フレデリック、DATSら、映像×音楽でWWW Xをアート空間に

バンド×クリエイターとのコラボで、WWW Xがアート空間に変貌

去る6月8日、Luby Sparks、DATS、フレデリックという3組のアーティトを迎えたライブイベントが、渋谷WWW X(以下、WWW X)にて開催された。このイベントは「都市と音楽の未来」をテーマに、ライブやトークイベント、ワークショップなど、多様なコンテンツを包括して、渋谷の様々なスポットを舞台に開催されたフェスティバル『TOKYO MUSIC ODYSSEY』の一環として行われたもの。

WWW X前にて
WWW X前にて

前述した3組が出演したのは『LANDSCAPE –SHIBUYA 2018-』と名づけられたライブイベントで、見どころは各アーティストと音楽以外の分野のクリエイターたちのコラボレーション。それぞれのアーティストの演奏と、各コラボクリエイターたちによるVJや照明などの特別な演出によって、WWW Xはこの日限りのアート空間に変貌した。

Luby Sparks
Luby Sparks

DATS
DATS

フレデリック
フレデリック

Luby Sparksとharune.hが作り上げた、繊細で気高い少年少女のための世界

トップを飾ったのは、Luby Sparks。そしてコラボレーション相手は、Luby Sparksの作品のアートワークも手がける気鋭のクリエイター、harune.h。

Luby Sparks
Luby Sparks

harune.hは高校在学中からイラストレーターとして活動をはじめ、現在ではその独自の世界観を、DJなど様々なアウトプットを通して形にしている才女だ。ライブがはじまると、冒頭の“Sparks”から、会場はバンドが生み出すまばゆく煌めくメロディとノイズで覆い尽くされる。

Natsuki(Luby Sparks)
Natsuki(Luby Sparks)

Luby Sparks“Sparks”を聴く(Spotifyを開く

Luby Sparksが生み出すノイズは、まるでライナスの毛布のような柔らかな穏やかさと、身を切るような切なさを同時に感じさせる。バックスクリーンには、harune.hによる映像が。おそらくボーカルのErikaだろうか、そのノスタルジックな質感を持った映像に映った女性の髪の赤色は、可愛らしくも、どこか毒気をはらんで感じられた。

Erika(Luby Sparks)
Erika(Luby Sparks)

“Tangerine”では、ミュージックビデオの映像に歌詞を印象的に差し込むという、バンドの世界観をより深く観客に突き刺す演出が。また、最後に演奏された曲では、幻想的なレイヤーが重ねられた街の風景(おそらく、渋谷だろうか)が映し出され、現実と幻想が重なるような瞬間が演出されたことも印象深かった。

Luby Sparks

Luby Sparksの音楽に宿る蒼さと、harune.hの表現する少女性の強い世界観が見事に融合したステージングは、一貫してこの世界に対して「繊細さ」や「感受性の豊かさ」で対立し、屹立しようとする表現者たちの気高さを感じさせるものだった。

Erika(Luby Sparks)
Erika(Luby Sparks)

Luby Sparks

DATSが生み出す熱狂と快楽を、視覚から増幅させた空間演出の妙

2番手に登場したのは、DATS。コラボレーション相手は、過去に『「Message EP」ワンマン・ツアー』での演出も務めた空間演出プロジェクト「PAR」。

DATS
DATS

「PAR」は照明による空間演出および施工を専門とした企業「michinari」の別名義プロジェクトで、「michinari」としてはこれまでにDÉ DÉ MOUSEやSerphといったアーティストたちのライブ演出のほか、国内外の様々なファッションショーやイベントの演出を手がけている。

大井一彌(DATS)
大井一彌(DATS)

ライブは未音源化曲“Search”から“404”の流れで幕を開けた。まるでオーロラのようにギターノイズがフロアに降り注いだLuby Sparksとは打って変わり、R&Bやエレクトロニックミュージックからの影響を感じさせるDATSは、ミニマルに研ぎ澄まされたアンサンブルを軸に、ダンサブルなグルーヴで会場を揺らす。

