レビュー

『4分33秒』の精神を受け継いだ、21世紀初のアンビエント作品

金子厚武
『4分33秒』の精神を受け継いだ、21世紀初のアンビエント作品

アンビエントミュージックの創始者であるブライアン・イーノによる、21世紀初となるアンビエント作品、それが『LUX』である。元々はサウンドインスタレーション用に制作されたものの発展であり、イーノの作品に対する想いの「正解」を見出そうとするならば、そのインスタレーションについて調べる必要があるだろう。しかし、本作が照度の単位である「LUX」をタイトルに据えた「光」がテーマの作品であり、光の変化によって生まれる朝昼夜……つまりは、「時間」を描いた作品でもあることに注目し、ここでは本作の現代における意味を、筆者なりに考えてみたいと思う。

まず頭に浮かんだのは、デジタル技術の発展によって、時間の概念が薄れた現代に対するリアクションとしての『LUX』という見方。音源の制作に関して、誰もがDTMで簡単に切り貼りができるようになり、iTunesやiPodの普及によって、誰もが曲をシャッフルして聴いている今、音楽と共に流れる時間の豊かさを、もう一度確認するような目線が感じられる。もちろん、基本的にはデジタル技術の発展を礼賛しているイーノだけに、これは決してアンチデジタルということではなく、あくまでひとつの提案として捉えるべきだが。

そしてもうひとつ、かつては『Music for Films』や『Music for Airports』のように、何かに対して音楽を作っていたイーノが、「時間」を描くことによって、自分自身と向き合ったということ、これが本作の最もエポックな部分なのではないかと思う。御年64歳、初めてアンビエントを提唱してからは、すでに40年近くが経過している。ほとんどの人間がそうであるように、かつては老いに抗いもしたであろうイーノが、時間が過ぎていくことを受容し、むしろ慈しんだ作品。それもまた、『LUX』の一面なのではないだろうか。

思えば、今年はエリック・サティと並んでイーノに大きな影響を与えたとされるジョン・ケージの生誕100年の年である。一定の時間を規定し、音楽の意味を問いただしたケージの代表作『4分33秒』の初演からもちょうど60年にあたる今年、イーノが「時間」をテーマにした作品を作ったということに、僕は音楽という大河の中に潜むロマンを感じずにはいられない。

リリース情報

BRIAN ENO
『LUX』国内通常盤(CD)

2012年11月7日発売
価格:2,000円(税込)
Warp Records / Beat Records / BRC-356

1. LUX 1
2. LUX 2
3. LUX 3
4. LUX 4
※紙ジャケット仕様、アートプリント4枚付き

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プロフィール

ブライアン・イーノ

ブライアン・イーノは、ソロ作品『Another Day on Earth』をリリースした以降も、音楽やそれ以外の面でも活動を続け、常にワイドなカルチャーの領域へとアプローチの幅を広げてきた。2010年、ブライアン・イーノ自身が「真に革新的なレーベル」と讃える「Warp Records」と契約し『Small Craft On A Milk Sea』をリリース。そのリリースから約8ヶ月という短期間で「Warp Records」からの2作目となる『Drums Between the Bells』をリリースした。2012年11月には、WARP RECORDS第3弾となるアルバム『LUX』をリリースする。

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