サ上とロ吉、泣き笑いの20年 パイセン・YSIGサイトウと振り返る

今年活動20周年を迎えたサイプレス上野とロベルト吉野。通称「サ上とロ吉」。どんな観客でも絶対に沸かせるエンターテイメント性の高い1MC&1DJスタイルのライブと、コミカルからシリアスまで幅広いグラデーションを持った楽曲で、ヒップホップシーンのなかでも大看板として、そしてポップシーンでもその注目度をしっかりと高めている。またサ上はラジオパーソナリティやTVの司会、そして作詞や楽曲提供なども手がけ、音楽シーンには欠かせない存在となっている。

その彼らの20周年記念盤となる『サ上とロ吉と』は、ももいろクローバーZや碧棺左馬刻(from『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』)、奇妙礼太郎、マキタスポーツ、YOUR SONG IS GOOD、SKY-HIらに加え、レゲエシーンを代表するMIGHTY CROWNよりSAMI-Tと地元横浜の歌姫・AISHAが参加した“YOKOHAMA SKYWALKER feat. SAMI-T from Mighty Crown、AISHA”の制作など、サ上とロ吉の活動の幅の広さと多方面からのプロップスを感じる人選が印象的なコラボ盤として完成。そして「横浜のハズレモン」だった彼らが「ハマのホームランバッター」と言い切るまでに至る、沸々とした自信と確かな自覚を内外に示した一作だ。

CINRA.NETでは、“Let’s Go 遊ぼうZE 2 feat. YOUR SONG IS GOOD”をともに制作し、サ上とロ吉をデビュー前から知る、YOUR SONG IS GOODのサイトウ "JxJx" ジュンを迎え、2組が関わるようになってからと今回のコラボ、そして両者のこれからについて語り合っていただいた。

サイプレス上野とロベルト吉野(さいぷれすうえのとろべるとよしの)
マイクロフォン担当・サイプレス上野、ターンテーブル担当・ロベルト吉野。通称「サ上とロ吉」。2000年にあらゆる意味で横浜のハズレ地区である「横浜ドリームランド」出身の先輩と後輩で結成。「HIP HOPミーツallグッド何か」を座右の銘に掲げ、「決してHIPHOPを薄めないエンターテイメント」と称されるライブパフォーマンスを武器に、ロックイベントへの出演やアイドルとの対バンなど、ジャンルレスな活動を繰り広げ、ヒップホップリスナー以外からも人気を集めている。

業界のシステムやシーンの変化に翻弄されてきた2組。不器用ながらも20年活動を続けてきたからこそ思うこと

―サイプレス上野とロベルト吉野(以下、サ上とロ吉)の20周年記念EPがリリースされましたが、YOUR SONG IS GOOD(以下、ユアソン)も2018年に結成20周年を迎えられました。この20年の間に様々な情勢や音楽的な情況変化があったと思いますけど、2組にとってそのなかで変わらなかったものは何だったと感じていますか?

サイトウ:壮大な質問……ですね(笑)。そうですね、やっぱり「人」なんじゃないですかね。サ上とロ吉もYOUR SONG IS GOODもどちらかというと器用じゃないほうかなと思うんですけど、いろいろと翻弄されながらも、音楽を続けていられるのは、やっぱりメンバーだったり、「人」という部分が大きいからだと思います。今日の対談もPC越しですけど、サ上とロ吉からは「人」としての強さがビンビンに伝わってきてるんですよね(笑)。

上野:それはジュン君もですよ(笑)。

サイトウ:細かい音楽的な変遷がありつつも、そういう「人」っていう部分が音に滲み出てしまっている。20年という月日で、変わらない部分は、となるとそこですかね。

上野:たしかにマンパワーは大事だと思う。俺らも器用に立ち回ることはできないから、誰かの後輩になることはできなくて。

上野:18歳のときにYOU THE ROCK☆のクルー「L2D」に入ろうとして志願したんですよ。それで「待っとけ!」って言われたんで楽屋口で待機してたら、YOUさんが帰っちゃってて、帰ったことを教えてくれたRINO LATINAⅡさんに「やめといたほうがいいよ」って言われて入るのをやめて。それが転機だったと思うんですけど(笑)。

