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Sano ibukiが自分を主人公にしない理由。意志を物語に託して

Sano ibukiが自分を主人公にしない理由。意志を物語に託して

Sano ibuki『STORY TELLER』
インタビュー・テキスト・編集
矢島大地(CINRA.NET編集部)
撮影:ヤオタケシ、山﨑泰治
2019/11/18
2018年、突如『EMBLEM』で登場したシンガーソングライター、Sano ibuki。ファンクやR&Bを軸にしつつ、2000年代のギターロックを振り回して疾走したり、エグみのある低音の上で歌をバーストさせたり、異国感ある音色に乗せて祈りのようなコーラスを昇らせたりーー1曲1曲の中で旅をしているように、ここではないどこかを求めて音に飛び込んでいくように、自在に彩りを変えていく様が面白い。今世の中に出ている情報・写真を見ても、そのパーソナリティがはっきりと浮かび上がるものはない。個人としての表現であること以上に、その起点を見せないことで音楽が音楽として人へと届くことを望んでいるアーティストなのだと、温かくもどこか幻想的な音楽自体がそれを物語っている。

『STORY TELLER』と名付けられたデビューアルバム。そのタイトル通り、Sano ibukiが12人の主人公を細やかに描き、その物語の主題歌を作るようにして完成させた作品だ。美しいメロディをさらに飛ばし、自由に場面を変化させていくアレンジの妙。ソングライティングの幅広さと同時に感動するのは、異様な執念を感じるほどの細かな音の配置と選び方だ。物語の奥に潜む、主人公になれなかった人間たちの声。その代弁というよりも、日々を生きること自体を物語に転化させたいという執念がダダ漏れる。その歌はどう生まれたのか? ひとりの若者が自分の存在を立証するために物語を欲したのはなぜなのか? Sano ibukiとは何者でどこから来たストーリーテラーなのか、徹底的に解き明かすインタビューになった。

自分を消していくというか……僕自身を描くより、物語と主人公を作るほうが誰もが共感できるものになると思うんですよ。

―実質的なデビュー作だった『EMBLEM』の頃から、音色の使い方もメロディのバリエーションも曲ごとにバラバラで、すごくいい意味で変わった音楽家だなあという印象を持っていたんですけど。

Sano ibuki『EMBLEM』(2018)を聴く(Apple Musicはこちら

Sano:はい。

―それがこの『STORY TELLER』を聴いて腑に落ちたんですね。1曲1曲が物語であり、その都度異なる主人公を歌で描いているから、音楽のパレットにたくさんの色が必要な方なんだなと。

Sano:基本的に、「自分の音楽」を限定していないところがあって。メロディが浮かんだ時に、そのメロディにどんな音が合うか、どんな物語が生まれるか。それが大事なので、音楽っていう枠での縛りがないんですよね。たとえば“決戦前夜”という曲なら、<晴れた空の青さすらもう>っていう言葉とメロディが浮かんで、それをいつか使えないかなと思って取っておくんです。それが自分の書こうとした物語に合うと思ったらガチャンと合体させる感じなんです。

Sano ibuki(さの いぶき) 撮影:山﨑泰治<br>2017年、本格的なライブ活動を開始。自主制作音源『魔法』がTOWER RECORDS 新宿店バイヤーの耳に留まり同年12月に同店限定シングルとしてCD化(現在は販売終了)。2018年7月4日、初の全国流通盤となる1st Mini Album 『EMBLEM』を発売。2019年11月6日、構想約2年をかけてSanoが紡いだ空想の物語の主題歌たちを収録したデビューアルバム『STORY TELLER』をEMI Recordsより発売する。
Sano ibuki(さの いぶき) 撮影:山﨑泰治
2017年、本格的なライブ活動を開始。自主制作音源『魔法』がTOWER RECORDS 新宿店バイヤーの耳に留まり同年12月に同店限定シングルとしてCD化(現在は販売終了)。2018年7月4日、初の全国流通盤となる1st Mini Album 『EMBLEM』を発売。2019年11月6日、構想約2年をかけてSanoが紡いだ空想の物語の主題歌たちを収録したデビューアルバム『STORY TELLER』をEMI Recordsより発売する。

―資料では「原稿用紙に物語を書いてから、その物語の主題歌を作るようにして曲ができていく」と説明されているんですが。言葉が浮かんだところから物語を書いていくのは、音楽以前に好きなことだったんですか。

