インタビュー

今泉力哉と根本宗子が決めたこと ちゃんと「面倒くさい人」になる

今泉力哉と根本宗子が決めたこと ちゃんと「面倒くさい人」になる

インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影:タケシタトモヒロ 編集:井戸沼紀美、久野剛士(CINRA.NET編集部)

たとえ「面白い」と思われなくても。淀みなく「体験」を届けるために根本宗子が下した選択

―自分が好きなものを、そこには興味のない「外」の人に届けるのって、難しいですよね? そもそも広める意義が問われるというか。

根本:それで言うと、私はいわゆる「外」の人に「演劇は面白い」とまで言って欲しいわけではなくて。好きになってもらわなくてもいいから、ただ出会いのきっかけを届けたいというか。

劇場に生の舞台を観に行くってちょっと特別なことだから、経験しないで人生を終える人もいるだろうし、劇場に来てもらえるにしても、その日の朝から上演時間までをどういう気持ちで過ごしていたかによって、同じものを見ても感じ方がまったく変わる。タイミング次第だし、全員の心にヒットさせるなんて無理だとはわかってるんです。

それでもなかには、私が松尾スズキさんの舞台をはじめてみたときみたいに、触って欲しかったところを触られた気がして客席から立てなくなったり、劇場から出たときに街の景色が変わって見えたりすることがあると思う。

まだ出会っていない人にそういう体験を届けようとしているからこそ、『オールナイトニッポン』(ニッポン放送 / 2018~2019年)とかも含め、自ら表に出ることをやめなかったというか。

根本が演劇を観はじめるきっかけになったという松尾スズキの舞台『ニンゲン御破産』(2003年初演)をもとに、新たに制作された『ニンゲン御破算』のスポット映像

―おふたりが多くの人に出会いのきっかけを届けようとする、言わば「外側」に向けた動きに注力するときに、「内側」で気をつけなければ、と思うことはありますか? いまはアイドルでも政治でも、運営の「内側」にツッコミ役がいなかったのではないかとされる、残念な結果を目の当たりにすることも多いですけれど。

今泉:俺は「前からこうなってるから!」と、みんなが慣習でやっていることに対して、強いアンチテーゼがありますね。だから些細なことから、ずっと言い続けていくしかないというか……。

根本:私は自分の劇団に関して言うと「運営」をつけようという気はゼロですね。他にはこんなやり方してる人見たことがないんですが、私は劇団に座付きの制作担当をつけていなくて。

今泉:え、どういうこと? 制作まで全部自分でやっているってことですか?

左から:今泉力哉、根本宗子

根本:そうです。普通の劇団は制作という役割の人がいるものなんですが、私の場合、請求書の管理をしているのも、予算を組んでお金を動かしているのも自分。俳優みんなのギャラも自分の通帳から振り込んでたり(笑)。

今泉:ええっ!? 何でそうなったの?

根本:高校生の頃からいち観客として演劇を観て、「ああいう制作さんみたいにならないようにしよう」とか考えてたんですよ(笑)。

今泉:高校生のときから、そこに興味があったんだ。

根本:劇団を基本的に自分でやってきたから、外部で受ける仕事でも、これどうなってるんですか、あれどうなってるんですか、って細かいところが気になるんですよね。

そもそも自分が作品で書いてきたことって、「世の中がおかしい」と感じている人の想いとか、ふだん話を聞いてもらえていない人の声をないがしろにしない、ということで。作品のなかで言っていることと、実際に自分がやっていることが乖離するのが嫌だったんです。

根本は今年3月、自身が「演劇の修行」期間に入ったことを発表。3月14日には長井短と、観客からのコメントをリアルタイムで受け付ける新作ふたり芝居を配信した。
根本は今年3月、自身が「演劇の修行」期間に入ったことを発表。3月14日には長井短と、観客からのコメントをリアルタイムで受け付ける新作ふたり芝居を配信した。

「しつこい」の先にだけ見える景色。出口のない会話はこれからも続く

―だからこそ自分の「おかしい」という想いや声はきちんと言葉として発するし、それを自力で受け止めていくということですね……『もっとも大いなる愛へ』の劇中の言葉を借りれば、「言葉数が多い」状態というか。

根本:人と人がそれぞれ違う立場にあって、出口がなくてもどこかに向かおうとして会話をしている、言葉を交わし続けていることの意味が、自分のなかでだんだん大きくなってきていて。

上の世代からは、もっと「書かなくて」いいとか、余白で伝えろと言われてきたけど……。もちろんその余白で演出家の技量は試されるから、間を作れと言われるのもわかるんですけど。もうそれをやってる人はいるし、見たことはあるから。

今泉:すでにある方法論だもんね。

根本:そうそう。こんなに人が喋り続けて、感情を伝え続けて、見ている人が「もういい!」ってなることで生まれる何かがあるんじゃないか、ということへの興味があるんです。だから、やっぱり自分の作品と私は似ているんだと思う。どっちもしつこい(笑)。

左から:今泉力哉、根本宗子

今泉:ものを言うことの大切さっていうのに気づけたのは、ものを言ってくれる人がまわりにいたからっていうのもあって。

昔、とある現場でベテランの助監督に「俳優にそれだけ気をつかえるのに、何でスタッフには何も気をつかえないのか」って言われたことがあって。そのときはまったく無自覚だったんですけど、経験を重ねるにつれて、スタッフもモチベーションがあがったほうがいいものを作れることが、だんだんわかっていって。あまりにも当たり前のことなんですけど。

