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若さだけが価値じゃない。日本映画界とは違うフランス女優の魅力

『フランス映画祭2016』
テキスト
小柳帝
編集:野村由芽
若さだけが価値じゃない。日本映画界とは違うフランス女優の魅力

世界でも珍しく、幅広い世代の女優たちが主役を張れる場所

今年も『フランス映画祭』の季節がやってきた。フランス映画の新作がいち早く見られるだけでなく、出演俳優や監督によるゲスト団の来日も楽しみなこの映画祭。今年はその団長をイザベル・ユペールが務め、例年にも増して華やかな彩りを添えている。ユペールと言えば、40年以上のキャリアを誇る大ベテランだが、今回の『フランス映画祭』でも、2本の主演映画(『愛と死の谷』『アスファルト』)があるなど、現在も最前線で活躍する、人気・実力共にトップのフランスを代表する女優である。

左が『フランス映画祭2016』の団長を務めるイザベル・ユペール /『愛と死の谷』 ©DR
左が『フランス映画祭2016』の団長を務めるイザベル・ユペール /『愛と死の谷』 ©DR

それにしても、フランス映画界における女優たちの活躍ぶりはどうだろう。今年の映画祭でも、新作映画12本中、『ショコラ!(仮題)』と『エヴォリューション(仮)』『ミモザの島に消えた母』を除けば、すべて女性が主演を飾っている。それも、20代から80代まで、幅広い年代の女優たちが主役を張っているのだ。

左が84歳のマルト・ヴィラロンガ / 『The Final Lesson(仮題)』 ©Jean-Marie Leroy ©2015 FIDÉLITÉ FILMS - WILD BUNCH - FRANCE 2 CINÉMA - FANTAISIE FILMS
左が84歳のマルト・ヴィラロンガ / 『The Final Lesson(仮題)』 ©Jean-Marie Leroy ©2015 FIDÉLITÉ FILMS - WILD BUNCH - FRANCE 2 CINÉMA - FANTAISIE FILMS

これは世界にそう類のないことで、例えば、日本映画を考えてみればよくわかると思うが、女優が主演を務める場合、その平均年齢はほぼ20代と言っていい。もちろん、30代以上の女優が主演を務める映画がないわけではないが、その機会はぐっと下がってくる。それに対してフランスでは、女優たちの成長に応じて、その年齢に見合った作品が作られているかのようだ。

自ら作品を「撮る」ことを選んだ多くの女優たち

それは、演じ手だけでなく、作り手の意識にも負うところが大きい。実は、フランスでは驚くべきことに、多数の女性監督が活躍しているのだ。今回の映画祭でも、意図してそうなったわけでないのだが、ほぼ半数が女性監督の作品で占められている。そして、その多くが女優との兼業監督なのだ。彼女たちは、少数のスタッフで撮影される、フランス映画ならではのアットホームな現場の雰囲気の中で、自然に作り手側への興味を抱くようになったようだ。さらに彼女たちは、世界初の女性監督であるアリス・ギィが道を開き、アニエス・ヴァルダやシャンタル・アケルマンが苦労して切り拓いてきた、女性による女性映画史の延長線上に自分たちがいることに極めて自覚的で、ともすれば、「若さ」だけが商品価値と見なされかねない女優の価値を、自分たちが作る作品を通して、年齢的な呪縛から解放することに寄与してきた。

どこかの国のスローガンではないが、演じ手にしろ作り手にしろ、まさに「すべての女性が輝く」現在のフランス映画シーン。その一端を、今回のラインナップから具体的に見てみようと思う。

20代から80代までの魅力的な女優が一堂に会する『フランス映画祭2016』のラインナップ

まず、オープニングを飾る『太陽のめざめ』からして、イザベル・ユペールよりもさらにキャリアの長いカトリーヌ・ドヌーヴが主演を務めている。現代版『大人は判ってくれない』とでも言うべきこの映画は、不幸な環境で育った不良少年を、カトリーヌ・ドヌーヴ演じる女性判事が何とか更生に導こうとする物語なのだが、この映画でデビューを飾った少年役の新生ロッド・パラドの、若さ故の爆発するようなエネルギーに、ドヌーヴは一歩も引けを取らないのは流石である。

カトリーヌ・ドヌーヴ / 『太陽のめざめ』 ©2015 LES FILMS DU KIOSQUE - FRANCE 2 CINEMA - WILD BUNCH - RHÔNE ALPES CINEMA – PICTANOVO
カトリーヌ・ドヌーヴ / 『太陽のめざめ』 ©2015 LES FILMS DU KIOSQUE - FRANCE 2 CINEMA - WILD BUNCH - RHÔNE ALPES CINEMA – PICTANOVO