DATS“404”を聴く(Spotifyを開く

バックスクリーンに映し出される映像もまた直線や図形が多用されたシャープで幾何学的なものが多く、視覚面からも聴き手の体にダイレクトに訴えかけてくるようだ。曲が進むごとに、MONJOE(Vo,Syn,Gt)はフロアに向けてハンドクラップや合唱を煽るなど、聴き手との熱烈なコミュニケーションを求めていく。

MONJOE(DATS)
MONJOE(DATS)

早川知輝(DATS)
早川知輝(DATS)

それに応えるオーディエンスの熱狂、そしてステージ後方から放たれるレーザーなどの照明演出が、会場全体をより熱く、より狂騒的な空間へと変貌させていく。“Dice”では、バックスクリーンの映像にメンバーのスナップ写真や渋谷の風景なども効果的に差し込まれ、熱狂のなかにリリカルな質感も与えてみせる。

映像に差し込まれた渋谷の風景は、フォトグラファーの小林真梨子によって撮影されたもの
映像に差し込まれた渋谷の風景は、フォトグラファーの小林真梨子によって撮影されたもの

伊原卓哉(DATS)
伊原卓哉(DATS)

最後の“Message”では、メンバー4人全員が打楽器に向き合い、強烈なビートで会場を揺さぶった。「不確かさ」が溢れるこの時代に、「確かさ」だけを見出そうとするかのように、真摯に、そして熱狂的に聴き手とのコミュニケーションを求めるDATS。彼らの生み出す快楽的なステージングの、その奥にある切実さまで見事に表現されたパフォーマンスだった。

DATS“Message”を聴く(Spotifyを開く

DATS

フレデリック×INTの音楽と映像・演出の融合は、「コラボ」の次元を超えていた

トリを飾ったのは、フレデリック。コラボレーション相手は、音楽プロダクション「HIP LAND MUSIC」のクリエイティブディビジョン「INT」。

フレデリック
フレデリック

フレデリックと「INT」は、今年5月に開催された神戸ワールド記念ホールでのワンマン公演をはじめ、これまでにもいくつものフェスやツアーで数千人を前にコラボレーションしてきた間柄。しかしながら、現在の彼らの活動規模を考えると、WWW Xのようなキャパシティー1000人に満たない会場でこのコラボを観ることができるのは、とても貴重な機会だ。

ライブは“KITAKU BEATS”から“リリリピート”の流れでスタート。冒頭はバックスクリーンも照明も動きが少なく、「おや?」と思ったが、“ナイトステップ”辺りから一気に動き出した。曲のBPMと同じスピードで動きはじめ、曲の展開に応じて形が変わっていく。

文字通り「音」そのものと連動して動いていくバックスクリーンの映像。音楽を抽象的なイメージではなく、より具体的な芸術としてとらえるからこそのアプローチだ。どういった原理になっているのかはわからないが、バンドの演奏と映像の動きに一切の誤差が生まれないところもすごい。

フレデリック

前述したように「INT」の母体である「HIP LAND MUSIC」は、サカナクションなどが在籍する音楽プロダクションであり、フレデリックが籍を置く「MASH A&R」も、「HIP LAND」が運営に関わるプロダクションのひとつ。音楽を知り、音楽家を知る集団が運営するクリエイティブチームだからこそ、この音と映像の遺伝子レベルでの融合は生まれるのかもしれない。

フレデリック

その後も、レーザーなどを駆使した圧倒的な照明で魅せたかと思えば、メンバーの姿がリアルタイムでバックスクリーンに反映されるなど、「ライブ」という現象や価値観を活かした演出も披露。三原健司(Vo,Gt)いわく「いつものロックフェスとは毛色が違うから、やらないつもりでいた」というアンコールの“オドループ”まで、バンドの生み出す快楽的なビートと映像・照明が「コラボ」の域を超えた次元で融合した見事なステージングを披露した。

三原健司(フレデリック)
三原健司(フレデリック)

三原康司(フレデリック)
三原康司(フレデリック)

音楽と映像が混ざり合ったこの夜は、音楽の未来が照らされた夜でもあった

フレデリックのステージ中、三原健司は「音楽を聴くこと、ライブを観ること、演出を観ること――それぞれが違うことだと体感してください」とオーディエンスに向けて語った。たとえば誰かに自己紹介をするとき、「音楽が好きです」と言ったとする。言葉にすれば一言で済んでしまう話だが、でも実際は、その言葉の奥には重層的な「好き」の形があり、様々な種類の喜びの存在があるはずだ。

