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小山田壮平の歌の旅路 奥山由之と語り合う、歌の言葉と写真の神秘

小山田壮平の歌の旅路 奥山由之と語り合う、歌の言葉と写真の神秘

小山田壮平『THE TRAVELING LIFE』
インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:佐藤祐紀 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

わかるようで、わからない。歌の言葉と写真が持つ表現の神秘を語り合う

奥山:壮平さんに歌詞について訊きたいことがあるんですけど、いいですか?

小山田:うん……答えられるかなぁ(笑)。

奥山:壮平さんの歌詞って、知っているようで知らない言葉が出てくるなと思っていて。

小山田:知らない言葉?

奥山:もちろん単語としては知っているんですけど、実感として知らない言葉。たとえば“あの日の約束通りに”の<傷だらけの心は愛へと続いている>とか、わかるようで、完全には理解できないんです。この曲のほかの部分は、具体的な情景描写が書かれているように思えるんですけど、<傷だらけの心は愛へと続いている>という部分だけは、心象風景のような抽象的な書き方になっているじゃないですか。もちろん詞だから完全に理解する必要なんてないのかもしれないけれど……この“あの日の約束通りに”の歌詞を、他の言葉で説明することってできますか?

小山田壮平“あの日の約束通りに”を聴く(Apple Musicはこちら

小山田:この部分に関しては、なんというか、こう……「わかるようで、よくわからないな」と、僕も思っていました(笑)。

奥山:そうなんですか(笑)。

小山田:これは、そこに希望を持とうとする、期待みたいなものなのかな。真っ白い空に光が射して、そこに溶けていくようなイメージは自分のなかに浮かんでいるんですけどね。たしかに、他の歌詞は実生活に根付いている言葉だけど、この1ラインだけは浮世離れしている感じがありますよね。でも、自分の領域を超えたものを希望として書くってことは、この曲以外にもあるような気がします。

奥山:やっぱり、理論的に理解しきれない言葉であっても、歌詞なら定着させることができる強さがある。その点は写真も近い気がします。写真って、ある瞬間に点を打つことで、見ている人に「その点以外のすべて」を見せるものだっていう感覚があって。「そこにあるもの」は、すなわち「そこにないもののすべて」というか。

実際に捉えるのはたった一瞬だけど、見た人は、その一瞬以外の、写っていないいろんなことを想像するじゃないですか。つまり、写真に写っている「それ」が見せているのは、「それ」ではなくて、「それ」以外のすべてなんです。これは、歌詞や詩にも同じことが言えるのかなと思う。

奥山由之

奥山:壮平さんの歌詞も、読む人に想像をさせますよね。ふわふわぷにぷにしていて、朧げなだけに、その言葉から、その言葉以外のことまで想像させる力がある。「ここにあるもの」が、「ここにはないすべて」への憧れを感じさせる……そういう部分が歌詞と写真は似ているし、それゆえに、どちらも刹那的だなと思うんです。

小山田:刹那的ね……それはたしかにあるかもしれない。日々、いろんなことを考えるじゃないですか。「あんな事件があって、こいつは酷いやつだな」とか、「あんな考え方はおかしいんじゃないか?」とか、「あの夕陽は美しかったな」とか、いろんなことを考えるし、それは言葉になっていくんだけど、歌詞を書くときって、そのなかで「これは言わない、あれも言わない、これも違う」……そんな感じで、引き算をしているような感覚もあるんです。

左から:奥山由之、小山田壮平

小山田:言わないこと、言いたくないことを引き算していくことで、「自分がこのメロディのなかで言いたいのは、これだ」っていうことを見つけていく。それは、今おっくんが言ったように、その言葉が、言わなかったすべての言葉を表しているから選ばれたっていうことなのかもしれないね。

奥山:これは書かない、これも書かないという選択をした言葉たちがあったからこそ、書けた言葉なのかもしれない。

小山田:うん。おっくんも、「これも撮らないし、あれも撮らないし」……っていう、「撮らなかったもの」があるんだよね?

奥山:そうです。旅の記憶だって、言わば「撮らなかった景色の集積」みたいなことなんです。

小山田:おっくんの言葉をなぞるようだけど、おっくんの写真にも、「わからないけど、わかるような気がする」っていう感覚があると思う。「なぜ、ここを切り取ったんだろう?」というようなことはわからないんだけど、見ていると、すごく伝わってくるものがあるんだよね。

歌唄いと写真家、2人が歌を書くとき / シャッターを切るときの心のなかを問う

―引き算を繰り返しながら、なにを書き、なにを撮るのかを選んでいく。おふたりは作品を重ねるたびにそれを繰り返してきたのだとしたら、自分がどんなものを選ぶ傾向にあるか、見えているものはありますか?