そのまま当時の日本語ラップシーンの真ん中にいたら、ジュンくんや角張くん(「カクバリズム」の代表、角張渉)とは仲よくなってなかったかもしれないし、今の俺たちはなかったと思う。その意味でも、俺らの場合、いろんな関係性や人間に恵まれたってことも大きいと思いますね。

吉野:そういった「翻弄される」ことも多いと思うんですけど、それも愛して、笑っていこうと。

上野:間違いない。翻弄されても、それを「ウケんな~」に変えられればいいからな。

人との関係や出会いによって培われた、サ上とロ吉のキャリア。活動最初期から変わらない魅力を、サイトウ "JxJx" ジュンが語る

―2組の出会いでいうと、カクバリズムの角張渉さんとジュンさんのラジオCD-R『ラジオのカクバリズム "Sep-06"』(2006年)で「3年前に出会った」と話されていて、今回の“Let’s Go 遊ぼうZE 2 feat. YOUR SONG IS GOOD”のアウトロで語られる「17年ごし」という上野くんの言葉と符合するなと。

上野:検証ソースがマニアックすぎるでしょ(笑)。

サイトウ:たぶん竹内くんかな? 上野をカクバリズム界隈に最初に紹介してくれたのは。

上野:そうですね。

サイトウ:Dashboardっていうバンドをやってた、うちのカクバリズムの角張とも仲のいい、竹内朝彦くん(03ooi / Essential / Dashboard / Utopia 1 / Utopia 2 / Utopia 3 / MANGA SHOCK)からの紹介ってことですね。

上野:竹内さんは俺がディスクユニオンで働いたときの上司で、角張くんともディスクユニオンつながり。竹内さんがユアソンの『GOOD BYE / KA CUBA』(2002年)の7インチを店でかけてて、めちゃくちゃかっこよかったから社販で買ったんです(笑)。それでユアソンのことは知りました。

サイトウ:それで竹内くんから「面白いヤツがいるよ」って紹介してもらった流れで、でもしっかり話したのは渋谷PLUGだった気がする。トリカブトのって言っていいのかな、『CHILLIN’CHILLIN’』っていうヒップホップのパーティにうちのバンドを呼んでもらったときに、上野も遊びに来てて「サイプレス上野です」って改めて自己紹介されて「この前も思ったけど名前すごいな!」って(笑)。とにかく楽しい時間だったことは覚えてます。

―時期的にはサ上とロ吉としては作品のリリース前ですよね。

上野:前ですね。

サイトウ:だから最初は作品とかライブじゃなくて、「名前がすごい!」っていうインパクトでの記憶でした(笑)。

上野:『CHILLIN’CHILLIN’』で観たユアソンのライブはかっこよかったし、当時ヒップホップ界に居場所がなかった俺たちにもユアソンは優しくしてくれて(笑)。

サイトウ:それからしばらくして、サ上とロ吉のライブを観てるんですよね。たしか下北沢SHELTERだった気がする。それこそカクバリズム関連の企画だったような?

上野:そうですね。他に出てたのがECDとか……

吉野:赤い疑惑じゃなかったでしたっけ?

サイトウ:もう記憶が曖昧なんだけど、そこで初めて観たサ上とロ吉のライブは感動でしたね。ライブハウスでガシガシと自分たちのスタイルでやってるのが、理屈抜きでかっこよかったっていうか。

上野:時期的に『ヨコハマジョーカーEP』(2004年)を出したぐらいだったんじゃないかな。

吉野:ライブのイントロが笑福亭鶴光の“鶯谷ミュージックホール”だった頃ですね。

上野:どういう出囃子だよ(笑)。それからRUN-DMCの“PETER PIPER”の2枚使いで“サイプレス上野とロベルト吉野”をやってた時期だ。当時は完全にレコードだけだったね。

サイトウ:そのネタ選びとか、2枚使いの感じとか、コール&レスポンスとか、全体のライブの構成とか、1MC1DJのかっこよさを追求してる感じがあって、そこに「ザラつき」、「ヒップホップのザラつき」っていうんですかね、その感じがあって、ヒップホップの面白さってこれかも! っていうワクワクを感じたんですよね。それで「名前、すごいな!」って部分もいい感じに吹っ飛んだっていうか(笑)。プラス、いろいろと越えてくる愛嬌と面白いエンターテイメント性もあって、それで仲よくなっていった気がします。

