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山崎努が「画壇の仙人」熊谷守一役 沖田修一監督の新作『モリのいる場所』

『モリのいる場所』 ©2017「モリのいる場所」製作委員会
『モリのいる場所』 ©2017「モリのいる場所」製作委員会

映画『モリのいる場所』が2018年に全国公開される。

同作の主人公は、庭の動植物を描き続け、97歳で逝去した画家・熊谷守一。30年以上も家の外にほとんど出ることなく、「画壇の仙人」と呼ばれた。『モリのいる場所』では、妻の秀子と暮らす守一のもとに毎日のように訪れる、若い写真家の藤田、看板を描いて欲しい温泉旅館の主人、隣人の佐伯夫婦、郵便屋、画商、近所の人々、得体の知れない男といった客人との交流を描く。企画の始まりは2011年に映画『キツツキと雨』の撮影現場で、山崎努が沖田修一監督に熊谷守一を紹介したことがきっかけだったという。

山崎努は、熊谷守一役について「通常の演技は、表情の豊かさを目指すが、この映画では逆に表情の変化を殺すことにしたわけだ。なかなか厄介な、そして不安な試みだった。かくなる上は声のニュアンスも殺してしまえと、フラットなかすれた老人声にした。これは多少ヤケ気味。撮影の現場には何が起きるか予測不能の面白さがある。設計した仮面がどこかで外れてしまうことも秘かに期待していた。今、これを書いている時点で、僕はまだ撮られた映像を見ていない。依然不安は残っている」とコメント。

また、沖田修一監督は「この映画だけの『モリ』という役を山崎さんと作ることが、どれだけ大変で、楽しかったことか。僕にとっては、夢のような映画です」とコメントを寄せている。

なお東京国立近代美術館では12月1日から展覧会『没後40年 熊谷守一 生きるよろこび』を開催する。

山崎努のコメント

熊谷守一について
古い簡素な木造家屋を背景に、仙人のような白い立派なひげを生やした老人が、両手の杖にすがってかろうじて立っている写真。しかめっ面。和服、下駄履き。
藤森武写真集『獨樂 熊谷守一の世界』のなかの一点で、老人はもちろん熊谷守一画伯。当時94歳。キャプションに「45年、この家から動きません。この正門から外へも、ここ30年、出たことがないんです。でも8年ぐらい前、一度だけ垣根づたいに勝手口まで散歩したんです。あとにも先にもそれ一度きりです」とある。これにはびっくり、思わず笑ってしまった。僕も出不精のほうなので共感の笑いだったかもしれない。それにしても30年とは尋常ではない。
「蟻は左の二番目の足から歩き出す」のだそうだ。モリカズさんの画文集『虫時雨』で読んだ。「この間カニをもらったので歩き方をずっと調べてみましたが」「どの足から歩き出すのか、いくら見てもわからず閉口しました。カニの絵がいまだに描けないのはこのためなんです」と続く。
カニも蟻も草も木も石も空も、彼はじっと見る。いつまでも見る。そんなモリカズさんの様には圧倒されてしまうのだが、同時にその語り口には何ともいえない愛嬌があって、そのせいか、熊谷さんというよりもモリカズさんと呼びかけたくなってしまう。つい、そうなってしまう。つまり僕は彼の人柄に惚れている。

熊谷守一を演じて
去年(2016年)の秋、突然沖田監督から、モリカズ役をやってみないか、との依頼があった。――配役はいつも突然であって、その突然が俳優業の楽しみでもある。僕はこれまで、この役をやりたい、と手を上げたことは一度もない。役を振るのは監督やプロデューサーの役目で俳優のすることではない。僕は、天命のようにある日突然、役を与えられるのを待つ。そしてその決められた役の枠の中でどう生きるのかを工夫する。それが自分の仕事だと思っている。
正直、今回の役作りは非常に大変だった。自伝、画文集等からキャラクターは理解している。写真も豊富にあって容貌も充分確認した。だがその姿がいきいきと動きを出してくれないのだ。とくに顔の表情。惚れている人、敬愛する大切な人を演じることがいかに難しいか、関西弁で呟けば「難儀やなあ、あかん」。
苦肉の策として、モリカズさんに仮面を被せることにした。内面と外界を隔てる仮面。いつでもどこでもその面をつければモリカズとして通る符丁のようなお面。
さて、どんな面にするか。
写真集『獨樂』を何度も繰って表情をチェック。惚けたような、放心したような顔がある。同席の人たちやその状況とは全く関わらない、まさに仮面。しかしこの面相は残念ながら僕にはまだ無理だ。かすかに眉間にシワをよせた渋面も多い。穏やかな微笑もある。藤森さんは微笑の面を表紙に掲げている。チャーミングな肖像。
僕は渋面を僕のモリカズの仮面に選んだ。夫人の秀子さんの「大事に思うことがあまりに人と違っているので、一応のおつき合いで、それ以上のふれ合いには(家族も含めて)なりにくいと思います」(『蒼蠅』)というモリカズ像を強調したかったから。
通常の演技は、表情の豊かさを目指すが、この映画では逆に表情の変化を殺すことにしたわけだ。なかなか厄介な、そして不安な試みだった。かくなる上は声のニュアンスも殺してしまえと、フラットなかすれた老人声にした。これは多少ヤケ気味。撮影の現場には何が起きるか予測不能の面白さがある。設計した仮面がどこかで外れてしまうことも秘かに期待していた。今、これを書いている時点で、僕はまだ撮られた映像を見ていない。依然不安は残っている。

沖田修一監督について
沖田修一さんは「場所」にこだわる監督のようだ。『南極料理人』の南極、『キツツキと雨』の木曽山奥の寒村、今度の『モリのいる場所』では関東の庭。東北でも、九州、沖縄でもない東京近郊の庭。風土が人と物語を作る、それがテーマなのだろう。沖田さんの造った庭は美しかった。
風土でふと思い出したのが、若い頃演じた黒澤明監督『天国と地獄』、犯人役の「夏は暑くて眠れない。冬は寒くて眠れない」というせりふ。あれはハワイでもアラスカでも成立しない。

沖田修一監督のコメント

山崎努さんが、熊谷守一役をやる主演映画。それを想像するだけで、ワクワクしました。まず僕がそれを観たいと思いました。山崎さんが小さな蟻をじっと見たり、虫を追いかけたり、そんな楽しそうなシーンを想像しながら、映画を思い描きました。実在した画家である熊谷守一さんのイメージを追いつつ、また、離れつつ。この映画だけの「モリ」という役を山崎さんと作ることが、どれだけ大変で、楽しかったことか。僕にとっては、夢のような映画です。

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