w-inds.の音楽性を先鋭化させた2つの理由と、その変遷を辿る

この最先端のサウンドは今に始まったことではなかった

w-inds.の新作『INVISIBLE』が、やたらと格好いい。グローバルなダンスポップの潮流、海外シーンと同時代性のあるサウンドが詰まっている。J-POPのど真ん中で、誰より先鋭的な音楽を鳴らしている。

2017年第一弾シングルとしてリリースされた“We Don't Need To Talk Any More”を耳にして驚いた人も多いだろう。15周年を経て着実なファンベースを築いてきた彼らだが、ボーカルドロップの手法を意欲的に導入したこの曲は、確実にその「外側」にまで届いた。SNSの反響を見ても、今までグループの活動を追ってこなかったタイプの音楽リスナーが、この曲を聴いてざわざわしているのが目にとまった。しかもこの曲、橘慶太が作詞・作曲・編曲を担当し、初の全面プロデュースを手掛けている。

これはどういうことなのか? なぜw-inds.は最先端のサウンドを手にすることができたのか?――なんてことを書こうと思うのだが、人によっては、ここまで読んだ時点で「今さら気づいたの?」と感じる人もいるかもしれない。

そうなのだ。筆者自身、正直、このタイミングでこういうことを言うのは遅いかも、という気持ちもある。数年前の時点で、信頼できる周囲の音楽好きから「w-inds.の曲は先入観とっぱらって聴くべきだよ」という話は聞いていて、実際に聴いて「おお、たしかに格好いい!」と思っていた。彼らは2010年代に入ったあたりから、明らかにそれ以前とモードを変え、サウンドの基軸をJ-POPではなくアメリカのコンテンポラリーなアーバンポップに置くようになっていったのだ。

w-inds.が世界のメインストリームの音楽とシンクロしてきた理由とその変遷

EDMを取り入れるのも早かった。アルバム『MOVE LIKE THIS』がリリースされたのは2012年。そこでは“FLY HIGH”や“Touch The Sky”など、四つ打ちのビートと音圧感あるシンセを導入したビッグルームハウスの曲調が主体になっている。『ULTRA JAPAN』が初開催されたのは2014年だから、まだEDMのスタイルが日本のポップミュージック市場には浸透しきっていなかった時期である。

しかも、その次作、2014年にリリースされたアルバム『Timeless』ではさらに音楽性をガラリと変えてきていた。テイストはレトロモダンなファンク / ソウル。おそらくイメージしたのはジャスティン・ティンバーレイクだろう。リード曲“Make you mine”の洒脱なサウンドが象徴的だ。

2010年代中盤は、ソウルやファンク、ディスコをアップデートする潮流が世界のポップミュージックを牽引した時代だった。きっかけとなったのは2013年初頭。Daft Punkの“Get Lucky”がひとつの引き金を引いた。同時期のジャスティン・ティンバーレイク“Suit & Tie”から始まる復活劇も発火点になった。そこからファレル・ウィリアムス、ブルーノ・マーズが世界的なスターダムを駆け上がっていく。2015年にw-inds.がリリースしたアルバム『Blue Blood』もその流れとの同時代性のなかにある1枚だった。

なぜw-inds.は世界のメインストリームとシンクロしたサウンドを追求し続けてきたのか。1つ目の理由は、彼らの視野にアジアが入っていたことだろう。初の海外公演は2004年。そこから彼らの人気は、台湾・香港・韓国・中国・ベトナムなど東南アジア全域に広がった。各国でアワードを獲得するなど評価も高まった。つまりK-POPのグループと同じスタンスで2000年代から活躍してきた。日本のマーケットだけでなく、各国のマーケットが視野に入っていたからこそ、敏感なアンテナを立てていたのだと思う。

そしてもう1つの理由は、彼らのプロデューサーをつとめてきた今井了介の慧眼にある。安室奈美恵や三浦大知など数々のアーティストに楽曲を提供し、日本のR&Bシーンを支えてきた今井了介は、「クラブミュージックの流行やサウンドメイキングのトレンドを押さえつつ、それをJ-POPとして昇華できる」手腕の持ち主。彼がw-inds.を手掛けてきたことはとても大きい。

『INVISIBLE』は新たな局面であると同時に、大きな可能性も提示する

そのうえで、アルバム『INVISIBLE』はw-inds.にとってもニューフェーズに入った1枚と言える。ポイントは、海外のトレンドの変化、そして橘のクリエイターとしての開眼だ。

w-inds.『INVISIBLE』初回盤Aジャケット写真
w-inds.『INVISIBLE』初回盤Aジャケット写真(Amazonで見る

アルバムのテイストや方向性は、前作までの流れからはまた変わってきている。昨年5月にシングルとしてリリースされた“Boom Word Up”は、ブルーノ・マーズの最新作(『24K Magic』)を彷彿とさせる80年代風味のギラギラしたファンクナンバー。ここまでは前作までの延長線上と言えるのだが、しかしその後8月にリリースされた“Backstage”でトロピカルハウスを導入。アルバムでもこうした曲調が主軸になっている。浮遊感あるシンセサウンドがキーになっている。

“CAMOUFLAGE”では、Major LazerやDJ SNAKE以降のエレクトロポップと共鳴するような、音数の少ないトラックでセクシーさを生み出すようなサウンドが鳴らされている。こういう曲調だと特に橘の歌唱力が活きる。

