レポート

羊文学、シュリスペイロフら、自らに誠実な音楽家たちによる競演

テキスト
天野史彬
撮影:伊藤惇: 編集:山元翔一
羊文学、シュリスペイロフら、自らに誠実な音楽家たちによる競演

『RO JACK』優勝の18歳の新鋭・betcover!!による、縦横無尽なギターミュージック

10月26日、音楽アプリ「Eggs」とCINRAの共同主催による無料音楽イベント『exPoP!!!!!』が、TSUTAYA O-nestにて開催された。

今月のトップバッターを飾ったのは、1999年生まれのヤナセジロウによるソロプロジェクト、betcover!!。ブラックミュージック由来のファンクネスを持つ楽曲もあれば、性急に駆け抜けるパンキッシュなギターロックもあり、様々なジャンルを自由に横断しながら、そのなかに一貫して繊細な文学性を持つ日本語詞を乗せる。

ヤナセジロウ(betcover!!)
ヤナセジロウ(betcover!!)

その新世代感溢れるグルーヴと瑞々しい言語感覚だけでも十分に刺激的なのだが、ひとつのステージのなかに多様な要素を持ち込みながら、全てをまるで一筆書きのように魅せるパフォーマンスの「滑らかさ」もまた素晴らしい。全6曲、MCなしで駆け抜けるように演奏し、最後の最後に「betcover!!でした」とぼそりと呟いて帰っていった、その去り際も最高にクール。

ヤナセジロウ(betcover!!)

ちなみに、この日ヤナセをサポートしたのは、ナカコー(中村弘二)や木下理樹もTwitter上で賛辞を贈る新世代グランジバンド、ニトロデイのフロントマン以外の三人。今、若い世代が本当に面白い。

ヤナセジロウ(betcover!!)

NIHA-Cが見せつけた、優しく、真摯なヒップホップ

続いて登場したのは、ラッパーのNIHA-C(ニハシー)。新作『アリバイ』同様、1曲目に持ってきたのは“It's Going Down”。アグレッシブなトラックに乗せ、現状のヒップホップシーンに対する違和感と自身のラッパーとしての生き様をぶちまけ、一気にフロアの空気を掌握する。

NIHA-C
NIHA-C

しかし、彼の本当の魅力はそんな攻撃的な側面より、むしろ音楽で他者と語り合おうとするかのような「優しさ」にこそある。後に続いた“トモダチ”や“Nothing”、そして“目を閉じれば”などは、曲調もリリックも穏やかで、「慈愛」とも言うべき感覚に満ちている。そこに込められた等身大の「真摯さ」こそ、NIHA-Cが今のヒップホップシーンのなかで特別である所以と言えるだろう。

NIHA-C

“モナリザ”では、多くの楽曲で共演している電波少女のMC・ハシシもステージに登場。たった1曲のために、先輩でありメジャーアーティストであるハシシがステージに上がる。その光景からも、NIHA-Cのラッパーとして、そして人間としての魅力がヒシヒシと伝わってくるようだ。

左から:ハシシ(電波少女)、NIHA-C
左から:ハシシ(電波少女)、NIHA-C

締めは、『アリバイ』のリード曲“リーダー”。この日、唯一ヒップホップ畑からの出演となったNIHA-Cだが、ジャンルの垣根なんてどうでもよくなるほどのポップな存在感を、その歌声と共に見せつけた。

気高き3ピースバンド・羊文学の切実な「表現」

3番手は、3ピースバンド・羊文学。たとえば、土砂降りの雨のなかを傘も差さずに立ち尽くしてみれば、いつの間にか濡れた服の気持ち悪さも、ザァザァ降り注ぐ雨音のうるささもいつの間にか消え去って、そこに訪れるのは、まるで「無音」のような世界だったりする。

そんなふうに、降り注ぐノイズのなかにぽっかりと空いた空間から、ひとりの女性の心の欠片のようなものがそっと差し出される――羊文学のパフォーマンスは、見ているこちらにそんな感覚を抱かせる。

