さかいゆう×京陸×映像演出で新境地を開く 100人限定ライブにて

イメージを刷新する新曲から、MISIAのカバーまで。100人足らずの会場で披露された、さかいゆうの歌

渋谷のスクランブル交差点から、タワーレコード方面へと行く道を一本入った路地。その地下に広がるライブ空間「PLUG IN STUDIO」を舞台に、さかいゆうの新作『Fight & Kiss』のリリースを記念した生配信イベントが開催された。この日は、事前に抽選を実施し、当選したファンのみが参加できるスペシャルイベント。そのこともあってか、開場前から入り口には行列ができ、開場後もファンたちの熱気が客席を埋め尽くしていた。

開演直前、ステージに登場しMCを求められたさかいは、「僕、あまのじゃくなんで」と前置きした。「喋れって言われると、あんまり喋りたくなくなるんですよ」と、いたずらな微笑みを浮かべながら語り、観客の笑顔を誘う。リスナーの心をストレートに射抜く歌声とは裏腹な発言だった。

さかいゆう
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ドラマチックなピアノが鳴り響き、EPの表題曲である“Fight & Kiss”からライブがはじまった。観客のフィジカルに訴えかけるアッパーなサウンドの上に、さかいの滑らかで強い声が乗る。さかいのバックを務めたベースとドラムのデュオ「Kyotaro & Rikuo(京陸)」が生み出すグルーヴは、体の芯にダイレクトに伝わってくるようだ。

さかいゆう

叩きつけるようなドラムに絡むしなやかなベース、その強靭なサウンドと争うように鳴るピアノと歌声。このストイックでラウドなパフォーマンスに、さかいに対するイメージが塗り替えられたようでもあった。しかし一方では、こういう見方もできるかもしれない――「Fight」と「Kiss」、一見して正反対の意味を持つ言葉を冠するこの曲は、あまのじゃくな気質を持ちながらも、正統なソウルミュージックを貫く彼らしい歌なのだ。

さかいゆう

“Fight & Kiss”を聴く(Apple Musicはこちら

一転して、R&Bの匂いを漂わすピアノのイントロに導かれた2曲目は“薔薇とローズ”。ミドルテンポのソウルミュージックは、3人編成により一層タイトでタフな印象に。ライブでしか見られない、一味違う楽曲の側面が披露された。

<僕には君なんだよ>というフレーズにある切実さは、聴く人のさまざまな記憶と結びつくように響く。彼の奏でる音楽は、そういった日本語的な情緒や感覚に深く根づいていながら、ソウルやゴスペルといったアメリカンルーツミュージックの強さと奥行きを併せ持っている。“薔薇とローズ”はタイトルが象徴するように、そんなハイブリッドな魅力を持つ1曲と言えるだろう。

さかいゆう

“薔薇とローズ”を聴く(Apple Musicはこちら

続いて、「プロレス少年だった僕をソウルミュージックの世界へ連れ出してくれた」というMCを手引きに、MISIAの“つつみ込むように…”を披露。鼓膜をそっと撫でるような空気を含んだ美しい歌声は、名曲に新たな魅力を与える。ピアニストとして、そしてボーカリストとしてのポテンシャルの高さを存分に見せつける、必然性のあるカバーだった。

壁面にリアルタイムで歌詞を投影。演出の力で情緒的な歌への没入感は倍増

今回のライブでは、壁面に映像が投影される特別な演出が実施された。歌詞をグラフィカルに表現した映像を用いることで、視覚と聴覚を通して言葉がスムーズに入ってきて、音楽に没入するための助けとなっていた。単なる「賑やかし」ではなく、作品の世界観の補助線として機能する演出は、この日のライブをより良質な体験へと昇華させるもの。そういった意味で、素晴らしい試みだったと言えるだろう。