上野:俺たちはヒップホップを追求してるのに、CDJのプレイボタン押すだけのポン出しグループが騒がれてるっていうのは、マジで納得いかねえ! っていうルサンチマンが当時はめちゃくちゃ強かったし、キレてましたね。そんな状況で出会ったのがトリカブトで、お互いに「ヒップホップはこうじゃなきゃいけないよな」って話はしてましたね。

―トリカブトは保守本流にも程があるほどオールドスクールマナーを形にしてるグループだったけど、そういうグループが当時は異端に見えるような状況がありましたね。

上野:そういう状況でひたすら悶々としながら二人でライブの練習してるっていう、風通しの悪さはあったと思う(笑)。

吉野:当時、ライブハウスにターンテーブルとミキサーがなかったりしましたもんね。

上野:全然持ち込みだった。ターンテーブル台すら持ち込んでた(笑)。

吉野:針が飛んだことに対してヤジ飛ばしてきた客と上野くんがガンガンに口論したり。それをDJブースから見ながら「これだな!」と思いましたね。

上野:どこで納得してんだよ(笑)。

サイトウもゲストDJで呼ばれるも、出演時間が5分。サ上とロ吉の主催イベント『建設的』が体現していた二人の音楽精神

―サ上とロ吉が主催していたイベント『建設的』にジュンさんをDJとして招いたこともあるようですね。

サイトウ:名前からして最高だなと思ったので、「ぜひ呼んでほしい」と(笑)。それで横浜LOGOS(2012年4月をもって閉店したクラブ)までレコード抱えていったんですけど、平日なのに客がパンパンに入っててめちゃくちゃ盛り上がってるし、「これはスベれないな……」と緊張してたんですよね。

で、DJブースで待機してたら、自分の前のサ上とロ吉やZZ PRODUCTION(サ上とロ吉も所属するクルーで、自称「横浜のハズレモン集団」)のみんなのライブが全然終わらなくて、気がついたらもう4時55分。それでやっと「ジュンさん、お願いします!」って言われてはじめたら、5分後にフロアの電気がつきだして「すみません! 終わりです!」って(笑)。

一同:(爆笑)

サイトウ:「横浜まで来て、ひたすら待って出番5分て!」って(笑)。もはや怒るとかいう概念を越えて、最高すぎたので「頼むから、もう1回呼んでくれ!」って言ったんですよね。

上野:それで「じゃあ来月来てください!」って。

サイトウ:で、次の月のメインゲストが自分の神戸時代からの先輩である、脱線3のKING3LDKさんだったんですよね。KING3LDKさんがDJでガンガンに盛り上げて、そのあとにライブパートがはじまって、と思ったら、また全然終わらなくて、「ん? ちょっと待てよ」と思って時計見たら、また4時55分(笑)。

―「デジャブかな?」って(笑)。

上野:LOGOSも全然延長してくれなくて、普通に電気つけはじめて。それで「ゲストDJだから延長させてください!」って言ったら、「だったら出番を前にしとけ!」っていう完全に正論を言われて、ぐうの音も出なくて(笑)。

吉野:ただ、最後の5分でジュンさんがかける曲は、渾身の1曲じゃないか……って話題になってましたよ。

上野:俺たちのタイムキープミスだっつーの(笑)。

サイトウ:そんな話になってたんだ(笑)。それが衝撃的すぎて上野に「もうレギュラーにしてくれ!(笑)」って頼んだんですよね。

上野:それから1年ぐらいレギュラーでやっていただききましたね。

サイトウ:楽しかったですね。1年横浜に通って、最終的には出演者どうしのケンカを止めるところまでいったという(笑)。しかし、改めて『建設的』異常な盛り上がりでしたね。すごかったです。

