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浦沢直樹がボブ・ディランに学んだ作家精神。理想の描線を求めて

浦沢直樹がボブ・ディランに学んだ作家精神。理想の描線を求めて

ボブ・ディラン『Rough And Rowdy Ways』
インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:佐藤祐紀 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

去る6月19日、39作品目となるスタジオアルバム『Rough and Rowdy Ways』をリリースした、ボブ・ディラン。8年ぶりのオリジナル楽曲として3月に唐突に配信リリースされた“最も卑劣な殺人(原題:Murder Most Foul)”が、16分54秒というディラン史上最長となる曲の長さ、1963年のジョン・F・ケネディ暗殺にはじまり、当時の出来事や様々なアーティスト、作品の固有名詞を入れ込んだ歌詞が話題を呼び、ディラン初のビルボードシングルチャート1位獲得曲となったが、『Rough and Rowdy Ways』は、“最も卑劣な殺人”以降高まっていた期待を裏切らない、2020年代に産み落とされたディランの新たな傑作として、今現在、大きな評価を得ている。

1962年のデビュー以来、様々な名作と迷作、伝説と憶測によって語り継がれてきたボブ・ディラン。公式の発掘音楽シリーズ「ブートレッグ・シリーズ」含む膨大な音源資料や、いくつかの濃密なドキュメンタリー作品の存在など、2020年現在、ディランの表現や伝説に触れる手段は充実している。が、「しかし」……というか、「やはり」というか、手を伸ばせば伸ばすほどに、触れれば触れるほどに、掴みどころがなくなっていくのが、ボブ・ディランという男でもある。

この記事では、そんなボブ・ディランの語り部として、漫画家の浦沢直樹を招いた。巨人に巨人を語っていただこうという、とんでもなく贅沢な企画である。『YAWARA!』『MASTERキートン』(脚本:浦沢直樹、勝鹿北星、長崎尚志)『MONSTER』『20世紀少年』『PLUTO』(浦沢直樹×手塚治虫 / プロデュース:長崎尚志 / 監修:手塚眞 / 協力:手塚プロダクション)『BILLY BAT』(ストーリー共同制作:長崎尚志)……数多の長大な作品群によって1980年代以降の日本の漫画界を担ってきた浦沢は、和久井光司と共著『ディランを語ろう』(2007年、小学館)を刊行しているほか、『佐野元春×浦沢直樹 ~僕らの“ボブ・ディラン”を探して~』(2014年、NHK Eテレ)出演、さらに自身のイベント『ボブ・ディラン 聴いて歌って描きまくる』(2016年)の開催など、大のボブ・ディラン好きとしても知られている。

浦沢作品に刻まれている、時代の変わり目に零れ落ちるものを拾い上げるような感覚、人類の根源から変わらないものを捉えようとする感覚は、ボブ・ディランから譲り受けたものなのかもしれない。このインタビューでは、浦沢にボブ・ディランとの出会いから新作について、さらに、ディランを通すことで見えてくる浦沢の漫画家としての人生の在り様を、じっくりと語ってもらった。

浦沢直樹(うらさわ なおき)<br>漫画家。1960年1月2日生まれ、東京都府中市出身。1983年『BETA!!』でデビュー。代表作に『YAWARA!』『MONSTER』『HAPPY!』『20世紀少年』(すべて小学館刊)など。ルーブル美術館との共同制作作品『夢印』(全1巻、小学館刊)を執筆後、2018年9月より本格連載『あさドラ!』を「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)にてスタートさせた。これまでに小学館漫画賞を三度受賞したほか、国内外での受賞歴多数。国内累計発行部数は1億2800万部を超え、昨年まで世界各地で個展を巡回。ミュージシャンとしても精力的に活動しており、これまでに2枚のアルバムを発表している。
浦沢直樹(うらさわ なおき)
漫画家。1960年1月2日生まれ、東京都府中市出身。1983年『BETA!!』でデビュー。代表作に『YAWARA!』『MONSTER』『HAPPY!』『20世紀少年』(すべて小学館刊)など。ルーブル美術館との共同制作作品『夢印』(全1巻、小学館刊)を執筆後、2018年9月より本格連載『あさドラ!』を「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)にてスタートさせた。これまでに小学館漫画賞を三度受賞したほか、国内外での受賞歴多数。国内累計発行部数は1億2800万部を超え、昨年まで世界各地で個展を巡回。ミュージシャンとしても精力的に活動しており、これまでに2枚のアルバムを発表している。

「またしても、僕はボブ・ディランに救われた」――浦沢直樹、コロナ禍中に配信された“最も卑劣な殺人”を語る

―今日はボブ・ディランの大ファンである浦沢さんに、ディランについてじっくり語っていただこうと思います。先日リリースされた新作『Rough and Rowdy Ways』はいかがでしたか?