聴くのが好き、観るのが好き、体感するのが好き、行くのが好き、集めるのが好き、読むのが好き、考えるのが好き、語るのが好き、奏でるのが好き……どんな「好き」もあっていいし、様々な形の「好き」を内包できるから、音楽という文化は素晴らしい。どれだけ時代が変わっても、聴き手一人ひとりが、この「好き」の多様性に対して敏感であり、柔軟であり続けていれば、音楽の価値はきっとなくならない。音楽と映像が混ざり合ったこの夜は、確かに、音楽の未来が照らされた夜でもあった。

Erika(Luby Sparks)
Erika(Luby Sparks)

MONJOE(DATS)
MONJOE(DATS)

フレデリック
フレデリック

イベント情報
『LANDSCAPE –SHIBUYA 2018–』

会場:東京都 Shibuya WWW X

出演:
フレデリック × INT
DATS × PAR
Luby Sparks × harune.h

『TOKYO MUSIC ODYSSEY 2018』

『TOKYO MUSIC ODYSSEY』とは、「都市と音楽の未来」をテーマに、スペースシャワ―TVが東京、渋谷から発信する音楽とカルチャーの祭典。時代を創るアーティスト、クリエイターと、この街に集まる多種多様な人々が出会い、共に未来を描く、都市型フェスティバルです。

プロフィール
Luby Sparks (るびー すぱーくす)

現役大学生の5名によって、2016年3月結成。7月、結成から3回目のライヴでThe Bilinda Butchers(US)、Manic Sheep(台湾)のダブル来日公演にDYGLと共に出演。同月、1stカセットシングル「Pop. 1979」をリリースし即完売。9月には、Yuck(UK)の広島での公演、その後も多くの海外バンドの来日公演に出演。2月、7インチ・シングル「Hateful Summer」をリリース。7月、UK|Derbyshireでのフェス「Indietracks Festival 2017」に日本のバンドとして唯一出演。9月20日、3曲入CD「Thursday」を一部店舗のみ限定で販売、10月14日、YUCKとのスプリット・カセット「Yuck / Luby Sparks」をリリース。2018年1月21日、The Pains Of Being Pure At HeartのWWWXの公演のサポート・アクトとして出演。Max Bloom(Yuck|ex.Cajun Dance Party)とロンドンで制作したデビューアルバム「Luby Sparks」が2018年1月24日に発売。2018年2月末で初代ヴォーカリストEmilyが脱退、新たにErikaが加入した新体制となっている。

DATS (だっつ)

2013年結成。2015年にデビューEP『DIVE』をリリース。2017年にRALLYE LABELに移籍し、タワーレコード限定シングル『Mobile』をリリース。高橋幸宏氏に「大好物な音。期待大」と賞賛された他、発売日に完売店が続出するなど注目を集める。続いて、砂原良徳氏をマスタリング・エンジニアに迎えたデビュー・アルバム『Application』をリリース。その直後に開催されたフジロックフェスティバルでは、メインステージであるレッドマーキーに出演。2018年2月10日に待望の新作EP『Message』をリリース。また、そのルックスからファッション・アイコンとしても注目を集め、ファッション誌やカルチャー誌でモデルを務める他、UNDERCOVERのパーティではillionやYogee New Wavesらと共に出演。更に、ヴォーカルのMONJOEは、数々のCM音楽を手がける他、向井太一やFIVE NEW OLDといったアーティストのプロデュースも手がけるなど活動のフィールドを大きく広げている。

フレデリック

三原健司(Vo, Gt)、三原康司(Ba)の双子の兄弟と、赤頭隆児(Gt)、高橋武(Dr)で編成されるロックバンド。ユーモアに富んだ歌詞と中毒性の高い楽曲が話題となる中、MASH A&Rオーディション初年度の特別賞を受賞。2016年、メジャー1stフルアルバム「フレデリズム」をリリースし、どのシーンにも属さない「オンリーワン」の楽曲とそのスタンスに注目が高まっている。



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