向井秀徳、呂布カルマ、imaiら、強烈な個性がしのぎを削った

「SCRAMBLE=ごちゃ混ぜ」と渋谷について

東京、渋谷駅のすぐそばに、大きなスクランブル交差点がある。そこは日本最大規模のスクランブル交差点で、ひとたび信号が青に変われば、とてつもない数の人々が往来する。生まれた場所も、性別も、星座も違う、毎日なにをして暮らしているのか、どこから来て、どこへ向かうのか、そういうことを全く知りえない者同士が、一気にすれ違うのだ。向かう方向も、歩くスピードもそれぞれ違うから、すんなりと歩くのは難しい。だが、お互いぶつからないように、気を遣いながら歩いていく。

「SCRAMBLE」には「ごちゃ混ぜ」という意味がある。日々、一体どれほどの人生が、あの「ごちゃ混ぜ」な場所ですれ違うのだろう――なんてことを考えると途方に暮れてしまうが、そんなことを考えるのは、少し楽しくもある。

魅力的かつ挑戦的なクロスオーバーに込められた想い

去る6月9日、10日の2日間、そんな渋谷スクランブル交差点にちなんで、『SCRAMBLE』と名づけられたイベントが開催された。これは「都市の音楽と未来」をテーマに、渋谷を舞台に開催された音楽フェスティバル『TOKYO MUSIC ODYSSEY』のコンテンツのひとつ。

舞台となったのは、ライブハウス・渋谷WWW(以下、WWW)と、WWWの地下のラウンジスペースを新装する形で2017年8月にオープンしたWWW β。2日間にわたり、2会場を使って行われたこのイベントは、『SCRAMBLE 1』『SCRAMBLE 2』『SCRAMBLE 3』というそれぞれカラーの違う3回にわけて開催された。

それぞれの回の詳細については、魅力的かつ挑戦的な名前が並んだ出演者リストを見てもらったほうが、話は早いだろう。

『SCRAMBLE』ビジュアル
『SCRAMBLE』ビジュアル

ヒップホップ、ロック、クラブミュージックなど、ジャンルも世代もバラバラな、カオティックなメンツが集まった『SCRAMBLE 1』、9日深夜からのオールナイトイベントということもあって、DJもバンドもありつつ、「夜」を感じさせるメンツが集まった『SCRAMBLE 2』、そしてバンドを主軸に、日本各地から個性豊かなメンツが集まった『SCRAMBLE 3』。

ブッキングを担当したのは、本イベントの主催であるスペースシャワーTVの串田匠、WWWのブッキング担当である本田琢也、そして、渋谷の古着屋「BOY」の奥冨直人。「EYESCREAM.JP」に掲載された3名の鼎談記事(『SCRAMBLE』直前!オーガナイザーによる真向放談)によれば、この『SCRAMBLE』のブッキングをするにあたって念頭にあったのは、かつての『RAW LIFE』や『METAMORPHOSE』のような、オーディエンスにとって特定のアーティスト「だけ」が目的となるのではない、様々なジャンルがクロスオーバーしたイベントだったという。

向井秀徳アコースティック&エレクトリック
向井秀徳アコースティック&エレクトリック

呂布カルマ
呂布カルマ

国府達矢
国府達矢

imai
imai

向井秀徳や呂布カルマら、我が身ひとつの強烈なアクトがぶつかり合う

私が実際に現地に行ったのは、6月9日の夜に開催された『SCRAMBLE 1』。会場に着くなり、すでにWWWではshobbieconzが、WWW βでは矢車が、それぞれのフロアをじんわりと温めていた。

shobbieconz
shobbieconz

矢車
矢車

WWWでトップを飾った名古屋出身のラッパーCampanellaは、shobbieconzが鳴らすビートをバックに、「隣の兄ちゃん」感溢れる親しみやすいキャラクターと、芯の通ったラップでフロアを魅了。

Campanella
Campanella

続いて登場した向井秀徳アコースティック&エレクトリックは、抒情的で、それでいてヒリヒリとするような弾き語りで、音と言葉をフロアに鋭く突き刺す。一発一発が強烈なストローク、そして1曲歌うたびに発せられる「This is向井秀徳」という言葉に宿るグルーヴ感に痺れる。

向井秀徳アコースティック&エレクトリック
向井秀徳アコースティック&エレクトリック

そして、なんと交通事故に遭い、ズタボロな状態で現れた呂布カルマは、しかしながら、ひとたびラップをはじめれば、そのカリスマティックな存在感でフロアの空気を掌握する。同じく名古屋出身のCampanellaもステージに上がり、コラボでも1曲披露した。

呂布カルマ
呂布カルマ

呂布カルマ feat. Campanella
呂布カルマ feat. Campanella

国府達矢、imaiの個性むき出しのステージと、音のバトンをつなぐDJたち

WWWステージでライブが行われている間も、WWW βでは矢車からYELLOWUHURUへ、そしてRomy MatsへとDJがバトンを繋いでいく。WWWとWWW βの間にはほとんど距離がないので、気兼ねなく両方楽しめるし、なにより転換中も会場全体にずっと音が鳴り止むことがない、というところがいい。

