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世界の生きづらさごと肯定する、戸渡陽太のポップミュージック

戸渡陽太『I wanna be 戸渡陽太』
テキスト
天野史彬
編集:山元翔一
2016/06/16
世界の生きづらさごと肯定する、戸渡陽太のポップミュージック

「世界」との軋轢のなかで、「自分自身であること」を追い求めるシンガーソングライター

「自分」という存在を規定するのは、いつだって「他者」であり「世界」なのだと、大人になればなるほど実感する。社会に出れば、かつて誇らしげに抱え込んでいた「自分らしさ」なんて全く役に立たないこと知るし、10代の頃に部屋で膝を抱えながら浸っていた孤独など、自己満足のための甘い媚薬に過ぎなかったのだと実感する。だが、その反面、自分でも知り得なかった「想像を超える自分」に出会わせてくれるのも「他者」や「世界」なのだということも、大人になればわかるようになる。本当の喜びも、本当の孤独も、人は世界と関わってこそ知ることができるものだ。

1992年生まれのシンガーソングライター・戸渡陽太が、東京スカパラダイスオーケストラが主催するレーベル「JUSTA RECORD」からリリースするメジャーデビューアルバム『I wanna be 戸渡陽太』は、一人の青年が大人になるまでのドキュメントとして聴くことができる作品だ。このアルバムには戸渡陽太という個人が、様々な軋轢を感じながらも世界を見つめ続けることで「自分自身であること」を追い求めた軌跡が、美しいメロディーとともに刻まれている。

届かなかったはずの僕の
SOSは風に乗っかって
やがて僕の知らぬ場所で
愛に変わり世界はゆれる(“SOS”)

“SOS”という遭難信号をタイトルに冠した曲で、戸渡は自らの「助けてくれ」という叫びが、巡り巡った遠く離れた場所で、誰かにとっての「愛」に変わる奇跡について歌う。この曲は本作にも収録されているが、元々は2014年の1st EP『プリズムの起点』にも収録されていた曲だ。今作には、“SOS”の他にもインディーズ時代の楽曲が3曲収録されている。高校生の頃から地元・福岡のライブハウスで歌い始め、10代限定のフェス『閃光ライオット』に参加するなど、人生の早い段階から音楽の世界に身を置いてきた彼にとって、「自分と世界」の関係性、その変化が音楽を通して表出することは、至極必然的なことなのだろう。

理不尽な社会に生きる人々に捧げる「生」の讃歌

愛してるよ、君の事好きじゃないけど
そんな僕を誰も気に止めず今日も世界は回ってゆく(“Nobody Cares”)

戸渡の奏でる音楽のなかで、ときとして「世界」は「自分の力ではどうにもできない巨大なもの」として描かれ、彼自身は、そのなかで振り回され、もがき苦しみ、自分自身を見失いそうな存在として描写される。<僕なんてクソだよ>(“ギシンアンキ”)、<今では帰る場所なんてどこにもない>(“Nora”)、<散らかり放題の僕の頭と心の中 / 片付けても現実の流れが早過ぎて追いつけない>(“さよならサッドネス”)……世界の巨大さを前に、無力さを噛み締めることしかできない一人の青年の姿がここにはある。だが、それでも自分の「SOS」が誰かにとっての「愛」に変わるように、彼は音楽を通して世界と関わり合うことで、全てが祝福される瞬間を探し求める。その最初の到達点が、去年3月に配信リリースされ、今作にもハイライト的に収められた名バラード“世界は時々美しい”だろう。

現実はいつだって理不尽
でも、それさえ必然に
思える瞬間に出会ったんだ
Life is beautiful
理由もなく、思わず僕は泣いた(“世界は時々美しい”)

ここには、差別も暴力も矛盾も当たり前に存在するこの世界と、そのなかで弱々しく呼吸するしかない自分自身――そんな自らを苛み続けた構図を反転させるような「肯定」のダイナミズムがある。世界に押し潰されそうになりながらも、それでも音楽を放ち続けることで見つけた愛と優しさがある。音楽的にも、それまでは聴き手の身体にぶつかってくるようなダイレクトなグルーヴ感を重視する曲が多かったが、ここでは歌とメロディーを存分に響かせる包容力のあるサウンドを響かせている。