浦沢:ヘビーローテーションで聴いていますよ。まず、“最も卑劣な殺人(原題:Murder Most Foul)”が、東京で非常事態宣言が出るか出ないかっていう時期に配信されたでしょう。あのとき、「またしても、僕はボブ・ディランに救われた」と思いました。

“Murder Most Foul”を収録したボブ・ディラン『Rough and Rowdy Ways』聴く(Apple Musicはこちら / Spotifyはこちら
※映像画面右下の設定ボタンより日本語字幕のON / OFFが可能

浦沢:あの暗鬱な空気のなかであの曲を聴いたときに、肩に力が入ってヒリついた感じが、ふわっと抜けたんですよね。「なあんだ、このぐらいの身構え方でいいのかもしれないな」って。無意識のうちに防御本能でこわばっていたのが緩むのを実感しました。「まあ、なるようになるさ」っていう感覚。あのゆる~いメロディラインが、16分くらいの長い時間続くのを聴き、我々人類の危機なんて今にはじまったことじゃないもんな。それを何度も乗り越えてきたもんなぁと思い、気持ちが緩んでいったんでしょうね。

―“最も卑劣な殺人”は、約16分54秒という長尺と、1960年代の様々な出来事やアーティスト、作品の名前が出てくる歌詞も話題になりましたね。

浦沢:“最も卑劣な殺人”の歌詞は、1963年11月のケネディ大統領暗殺からはじまるけれど、実際にあの事件が起こったあと、ディランはダラスに行って、ケネディが暗殺されたのと同じコースを友達と一緒に車で回ったんですよね。そして、それ以降、プロテストソングを歌うのをやめた。なぜなら、「次は自分が殺されるんじゃないか」と思ったからではないかと。

同年の「ワシントン大行進」においても(1963年8月28日、アメリカ合衆国のワシントンD.C.で行われた人種差別撤廃を求めるデモ。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアが「I Have a Dream」を含む演説を行ったことでも知られる)彼は“風に吹かれて(原題:Blowin' in the Wind)”を歌っていたし、そのぐらい当時の公民権運動で先頭を走っていた。

“Blowin' in the Wind”が収録されたボブ・ディラン『The Freewheelin' Bob Dylan』(1963年)を聴く(Apple Musicはこちら / Spotifyはこちら

浦沢:たぶんその頃の経験が、この“最も卑劣な殺人”にも込められているんですよね。ケネディやキング牧師のように、みんなのために立ち上がった人たちが、理不尽な死を被るような状況を目の当たりにして、「なんて世界だ」と思った。

『時代は変る(原題:The Times They Are a-Changin)』は、1963年11月22日に起こったジョン・F・ケネディ暗殺の直前、1963年8月から10月にかけてレコーディングされ、1964年1月にリリースされた。プロテストフォークの担い手として、ディランは時代のヒーローに祭り上げられた(Apple Musicはこちら

浦沢:そのことを今でも言っているし、今も同じような時代だと、ディランは思っているんじゃないかな。そして、あのときの自分の気持ちを癒してくれた音楽の存在を語っているわけですよね、この曲では。

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リリース情報

ボブ・ディラン『ラフ&ロウディ・ウェイズ』日本盤
ボブ・ディラン
『ラフ&ロウディ・ウェイズ』日本盤(2CD)

2020年7月8日(水)発売
価格:3,300円(税込)
SICP-6341/2

[CD1]
1. アイ・コンテイン・マルチチュード
2. 偽預言者
3. マイ・オウン・ヴァージョン・オブ・ユー
4. あなたに我が身を
5. ブラック・ライダー
6. グッバイ・ジミー・リード
7. マザー・オブ・ミューズ
8. クロッシング・ザ・ルビコン
9. キーウェスト(フィロソファー・パイレート)
[CD2]
1. 最も卑劣な殺人

作品情報

『あさドラ!』(3)

2020年2月28日(金)発売
著者:浦沢直樹
価格:770円(税込)
発行:小学館

『あさドラ!』(4)

2020年8月28日(金)発売
著者:浦沢直樹
価格:770円(税込)
発行:小学館

プロフィール

浦沢直樹(うらさわ なおき)

漫画家。1960年1月2日生まれ、東京都府中市出身。1983年『BETA!!』でデビュー。代表作に『YAWARA!』『MONSTER』『Happy!』『20世紀少年』(すべて小学館刊)など。ルーブル美術館との共同制作作品『夢印』(全1巻、小学館刊)を執筆後、2018年9月より本格連載『あさドラ!』を「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)にてスタートさせた。これまでに小学館漫画賞を三度受賞したほか、国内外での受賞歴多数。国内累計発行部数は1億2800万部を超え、昨年まで世界各地で個展を巡回。ミュージシャンとしても精力的に活動しており、これまでに2枚のアルバムを発表している。

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