小山田:僕の場合は、自分が綺麗だな、美しいなと心が動いたものとか、「これは今まで見たことない」って新しいような気がするもの、新鮮なもの、そういうものを選んでいるんじゃないかと思います。おっくんはどう?

小山田壮平“夕暮れのハイ”を聴く(Apple Musicはこちら

奥山:僕は、日常のなかにあるふとした非日常を、極力見つけ出そうとしている気がします。今回のアルバムジャケットの写真もそうなんですけど、「普段から見ているものを、よりよく見る。または少し違う角度から見てみる」ことが好きなんです。毎日目にしているはずのものが違うもののように見える瞬間とか、ちょっとだけ角度を変えてみると、違って捉えられる出来事とか。

小山田:うん、うん。

奥山:視点として、180度じゃなくて、5度くらいしかズラしてないけれど、とても新鮮に捉えられる出来事に気づけたときに、嬉しくなるんです。逆に、最初から新鮮に見えて当たり前のもの、つまり180度ぐるっ! と、のものにはあまりシャッターが切れない。旅先でも、到着した直後は、ほとんど撮らないです。自分のなかで非日常すぎると、すべてが撮るべきもののように思えてしまうから。でも、3日くらい経つと、その国の香りや音、景色、言葉、すべてが段々と自分のなかで日常化されてくるので、そうすると、その中にある非日常に気付けるようになるんです。

小山田:なるほどなぁ。

奥山:人の生活や行動、日常っていうものをじーっと見つめていると、あるタイミングで、「これって当たり前だと思っていたけれど、実は不思議なことなんじゃないか?」っていう違和感にタッチできる瞬間がたまにあるんです。それをわざわざ拾い上げて「気になりませんか?」って社会に提示する。自分はそういうことをやりたいと思っているんですけど、それって、ものすごく難しいことで。初めから真新しく見えるものを作るほうが、簡単だと思うんです。

左から:奥山由之、小山田壮平

奥山:壮平さんの歌詞も「知っている単語」で「知らなかった言葉」を書いているからすごいんですよね。はじめから意味のわからない言葉を書くなら、僕でも書けると思うんです。でも、「これって、知っている感覚や感情のような気がするけれど、自分の言葉で説明するとしたら、どういうことなんだろう?」と思わせられる言葉って、書こうと思っても書けない。壮平さんは自然とそれができるんですよね。でも、それって実は全然、自然じゃない。すごく技を感じるんです。

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リリース情報

小山田壮平『THE TRAVELING LIFE』
小山田壮平
『THE TRAVELING LIFE』初回限定盤(CD+DVD)

2020年8月26日(水)発売
価格:4,180円(税込)
VIZL-1786

[CD]
1. HIGH WAY
2. 旅に出るならどこまでも
3. OH MY GOD
4. 雨の散歩道
5. ゆうちゃん
6. あの日の約束通りに
7. ベロベロックンローラー
8. スランブは底なし
9. Kapachino
10. 君の愛する歌
11. ローヌの岸辺
12. 夕暮れのハイ

[DVD]
『THE TRAVELING LIFE DVD』
・あの日の約束通りに(なんば Hatch 2019.9.19)
・革命(中野サンブラザ 2018.10.30)
・16(中野サンブラザ 2018.10.30)
『Music Video』
・OH MY GOD
・HIGH WAY

小山田壮平
『THE TRAVELING LIFE』通常盤(CD)

2020年8月26日(水)発売
価格:3,080円(税込)
VICL-65411

1. HIGH WAY
2. 旅に出るならどこまでも
3. OH MY GOD
4. 雨の散歩道
5. ゆうちゃん
6. あの日の約束通りに
7. ベロベロックンローラー
8. スランブは底なし
9. Kapachino
10. 君の愛する歌
11. ローヌの岸辺
12. 夕暮れのハイ

小山田壮平
『THE TRAVELING LIFE』(LP)

2020年9月4日(金)発売
価格:3,850円(税込)
VIJL-60226~60227

プロフィール

小山田壮平
小山田壮平(おやまだ そうへい)

1984年、福岡県飯塚市で生まれる。2007年、andymoriを結成。2014年10月解散。ALのギターボーカル。自主制作音盤『2018』を自身の弾き語りツアーにて会場販売。2016年より自身のソロ弾き語り全国ツアー等も精力的に行なっている。2020年8月、1stソロアルバム『THE TRAVELING LIFE』を発表した。

奥山由之(おくやま よしゆき)

写真家・映像監督。1991年東京生まれ。2011年『Girl』で第34回写真新世紀優秀賞受賞。2016年『BACON ICE CREAM』で第47回講談社出版文化賞写真賞受賞。映像監督としてTVCM・MVなどを多数手がけている他、広告・CDジャケットなどのアートディレクションも行う。新作写真集『The Good Side』がフランスの出版社・Editions Bessardより発売中。

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