上野:周りに暇なヤツが多かった(笑)。

サイトウ:そうだ、音的にはヒップホップのフォーマットからはみ出た人たちもいて。

上野:謎みっちゃん(ZZ PRODUCTION所属)とか。ノイズやってたんだけど、音楽的な裏づけが何もないから、本当のノイズって言う(笑)。

サイトウ:そういういろんな音楽や人たちが自然に共存してたのが、また面白かったですよね。

上野:それが2005年ぐらい。『ドリーム』(2007年)のリリース前後ですね。

サイトウ:いろんな人たちがって意味では、ちょっと話飛んじゃうけど『ドリーム』の“BayDream~from課外授業~”は、トラックが空手くん(Latin Quarter a.k.a 空手サイコ)で、ミュージックビデオの監督はゼキさん、こと大関泰幸だよね。

上野:ゼキさんですね。

サイトウ:大関は学校の後輩で、カクバリズム周辺はもちろん、YOUR SONG IS GOODの映像作品をいくつも撮ってもらっているんですけど、MVにはハマケン(浜野謙太、在日ファンク。カクバリズム所属)が出てたり、その前後数年のいろんな出会いの積み重ねが形になった感じがして、何か勝手にすごく感動的なMVだと思ってました。って、感じで話は2005年に戻すとして。

『Raw Life』や『KAIKOO』のようなジャンルを越境するイベントに居場所を見出すようになったサ上とロ吉――「俺たちより変な人、全然いるじゃん!」

上野:同じ時期にユアソンの渋谷CLUB QUATTROにも出演して、16小節ラップさせてもらって。

サイトウ:たしか、バンド的には記念すべきクアトロでのレコ発ワンマンで、他のフィーチャリングのゲストが曽我部恵一さんとHALCALIだったはず。

―当時の知名度からすると、その並びのなかでは上野くんはまだ音楽リスナーのなかでも海のものとも山のものともという感じですよね。

サイトウ:いま改めて言われると「そうだったのか」っていうのがありますが(笑)、『建設的』からの流れもあって、バンド的には「この並びだったらあとは上野しかないよね!」っていう感じで。作品としてお互いにフィーチャリングも何もしてないから、知らないお客さんもいたかもしれないけど、めちゃくちゃ盛り上がったよね。あのときの上野はめちゃくちゃかっこよかったです。

上野:俺も「俺のことなんて誰も知らねえだろうなぁ」と思ってたから、全然緊張しなかったし、それよりも機材が多くて蹴っ飛ばさないようにするほうが緊張しましたね(笑)。

―当時は『Raw Life』をはじめとして、アンダーグラウンドを中心にクロスオーバーしたイベントが多かったと思うんですが、そういった状況はどう見えていましたか?

サイトウ:ありがたいことに、うちのバンドの場合は本当にちょっとだけまぜてもらってたっていう感じなんですけど、楽しかったっていう記憶があります。

上野:俺たちもようやく居場所ができたって感じがありましたね。

サイプレス上野とロベルト吉野“WONDER WHEEL”(2009年)を聴く(Apple Musicはこちら

―先ほど自分たちでも言っていたように、当時のヒップホップシーンの本流が渋谷中心だったという地理的な部分を含めても、サ上とロ吉はシーンの中心とは距離がありましたね。そしてユアソンもバンドシーンのなかでは音楽性も含めて異端な存在に見えていました。そういったアウトサイダー的な部分でシンパシーを覚えたりは?

サイトウ:個人的には幸いにもカクバリズムっていうホームが数年前にできあがったっていうのもあったので、アウトしている意識はそこまでなかったんですけど、とにかく好きなことをやってる人たちがこんなに集まると、ウネりが本当にスゴいなっていうか。感じるものがありました。

上野:逆にそういう場所には、メインストリームでヒップホップやってる人間は来れねえだろうなと思ってましたね。『KAIKOO』みたいなイベントにもMSC(漢 a.k.a. GAMIがリーダーを務めるヒップホップクルー)とかTHINK TANK(K-BOMBらが所属していたヒップホップグループ)も合流して、すげえ楽しくなってたし、友達もどんどん増えていって。それが本当に楽しくて、ライブで騒ぎすぎてテキサコ・レザーマンに腹蹴られたりもしましたけど(笑)。