いまでも気をつかえないことは多いだろうけど、そのことをまず伝えてくれる人がいて、自分でも気づけるようになったから、謝ったり、気遣ったり出来るようになったんです。

あとは吉田恵輔監督から飲みの場で言われた、「ギャラ交渉しなきゃダメだ」って言葉も大切にしていますね。「今泉くんが安い監督ギャラで仕事してると、若い監督たちが『今泉監督はいくらでやってます』と言って安く使われる。だから金額交渉は自分のためじゃなくて、後進のためにもしなきゃダメだ」って言われて。あれは俺の今の年収にダイレクトに影響してます(笑)。

だから、おかしいと思ったこととか気づいたことを声にしていくことは思った以上に大切だし、大きなことだと思っています。

―経験を積むごとに自分の意識自体が変わるし、一方で周囲や世の中の価値観も変わりますから、すべては引き受けられなくても、その変化や齟齬に、真摯に向き合いたいですね。

記事の感想をお聞かせください

知らなかったテーマ、ゲストに対して、新たな発見や感動を得ることはできましたか?

得られなかった 得られた

回答を選択してください

ご協力ありがとうございました。

Page 3
前へ

作品情報

『街の上で』
『街の上で』

2021年4月9日(金)から新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で順次公開

監督:今泉力哉
脚本:今泉力哉、大橋裕之
音楽:入江陽
主題歌:ラッキーオールドサン“街の人”
出演:
若葉竜也
穂志もえか
古川琴音
萩原みのり
中田青渚
村上由規乃
遠藤雄斗
上のしおり
カレン
柴崎佳佑
マヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN)
左近洋一郎(ルノアール兄弟)
小竹原晋
廣瀬祐樹
芹澤興人
春原愛良
未羽
前原瑞樹
タカハシシンノスケ
倉悠貴
岡田和也
中尾有伽
五頭岳夫
渡辺紘文
成田凌
上映時間:130分
配給:『街の上で』フィルムパートナーズ

プロフィール

今泉力哉(いまいずみ りきや)

1981年生まれ、福島県出身。2010年『たまの映画』で長編映画監督デビュー。2013年『こっぴどい猫』がトランシルヴァニア国際映画祭で最優秀監督賞受賞。その他の長編映画に『サッドティー』(2014年)、『退屈な日々にさようならを』(2017年)、『愛がなんだ』(2019年)、『あの頃。』(2021年)など。2021年4月9日に、全編下北沢で撮影した映画『街の上で』が公開。

根本宗子(ねもと しゅうこ)

1989年生まれ。東京都出身。19歳で劇団・月刊「根本宗子」を旗揚げ。以降、劇団公演すべての企画、作品の脚本演出を手がけ、近年では外部のプロデュース公演の脚本、演出も手がけている。2015年に初めて岸田國士戯曲賞最終候補作品に選出。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

あらかじめ決められた恋人たちへ“日々feat.アフロ”

何かを我慢することに慣れすぎて忘れてしまいそうになっている「感情」を、たった10分でこじ開けてしまう魔法のようなミュージックビデオ。現在地を確かめながらも、徐々に感情を回転させていくアフロの言葉とあら恋の音。人を傷つけるのではなく、慈しみ輝かせるためのエモーションが天井知らずの勢いで駆け上がっていった先に待ち構えている景色が、普段とは違ったものに見える。これが芸術の力だと言わんばかりに、潔く堂々と振り切っていて気持ちがいい。柴田剛監督のもと、タイコウクニヨシの写真と佐伯龍蔵の映像にも注目。(柏井)

  1. THE SPELLBOUNDがライブで示した、2人の新しいロックバンド像 1

    THE SPELLBOUNDがライブで示した、2人の新しいロックバンド像

  2. 中村佳穂が語る『竜とそばかすの姫』 シェアされ伝播する歌の姿 2

    中村佳穂が語る『竜とそばかすの姫』 シェアされ伝播する歌の姿

  3. 『プロミシング・ヤング・ウーマン』が映し出す、「女性の現実」 3

    『プロミシング・ヤング・ウーマン』が映し出す、「女性の現実」

  4. ジム・ジャームッシュ特集が延長上映 『パターソン』マーヴィンTシャツも 4

    ジム・ジャームッシュ特集が延長上映 『パターソン』マーヴィンTシャツも

  5. A_oから青い心を持つ全ての人へ 自由に、自分の力で生きること 5

    A_oから青い心を持つ全ての人へ 自由に、自分の力で生きること

  6. 地下から漏れ出すアカデミックかつ凶暴な音 SMTKが4人全員で語る 6

    地下から漏れ出すアカデミックかつ凶暴な音 SMTKが4人全員で語る

  7. 林遣都×小松菜奈『恋する寄生虫』に井浦新、石橋凌が出演 特報2種到着 7

    林遣都×小松菜奈『恋する寄生虫』に井浦新、石橋凌が出演 特報2種到着

  8. 『暗やみの色』で谷川俊太郎、レイ・ハラカミらは何を見せたのか 8

    『暗やみの色』で谷川俊太郎、レイ・ハラカミらは何を見せたのか

  9. ギャスパー・ノエ×モニカ・ベルッチ『アレックス STRAIGHT CUT』10月公開 9

    ギャスパー・ノエ×モニカ・ベルッチ『アレックス STRAIGHT CUT』10月公開

  10. 『ジョーカー』はなぜ無視できない作品なのか?賛否の議論を考察 10

    『ジョーカー』はなぜ無視できない作品なのか?賛否の議論を考察