本・演出:岡田利規
セノグラフィー・振付:塚原悠也
原作:ウティット・ヘーマムーン
演出助手:ウィチャヤ・アータマート

サービス情報

Precog note

言葉にできない体験を描くと、解釈はより広く深まっていく。演劇グラフィックレコーディングの作品全公開

私たちは、ほの暗い「広場」に集まり、すれ違う――演劇『プラータナー』参加型企画「あなたのポストトーク」に寄せて

プロフィール

中村茜(なかむら あかね)

パフォーミングアーツ・プロデューサー。1979年東京生まれ。2004年〜2008年STスポット横浜プログラムディレクター。2006年、株式会社プリコグを立ち上げ、08年より同社代表取締役。チェルフィッチュ・岡田利規、ニブロール・矢内原美邦、飴屋法水などの国内外の活動をプロデュース、海外ツアーや国際共同製作の実績は30カ国70都市におよぶ。2009年10月、NPO法人ドリフターズ・インターナショナルを、金森香(AWRD)と藤原徹平(建築家)と共に設立。そのほか、『国東半島アートプロジェクト2012』『国東半島芸術祭2014』パフォーマンスプログラムディレクター、2018年よりアジアを旅するエクスチェンジ・プラットフォーム「Jejak-旅 Tabi Exchange : Wandering Asian Contemporary Performance」の共同キュレーター等を歴任。2016-17年、アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)の支援を受けバンコク(タイ)に18ヶ月、ニューヨーク(アメリカ)で6ヶ月研修。2011~2015年、日本大学芸術学部演劇学科 非常勤講師。2019年からは、日本財団主催「True Colors Festival - 超ダイバーシティ芸術祭-」でプリコグが芸術祭事務局を運営。また渋谷に新しくできたSHIBUYA QWSではプログラムパートナーとしてドリフターズ・インターナショナルが「リ/クリエーション」を企画する。舞台制作者オープンネットワークON-PAM理事。

臼井隆志(うすい たかし)

1987年東京都生まれ。2011年慶應義塾大学総合政策学部卒業。株式会社MimicryDesignディレクター。ワークショップデザインの手法を用い、乳幼児から中高生、ビジネスパーソンを対象とした創造性教育の場に携わっている。児童館をアーティストの「工房」として活用するプログラム「アーティスト・イン・児童館」(2008~2015)、ワークショップを通して服を作るファッションブランド「FORM ON WORDS」(2011~2015)、伊勢丹新宿店の親子教室「ここちの森」(2016~)の企画・運営を担当。noteでは、発達心理学や認知科学をベースとした「赤ちゃんの探索」、アートワークショップの設計について考察する「アートの探索」を連載中。著書に『意外と知らない赤ちゃんのきもち』(スマート新書)がある。

清水淳子(しみず じゅんこ)

1986生千葉県生まれ。2009年 多摩美術大学情報デザイン学科卒業後、Web制作会社でデザイナーに。2012年WATER DESIGN入社。ビジネスデザインに携わる。2013年Tokyo Graphic Recorderとして活動開始。同年、Yahoo! JAPAN入社。データサイエンティストと協業して、UXデザイナーとしてアプリ開発に携わる。2017年 東京藝術大学美術研究科 情報設計室にて議論の可視化に関しての研究を行う。著書に『Graphic Recorder ―議論を可視化するグラフィックレコーディングの教科書』(BNN新社)がある。現在多摩美術大学情報デザイン学科 専任講師 /フリーランスで活動。IFVPメンバー - International Forum of Visual Practionars 趣味はスプラトゥーンとSUP。

金森香(かなもり かお)

Central Saint Martins Collage of Art and Design 批評芸術学科を卒業後、チンドン屋を経て出版社リトルモアに勤務。2001年にデザイナーの武内昭氏、中西妙佳と「シアタープロダクツ」を設立、広報、コミュニケーションにまつわる企画やマネジメント業務を担当。2010年、NPO法人「ドリフターズ・インターナショナル」理事に就任。2012年には、包装材料問屋シモジマの新業態「ラップル」のオープンに際し、クリエイティブディレクターを担当した。2018年よりロフトワークに参加。

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