YELLOWUHURU
YELLOWUHURU

今年、15年ぶりにアルバムをリリースした国府達矢はバンド編成で登場。この日は、前作『ロック転生』期を共にした旧知のリズム隊を含む4人編成。リズムもメロディーも歌も、すべての音と言葉が命をまとって躍動するような、衝動的で、それでいて大らかなサウンドスケープが会場を包み込む。秋にリリースされる予定の新作から1曲披露されたのもまた嬉しかった。

国府達矢
国府達矢

WWWでトリを飾ったimai(group_inou)は、なんと、ステージではなくフロア中央に設置されたブースでプレイ。オーディエンスに取り囲まれる形で、空間の中央に陣取って音を繰り出すimai。彼が放つ野性的で、奇妙で、それでいてポップなチャームを持ったトラック群は、フロアを一気に熱狂状態に誘う。imai自身の「獰猛」と形容したくなるほどの激しいアクションもまた、一層フロアを沸かせていた。私も、手にしていたメモ帳と背負っていたリュックを放り投げて、一心不乱に踊ってしまった。

imai
imai

imaiのステージが終わったあともWWW βではRomy MatsがDJを続けているので、お酒を飲んだりタバコを吸ったり、仲間と談笑したり、ただ体を揺らしたり、思い思いの方法で余韻を楽しめる。

ひとりで来ていた私も、なんとなく帰りがたくて体を揺らしたりウロウロしたりしていたが、こうやって受け取り方や楽しみ方を「強制」されない空間は本当に素晴らしい。人と音楽の関係が豊かな証拠だ。

Romy Mats
Romy Mats

この日の意味は、呂布カルマが言い放った言葉に集約されていた

振り返ってみれば、ラップも弾き語りもバンドもDJも総出となったこの『SCRAMBLE 1』は、「SCRAMBLE=ごちゃ混ぜ」という価値観を見事に体現していたが、そんな「ごちゃ混ぜ」空間のなかで、どのアーティストもそれぞれのカラーを損なわず、むしろ個性を一層輝かせるように「孤立」して存在していた。そこもまた、素晴らしかった。

Campanella
Campanella

向井秀徳アコースティック&エレクトリック
向井秀徳アコースティック&エレクトリック

国府達矢
国府達矢

imai
imai

この日、呂布カルマは「スクランブル……ごちゃ混ぜになっても、一人ひとりの色は消えないように。混ざったら、糞の色だぜ」と、ステージの上からオーディエンスに向けて言い放った。私も、呂布カルマの意見に賛成だ。「混ざり合う」ということは、皆で「同調する」ということでは決してない。「混ざり合う」ということは、他者の存在を感じ、知ることで、自分自身の色を知ることだ。

呂布カルマ
呂布カルマ

私は渋谷のスクランブル交差点を渡るとき、たまに孤独な気分になる。あまりにもたくさんの人生が交錯するその場所を歩いていると、自分が持ち歩いているこの思考は、この肉体は、この人生は、他の誰とも共有できない、自分ひとりだけのものなのだと心から思い知るからだ。でも、それは嫌な孤独感ではない。ピリッとした痛みと、深い安堵を伴ってやってくるその感覚は、自分が自分でしかないことを確かめさせてくれる。

自分が糞の色に染まっていないか。それを確かめるためにも、「スクランブル」という価値観は、私たちの人生に必要だ。

 

イベント情報
『SCRAMBLE 1』

2018年6月9日(土)
会場:東京都 渋谷 WWW、WWWβ
出演:
向井秀徳アコースティック&エレクトリック
Campanella
呂布カルマ
国府達矢
imai
YELLOWUHURU
Romy Mats
矢車
料金:前売2,800円 当日3,300円(共にドリンク別)

『SCRAMBLE 2』

2018年6月9日(土)
会場:東京都 渋谷 WWW、WWWβ
出演:
KENTO YAMADA AUDIO VISUAL CRASH
kZm(YENTOWN)
Ryohu from KANDYTOWN(Band Set)
THE THROTTLE
Qiezi Mabo
OKAMOTO REIJI
LISACHRIS
食品まつり a.k.a foodman
SEKITOVA
CYK
料金:前売3,000円 当日3,500円(共にドリンク別)

『SCRAMBLE 3』

2018年6月10日(日)
会場:東京都 渋谷 WWW、WWWβ
出演:
jan and naomi
スカート
バレーボウイズ
Homecomings
TENDOUJI
odd eyes
the hatch
uri gagarn
ヤングオオハラ
ゆnovation
butaji
酒井少年
NTsKi
Mom
DAWA
TOMMY
光の森(FOOD)
しのぶ先生の背後霊スケッチ

『TOKYO MUSIC ODYSSEY 2018』

『TOKYO MUSIC ODYSSEY』とは、「都市と音楽の未来」をテーマに、スペースシャワ―TVが東京、渋谷から発信する音楽とカルチャーの祭典。時代を創るアーティスト、クリエイターと、この街に集まる多種多様な人々が出会い、共に未来を描く、都市型フェスティバルです。



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