VIDEOTAPEMUSICが語る「過去を知ると、未来も想像できる」

全ての夜は繋がっている。いつの時代、どこの国にも、そこには確かに民衆たちの夜がある。どんな悲しみの中にあっても、人々には笑い、愛し合い、踊り明かすことで越えてきた数多の夜がある。誰にも奪うことのできない愛と孤独が、そこにはある。もちろん、僕らにも。

音楽活動だけでなく、ceroや小島麻由美をはじめとした多岐にわたるアーティストのミュージックビデオ制作でも知られるVIDEOTAPEMUSIC(以下VIDEO)。VHSのサンプリング映像を使った奇抜なライブを行う彼だが、彼がサンプリングするのは映像だけではない。そこには人々の「営み」がある。盟友ceroの荒内佑、beipana、MC.sirafu、思い出野郎Aチームのメンバーなど、多数のゲストと共に作り上げたアルバム『世界各国の夜』では、様々な時代、様々な国に存在したダンスミュージックを採集することで、時空と国境を越えて存在する市井の人々の夜を、この2015年に繋いでみせた。

過去を知ることは、今もいずれ過去になると知ることでもある。でも、全ての夜は繋がっている。今、僕らが踊らなければ、僕らの子どもたちも踊れないのだ。さぁ、夜を生きよう。

映像の中でしか見ることのできない時代の風景ってあるんですよ。昔の映画で流れている音楽や、登場人物の服装とかから、現代では気づけない文化や人の気持ちが見えてくる。

―VIDEOさんの活動は、音楽も映像も、その全てが非常にコンセプチュアルなものだと感じます。今の形で活動を始められたきっかけは何だったんですか?

VIDEO:そもそもの話をすると、大学生の頃に宅録を始めようと思ったんですけど、お金がなくて機材が買えなかったんですよ。でも、音楽を作りたい欲求はある。そこで試行錯誤した結果、大学で映像をやっていて、ビデオカメラと映像編集ソフトは持っていたので、ビデオカメラで音を録音すればいいんじゃないかって思いついて。

―かなり力技ですね(笑)。

VIDEO:ミニDVテープ(ビデオカメラで録画するときに使用するテープ)に録音して、それをパソコンの映像編集ソフトに取り込んで音を切り貼りして、さらにそれをVHSに取り込んでマスターを作る、という制作方法を始めて。最初は、ビデオテープしか持っている記録メディアがなかったから、VIDEOTAPEMUSICって名乗り始めたんです。

VIDEOTAPEMUSIC
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―サンプリングされた映像とピアニカを使ったライブの手法も、その頃から始められていたんですか?

VIDEO:これに関しても偶然で。ライブをやりたいけど、当時はサンプラーもノートパソコンも持っていなかったんです。で、家にビデオデッキはあったから、ビデオテープで音と映像を再生しようと思いついて。それと、小学校の頃に使っていたピアニカが家にあったから、「ビデオデッキとピアニカならお金を使わずにできる」と思って、今の形でライブをやり始めました。

―VHSってもう生活の中で触れることはほぼないですけど、当時はまだ流通してました?

VIDEO:僕が活動を始めたのが2004~5年なんですけど、ちょうどレンタルビデオ屋がVHSからDVDに軒並み移行し始めた頃だったんですよ。DVD化されたVHSがものすごく安くなっていたり、ガレージセールでタダ同然で売られたりしていて、好きだった映画のVHSが大量に安く手に入ったんです。なので、これもたまたま、VHSが安く手に入った状況とビデオテープでライブをやり始めた自分の状況が重なった感じですね。

―本当に、最初は「それしかない」という状況から始まっているんですね。

VIDEO:そうですね。置かれた状況の中でやるにはどうしたらいいのかを考えて、工夫していったらこのスタイルになったんです。最初は1回のライブをやるために編み出した技だったんですけど、まさか10年も続くとは……っていう感じです(笑)。

―実際、途中で活動スタイルを変えることも可能だったと思うんですけど、どうしてビデオテープを使ったライブ活動を10年も続けてきたんだと思いますか?

