
もしどこかでリスナーとつながればうれしい。ラップしているのは、個人の日常
―そもそも友人が鳴らしている音楽やトラックが、とても豊かということですよね。
Campanella:そうそう。RamzaやFree Babyroniaが最初から、本当に近いところでトラックを作り始めて、その上でラップするのが自分だったから――。もちろん、そのときそのときに自分が好きだった音楽も活かされているとは思うんですけど、なにが一番大きいかと言ったら、その「近さ」だったかもなあ、って。
―今回、アートワークデザインを担当されたのも伊藤潤さんという、地元の美術作家の方ですね。
Campanella:もともと仲がいい先輩で、よく飲む機会もあって。こういう絵を描いてくださいとかは、細かく言ってないです。ジャケットって、アルバムのビジュアルイメージになるじゃないですか。いろんな絵描きの人がいますけど、そこは自分の心をわかってくれている人に描いてもらいたいなと思って、これも「近い」人に頼んだんですよ。
周りに絵を描く人も多いし、ヒップホップのことは全然詳しくない、バンドとか違う音楽をやっている友だちとかも多いんです。名古屋はそれが普通なんですよ、いろんな人が集まりやすいというか、なにやってるとか関係なく出会って友だちになって。今回のジャケットもそういうことなんです。
―距離ということで言うと、リリックは日常感とコズミックな感触が気持ちよく融け合っているようなところがあると思うのですが。
Campanella:うーん、それも基本的には自分に近い環境というか、身の回りのことを歌っているつもりなんですよ。
―「近さ」に基づいたトラックに「近い」リリックを乗せる。
Campanella:うん、そうですね。ただ、リリックは大事にするんですけど、それに共感してほしいとは、まったく思わないんですよ、正直。だからこそ、自分の身の回りのことを歌っているんだと思うんですけど。
―どういうことでしょう?
Campanella:だって俺の身の回りのことなんて別に、誰も聞かなくてもいいっちゃいいじゃないですか(笑)。相当なファンの人だったら知りたいかもしれないですけど、音楽の歌詞の1つのトピックとして、自分の身の回りのことって、他人からしたらどうでもいいっちゃいい。でもそれがふとした瞬間に、聴いている人にフィットしたり、かっこいいなと感じてもらえたりしたら幸いだな、って。引っかかりは大事にしているんです、いきなり突拍子もない言葉がポンとやってくると「なんだ!?」と思うじゃないですか。そこが忘れられないフレーズになればとか、そういうことはいろいろ考えますけどね。
―なるほど、日常の視野からフッと遠くなる瞬間は、そこなのかもしれないです。それにしても、淡々と話されている内容が新鮮です。身の回りやフッド(地元)のことをラップするって思われがちですけど、それを一度客観視しているというか。
Campanella:いや、正直な話、共感は基本的に無理じゃないですか? だって、誰も自分と同じ生活してないから……(笑)。俺は朝早く起きなくていい職業ですけど、毎朝絶対に早く起きなきゃいけない人もいるでしょうし、俺は夜遊びが楽しくてよくしてるけど、そんな生活できない人もいるし。ただ、曲を聴いて、ふとした瞬間にアガってくれるのは本当に嬉しいですけどね。
―先ほどのアルバムの話を含めて、ご自身の意図せぬところでつながっちゃう瞬間を求めていらっしゃるような気がします。
Campanella:そうそうそう! 偶然とかいろいろあると思うんですけど、どこかでつながってくれたらうれしいなって気持ちはむちゃくちゃあります。
―自分の足元から、そうした偶然のつながりを求める、と。たとえば、東京で活動する、しないという選択肢って、どう考えますか。
Campanella:東京は華やかですし、住みたいと思ったことが一度もないかと言ったら、そんなことはないです。ただ、本当に決意したとか、実際に想像したことはあまりないですね。かと言って、名古屋がいいから地元でやっているというわけでもなくて。活動を始めてからそんなに時間も経たないうちから、東京も含めていろいろな場所に呼んでもらえたので、名古屋でやっていても、なにも問題はなかった。自分は恵まれていたと思います。
―ちなみに前作のタイトル『PEASTA』(2016年)は、チェーン店とかが入ってる地元・小牧市の小さなモールの名前ということですが、ひょっとして今回の『AMULUE』も店の名前ですか? インターネットで検索しても、春日井市にあった店の閉店情報しか出てこないんですが……。
Campanella:そうそう、その店ですよ。おしゃれ雑貨屋兼本屋さんみたいな、高校生の頃からちょっと背伸びしていくような店で。名古屋まで行かなくても春日井にそういう場所があった。地元の人はけっこう知ってるから、このタイトルを見るとアガるはずなんですよ。逆に地元じゃない人にこの店のニュアンスを伝えるのは難しいんですけど(笑)。照れくささもあるというか……。
Campanella『PEASTA』を聴く(Apple Musicはこちら)
―「照れくささ」と言うと?
Campanella:なんというかその……言葉を選ばずにいうと、「本当におしゃれ」な店じゃないんですよ。「イケすかねえなあ」みたいなことをみんな口にするんだけど、後で自分が店に入ると、そんなこと言い合ってた友人が女の子連れて来てるみたいな。あれだけ文句言ってたのに(笑)。
リリース情報

- Campanella
『AMULUE』初回生産限定盤(CD) -
2020年12月23日(水)発売
価格:3,850円(税込)
DDCB-121151. AMULUE
2. Bell Bottom
3. Douglas Fir
4. Next Phase
5. Hana Dyson
6. Freeze
7. Minstrel feat. ERA
8. SUMIYOI feat. 鎮座DOPENESS, JJJ
9. Think Free feat. 中納良恵
10. Palo Santo
11. PEARE
プロフィール

- Campanella(カンパネルラ)
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1987年生まれ、愛知県小牧市出身のラッパー。名前は宮沢賢治の小説『銀河鉄道の夜』の登場人物に由来。愛称は「CAMPY」。2011年、RCSLUM RECORDINGSのV.A.『the method』に参加。その後、C.O.S.A.とのユニットである「コサパネルラ」名義の作品、フリーミックステープ、CAMPANELLA & TOSHI MAMUSHI名義の作品などを立て続けにリリース。1stアルバム『vivid』(2014年)、2ndアルバム『PEASTA』(2016年)。2020年12月に3rdアルバム『AMULUE』がリリースされた。