レビュー

スウェーデンのポップカルチャーは日本人に馴染みやすい? その理由を紐解く

CINRA.NET編集部
2015/05/29
スウェーデンのポップカルチャーは日本人に馴染みやすい? その理由を紐解く

スウェーデン人が驚く「あいこでしょ!」「しょ!」「しょ!」「しょ!」

多くの日本人が感じている北欧諸国に対する親近感の理由を絞り込むことは簡単ではないし、日に日にその理由が増しているからこそ、親近感が維持されているとも言える。スウェーデン出身の漫画家オーサ・イェークストロムは、子どもの頃に母国のテレビで見た『セーラームーン』と『犬夜叉』にはまり、2011年から日本を拠点に漫画家として活動している。著書『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』(KADOKAWA)にて、日本で暮らすようになって驚いたのは「じゃんけん」の文化だと記す。何かとじゃんけんで済ませようとする日本独自の文化に戸惑うものの、じゃんけん自体はスウェーデンにもあるので特に驚きはない。むしろ、驚くのはじゃんけんの後に続く「あいこでしょ!」「しょ!」「しょ!」「しょ!」の速さだという。スウェーデンでは何かを決める時に、スティックを引き、一番短いスティックをもらった人が負けになる方法をとる。運に委ねる、という方法は同じだが、そのアプローチが微妙に異なっているのが興味深い。

日本人にすっかり馴染んだ、スウェーデンの商品

あっという間に日本の生活スタイルに馴染んだスウェーデン企業たち。IKEAにしろ、H&Mにしろ、それらの企業が作り出す商品に通底するのは「機能性」だ。北欧デザインが機能性を重視しているのは、彼らの暮らし方と無関係ではない。スウェーデンでは19世紀末に工場労働者が都市に急増し、たちまち住宅環境が悪化し、その改善が訴えられるようになった。時をほぼ同じくして女性思想家のエレン・ケイが中心となった「美しい生活運動」が起き、シンプルで機能性の高い暮らしが求められるようになる。そこで、決して好待遇ではない労働者でも手に入れられるよう、安価且つデザイン性に富んだものが生産されるようになった。そして、インテリアから培われていった機能性重視のスタンスは、服飾や建築にも自然と派生していったのだ。

北欧を代表する機能主義のデザイナーであり、花瓶「サヴォイ」などを手掛けたことで知られるアルヴァ・アアルトは、自身のデザイン哲学を「人間がどんな生活活動をしているかが、そのもののフォルムを決める」と語っている。スウェーデンの生活と同様、何かと手狭であり、その弱点を自覚しながらも、長い歴史の中で「慎ましさ」として生活空間に活かしてきた日本人も、豪華絢爛よりシンプルで利便性の高いものを求めるため、IKEAの家具は日本の嗜好にすんなり溶け込んだ。元来、日本の住宅に沿う形で作り出されてきたものと、サイズ感とシンプルさが合致していたのである。

IKEA(撮影者:Jmho)
IKEA(撮影者:Jmho)

スウェディッシュポップからも垣間見える「慎ましさ」

ポップカルチャーの世界に目を移してみれば、スウェーデンと日本がもっとも生産的に中和していたのは、1970年代後半と1990年代半ばから後半にかけて隆盛していた「スウェディッシュポップ」だろう。特に1990年代半ばに、情感のあるアコースティックサウンド、馴染みやすいメロディーラインを次々と世に送り出したプロデューサーがトーレ・ヨハンソンだ。The CardigansやCloudberry Jamのプロデュースを筆頭に、原田知世、BONNIE PINK、カジヒデキなどのプロデュースを手掛けることで、そのサウンドを日本へ輸出した。

1970年代にはABBA、1980年代にはRoxette、EUROPEなど、日本で突出した人気を持つスウェーデン出身アーティストたちが居た。「スウェディッシュポップ」というカテゴリーが、実はある1つの音楽洋式を明確に指し示したものではなく、雰囲気で語られることを歓迎していたように思える。アメリカの音楽がエンターテイメント化を急ぐ中でも、先述のミュージシャンはスターダムにのし上がる姿勢を積極的には見せずに、それこそトーレにつながるような、印象的なメロディーラインを作るポップセンスを磨き上げることに専念した。デザインの世界と同じく、英米を追いかけるわけではない「慎ましさ」があったのではないか。

ABBA(from Beeld & Geluid wiki)
ABBA(from Beeld & Geluid wiki)

日本語でカバー曲を披露する、スウェーデンの3兄弟

アメリカのオーディション番組『American Idol』、ヨーロッパの各国代表アーティストが競うコンテスト『Eurovision』など、番組と視聴者が一体となって新たなスターを送り出すテレビ番組が世界的に流行っているが、スウェーデンでは『Eurovision』に出演する代表を決める大会『Melodifestivalen』が最も注目度の高い音楽番組になっている。

この大会で名を馳せ、ヨーロッパ全土で注目が高まっている3兄弟ボーカルグループ「JTR」が、最近日本語でカバー曲を披露している。YouTubeに上がっているのは、槇原敬之“どんなときも。”、大塚愛“さくらんぼ”、宇多田ヒカル“Automatic”など。メロディーラインが極めて素直に作られていて、日本人の耳に馴染みやすい。日本語カバープロジェクトで人気を博したMR.BIGのエリック・マーティンを思い起こすような丁寧な歌い回しで、そのハーモニーは、同じく兄弟で組んだバンドNelson顔負けの美しさだ。また、三人とも花冠をつけているのは、ファッション面からも日本の若年層に馴染みやすい演出を作り出しているのだろう。

JTR
JTR



異国のカルチャーを「国民性」だけで語ろうとすると、往々にしていい加減な話になりがちだけど、北欧、とりわけスウェーデンと日本は、これまでの話を振り返ってみても「国民性」でつながり合える部分があると言えるのではないだろうか。スウェーデンから日本に輸入されるカルチャーは時代ごとに異なるが、新しいアイコンが出てくる度に、派手過ぎず大仰過ぎない「慎ましさ」のあるスタイルへのシンパシーが生じている。

参考文献:
オーサ・イェークストロム『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』(KADOKAWA)
森井ユカ『IKEAファンブック』(河出書房新社)
村井誠人・編『スウェーデンを知るための60章』(明石書店)
『北欧―白夜の国に魅せられて』(トラベルジャーナル)

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