いしわたり淳治、mabanuaらをプロデュースに迎え制作された高次元のポップスたち

インディーズ時代からタッグを組んでいる深沼元昭(PLAGUES / Mellowhead / GHEEE)はもとより、プロデュースにはmabanua(Ovall)、高桑圭(Curly Giraffe)、いしわたり淳治、阿部芙蓉美を(阿部に関しては12曲目“グッデイ”を提供している)、演奏には茂木欣一(東京スカパラダイスオーケストラ / フィッシュマンズ / So many tears)、白根賢一(GREAT3)、渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)を迎えた本作は、戸渡の繊細な歌声と優れたメロディーセンスを一層活かす作りになっている。

特に“Beautiful Day”や“Sydney”“Nobody Cares”といった楽曲は、フォークやカントリー、ソウルなどのルーツに通じていく戸渡の芯の通った歌とメロディーを、ピアノやストリングスといった豊かなバンドサウンドで照らすことで、より高次元のポップスへと結晶化させた名曲たちだ。そして、“Sydney”の歌詞がまた秀逸だ。

揺れるカーテン 真新しい日差しが
脱ぎ散らかした二人の服と
くしゃくしゃのベッドの中で
無邪気に笑う君の姿眩しく照らした(“Sydney”)

窓からは外の世界の光が差し込み、その光が隣にいるあなたを照らす。この曲の主人公(「僕」)の姿は直接描かれないが、彼の傍にある光と温もりが、「僕」という存在の輪郭をどんな綿密な描写よりも明瞭に描いている。「世界」や「他者」を描くことで、自分だけでは描き切れない自分自身を表現すること――もし、この曲の主人公が戸渡自身なら、『I wanna be 戸渡陽太』というアルバムタイトルの真意もまた、透けて見えてくるようだ。

イベント情報

『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume86』

2016年6月30日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
チーナフィルハーモニックオーケストラ mini
HINTO
戸渡陽太
Tempalay
料金:無料(2ドリンク別)
※会場入口で音楽アプリ「Eggs」の起動画面を提示すると入場時のドリンク代1杯分無料

リリース情報

戸渡陽太『I wanna be 戸渡陽太』
戸渡陽太
『I wanna be 戸渡陽太』(CD+DVD)

2016年6月15日(水)発売
価格:3,564円(税込)
CTCR-14911/B

[CD]
1. Beautiful Day
2. Sydney
3. SOS
4. Nobody Cares
5. ギシンアンキ
6. Nora
7. さよならサッドネス
8. 青い人達
9. 木と森
10. すべては風の中に
11. 世界は時々美しい
12. グッデイ
[DVD]
・“Beautiful Day”PV
・“Sydney”PV
・“すべては風の中に”PV
・“マネキン”PV
・“ギシンアンキ”PV
・“世界は時々美しい”PV

戸渡陽太『I wanna be 戸渡陽太』
戸渡陽太
『I wanna be 戸渡陽太』(CD)

2016年6月15日(水)発売
価格:3,024円(税込)
CTCR-14910

1. Beautiful Day
2. Sydney
3. SOS
4. Nobody Cares
5. ギシンアンキ
6. Nora
7. さよならサッドネス
8. 青い人達
9. 木と森
10. すべては風の中に
11. 世界は時々美しい
12. グッデイ

プロフィール

戸渡陽太
戸渡陽太(とわたり ようた)

枠に収まらない感性の放出で歌を紡ぎ出し、唯一無二な声を武器に独自の世界へと引き込むシンガーソングライター。高校に入り、歌を作り、歌うことに興味を持ち、ギターを弾き始める。ギターを弾き始めてすぐにオリジナル曲作り、地元福岡のライブハウスのステージに立つようになる。その後、「閃光ライオット」をはじめとする各種オーディションを受け、全国各地のライブハウスでの経験も積みながら、徐々にその演奏スタイルとパフォーマンスを身につけ、注目を集めるようになる。そして、2016年6月15日、JUSTA RECORDSよりメジャーデビュー。

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