インタビュー

青葉市子が『アダンの風』で見つめた、時代のざわめきの向こう側

青葉市子が『アダンの風』で見つめた、時代のざわめきの向こう側

インタビュー
松村正人
撮影:小林光大 撮影協力:しながわ水族館 テキスト・編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

青葉市子『アダンの風』は沖縄の地で書かれた生命をめぐる物語が元になっており、「架空の映画のためのサウンドトラック」として2020年12月に発表された。その物語をここでは詳しく説明はしないが、神話のように詩的で、皮膚を突き破って生命の奥底に触れるような生々しさを私は感じた、ということだけ記しておこう。

作曲家の梅林太郎らとともに紡がれた『アダンの風』の歌たちには、生まれては死んでいく生命の根源を見つめ、そして日本語で歌われる歌のアイデンティティを編み直すかのような不思議な「響き」がある。ジャンルも、国籍も、ジェンダーも、あらゆるラベルが剥がれた姿で、青葉市子、梅林太郎、そしてエンジニアの葛西敏彦、写真家の小林光大の4人がお互いの境界線を失い、ひとつに溶け合ってそのまま歌になるような……話を聞く限り、非常に稀な工程を経て『アダンの風』は制作されている。本作はいかにして形作られ、どんなものを捉えようとしていたのか。その深淵に触れるべく、青葉市子と梅林太郎に話を聞いた。

青葉市子(あおば いちこ)<br>音楽家。1990年1月28日生まれ。2010年に1stアルバム『剃刀乙女』を発表以降、これまでに6枚のソロアルバムをリリース。うたとクラシックギターをたずさえ、日本各地、世界各国で音楽を奏でる。弾き語りの傍ら、ナレーションやCM、舞台音楽の制作、芸術祭でのインスタレーション作品発表など、さまざまなフィールドで創作を行う。活動10周年を迎えた2020年、自主レーベル「hermine」(エルミン)を設立。体温の宿った幻想世界を描き続けている。12月2日、「架空の映画のためのサウンドトラック」として、最新作『アダンの風』を発表した。
青葉市子(あおば いちこ)
音楽家。1990年1月28日生まれ。2010年に1stアルバム『剃刀乙女』を発表以降、これまでに6枚のソロアルバムをリリース。うたとクラシックギターをたずさえ、日本各地、世界各国で音楽を奏でる。弾き語りの傍ら、ナレーションやCM、舞台音楽の制作、芸術祭でのインスタレーション作品発表など、さまざまなフィールドで創作を行う。活動10周年を迎えた2020年、自主レーベル「hermine」(エルミン)を設立。体温の宿った幻想世界を描き続けている。12月2日、「架空の映画のためのサウンドトラック」として、最新作『アダンの風』を発表した。

ギターと声の響きの奥に、様々な音の気配が漂う青葉市子の歌

―はじめに、梅林さんは青葉さんをどういう音楽家と見ていらっしゃいましたか?

梅林:市子ちゃんにも伝えたのですが、「小が大を兼ねて居る」という印象を持っています。弾き語りでやっているけど、歌声とギター、一つひとつの音が巧みにオーケストレーションされていて、そこに的確な言葉も乗って世界観を作り上げているという印象です。

―シンプルなギターと歌のバックに壮大な音世界を感じさせる。

梅林:そうですね。僕の場合、基本的に演奏家の方にお願いすることが多いので、そのスタンスと逆の印象です。

青葉市子『"gift" at Sogetsu Hall Concert』より(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

青葉:梅先生とは『アダンの風』を作る前に、配信シングル“守り哥”の作曲と編曲でご一緒していただいたのですが、「じつはギターと歌の後ろには、ここにはオーボエ、ここにはファゴットがいて、ここから弦の群がきて……」というように、最終的なアウトプットは弾き語りでも、脳内にはたくさんの楽器が存在していることをお話ししていました。

そうして何度も対話を重ねていく中で、梅先生の深い理解があり、自分の中ではぼやけて霞んでいた部分をより明確に音の粒として導いていただいたと思っています。とても豊かな作業でした。