VIDEO:「昔の映像をコラージュするということはどういうことなのか?」を自分なりに追求していくうちに、この方法に可能性を感じてきたからだと思います。やっぱり、映像の中でしか見ることのできない時代の風景ってあるんですよ。昔の映画の中で流れている音楽然り、登場人物の服装然り、そういうものを見ることで、現代に生きていたら気づけない文化や人の気持ちが見えてくる。それが、この手法の面白さだと思いますね。

過去を見ないと納得できないというか、今の自分の気持ちだけで作っていると、本当に個人的な表現になりかねないと思うんですよ。

―過去のものに愛着を抱く感覚は、小さい頃からあったのでしょうか?

VIDEO:古いものが好きな子どもではありましたね。ニュータウンみたいな街並みより、路地裏にあるスナックの何とも言えない色の看板とか、いつの時代からあるのかわらない自動販売機がある街並みが好きでした。あと、祖父が旅行に行ったり、写真を撮るのが好きな人だったので、家に古い写真とか絵葉書がいっぱいあって。それを見るのも好きでしたね。

―そういったものに愛着が湧くのはなぜでしょう?

VIDEO:ノスタルジーを追い求めるというよりは、そういったものに触れることによって、今現在がどういう時間や歴史の流れの上に成り立っているのかを感じられるのが好きなんだと思います。それに、どういう歴史の上に「今」があるかを知ると、この先どうなっていくのかも想像できると思うんです。

―過ぎ去ったものを称えるだけでなく、あくまでも「今」を捉えることが重要ということですね。

VIDEO:そうですね。過去と自分は切り離されているように思えるけど、古い映画で流れている音楽を真剣に聴いたりすると、ちゃんと地続きなんだって実感できる。ものを作る立場としても、過去を見ないと納得できないというか、今の自分の気持ちだけで作っていると、本当に個人的な表現になってしまいそうで。もちろん、個人的な表現でもいいとは思うんですけど、この手法でやっている以上は、自分が今の世界や時代の縦軸と横軸の中のどこに立っているのかを自覚した上で表現をしたいんですよね。

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―歴史性を縦軸、地域性を横軸とするなら、インターネットが発達して以降、全ての軸は並列になったと言われたりもするじゃないですか。でもVIDEOさんのアプローチは、そこと対極にありますね。

VIDEO:そうですね。そもそも僕は、過去は並列にならないと思っているので。そこには積み重ねがあり、移り変わりがある。その中にはもちろん、戦争もあったかもしれないし、災害や社会的な事件があったかもしれない。過去の全てがインターネットで並列になってしまうと、そういう積み重ねや移り変わりの部分が無視されてしまう気がして。もちろん人の自由だとは思いますけど、僕は、縦軸もしっかり踏まえないと腑に落ちないんですよね。

―VIDEOさんは、去年の2月に伊東温泉のハトヤホテルで開催された『ライヴ・イン・ハトヤ2014』(「ハトヤホテルでライブをやったらどうなるか」をコンセプトにしたアルバム『ライヴ・イン・ハトヤ』が、赤塚不二夫やタモリらによって1978年に発売されている)を主催されていますよね。このイベントの開催にも、同じような原動力があったんですか?

VIDEO:ハトヤも、テレビCMとか文献の中だけで見ると、点でしかない。僕も最初は「昭和の遺産だろう」という認識しかなかったんですけど、実際に行ってみれば存在しているし、ずっとそこで働いている人もいれば、その周りに住み続けている人もいるんですよね。実際のハトヤを見ることで、点でしか捉えられていなかったものが、ちゃんと過去から今まで地続きに存在しているものだって理解できて。

―実際に触れることで見えた「歴史」と「今」があるんですね。

VIDEO:自分が体験できない外の世界にあるものを、僕は「エキゾなもの」と言っているんですけど、取っ掛かりとしてはそれを単純に未知のものとして楽しむ気持ちがあって、でもさらにそれに実際に触れることで過去の解像度がグッと上がった。そうすると曲のアイデアができたり、自分の中の作品の強度が上がったりするんですよね。実際、『ライヴ・イン・ハトヤ2014』はすごく面白かったです。

僕がやっていることは現実逃避的な表現と受け取られがちだけど、そういうつもりはない。

―今作のタイトルは『世界各国の夜』で、まさにいろんな国のいろんな時代の夜の風景が描かれています。VIDEOさんの話を聞いていると、それは決して「現実逃避」のためではなく、あくまで「今」を捉えるために描いている、と言えそうですね。