羊文学
羊文学

ノイジーで、ときに浮遊感をも感じさせるギターサウンドはグランジやシューゲイザーからの反響を感じさせ、その奥から響いてくるような塩塚モエカ(Vo,Gt)の歌声。彼女は何かを声高に主張することも、聴き手をアジテートすることもなく、ただ自らの胸の内にある、気高くも傷つきやすい柔らかな「何か」の存在を聴く者に伝える。まるで、「真理はそこにしかない」とでも言うように。

塩塚モエカ(羊文学)
塩塚モエカ(羊文学)

音楽としての革新性があるわけではない。ただ、このバンドの持つ「表現」としての圧倒的な強度と切実さが刻まれた素晴らしい演奏だった。

羊文学

結成1年足らずの大型新人、MINT mate boxが巻き起こした熱狂

4番手は、MINT mate box。ステージにメンバーが登場するや否や、大きな歓声がフロアを覆う。2017年1月に現体制での活動開始という、まだ生まれてから1年足らずの新人ながら、その歓声はバンドの人気の大きさを物語っているようだ。

MINT mate box
MINT mate box

ステージは、メンバーであるmahocato(Vo)、やすだちひろ(Ba)、KJ(Gt)に加え、サポートのドラムとキーボードを加えた5人編成。1曲目“スロー&スロー”から、バンドのイメージカラーである「ミント」をそのまま表現したかのような、ポップで爽やかな楽曲を披露していく。

mahocato(MINT mate box)
mahocato(MINT mate box)

バンドのブレーン・やすだが描く確かなビジョンがあり、それをバンドサウンドとして具現化するアグレッシブなギタープレイヤーのKJの存在があり、そして、フロントマンとしてのフィジカルな華やかさとカリスマを先天的に備えているmahocatoがいる――MINT mate boxは、その存在自体のバランス感覚が見事だ。

やすだちひろ(MINT mate box)
やすだちひろ(MINT mate box)

KJ(MINT mate box)
KJ(MINT mate box)

“なんでばかりの恋”“漫画でもないような話”“ラブラブファイヤー”“リサイクル”“メモリ”と、曲順を追うごとに熱気を増していったこの日のパフォーマンス。ネットもリアルも巻き込んだ、彼らのこの先の更なる飛躍が目に見えるようだった。

ままならない現実のなかに差す「光」を音楽に託す、シュリスペイロフ

そして、この日のトリを飾ったのは、シュリスペイロフ。冒頭、“空白に向かっていくよ”から“私を見つけて”と、いきなりフロア全体を切り裂くようなダーティーでヒリヒリとしたロックンロールを展開。ボソボソとうめくような宮本英一(Vo,Gt)の歌声が、このバンド特有の厭世感をより一層強固にこちらに突きつけてくる。

シュリスペイロフ
シュリスペイロフ

宮本英一(シュリスペイロフ)
宮本英一(シュリスペイロフ)

2曲目が終わると、長めのMC。リハーサルで15時からライブハウス入りし、以降、ずっと酒を飲みながら出番を待っていたという宮本のへらへらでグダグダな喋りと、それに対する澁谷悠希(Gt)の合の手ともツッコミともつかない絶妙なやりとりは、まるでシュールな漫才を観ているようでニヤニヤと笑ってしまう。そして、「絶対にみんなが共感できる曲をやります」と言って“働きたくない”を披露。

シュリスペイロフ

たとえば、私たちは太陽の光を受けて輝く天使の羽のきれいさなんて知らないけれど、現実の生活のなかで、蛍光灯の光のなかで舞うホコリが、きれいに見えるときだってある。そんなふうに、シュリスペイロフの音楽は、日々、塵のように積もっていく苛立ちや疲労を確かに抱えながら、それでも見つけてしまう光を、そのメロディーのなかに刻み込む。

新作『聞えた』からは“水の中”や“ガール”も披露。アンコールの“行灯行列”まで、ユルく、生々しく、あたたかい音を響かせた。

今回の『exPoP!!!!!』、出演した5組を通じて改めて実感したことは、「自分たちはどんなふうに生きていて、どんなことを感じています」――その事実を音楽として伝えることが、表現としてどれほど強い力を持ち得るのか、ということだった。音楽に対して、表現することに対して、とても「正直」な5組が集まった夜だったように思う。

シュリスペイロフ

イベント情報

『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume102』

2017年10月26日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
MINT mate box
NIHA-C
シュリスペイロフ
羊文学
betcover!!

