バンドマンの息子、親父と話す

どんなに偉大な政治家も、哲学者も、スポーツ選手も、そしてミュージシャンも、誰もが人の子であり、そこには人間としてのルーツがある。「わたなべだいすけという人間を掘り下げる」をテーマに、D.W.ニコルズが昨年の10月から毎週木曜日にUstreamで生放送していた『DWのUST』、最終回のゲストはなんとわたなべの実の父親である渡部哲也さん。実家の葉山でビール片手に交わされた父子の会話は、初めこそややぎこちなかったものの、徐々に話が弾みだし、結果的には温かみのある素のやりとりを、多くの人が楽しんだのではないだろうか。CINRAではこれまで初回のわたなべだいすけソロインタビュー、1月20日放送の写真家・平間至とわたなべの対談を記事にしてお届けしてきたが、最終回である今回は、父子の会話を手がかりに、わたなべの人間性を改めて検証してみた。

アナログレコード、フィルムのカメラ…「もの」に対するこだわりのルーツ

1月にリリースされたD.W.ニコルズの『ニューレコード』は、デジタル全盛の時代に、アナログでのレコーディングを敢行した意欲作である。その背景には、フィルムでの撮影にこだわる写真家・平間至との対談でも語られていた通り、「古き良き」を見つめ直すことにより、改めて新しいものを創造していこうとする強い意志が感じられる。それを考えれば、今回の「実家で実の父親と語り合う」という大胆な企画も、ちゃんと今のニコルズのモードに即した企画であることがわかってもらえるだろう。

とはいえ、かなりひさびさだという父と子の2人きりの会話。放送が始まってすぐは、他愛もない話から始まった。

バンドマンの息子、親父と話す
左:渡部哲也、右:わたなべだいすけ

「親父と俺は手が似てるんだよね。2人ともでかいし、肉厚な感じがよく似てる。結構特徴的だから、「五平餅みたい」ってよく言われたよ」(だいすけ)

「そうか、俺は全部の指が親指みたいだってよく言われたなぁ」(哲也)

「小指が女の人の人差し指ぐらいだもんね(笑)。そういえば、親父って今いくつなんだっけ?」(だいすけ)

「今?67歳」(哲也)

「俺今30歳でしょ? 30歳の頃は何してたの?」(だいすけ)

「会社の中でいろんなことをやらせてもらえるようになって、一番楽しい時期じゃなかったかなぁ。大学出てすぐ就職したから、8年目とかでさ」(哲也)

わたなべだいすけの父、哲也さんの経歴を、2人の会話から拾って簡単に紹介すると、現在67歳の哲也さんは、静岡県の沼津市で生まれるも、国鉄に勤務していた父の転勤に伴って各地を転々とし、父の退職後、現在の葉山に落ち着いたのだという。大学卒業後は、発電所から電気を家庭に送るためのケーブルの付属品を作る会社に就職し、28歳で「一方的に好きになった」という奥さんと結婚。だいすけは現在30歳なので、すでにその年齢を過ぎているというわけだ。しかし、結婚からだいすけが生まれるまでには9年を要し、哲也さんが37歳のときに、だいすけは帝王切開で生まれたそうで、その喜びはひとしおだったという。

「お前さんがちっちゃい頃はよく一緒に遊びに行ったよなぁ。夏になると近くの渓谷に行ってサワガニ採ったり」(哲也)

「川にはよく行ったよね。バーベキューしたりとか。水は嫌いだったけど(笑)。あと親父はいろんなものを手作りで作ってくれたよね? 二段ベッドとか、あとバスケットのゴールとか」(だいすけ)

「手先の器用さはお前さんにも引き継がれてるんだろうなぁ」(哲也)

「ちっちゃいミニ四駆作ってくれたの覚えてる? 普通は車体に穴を開けて軽量化するんだけど、親父は車体の真ん中をそっくり抜き取って、小学生は使わないはんだで前後をくっつけてさ。それ学校に持って行ったら、みんな超びびってたよ(笑)」(だいすけ)

「へ〜、そうかあ…それは覚えてなかったなぁ」(哲也)

アナログのレコードや、フィルムのカメラといった「もの」へのこだわりは、技術系の仕事に就いていた父親のもの作りへのこだわりが、しっかりと息子へと受け継がれていることの証明なのかもしれない。