吉野:「これで大丈夫だったんだ」っていう自分たちに自信を持てた感じもありましたね。

上野:俺たちより変な人、全然いるじゃん! っていう部分も含めてね(笑)。

最初は、ダメなラッパーの代わりに謝る先輩役。サ上とロ吉とサイトウのコラボ遍歴

―ジュンさんとサ上とロ吉のコラボは、制作として“ゴメンナサイ feat. サイトウ"JxJx"ジュン(YOUR SONG IS GOOD)”(2012年)を作ったのが最初ですね。

上野:ラッパーのダメな部分を歌って同業者にめちゃくちゃウケた曲で。本当に最低なヤツの曲なんで、謝る部分をかっこよく歌い上げてほしいと思ってオファーしたんですよね。

サイプレス上野とロベルト吉野“ゴメンナサイfeat. サイトウ"JxJx"ジュン(YOUR SONG IS GOOD)”を聴く(Apple Musicはこちら

―パートナーに対する「ゴメンナサイ」の曲ですが、<(パートナーの)親御さんには理解不能 だけど俺の両親も同じだよ>という無反省なリリックが、ジュンさんが歌うフックでなんとなく中和されるという(笑)。

サイトウ:曲が仕上がってみたらラッパーの酷さを、なぜか関係ない自分が謝ることになっていたっていう(笑)。

上野:「こいつも反省してるから」って先輩に一緒に謝ってもらうパターン(笑)。

サイトウ:それ、めちゃくちゃだろと思いつつ、なんか感触としては曲がいいっていう、謎な名曲ですよね(笑)。それで「次はトラックで」という話をいただいて、“SELF PRE-SURE”(2013年)と“だろう生活ながら毎日”(2013年)の2曲をプロデュースさせてもらって。そうだ、“SELF PRE-SURE”は歌詞もすごい好きなんですけど、それとあいまったビデオがすごくよくって、2人の地元の団地「ドリームハイツ」のロケで、途中で蛍光灯のヒモに何かがひっかかるアクシデントに2人が笑うシーンが最高なんですよね。で、そのレコーディングで、吉野のスクラッチしてる背中はかっこいいな……と。

吉野:ありがとうございます(笑)。

サイプレス上野とロベルト吉野“だろう生活ながら毎日”を聴く(Apple Musicはこちら

―そして今回の“Let’s Go 遊ぼうZE 2 feat. YOUR SONG IS GOOD”で、ついにユアソンとサ上とロ吉がコラボすることになりました。

上野:俺たちがデビューする前から見てくれてる人たちとは、このタイミングでちゃんとガッチリ組みたいと思ったんですよね。

―これまでにもSPECIAL OTHERSやSLY MONGOOSEなど、バンドとのコラボはありましたが、ユアソンとは遂にという感じがあります。

サイトウ:仲がよすぎて、逆に「組む」っていう発想がないパターンだったよね。この17年間、月イチぐらいのペースでゴシップも含めてサ上とロ吉情報が入ってくるんで、自分たちもそこで満足しちゃってたのかもしれない(笑)。

上野:音楽的なものが入る余地がなかった(笑)。

サイトウ:確かに、それぐらいの距離感だもんね。だから近すぎたのが問題っていうか。でも実際にコラボの声をかけてもらったら、これがめちゃめちゃ嬉しかった(笑)。

―この曲はどんな人の心も明るくなるようなパーティチューンですが、このトラックになったのは?

上野:ユアソンと一緒に楽しくやりたいっていうイメージは最初からありましたね。

サイトウ:ここ数年バンド的には「バンドが演奏するディスコ / ハウス、ダンスミュージック」方面を追求してたんですが、いやちょっと待てよと、たしか2人が「ドリームハイツ」の夏祭りなんかで子どもたちの前でライブをやってたよな? それってすごくいいなあと思ったんだよなってことを思い出して。そういう場所で鳴ったときに誰が聴いても楽しくなれる、シンプルでウキウキするような曲を作りたいと思ったんですよね。

