レビュー

「1990年代感」が今かっこいい? Aphex Twinが、怒濤の新作発表を行う理由を探る

金子厚武
「1990年代感」が今かっこいい? Aphex Twinが、怒濤の新作発表を行う理由を探る

リチャード・D・ジェイムス、突然の新作ラッシュ

今年の『グラミー賞』にて、deadmau5らを抑えて「最優秀ダンス・エレクトロニック・アルバム」を獲得した13年ぶりのオリジナルアルバム『Syro』に続いて、1月には生楽器主体のコンセプチュアルな作品『Computer Controlled Acoustic Instruments pt2 EP』を発表したAphex Twinことリチャード・D・ジェイムス。今度はAFX名義で、10年ぶりの新作『ORPHANED DEEJAY SELEK 2006-2008』を自身の44歳の誕生日である8月18日に発表する。

昨年から続く突然の新作ラッシュに、ファンは嬉しい悲鳴といったところだと思うが、そもそもリチャードはかつてたくさんの名義を使いながら作品を乱発することで有名だった人物。『Syro』のリリースに際しても、楽曲自体は長年作り続けていて、ストックはたくさんあったものの、どの曲をどういう形でリリースするかに頭を悩ませていたと語っている。つまり、錆びついていた水道の蛇口をこじ開けたことによって、蓄えられていた水が一気に溢れ出したというのが、昨年からのリチャードの状況なのだろう。

「Aphex Twin」名義と「AFX」名義の関係性

さて、今回新作が発表されるAFXという名義だが、Polygon WindowやBradley Striderといった他の名義同様に、何か特別な定義付けがされているわけではない。ただ、Aphex Twin名義の次に作品のリリースが多いのがAFXであり、リチャードの中でプライオリティーが高い名義であることは間違いない。

そのディスコグラフィーを少し振り返ってみると、最も有名なのが12インチ5枚による『Analogue Bubblebath』シリーズである。もともとは1991年にAphex Twin名義で発表され、1994年にAFX名義で再発されたリチャードにとっての初リリース作品『Analogue Bubblebath Vol.1』と、“Digeridoo”と曲名を変えてAphex Twin名義で再リリースされたことをきっかけに、初期のキャリアを代表するヒット曲になった“Aboriginal Mix”を収録した『Analogue Bubblebath Vol.2』が特に重要。1994年にAphex Twin名義で発表された『Classics』には、“Digeridoo”と、『Vol.1』収録の“Analogue Bubblebath”と“Isopropophlex”を改名した“Analogue Bubblebath 1”と“Isopropanol”が収録されているので、AFX名義の過去作を聴いてみたい人にはまずこの作品をお勧めする。


その他、AFX名義の作品としては、1995年に2枚のEPとしてリリースされ、ドリルンベース(ドラムンベースから派生した電子音楽のジャンルのひとつ)のスタイルを本格的に初披露した『Hangable Auto Bulb』、2003年から2005年にかけて制作された11のアナログ作品集からなる『Analord』シリーズから、リチャード自身が10曲を選曲し、リアレンジを施してコンパイルされた『Chosen Lords』などがある。

今の時代にこそハマる、「1990年代感」

さて、新作の『ORPHANED DEEJAY SELEK 2006-2008』だが、タイトルを素直に受け取れば、2003年から2005年の『Analord』シリーズに続き、2006年から2008年の3年間に作られた楽曲をベーシックとした作品だと考えられる。レーベルから配布されている資料に正確な制作時期の記載がないので、「もしかして実は違う時期に……?」なんて邪推をしたくもなるが、まあいくらリチャードでもそこまでややこしいことはしないだろう。

音楽性に言及すれば、1990年代的な空気がポイントのひとつとして挙げられる。もちろん、収録されている8トラックはそれぞれ色が異なるので、系統を簡単に一括りにすることはできない。しかし、『Syro』リリース時に、リチャード自身が「今は1990年代初期の音楽に入れ込んでいる」と語ったりもしていたように、今作に収録されたいくつかのアシッドハウス寄りの楽曲からは、先に挙げた『Classics』にも通じる感覚が感じられる。2006年から2008年に作られ、DJでは使っていたものの、リリースするタイミングがなく、孤児(=ORPHAN)になってしまっていた楽曲たちを、「今ならハマるはず」という思いでコンパイルしたアルバム。それが『ORPHANED DEEJAY SELEK 2006-2008』なのではないかと思う。


そして、そんな1990年代リバイバル感を決定付けているのが、The Designers Republic(イギリス・シェフィールドに拠点を置くデザインスタジオ。1990年代、数多くのWarp Records作品のデザインを手掛けた)による当時のオマージュに溢れたアートワークだ。同時代の盟友であるSQUAREPUSHERが1997年に発表した『Big Loada』を思い出さずにはいられないロゴやデザインは、間違いなく時代感を意識してのものだろう。

AFX『ORPHANED DEEJAY SELEK 2006-2008』ジャケット
AFX『ORPHANED DEEJAY SELEK 2006-2008』ジャケット

「1990年代初期」からはややずれているものの、1990年代初期風の作品に、1990年代後期のアートワークを付与し、「2006-2008」と冠されて2015年に出るという倒錯感は、リチャードらしい悪戯心の表れのようにも思える。そして、リチャード自身の動向や作品の詳細があまり伝わってこない分、「次はいつ、どんな作品が出てくるんだろう?」という期待感が煽られること自体、受け手の得られる情報が限られていた1990年代を彷彿させ、当時を知る人には懐かしく、若い世代には新鮮に感じられるのではないだろうか。

リリース情報

AFX
『ORPHANED DEEJAY SELEK 2006-2008』(CD)

2015年8月18日(火)発売
価格:1,890円(税込)
WARP RECORDS / BEAT RECORDS / BRE-51

1. SERGE FENIX RENDERED 2
2. DMX ACID TEST
3. OBERHEIM BLACET1B
4. BONUS EMT BEATS
5. SIMPLE SLAMMING B 2
6. MIDI PIPE1C SDS3TIME CUBE/KLONEDRM
7. NEOTEKT72
8. R8M NEOTEK BEAT

プロフィール

リチャード・D・ジェームス

イギリス・コーンウォール出身。10代の頃からテープレコーダーやシンセサイザーに興味を持ち、12歳の頃から音楽を作り始めた。1991年にAphex Twin名義で『Analogue Bubblebath ep Vol.1』をMighty Force Recordsからリリース、1994年にAFX名義でTVT Recordsより再リリースされた。2015年、Aphex Twin名義で13年ぶりのオリジナルアルバム『Syro』を発表。『ORPHANED DEEJAY SELEK 2006-2008』は、9年振りにAFX名義で発表する作品となる。

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