2/3ページ:何かやろうかなって思うと考えちゃって、考えてる間に時間が過ぎてっちゃう。

何かやろうかなって思うと考えちゃって、考えてる間に時間が過ぎてっちゃう。

もちろん、父と子には共通点もあれば、相違点もある。共通点のひとつは前述のように手の形、また、視聴者からは、「2人のしゃべり方が似てる」という声も寄せられていた。さらには、ニコルズのツアーの話から発展したこんな共通点も。

「ところで、お前さんは方向音痴じゃなかったっけ?」(哲也)

「そうだよ」(だいすけ)

「それにも関わらず、よく車で移動してるなぁ」(哲也)

バンドマンの息子、親父と話す

「ナビがついてるから、なかったら無理かな。変なんだけど、歩いてて迷うじゃない? 「あ、こっちの方向多分間違ってる」って思っても、戻るのが嫌なのね。ある程度のところまで行って、完全に間違ったなと思ったら、誰かに連絡して聞くの。迷ったと思ったときに、戻ればいいんだけどさ」(だいすけ)

「振り出しに戻れって言うよね」(哲也)

「それができない」(だいすけ)

「それは似てるなぁ。道に迷ったなって思われるのが嫌なんだよ(笑)。それで、わざわざ先まで行っちゃうんだ」(哲也)

そんな共に頑固な2人の相違点はというと、まずはギターの腕前。哲也さんは“禁じられた遊び”(ギター初心者の練習曲の定番)こそ弾けるようになったものの、その後は上達せずにあきらめてしまったそう。一方のだいすけはご存知の通り、プロのミュージシャンとなったわけだが、哲也さんの買ってくれたフォークギターの弦高が高く、それをがんばって押さえることで、上達することができたのだと語っている。また、哲也さんは自分とだいすけの相違点をこんな風にも言う。

「(だいすけにも)これまでいろいろ苦労があったんだろうけど、感心したのは、人に言われた何かをやるんじゃなくて、自分でやろうと思ったことを必ず実行してきたように思うんだよ。親父のダメなところはその辺で、何かやろうかなって思うと考えちゃって、考えてる間に時間が過ぎてっちゃう。だいすけの場合はそうじゃなくて、やろうと思ったことをちゃんと実行してきた。それは感心して見てたんだよ。口には出さなかったけど(笑)」(哲也)

以前、ソロのインタビューでも話していた通り、だいすけは「CDを出したい」「メジャーデビューしたい」と口に出して伝えることで、実際にその目標を達成してきた。「人に言われたことをやるんじゃなくて、自分がやりたいことをやる」というのはとても簡単なようで、結局はそれができるかできないかで、その人の人生は大きく変わるのだろう。哲也さんは謙遜して「自分はそれができない」と話していたが、次のちょっとしたエピソードからは、「自分のやりたいことをやる」ということも、やっぱり父親譲りなのではないかと思えてくる。

「自慢できるのは、だいすけの曲がコンビニとかでかかったときだよ」(哲也)

「母ちゃんはガソリンスタンドでガソリン入れてるときにかかってたらしくて、ガソリンスタンドの兄ちゃんに「これうちの息子」ってのど元まで出かかったけど、我慢したって」(だいすけ)

「俺店員さんに言っちゃった(笑)。葉山のコンビニだから、びっくりしてたよ」(哲也)

2/3ページ:大切なのは、自分の心の中に「誰か」がいること

大切なのは、自分の心の中に「誰か」がいること

ぎこちなく始まった父子の会話も、徐々にそのペースを取り戻し、そのうち「この会話が生放送されてることを忘れてるんじゃない?」というぐらい、2人の話は熱を帯びていった。そういえば、スタート当初は「お前さん」と、ややよそよそしくだいすけのことを呼んでいた哲也さんは、いつのまにか普段通りに「だいすけ」と呼んでいる。

そんな父から子へ、最も受け継がれていることは、「コミュニケーションの重要性」だった。仕事の関係で、外国の方と接する機会が多かったという哲也さんは、外国語を習得し、コミュニケーションを取ることが、いかに重要だったかを熱心に語ってくれた。

「実際に話してみないと、意外と親父のことって知らないもんだよね」(だいすけ)

「家庭の会話っていうのはもちろん大事だし、家庭だけじゃなく、いろんな人としゃべるっていうのは、日々新しいものと接することができるということだから、すごく大事だよ。仕事でも、現地の言葉で多少でも挨拶ができるだけで、相手との距離がものすごく近くなるしね」(哲也)