『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume103』

2017年11月30日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
King Gnu
Newspeak
SUSHIBOYS
踊Foot Works
4×4=16

プロフィール

betcover!!(べっとかばー)

betcover!!ことヤナセジロウのプロジェクト。幼い頃からEarth, Wind & Fireなどブラックミュージックを聞いて育つ。小学5年生でギター、中学生のときに作曲を始める。2016年夏にbetcover!!として本格的に活動を開始。同年9月に所属レーベル「ソフォリフィールドカンパニー」の5周年イベントで初ライブ、2か月後には『RO JACK for COUNTDOWN JAPAN 17/18』で優勝し『COUNTDOWN JAPAN 17/18』に出演。

NIHA-C(にはしー)

浜松出身のラッパー、電波少女のフィーチャリングラッパーとして、「MO feat.NIHA-C」、「COMPLEX REMIX feat. Jinmenusagi, NIHA-C」といった電波少女の代表曲にも参加し、認知度を上げてきており、電波少女のメジャー盤にも2曲参加している。今年6月26日にJinmenusagiを客演に迎えた第1弾配信限定シングル「トモダチ feat.Jinmenusagi」をリリース。8月10日には第2弾配信限定シングルとして電波少女のハシシを客演に迎えた「モナリザ feat. ハシシ from 電波少女」をリリース。8月10日付iTunes Storeヒップホップチャート2位を記録し、11月15日に2ndアルバム『アリバイ』をリリースする。キャッチーかつ熱いNIHA-C節が堪能できる作品である。

羊文学(ひつじぶんがく)

塩塚モエカ(Vo,Gt)、ゆりか(Ba)、福田ひろ(Dr)によるスリーピースロックバンド。2016年『FUJI ROCK FESTIVAL ROOKIE A GO-GO』出演。2017年10月デビューEP『トンネルを抜けたら』をリリース。レコ発ツーマンイベント羊文学presents「ぼくらのおんがく」を12月2日渋谷Star lounge、12月9日心斎橋CONPASSで開催する。

MINT mate box(みんと めいと ぼっくす)

2016年5月、mahocato(Vo)とやすだちひろ(Ba)、KJ(Gt)を中心に東京で結成。サウンドプロデューサーとして元「ふぇのたす」のヤマモトショウを迎えて楽曲制作を開始。2017年1月に現体制となり、MINTカラーとPOPサウンドが融合したSNS発バンドとして本格的に始動。4月には、デビューEP『present』をタワーレコードレーベルからリリース。デビュー作ながらDAM「D-PUSHアーティスト」へ抜擢。さらにはCM、音楽番組のタイアップを獲得し、タワレコインディーチャート7位、5月1日付オリコンインディチャート9位を記録する。ファッションデザイナーとしても活躍する「やすだちひろ」を筆頭に個々でも幅広い活動を行なっている。

シュリスペイロフ

札幌出身のオルタナティブロックバンド。1999年結成。以降、5年間「ライブハウスが怖い」という理由でスタジオでの曲作りのみの活動を続ける。2004年に勇気を出しての初ライブ。2008年1stアルバムリリース。2013年より山中さわお(the pillows)が主宰する「DELICIOUS LABEL」へ移籍。東京に拠点を移し活動を始め、コンスタントにリリースを続ける。2017年10月4日長年サポートメンバーだった澁谷(Gt)が正式加入後初めてとなるアルバム作品『聞えた』をリリース。11月より、名古屋、大阪、東京、札幌でのバンド史上初のワンマンツアーを開催中。

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