YOUR SONG IS GOOD『Sessions 2』(2020年)を聴く(Apple Musicはこちら

上野:最初はやっぱりびっくりしましたね。ここ最近のユアソンのトラックに乗せたいとも思ってたんで、「こうくるか!」って。

サイトウ:それで「スタジオに入って一度ちゃんと説明します」と(笑)。それでさっきの話をしたら納得していただいて。スカのリズムは今までもやってきてたけど、これぐらいシンプルなコード進行で押し切るっていうのはやったことがなかったんで、個人的にありがたくトライさせてもらった曲になったと思ってます。

上野:俺のラップもあえてわかりやすいフロウで、子どもでも一発で楽しめる感じにして。そこも「みんなで踊って楽しんで」っていう夏祭りを意識した感じですね。ただ3ヴァース目だけは今のラッパーに負けないようなフロウにしましたね。負けん気が出ちゃって(笑)。

サイトウ:ここ数年、世の中が変な方向に向かってる感じがあるから、ここは一発ポジティブな曲で、子どもたちにも楽しんでもらえるようなものを、っていう意識はありましたね。

サイプレス上野とロベルト吉野“Let’s Go 遊ぼうZE 2 feat. YOUR SONG IS GOOD”を聴く(Apple Musicはこちら

「HIP HOPミーツallグッド何か」というコンセプトの奥にある、二人の「人」としてのあり方

―今回お話を伺ったように、様々な出会いがあって、それがサ上とロ吉の掲げる「HIP HOPミーツallグッド何か」というコンセプトにつながっているし、今回のコラボEPは現状においてのその決着点だと思います。

上野:そのキャッチフレーズは、もともと『建設的』をLOGOSのフライヤーに乗せるときのジャンル説明で。店長には「いい加減そのわかりづらいジャンル変えろ!」って言われてたんですけど、最後まで「やだ!」って言い張ってました(笑)。でも実際そうだったんですよね。

ヒップホップは根本にあるかも知れないけど、ジュンくんがDJで出てくれたように、ジャンルや出演者に壁を作らなかったし、いろんなやつが集まって、仲よくなったりケンカしたりしながら、誰も置いていかないで、一緒に遊ぶ場がほしかった。そういうふうに、固まったり固めたりしたくないんですよ。その意思表示としての今回のEPって部分はたしかにあると思う。

サイプレス上野とロベルト吉野『サ上とロ吉と』を聴く(Apple Musicはこちら

上野:実際、吉野は刑⚡鉄っていうバンドもやってるんだけど、「サ上とロ吉に集中しろよ!」じゃなくて、その動きもめちゃくちゃ面白いじゃんって思うんです。俺も俺でメディアの仕事もあるし、作詞業とか客演、DJもやってるから、「あいつ何やってんだ?」って思われてるかもしれない。何かをやればやるほど、一つのイメージでは捉えきれなくなるから。でも、それが面白いと思うし、そこで自分たちの動きが広がっていって、今のサ上とロ吉があるんだと思う。

吉野:「No Border」。

上野:何をいきなり決め台詞みたいに言ってんだよ(笑)。

吉野:俺たちはドリームハイツっていうマンモス団地育ちで、「いろんな人がいる」っていう環境で育ってきたから、区別したり、壁を作るっていう意識がもともと生まれにくかったっていうか。

サイトウ:「HIP HOPミーツallグッド何か」ってジャンル名を見たときに、「うわ、やられた!」っていうのがあって、そこにサ上とロ吉の行動のすべてが表れてる感じがしましたね。やってることはヒップホップそのものだし、そこに思い入れ、こだわりがあるんだけど、そこに意固地にならずとことん楽しみながらいろんなものを混ぜあわせつつ、それでも「どう考えてもサ上とロ吉」っていう状態というか。そこにサ上とロ吉の魅力があるのかなって思ってます。

―これからもコラボは?

サイトウ:時間が空いたらまたやらなくなりそうなんで(笑)、だからもうちょっとマメにやりたいですね。それから、サ上とロ吉のライブの「箱バン」をYOUR SONG IS GOODでやってみたいんですよ。吉野のDJも含めて、いい関係を組み立てられるライブができればなと。

上野:ぜひ! 楽しみです!