「こっちが日本語しかしゃべらなかったら、「この人はこっちに理解を示す気がないんだ」って思われちゃう。挨拶することで、「あなたの国の言葉を知りたい」っていう気持ちが伝わるもんね」(だいすけ)

「急に親近感が沸いて、近づくことができて、どこの国に行ってもみなさんよくしてくれたし、仕事の面でもたくさん手助けしてもらったな。今でも海外の知人からメールが届くし、電話もするしね。それは今のだいすけも一緒だよ。いろんな人に助けられながら、いろんなことを学べるっていうのはいいよね」(哲也)

「1人でやってても楽しくないもんね。歌を作るようになったのだってさ、誰かに聴いてほしくて作ったわけだし、誰かの前で歌いたいからやったわけで」(だいすけ)

「それが大事なんだろうな。自分だけじゃなく、誰かに、その誰かは誰でもいいんだ。とにかく自分の心の中に、「誰か」っていうのがありさえすれば、それでいいんだよ」(哲也)

バンドマンの息子、親父と話す

「誰か」がありさえすればそれでいい。そう、人との出会い・コミュニケーションは、音楽にとっての、さらに言えばアート全般の目的だと言っても過言ではない。それを小さい頃から、父を通して間接的に学んできただいすけが、ミュージシャンとして各地を周り、たくさんの人に歌を届けているというのは、必然とすら言ってもいいのかもしれない。そんなことを考えているうちに、放送時間は残りわずか。ビールの残りも、あと少し。


「お酒を飲める年になって早10年か…」(だいすけ)

「にもかかわらず、こうしてじっくり飲んだことはなかったからな」(哲也)

「世の中の大半の父親と息子がそうな気はするけど。稀にいるじゃない? すごい仲のいい親子。でも大体家族って照れくさいし、そんなに頻繁に会ってもね」(だいすけ)

「そういうもんだよ。べったりしてもしょうがないし、遠くから眺めてて、何かあったときに支えてあげられるのが親だろうしね。べったりしてああでもないこうでもないって言ってたら、育つものも育たない。今のところは、ちゃんと育ってくれてるかな」(哲也)

『ニューレコード』には“あの街この街”という曲が収録されている。かつて暮らしていた「あの街」と、今住んでいる「この街」への思いが歌われたこの曲が、わたなべだいすけの葉山への思いを歌った曲であると想像するのは難しいことではない。しかし、この曲で重要なのは、「わたし」という女性の1人称を使うことで、わたなべ個人の歌に留まらず、誰しもが共感を寄せることのできる歌に仕上げられていることだ。そう、わたなべは「誰か」の歌になることの重要性、音楽がコミュニケーションであることを、しっかりと理解している。「わたなべだいすけの人間性を掘り下げる」をテーマに放送されてきた『DWのUST』でわかったことも、かつてソロ活動でもがいてきたからこその、わたなべの強いコミュニケーション欲求に他ならない。さあ、今度はUSTREAMではなく、直接彼の歌を聴きに行ってみてはどうだろうか?

リリース情報
D.W.ニコルズ
『ニューレコード』

2011年1月26日発売
価格:2,500円(税込)
AVCH-78026

1. バンドマンのうた
2. あの街この街
3. 一秒でもはやく
4. チャールストンのグッドライフ
5. 大船
6. 風の駅
7. HAVE A NICE DAY!
8. 2つの言葉
9. レム
10. Ah!Ah!Ah!

D.W.ニコルズ
『ニューレコード』DVD付きパッケージ

2011年1月26日発売
価格:3,000円(税込)
AVCH-78025/B

[DVD収録内容]
・一秒でもはやく
・あの街この街
・『ONENNIVERSARY TOUR ~あらためまして、こんにちは。~』@渋谷CLUB QUATTROライブ映像
・ 特典映像

イベント情報
2ndALBUM『ニューレコード』発売記念
『最新記録ツアー2011』

2011年5月5日(木・祝)
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO

プロフィール
D.W.ニコルズ

2005年9月わたなべだいすけ(Vo&Ag)、千葉真奈美(Ba&Cho)が中心となり結成。2007年3月 鈴木健太(Eg&Cho)、岡田梨沙(Drs&Cho)が加わり、現在の4人編成に。一瞬聞き返してしまいそうな…聞いた事がある様な…。バンド名は、「自然を愛する」という理由から、D.W.=“だいすけわたなべ”が命名(C.W.ニコル氏公認)。09年9月9日に『マイライフストーリー』でメジャーデビュー、2011年1月26日にアルバム『ニューレコード』を発表。



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