さかいゆう

さかいゆう

ライブの1つの山場となったのは、“サマーアゲイン”とマイケル・ジャクソンの名曲“Rock With You”のマッシュアップ。「間」を巧みに使いこなすアレンジで聴かせ、会場をダンスミュージックのグルーヴで包んでゆく。

“サマーアゲイン”を聴く(Apple Musicはこちら

京陸の2人がステージを降り、弾き語りでしっとりと歌い上げたのは“父さんの汽笛”。NHKの番組『みんなのうた』で話題を呼んでいる楽曲だ。「1か所を除いて」と前置きをしながら、すべて実生活と事実をベースに書かれたという歌詞には、父親という存在に対する、さかいのリアルな眼差しが投影されている。家族の形は人それぞれ違う。しかし、それを1つにつなぎ、共感を生み出すことができるのは、この楽曲の持つ素晴らしい力だ。

さかいゆう

“父さんの汽笛”を聴く(Apple Musicはこちら

歌詞の印象的なワンフレーズ<うちには貯金が一億ある>は、ユーモアと強がりが入り交じる父親の言葉だが、本当は「一億」ではなく「一兆」と言っていたという。前述の「1か所」の答え合わせとなった。

凝った演出により一層際立った、さかいゆうの歌の力

「さっきは荒すぎたので、もう一度やらせてほしい」という言葉とともにアンコールで披露したのは、2度目の“Fight & Kiss”。ストリートミュージシャンとして抜群の人気を誇る京陸の2人は、この晴れ舞台に食らいついていくようなストイックさを見せ、さかい自身もそれに呼応するように、マイクから一瞬唇を離してしまうほどに熱く、2度目の“Fight & Kiss”を歌い上げる。強烈なグルーヴの余韻を残して、ライブは終了した。

さかいゆう

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今回のイベントは、生中継配信も行われた。視聴者は累計1万人近くにも上ったそうだ。そう考えると、会場の熱狂を体感できた100人余りは、実に幸運だったと言えるのではないだろうか。

ライブという体験を大きく拡張した映像による演出と生中継配信。テクノロジーの恩恵を受けながらも、あくまで真ん中にあるのは音楽そのものであり、フィジカルに訴えかけるさかいの歌声だった。一層骨太に進化していく彼の音楽から、今後も目が離せない。

さかいゆう

さかいゆう

さかいゆう『Fight & Kiss』ジャケット
さかいゆう『Fight & Kiss』ジャケット(Amazonで見る

リリース情報
さかいゆう
『Fight & Kiss』(CD)

2018年6月20日(水)発売
価格:1,944円(税込)
UMCA-10057︎

1. Fight & Kiss
2. SLOW DISCO
3. YAORA
4. 父さんの汽笛
5. SWEET MEMORIES(Studio Session Live)
6. Fight & Kiss(Avec Avec remix)
※6はiTunes Store限定ボーナストラック

イベント情報
『さかいゆう Billboard SPECIAL LIVE “Fight & Kiss”』

大阪公演
2018年7月19日(木)全2公演
会場:大阪府 大阪 Billboard Live TOKYO

東京公演
2018年8月6日(月)全2公演
会場:東京都 六本木 Billboard Live TOKYO

出演:
さかいゆう
Kyotaro & Rikuo
料金:サービスエリア7,500円 カジュアルエリア6,500円
※カジュアルエリアのみドリンク付

プロフィール
さかいゆう
さかいゆう

2009年にシングル『ストーリー』でデビュー。2014年は話題の楽曲“薔薇とローズ”収録の3rdアルバム『Coming Up Roses』がオリコンデイリーチャート5位にランクインした他、映画『LOVE SESSION』で初主演も果たし話題を集める。唯一無二の歌声と、SOUL・R&B・JAZZ・ゴスペル・ROCKなど幅広い音楽的バックグラウンドをポップスへと昇華させるサウンドが魅力の男性シンガーソングライター。2018年6月20日にEP『Fight & Kiss』をリリースした。



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