梅林:エンジニアの葛西くん(葛西敏彦)が常々「話そう話そう」と言っていて、制作陣同士の対話がこのアルバムの制作過程では特に大事で、その積み重ねが作品に繋がっていると思っています。

青葉:本当に、役割分担がはっきりしていたプロジェクトだったなと思っています。無理をしなくていいというか、私たち以外も、葛西さんも小林光大さん(当記事の撮影も行った写真家)もみんなが自分の一番得意なことを突き詰めていけるバランスだったのでとっても楽しくて。同じ船に乗っている船員たちがそれぞれの舵を取ってるみたいな感覚でした。

梅林太郎(うめばやし たろう)<br>作曲家。2012年よりmilkとしてソロ活動を始める。「Rallye Label」より1stアルバム『greeting for the sleeping seeds』をリリース。現在2ndアルバムを制作しつつ、楽曲提供、映画音楽、アニメ音楽、CM音楽と幅広いジャンルにおいて国内外、数多くのアーティストと作品を発表している。
梅林太郎(うめばやし たろう)
作曲家。2012年よりmilkとしてソロ活動を始める。「Rallye Label」より1stアルバム『greeting for the sleeping seeds』をリリース。現在2ndアルバムを制作しつつ、楽曲提供、映画音楽、アニメ音楽、CM音楽と幅広いジャンルにおいて国内外、数多くのアーティストと作品を発表している。

―シングルの時点でアルバムもご一緒することは決まっていたんですか?

梅林:一度ピントを合わせる意味でも1曲作ってみて、それがよければきちんとアルバムを一緒に考えようみたいな感じだった気がします。

青葉:ちょうど去年の今頃ですよね、“守り哥”を作ってたの(取材は2020年12月に実施)。

―今回、映画のような架空の物語のプロットが存在していますよね。『アダンの風』は「架空の映画のためのサウンドトラック」というコンセプトですが、そういった構想は“守り哥”の時点で青葉さんの中にあったのですか?

青葉:“守り哥”のときはまだ、航海の始まるワンシーンがイメージできているだけの状態で、物語としての全体像は、沖縄に行ってから一気に膨らみました。

青葉市子“守り哥”を聴く(Apple Musicはこちら

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リリース情報

青葉市子『アダンの風』
青葉市子
『アダンの風』(CD)

2020年12月2日(水)発売
価格:3,300円(税込)
DDCZ-2268

1. Prologue
2. Pilgrimage
3. Porcelain
4. 帆衣
5. Easter Lily
6. Parfum d'étoiles
7. 霧鳴島
8. Sagu Palmʼs Song
9. chinuhaji
10. 血の風
11. Hagupit
12. Dawn in the Adan
13. ohayashi
14. アダンの島の誕生祭

プロフィール

青葉市子
青葉市子(あおば いちこ)

音楽家。1990年1月28日生まれ。2010年に1stアルバム『剃刀乙女』を発表以降、これまでに6枚のソロアルバムをリリース。うたとクラシックギターをたずさえ、日本各地、世界各国で音楽を奏でる。弾き語りの傍ら、ナレーションやCM、舞台音楽の制作、芸術祭でのインスタレーション作品発表など、さまざまなフィールドで創作を行う。活動10周年を迎えた2020年、自主レーベル「hermine」(エルミン)を設立。体温の宿った幻想世界を描き続けている。12月2日、「架空の映画のためのサウンドトラック」として、最新作『アダンの風』を発表した。

梅林太郎(うめばやし たろう)

東京出身の作曲家、編曲家。東京藝術大学音楽学部作曲科卒業。2012年よりmilkとしてソロ活動を始める。「Rallye Label」より1stアルバム『greeting for the sleeping seeds』をリリース。現在2ndアルバムを制作しつつ、楽曲提供、映画音楽、アニメ音楽、CM音楽と幅広いジャンルにおいて国内外、数多くのアーティストと作品を発表している。

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