Sano:そうですね。地元は岐阜なんですけど、特に山奥の大田舎というわけでもなくて。生まれてからずっと生活の中に物語がある環境だったんです。それを自分でも作ってみたいと思ったのが最初だったと思います。映画、テレビゲーム、漫画、小説……なんでもあったんですよ。生まれ年に『ポケモン』が出て、『エヴァンゲリオン』が一世風靡しているのも見ていた世代で。日本ならではの物語が一気に生まれた時代に僕も多感な時期を過ごしたのは大きい気がします。

―いろんな物語がある中で、ご自身が感情移入するのはどういうポイントだったんですか。

Sano:特にディズニーの作品が好きで、たとえば『ピーターパン』だったら、「子供のまま大人になれない世界」っていう設定が面白かったし、よく考えたらその設定には怖さもあるじゃないですか。そういう興味が無限に湧いて、想像を広げるのが好きだったんです。何をするにもひとりなことが多かったというのも大きかったと思うんですけど。

撮影:山﨑泰治
撮影:山﨑泰治

―音楽にも、ひとりで楽しめるものとして出会ったんですか。

Sano:父親がマイケル・ジャクソンのファンで、家で流れている音楽として僕もマイケルが好きになったんです。それと同時に、スティーヴィー・ワンダーとかEarth, Wind & Fireも好きになって。そこから音楽にのめり込んだというよりは、小説を読むことや絵を描くことと並行して、親が聴いているブラックミュージックを聴くのが楽しかったんですね。それこそマイケルのMVは一つひとつが物語になっているのが面白くて。今思えば、そこで聴いていたファンクやR&Bが自分の音楽的な原風景になった気がします。

―実際、Sanoさんの楽曲もR&B、ファンク色が濃いものが多いですよね。それをギターロックや歌謡的なメロディに溶かして、自由な音色で鳴らされているところが面白いんですけど。ただ、「物語を書きたい」という話でいけば、ゲームクリエイターでも小説家でも漫画家でもよかったかもしれない。だけど今音楽をやっているのは、どうしてなんだと思います?

Sano:これは自分が最終的に何を届けたいかっていう話になるんですけど、僕は、自分の中の大事な「情景」を届けたいんです。それを届けるために、一番適してるのが音楽だと思っていて。

―大事な情景とはどういうもので、その中にはどんな成分があるんですか。

Sano:たとえば……地元の岐阜は空気が澄んでいて星が綺麗な場所だったんですね。それを見て自然と涙が出たこととか、田んぼ風景の綺麗さに鳥肌が立ったとか。ごく普通にあるようでも奇跡みたいに思える情景が身の回りにたくさんあったんです。そういう情景や綺麗さを余すことなく伝えられれば、「僕の中の情景」によって人の根源的な感情を震わせることができるんじゃないかと思って。そうやって考えると、音楽の中には、情景も歌も言葉も、全部があると思ったんですよね。

Sano ibuki<br>11月8日『Sano ibuki Premium Live “翠玉の街”』より
Sano ibuki
11月8日『Sano ibuki Premium Live “翠玉の街”』より

―聴き手ごとに無限の想像を広げられるのは、音楽の素晴らしさのひとつですよね。その上で面白いのは、自分の感動した情景を人に届けたいと思うのに、それを自分の歌としてではなく物語にされる部分なんですよ。そこにはどういう気持ちがあるんだと思います?

Sano:たとえば友達に「最近こんなことに感動した」って話すならいいですけど、世界中の人に届けたいと思ったら、自分の話をするだけじゃ何も面白くないものになる気がして。だから、その情景に心震えた瞬間を抽出して、自分を消していくというか……僕自身を描くより、物語と主人公を作るほうが誰もが共感できるものになると思うんです。

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リリース情報

Sano ibuki『STORY TELLER』
Sano ibuki
『STORY TELLER』

2019年11月6日(水)発売
価格:2,970円(税込)
UPCH-20533

1. WORLD PARADE
2. 決戦前夜
3. いつか
4. 革命的閃光弾
5. Kompas
6. 沙旅商(キャラバン)
7. いとし仔のワルツ
8. Letter
9. 滅亡と砂時計
10. Argonaut
11. マリアロード
12. 梟

プロフィール

Sano ibuki
Sano ibuki(さの いぶき)

2017年、本格的なライブ活動を開始。自主制作音源『魔法』がTOWER RECORDS 新宿店バイヤーの耳に留まり同年12月に同店限定シングルとしてCD化(現在は販売終了)。2018年7月4日、初の全国流通盤となる1st Mini Album『EMBLEM』を発売。2019年11月6日、構想約2年をかけてSanoが紡いだ空想の物語の主題歌たちを収録したデビューアルバム『STORY TELLER』をEMI Recordsより発売する。

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