アルバムの楽曲は、基本的に海外のトラックメイカーたちがコライト(共作)の手法で作った楽曲が中心になっている(この方法論自体もグローバルなポップミュージックのシーンでは当たり前の手法だ)。それだけに、この12曲のなかで橘が作詞・作曲・編曲を手掛けた“We Don't Need To Talk Any More”が違和感なく並ぶのは、驚きと言っていい。彼は以前から「KEITA」名義のソロ活動にて自らプロデュースした楽曲を歌うなど、クリエイターとしての才能も開花させてきたが、こうしたスタイルのダンス&ボーカルグループで、メンバー自ら作詞作曲だけでなくサウンドプロデュースも手掛けるのは他に類を見ない。アルバム収録曲“Players”でも橘は作曲を手掛けており、こちらはエレクトロなR&Bのテイスト。千葉涼平、緒方龍一が作詞を手掛けた楽曲も収録されているが、メンバーのクリエイティビティーはこの先のw-inds.にとっての大きな武器となっていくだろう。

w-inds.(左から:緒方龍一、橘慶太、千葉涼平)
w-inds.(左から:緒方龍一、橘慶太、千葉涼平)

ここ最近になって、日本の音楽カルチャーの地殻変動はいよいよめざましいものになってきたと思う。一言で言うと「ボーダレス」になりつつある。国境を感じさせない活動を繰り広げるグループが増えてきている。海外シーンへの意識も変わりつつある。特にインディーシーンでは、めまぐるしいアップデートが続く海外の音楽シーンと共鳴する感性を持ったバンドが続々と台頭してきた。たとえばyahyelやDATSはその筆頭だろう。「世界基準」をイメージしつつアジア全域で活動を繰り広げてきたw-inds.は、そういう新しい世代の感性とも通じ合うサウンドセンスを自然と積み上げてきたのだと思う。

リリース情報
w-inds.
『INVISIBLE』初回限定盤A(2CD+Blu-ray)

2017年3月15日(水)発売
価格:5,000円(税込)
PCCA-04515

[CD1]
1. Boom Word Up
2. Come Back to Bed
3. Complicated
4. We Don't Need To Talk Anymore
5. CAMOUFLAGE
6. Backstage
7. Separate Way
8. ORIGINAL LOVE
9. In your warmth
10. wind wind blow
11. TABOO
12. Players
13. We Don't Need To Talk Anymore DMD Remix
[CD2]
1. w-inds. Reflection Remix by DMD
[Blu-ray]
1. Boom Word Up Music Video
2. Backstage Music Video
3. We Don't Need To Talk Anymore Music Video
4. The Making of Boom Word Up Music Video
5. The Making of Backstage Music Video and Photography
6. The Making of We Don't Need To Talk Anymore Music Video
7. Solo Interview ~RYOHEI~
8. Solo Interview ~KEITA~
9. Solo Interview ~RYUICHI~
10. Special Movie ~“INVISIBLE” Game~

w-inds.
『INVISIBLE』初回限定盤B(CD+DVD)

2017年3月15日(水)発売
価格:3,850円(税込)
PCCA-04516

[CD]
1. Boom Word Up
2. Come Back to Bed
3. Complicated
4. We Don't Need To Talk Anymore
5. CAMOUFLAGE
6. Backstage
7. Separate Way
8. ORIGINAL LOVE
9. In your warmth
10. wind wind blow
11. TABOO
12. Players
13. We Don't Need To Talk Anymore DMD Remix
[DVD]
1. Boom Word Up Music Video
2. Backstage Music Video
3. We Don't Need To Talk Anymore Music Video
4. Behind The Scene of INVISIBLE
5. 3shot Interview about INVISIBLE

w-inds.
『INVISIBLE』通常盤(CD)

2017年3月15日(水)発売
価格:3,000円(税込)
PCCA-04517

1. Boom Word Up
2. Come Back to Bed
3. Complicated
4. We Don't Need To Talk Anymore
5. CAMOUFLAGE
6. Backstage
7. Separate Way
8. ORIGINAL LOVE
9. In your warmth
10. wind wind blow
11. TABOO
12. Players
13. We Don't Need To Talk Anymore DMD Remix

プロフィール
w-inds.
w-inds. (ういんず)

橘 慶太、千葉 涼平、緒方 龍一からなる3人組ダンスボーカルユニット。2000年11月から毎週日曜日、代々木公園や渋谷の路上でストリートパフォーマンスを開始。2001年3月14日にシングル『Forever Memories』でデビュー。同年リリースされた1stアルバム『w-inds.~1st message~』はオリコンチャート1位を記録。これまでに日本レコード大賞 金賞7回、最優秀作品賞1回を受賞し、NHK紅白歌合戦には6回出場と、実力・人気を不動のものとした。その活躍は、台湾・香港・韓国・中国・ベトナムなど東南アジア全域に拡がり、海外でも数々の賞を受賞。台湾ではアルバム4作連続総合チャート1位を記録。日本人として初の快挙を達成。21世紀という新しい時代に日本を中心に、世界中へ新しい風を巻き起こし続けている、男性ダンスボーカルユニット―――それがw-inds.である。



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