VIDEO:確かに、僕がやっていることは現実逃避的な表現と受け取られがちだけど、そういうつもりはなくて。前作『7泊8日』は、高城くん(ceroのメンバーである高城晶平)とやけさん(やけのはら)が参加してくれた“Blow in the Wind”という最後の曲の歌詞が、ちゃんと現実に根づいたものだったんですよね。あの曲があったおかげで、アルバム全体が現実に根づいたものにできたと思っているんです。

―『世界各国の夜』にも、ラスト前、12曲目に“Royal Host(Boxseat)”という曲がありますよね。ロイヤルホストって、あのファミレスのことですよね? VIDEOさんにとっての日常的な景色を描くことで、このアルバムも現実に着地させているということでしょうか。

VIDEO:そうですね。やっぱり“Royal Host”はその役割を果たしているのかなと思います。これは歌詞のない曲だし、どこまで伝わるかはわからないですけど、落としどころとして、2015年に生きている自分にとっての愛おしい夜についても描こうと考えてできた曲です。音楽を通して香港に行ったりワイキキに行ったり、いろんな時代に行ったりしているけれど、片足はちゃんと2015年に着いていますよっていう。

―いろんな土地の名前が出ましたが、『世界各国の夜』というタイトルが示すように、今作は縦軸と同じくらい横軸の広がりも意識されていますよね。多国籍、多ジャンルの音を消化したサウンドになっています。

VIDEO:そうですね。でも、それはワールドミュージックを鳴らしていることを指しているのではなくて、過去に存在した「いろいろな人のいろいろな夜」という意味合いが大きいです。実は時間もそこまで限定するつもりではなくて、「夜」というのは「それぞれの大事な時間」という解釈で。あと、今回はダンスミュージックを広い解釈で考えたいっていう気持ちがありました。

「この音楽を聴いて踊れ!」という意味ではなくて、この音楽を聴いていろんなコミュニケーションが生まれるといいなと思う。

―「ダンスミュージック」の解釈を広げようとしたのは、どうしてですか?

VIDEO:クラブで演奏する機会も増えたことで、踊る、踊らせるというコミュニケーションを意識するようになったんです。もちろん、コミュニケーションを取ることではなく、自分を追求することが目的の音楽も僕は好きなんですけど、お客さんが踊ってくれると、ちゃんとコミュニケーションが生まれていることが感じられる。だから結果的にダンスミュージックにしたいと思ったんですよね。でも、VHSをサンプリングしているくらいだし、僕は最先端のダンスミュージックを作れるような手法でも性格でもない。だけど、所謂「クラブミュージック」が生まれる以前にも、人々が踊るための音楽っていうのは存在していて。

―ポップスのジャンルとしてのダンスミュージックより、もっと土着的な、フォークロアとしてのダンスミュージックということですよね。

VIDEO:そう。たとえば、昔のアメリカ人はジャズやカントリーで踊っていたと思うし、自分の祖父母の世代にとっては、ラテン音楽がダンスミュージックだったのかもしれない、とか。そうやってダンスミュージックを、縦軸と横軸から広く深く掘り下げようとしたんです。

―そうやって広く深く掘ることで、クラブで目の前にいる人たちを踊らせるといったコミュニケーションの形だけでなく、もっと広い意味でのコミュニケーションを生むことを目指していると言えますか?

VIDEO:むしろ、そっちの意味の方が強いかもしれない。実際に「この音楽を聴いて踊れ!」という意味ではなくて、この音楽を聴いて「昔の人はこんな音楽で踊っていたんだ」って想像して誰かと話したり、実際に自分のお祖父ちゃんお祖母ちゃんたちに聴かせて「昔の音楽を思い出すね」って会話をしたり、そういうコミュニケーションが生まれるといいなと思いますね。

VIDEOTAPEMUSIC

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過去を見つめることは絶対に後ろ向きではない。むしろ、今しか見ないほうが後ろ向きな気がする。

―今作でダンスミュージックを意識されたことは象徴的だと思うんですけど、VIDEOさんの表現は、逃避的ではないとはいえ、あえて人々の幸福な瞬間を切り取ってサンプリングしているように思うんです。戦争や災害のような、痛みや悲しみの記憶は意識的に切り離しているのでしょうか?