そして、この映画を監督したのは、『モン・ロワ(原題)』で、昨年の『カンヌ国際映画祭』主演女優賞を受賞したエマニュエル・ベルコだ。ベルコは、ユペールの下の世代で、『モン・ロワ(原題)』の監督マイウェンや、『The Final Lesson(仮題)』のサンドリーヌ・ボネールと同じ40代の女優だが、この世代の元気が良いのがフランス映画らしい。

左がエマニュエル・ベルコ。『太陽のめざめ』の監督でもある / 『モン・ロワ(原題)』 ©2015 / LES PRODUCTIONS DU TRESOR - STUDIOCANAL
左がエマニュエル・ベルコ。『太陽のめざめ』の監督でもある / 『モン・ロワ(原題)』 ©2015 / LES PRODUCTIONS DU TRESOR - STUDIOCANAL

その下の世代、つまり30代もまた層が厚く、『ミモザの島に消えた母』のメラニー・ロランも女優に監督に活躍しているが、ここでは、前作『冬の小鳥』で日本にもファンの多い、ウニー・ルコント監督の新作『めぐりあう日』のセリーヌ・サレットに注目したい。

セリーヌ・サレット / 『めぐりあう日』 ©2015 – GLORIA FILMS – PICTANOVO
セリーヌ・サレット / 『めぐりあう日』 ©2015 – GLORIA FILMS – PICTANOVO

彼女は、日本での公開作が少ないため、まだそれほど知名度はないかもしれないが、フランスでは、その演技力に定評があり、優れた監督たちから現在引っ張りだこの旬な女優の一人だ。養子として育った主人公の女性が、大人になって自身の子どもにも恵まれてから、どうしても生みの親のことが知りたくなり、母親探しの旅に出るという物語だが、その女性の複雑な感情の襞をサレットが実に繊細に演じている。

もちろん、これからのフランス映画界を担っていくであろう新人の存在も無視できない。『パレス・ダウン』のステイシー・マーティンもそんな若手の一人だ。ラース・フォン・トリアー監督の『ニンフォマニック』で、シャルロット・ゲンズブールの少女時代を演じて俄然注目されるようになった彼女だが、ここでは、インドのムンバイでの同時多発テロに巻き込まれてしまった、実在のフランス人の少女の役を演じている。

ステーシー・マーティン / 『パレス・ダウン』 ©2015 – EX NIHILO – ARTEMIS PRODUCTIONS – FRANCE 3 CINEMA
ステーシー・マーティン / 『パレス・ダウン』 ©2015 – EX NIHILO – ARTEMIS PRODUCTIONS – FRANCE 3 CINEMA

監督は『カイエ・デュ・シネマ』誌などでも健筆を揮ってきた映画批評家でもあるニコラ・サーダ。あえてテロリストたちの姿は一切見せず、ステイシー・マーティンの顔の表情や声の震え、体の動きだけで、その恐怖を見る者が感じ取れるように演出しているのだが、彼女はその期待に見事に応えているのだ。

こんな風に、どの世代でもそれぞれの年齢に見合った役で力を発揮しているフランスの女優たち。だからこそ、彼女たちはいくつになっても輝いて見えるのかもしれない。そうしたフランスの魅力的な女優たちが一堂にスクリーンに会す機会を、ぜひお見逃しなきよう。

イベント情報

『フランス映画祭2016』

2016年6月24日(金)~6月27日(月)
会場:東京都 有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇
上映作品:
『太陽のめざめ』(監督:エマニュエル・ベルコ)
『ミモザの島に消えた母』(監督:フランソワ・ファヴラ)
『The Final Lesson(仮題)』(監督:パスカル・プザドゥー)
『愛と死の谷』(監督:ギヨーム・ニクルー)
『モン・ロワ(原題)』(監督:マイウェン)
『アスファルト』(監督:サミュエル・ベンシェトリ)
『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』(監督:クロード・ルルーシュ)
『ショコラ!(仮題)』(監督:ロシュディ・ゼム)
『めぐりあう日』(監督:ウニー・ルコント)
『パレス・ダウン』(監督:ニコラ・サーダ)
『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』(監督:マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール)
『エヴォリューション(仮)』(監督:ルシール・アザリロヴィック)
『パリはわれらのもの』(監督:ジャック・リヴェット)

オープニングセレモニー、オープニング作品上映
2016年6月24日(金)17:00~
会場:東京都 有楽町朝日ホール
登壇者:
イザベル・ユペール
オマール・シィ
ほか
スペシャルゲスト:
是枝裕和
深田晃司

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