レビュー

震災後の日本で、音楽や小説は何ができるのか

石角友香
2013/08/06
震災後の日本で、音楽や小説は何ができるのか

長編の最新作『南無ロックンロール二十一部経』(以下、『南無』)を発表した作家・古川日出男が、『南無』の刊行を記念したトーク&ライブセッションイベントを、かねてより親交のあるASIAN KUNG-FU GENARATIONの後藤正文とともに開催した。両者の対談はCINRA.NET上でも前後編にわたるボリュームで掲載され、二人のファンはもちろん、少なからず震災後の日本をどう生きたいのか模索する者にとって、説得力をもって受容されたと思う。イベント開催日は奇しくも参議院議員選挙の投票日。結果は周知の通りだが、多くの人がこの国の先行きに安穏とした気分ではいられない日だったのは確かだろう。

今回のイベントは、『南無』のCINRA.STORE購入特典として開催されたこともあり、客層の幅も広く程よい緊張感の中、第1部のトークセッションがスタート。『南無』の576ページに及ぶ書籍としても破格の存在感について、「通勤電車ではまず読めない」(古川)、「物理的に読めたとしても、とても恐ろしい体験になる気がするが、それも少し味わってみたい」(後藤)と笑いも交えて話が転がり始めると、すぐに話題は『南無』の起点となったオウム真理教事件へ移っていく。オウム真理教の元代表・麻原彰晃=本名・松本智津夫のことを忘れ去ろうとしている社会や大衆心理の怖さや、オウム真理教事件を含む広範囲の「宗教」について言及された。

古川日出男 撮影:朝岡英輔
古川日出男 撮影:朝岡英輔

他にも作家、ミュージシャンというスタンスを越えたところでの村上春樹論が交わされ、両者ともに氏の『アンダーグラウンド』(地下鉄サリン事件の被害者へのインタビュー集)と、今年刊行された『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』に対する論考を披露。大きな事件後に前者はノンフィクション、後者はフィクションのスタイルをとりつつ、特に新作は「非常にドメスティックだと感じた」と後藤。

左から:古川日出男、後藤正文 撮影:朝岡英輔
右:後藤正文 撮影:朝岡英輔

加えて、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのヨーロッパツアーに関する対話では、「特にフランスでは、ちょっとゴシックっぽい曲が好まれる」と後藤が報告すれば、古川は「『南無』は大陸をロックンロールでまわるという話なので、体験してきた人と話すのは面白い」と返し、「人じゃなくて音楽が先にあって、転がっていく。『南無』を読んで音楽が聴こえてきた時、生きてることを肯定された感じがあった」と後藤。古川もまた、各地を朗読会でまわる中で、小説を書く作業は読者と1対1だが、イベントに行くと相手が1でない事実を実感すると言い、その後に予定されている二人のライブセッションへ、会場の期待も高まっていった。

会場風景 撮影:朝岡英輔

参加者との質疑応答では、古川同様、福島県出身だが若い時期に地元を離れた人の「故郷を棄てたことへの罪悪感はいかに救われるのか?」という質問に対して古川は、「その罪悪感は簡単に乗り越えられるものではないという前提はあって、自分も地元の郡山で人前で話すまですごく時間がかかった。だけど傷ついている人間にしかできないことがあるとも思っていて、傷ついている事実を一旦引き受けて前を見ようと意志できるのならば前を向ける」と述べ、「小説や音楽表現の記録メディアの変化についての危機感を感じるか?」という質問に対しては、古川が明確に「紙やメディアは容れ物。小説や音楽は死なない」と言い切ったことが、前半のトークのラストにしてハイライトでもあった。予定時間を超え2時間にわたるトークは転がり続け、休憩を挟んで第2部の即興による二人のセッションへ。

後藤正文 撮影:朝岡英輔

エレキとアコギ、そしてかすかなシーケンスとテノリオンを駆使してゆっくり歩くぐらいのBPMで後藤が音を鳴らし始めると、576ページの大作を片手にまずは江戸時代、まだ西暦が日本の歴史に存在しなかった時代の項から古川の朗読がスタート。その語り口はビート詩人というよりラッパー的なフロウさえ感じるもので、彼が全身全霊を駆使してまっさらな言葉を生み出す現場を再現しているような貴重な時間が過ぎていく。

物語は前後しながら、1956年、チャック・ベリーのロックンロールの誕生。それに反応するような後藤のフィードバックギター。淡々としたビートがむしろ古川のエクストリームな語りを際立たせる。

左から:古川日出男、後藤正文 撮影:朝岡英輔

そして古川の朗読は「美しい〜美〜ベトナム」から発展し、「ナム=南無」という言葉がすべての大陸に存在することを明かしながら、再び冒頭の「江戸=東京」に螺旋を描いて戻ってくる様もすさまじかったが、「東京、チルドレン」「東京、チルドレン」の反復の中に「オールライト」という単語が挟まれた瞬間の後藤のリアクションは、同じ言葉を重ねることでの瞬間的で普遍的な調和だった。音楽のような朗読、そしてこのひと通りでは決してないはずの、即興演奏という後藤の『南無』の解釈。だが、前知識なしでも独立した表現としてこのセッションは十分、感覚に訴えたのではないか。実に貴重な3時間となった。

イベント情報

CINRA.STORE限定特典イベント
『古川日出男 × 後藤正文 トーク&ライブセッション』

2013年7月21日(日)
会場:東京都 青山 月見ル君想フ
出演:古川日出男、後藤正文
司会:金子厚武

書籍情報

『南無ロックンロール二十一部経』

2013年5月15日発売
著者:古川日出男
価格:2,520円(税込)
ページ数:576頁
発行:河出書房新社

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