VIDEO:いや、そこは切り離していないと考えていて。ただ楽しいだけの音楽をやっているつもりもないかな。むしろ、忌まわしい記憶があったとしても、その裏には楽しいこともあっただろうという視点だと思います。今の時代にも嫌なことがいっぱいあるけど、友達と遊んでいて楽しい夜があるし、1人でロイヤルホストにいて心が安らぐ夜もある。昔の人もそれと一緒で、嫌なことがたくさんあった過去にも、歴史には残っていない個人の楽しい夜は存在していただろうと思うんです。

―戦争や災害という大きな事象があったとしても、その裏に確かに存在した市井の人々の営みをすくい上げている、という感覚ですね。

VIDEO:戦争っていうと大げさかもしれないけど、それこそ“Hong Kong Night View”で歌ってくれた山田参助さん(音楽ユニット「泊」のメンバーであり、漫画家・イラストレーターとしても活動)が描いている『あれよ星屑』という漫画を読むと、そこに描かれているのは第二次世界大戦中の日本の姿で、決して楽しいだけの記憶だけではない、エグい話もたくさんあるんですよね。でも、生きている人は今と一緒で、いろんな感情を持って生きている。いろんな人がいて、いろんな感情を持っていた……そういう当たり前のことを自分も表現しているんだと思います。

―もしかしたら、当たり前のことすぎて、歴史の渦の中で忘れ去れてしまう部分なのかもしれないですね。

VIDEO:そうですね。でも、それって教科書の中には載っていなくても、音楽や映画を通して理解できたり、想像できたりすることだと思うんです。実際に僕自身がいろんな音楽や映画を通して、そういうことを想像してきたから。その経験を、この作品にフィードバックさせることができていたらいいなと思いますね。誰にも知られない喜びは、それぞれの人にある。それを想像すること自体が、すごくいいなって思うんですよ。そうすることで、全然相容れない他者に対しても、想像力が湧いたりするだろうし。

―今日、お話を聞いていて改めて思うんですけど、過去を振り返ることって、忌まわしい記憶はそれを繰り返さないための戒めとして、幸福な記憶はより幸福を目指すための理想として、絶対に必要なことなんですね。

VIDEO:僕は、過去を見つめることは絶対に後ろ向きではないと思っていて。むしろ、今しか見ないほうが後ろ向きな気がする。ちゃんと過去のことも俯瞰しないと、先のことをイメージできないと思うんですよ。僕が作る音楽や映像に関しても、過去のものを僕がフックアップしているというより、過去の力を借りて僕が表現を先に進ませている感覚があって。常に僕は、過去に力をもらっているんだと思います。

リリース情報
VIDEOTAPEMUSIC
『世界各国の夜』(CD)

2015年9月30日(水)発売
価格:2,500円(税込)
DDCK-1044

1. 世界各国の夜
2. Speak Low
3. Hong Kong Night View feat.山田参助(泊)
4. ミスハトヤ
5. Lost Honeymoon
6. August Mood
7. 東京狼少女 -Tokyo Luv Story- feat.LUVRAW
8. Waikiki Sweet Heart
9. 棕櫚の庭
10. Enter The Kung-Fu Mambo
11. Kung-Fu Mambo
12. Royal Host(Boxseat)
13. チャイナブルー新館

イベント情報
『“世界各国の夜” 発売記念パーティー ~2015年、渋谷~』

2015年10月24日(土)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:東京都 渋谷WWW
出演:
VIDEOTAPEMUSIC
思い出野郎Aチーム
エマーソン北村&TUCKER
DJ:コンピューマ

プロフィール
VIDEOTAPEMUSIC (びでおてーぷみゅーじっく)

地方都市のリサイクルショップや閉店したレンタルビデオショップなどで収集したVHS、実家の片隅に忘れられたホームビデオなど、古今東西さまざまなビデオテープをサンプリングして映像と音楽を同時に制作している。VHSの映像とピアニカを使ってライブをするほか、MV制作、VJ、DJ、イベントのオーガナイズなど活動は様々。MVでは盟友ceroを始め小島麻由美、NRQ、Hi,how are you?などジャンルレスに手がける。ほかにもモデル、女優の菊池亜希子のムック本「マッシュ」のCM映像、楽曲も製作。ライブにおいては、クラブシーンからインディペンデントシーンまで幅広く活動。ダンスミュージックとしての下地にポップでメロウなメロディが絶妙であり、映像のセンスふくめ卓越しており、シーンの中でもずば抜けており、今作のリリースが待ち望まれていた素敵な男が「VIDEOTAPEMUSIC」である。



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