サイトウ:あと、最後に「サ上とロ吉が20周年なんで一緒に曲を作りたい」って言われたときに「え! そんなに続いてたの! 信じられない!」ってYOUR SONG IS GOODメンバー一同、衝撃が走ったんで(笑)、このまま2人がヨボヨボになりながらも“サ上とロ吉”とかやってるのをみたいですね。ピチピチのときから観てるから、シワシワまで見届けたいなと(笑)。

リリース情報
サイプレス上野とロベルト吉野
『サ上とロ吉と』(CD)

2020年7月1日(水)発売
価格:2,300円(税込)
KICS-3899

1. INTRO
2. More & More feat. ももいろクローバーZ
3. Let’s Go 遊ぼうZE 2 feat. YOUR SONG IS GOOD
4. 日本全国乾杯ラップ feat. 奇妙礼太郎
5. Uptown Anthem feat. 碧棺左馬刻(from『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』)
6. YOKOHAMA SKYWALKER feat. SAMI-T from Mighty Crown、AISHA
7. メリゴ feat. SKY-HI (grooveman Spot Remix)

YOUR SONG IS GOOD
『Sessions 2』(CD)

2020年5月20日(水)発売
価格:2,200円(税込)
DDCK-1068

1. Cruise(2020 Sessions)
2. Palm Tree(2020 Sessions)
3. Move or Die(2020 Sessions)
4. A Man From The New Town –inst.-(2020 Sessions)
5. Up! Up!(2020 Sessions)
6. GOOD BYE(2020 Sessions)
7. Hot Grapefruit(2020 Sessions)
8. Pineapple Power(2020 Sessions)
9. Re-Search(2020 Sessions)
10. The Cosmos(2020 Sessions)

プロフィール
サイプレス上野とロベルト吉野
サイプレス上野とロベルト吉野 (さいぷれすうえのとろべるとよしの)

マイクロフォン担当・サイプレス上野、ターンテーブル担当・ロベルト吉野。通称「サ上とロ吉」。2000年にあらゆる意味で横浜のハズレ地区である「横浜ドリームランド」出身の先輩と後輩で結成。「HIP HOPミーツallグッド何か」を座右の銘に掲げ、「決してHIP HOPを薄めないエンターテイメント」と称されるライブパフォーマンスを武器に、ロックイベントへの出演やアイドルとの対バンなど、ジャンルレスな活動を繰り広げ、ヒップホップリスナー以外からも人気を集めている。2020年にはサイプレス上野とロベルト吉野として結成20周年を迎え、2020年7月1日には「奇妙礼太郎」「YOUR SONG IS GOOD」「ももいろクローバーZ」「碧棺左馬刻(from「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-」)」「SKY-HI」「SAMI-T from Mighty Crown」「AISHA」など、豪華客演陣が参加した結成20周年コラボEP『サ上とロ吉と』をリリース。現在、サイプレス上野は、テレビ東京『流派-R SINCE2001』、Abema TV『水曜THE NIGHT』、FMヨコハマ『Tresen』にレギュラー出演中の他、TVCMナレーションなど、越中詩郎級の『やってやるって!』の精神で多方面に進撃中。

サイトウ "JxJx" ジュン

ミュージシャン / コンポーザー / プロデューサー。武蔵美術大学基礎デザイン学科卒業。オリジナルな生音ダンスミュージックを追求するインストゥルメンタルバンド、YOUR SONG IS GOODのキーボード / リーダー。近年ではメインコンポーズ、プロデュースを担当。2002年カクバリズムより1st EPをリリース。2006年から2010年、ユニバーサル・ミュージックよりメジャーリリース。以降、これまで6枚のオリジナルアルバムをリリース。『FUJI ROCK FESTIVAL』などの大型野外フェスへの出演、日比谷野音ワンマンを敢行するなど結成20年を越えてなお精力的に活動中。TV、舞台など、楽曲提供 / プロデュース、REMIXワークなどの音源制作は多数。2005年より音楽専門チャンネル番組メインMC、ラジオパーソナリティなども数多く務める。また交流を深めるハワイの音楽レーベル「ALOHA GOT SOUL」を招聘した音楽&ARTイベント『SOUL TIME IN TOKYO』のオーガナイズ、川辺ヒロシ(Tokyo No.1 Soul Set)とのDJユニット、DISCO MAKAPUUの始動と、その活動は多岐にわたる。



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