24歳のホープが更新する「本格ミステリ」とは?佐々木敦と読む

1991年生まれの本格ミステリ作家が、「推理の楽しさ」を語る

ミステリ作家の登竜門『鮎川哲也賞』を受賞して以来、コンスタントに作品を上梓している青崎有吾。デビュー以来、青崎を高く評価しているという批評家・佐々木敦を迎えて、最新著書『ノッキンオン・ロックドドア』のトークイベントがHMV & BOOKS TOKYOにて開催された。

『ノッキンオン・ロックドドア』トークイベント風景
『ノッキンオン・ロックドドア』トークイベント風景

『ノッキンオン・ロックドドア』の表紙を見ても明らかなように、ラノベ的な雰囲気をもったミステリ作品を得意とする青崎。もともと漫画家をめざしていたという作者が理想としているのは、「見た目はラノベだけど、読んでみたら本格ミステリ」といった作品であるという。「本格ミステリ」は、端的に説明すると謎解きやトリックに特化した形の推理小説であるが、平成生まれの作者は、なぜ「本格ミステリ」に惹かれたのか?

『ノッキンオン・ロックドドア』表紙
『ノッキンオン・ロックドドア』表紙(Amazonで見る

青崎:僕が本格ミステリの何に一番惹かれたかというと、それは「推理」に尽きると思います。何かひとつのことから分析して答えを出すことにすごく面白さを見出しているんですよね。たとえば、シャーロック・ホームズが最初にワトソン博士と会ったとき、ホームズは「アフガニスタンに行ってましたね?」と突然言いますよね。そこでワトソンも読者も「どうしてわかったの?」という疑問が生まれるわけです。その理由をホームズが解説してくれることによって、「なるほど」と思う。その感覚が、僕の中ではミステリの一番原初的な面白さに繋がっています。

「探偵が2人いる」というユニークな設定

「本格ミステリ」の場合、その主人公である「探偵」をどう設定するかが最も重要になると佐々木は指摘する。いかに魅力的かつユニークな探偵像を読者に提示することができるのか? 『ノッキンオン・ロックドドア』の中で青崎は、ある画期的な設定を用意していた。

青崎:最初に「ミステリの連作」というお話をいただいたのですが、普通の雑誌よりも枚数がちょっと少なくて。なので、なるべく話を早く進めるために、探偵役を2人出して、2人のディスカッションという形で推理が進んでいったら、いわゆる地の文の節約にもなって、短く収まるんじゃないかと思いまして。それで「ダブル探偵」というアイデアを思いつきました。

青崎有吾
青崎有吾

『ノッキンオン・ロックドドア』には、いわゆる「ハウダニット(どうやって殺したのか)」を担当する探偵と、「ホワイダニット(なぜ殺したのか)」を担当する探偵の2人が、同時に小説の中に登場する。具体的に言うならば、「不可能」を推理する「御殿場倒理(ごてんばとうり)」と、「不可解」を推理する「片無氷雨(かたなしひさめ)」――この2人の男が営む探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」が、本作の舞台となっているのだ。

マニア向けの状況を打開したい。あえて「ラノベ」的な雰囲気を意識

本人は「実際に書いてみると、毎回2人の推理合戦が始まってしまって、普通に書くよりも時間がかかることに気づいたんですけど……(笑)」と話していたが、見た目も考え方も、実に対称的な2人の探偵が同時にひとつの事件に取り組む様が、本作の何よりもユニークな点であり、面白さであると佐々木は言う。

左から:青崎有吾、佐々木敦
右:佐々木敦

エピソードごとに語り部を変えたり、第三者の視点を交えるなど、読み手を飽きさせないさまざまな趣向を凝らしながら、テンポ良く展開してゆく各エピソード。さらには、2人の独特な関係性など、あえてラノベ的な雰囲気や道具立てを用いながら作品を書くことを意識しているという青崎。その真意について彼は次のように語った。

青崎:僕が読み手として思うのは、本格ミステリというのは、やはりマニア向けのものが多い現状です。そこに面白さもあるのですが、やっぱり自分が書くときはその状況を打開したいというか、親しみやすいものにしたいっていう気持ちがすごくあります。たとえば、それこそアニメとかを見て、こういうシチュエーションの話は面白いなと思ったら、無意識のうちに、それを本格ミステリに応用できないかなと考えていたり。実は、意外といろんなものとすごく親和性の高いジャンルだと思うんです。

HMV & BOOKS TOKYOでは期間限定で、青崎と佐々木が選んだ「ミステリー&エンタメ文庫」が30冊並ぶ
HMV & BOOKS TOKYOでは期間限定で、青崎と佐々木が選んだ「ミステリー&エンタメ文庫」が30冊並ぶ

現在、デビュー作『体育館の殺人』に端を発する「裏染天馬シリーズ」、怪物事件専門の探偵「輪堂鴉夜」を主人公とした伝奇ロマン『アンデッドガール・マーダーファルス』シリーズ、そして本作『ノッキンオン・ロックドドア』から始まるダブル探偵物語という3つのシリーズを並行して執筆している青崎有吾。古今東西、溢れんばかりの「本格ミステリ」愛をもとに、さまざまなジャンルを越境しようとする、この平成生まれの若きミステリ作家の今後に期待したい。

書籍情報
『ノッキンオン・ロックドドア』

2016年4月8日(金)発売
著者:青崎有吾
価格:1,728円(税込)
発行:徳間書店

プロフィール
青崎有吾 (あおさき ゆうご)

1991年神奈川県横浜市生まれ。明治大学卒業。2012年『体育館の殺人』で第22回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。『水族館の殺人』が第14回ミステリ大賞候補作となる。他の著書に、『アンデッドガール・マーダーファルス』、『図書館の殺人』などがある。

佐々木敦 (ささき あつし)

1964年生まれ。批評家。HEADZ主宰。雑誌『エクス・ポ』編集発行人。『批評時空間』『未知との遭遇』『即興の解体/懐胎』『「批評」とは何か?』『ニッポンの思想』『絶対安全文芸批評』『テクノイズ・マテリアリズム』など著書多数。新著『ゴダール原論―映画・世界・ソニマージュ―』が2016年1月に、『例外小説論』、『ニッポンの文学』が2016年2月に刊行。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Book
  • 24歳のホープが更新する「本格ミステリ」とは?佐々木敦と読む

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて