特集 PR

カンヌ映画祭で絶賛 『RAW〜少女のめざめ〜』の魅力をレビュー

『RAW~少女のめざめ~』
テキスト
降矢聡
編集:久野剛士
カンヌ映画祭で絶賛 『RAW~少女のめざめ~』の魅力をレビュー

奇抜な設定で描かれる、「普通の少女」の物語

カンヌ映画祭をはじめ、数々の映画祭で話題をさらったフランスのジュリア・デュクルノー監督長編デビュー作『RAW~少女のめざめ~』の魅力は、少女からの成長を食人(カニバリズム)という形を通して描いたセンセーショナルな内容にあるのではない。本作は、思春期特有の少女の葛藤、つまり「普通」でありたいと願いつつも、自分の中に秘められた欲望に突き動かされてしまう、どうしようもない分裂や衝突を、ときに鮮烈にときにユーモラスに描いている点が新鮮なのだ。しかも獣医科大学を舞台に展開する本作は、学園青春モノとしてさえも見られるだろう。

『RAW~少女のめざめ~』場面写真 / © Dominique Houcmant Goldo
『RAW~少女のめざめ~』場面写真 / © Dominique Houcmant Goldo

大学では、先輩たちによる新入生に対する過激ないびり=教育期間があり、新入生の主人公ジュスティーヌは、このミニマルな社会で色々なルールを教え込まれる(原題『RAW』には「訓練されていない人」という意味もある)。例えばベジタリアンの彼女は、入学の通過儀礼で強制的に肉を食べさせられたり、寝具を窓から落とされたりと散々な目にあう。

ただし、それらは反抗すべきものとも限らない。彼女はいままで経験したことのないパーティーに参加し、食べたことのない食べ物を味わい、他人との肉体的なつながりを知っていくからだ。映画に描かれるほど過剰でないにしても、私たちも外から与えられたルールを身につけ、新しいものに出会い成長してきた経験はあるだろう。

先輩たちの教育によって肉を知った彼女の身体は変調をきたす。しかし、医務室で身体中にできた発疹が「顔にも出るのか」と不安になる彼女は、容姿を気にし、ヴァージンであることを少し恥ずかしく感じる、どこまでも普通の思春期の少女だ(女医に「あなたはどんな人間?」と問われると彼女は「普通です」とさえ答える)。

『RAW~少女のめざめ~』ポスター / © 2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHT RESERVED.
『RAW~少女のめざめ~』ポスター / © 2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHT RESERVED.(サイトを見る

「肉食女子」が直面する、思春期の悲愴な恋愛劇

普通の少女の思春期を描こうとする本作は、数々の青春モノでも重要な役割を担ってきた衣服がひとつのキーとなって展開していく。ジュスティーヌは先輩から「セクシーな格好をしろ」と命令されるが、控えめな彼女はセクシーな服など持っていない。そこで同じ大学の先輩でもある姉アレックスから服を借りることになる。

当初は「自分には似合わない」と愚痴っていたその服を次第に着こなしていくにつれ、彼女は「女性」としての自信を持ち始める。姉の服を身につけ、鏡の前で踊ってみせるジュスティーヌ自身、そうした少女からの脱皮を好ましく思っているようだ。そしてイメージチェンジした彼女は、ルームメイトのアドリアンと初体験まで果たすことになる。

ジュスティーヌとルームメイトのアドリアン / © 2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHT RESERVED.
ジュスティーヌとルームメイトのアドリアン / © 2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHT RESERVED.

しかし、ここで普通の少女であるにもかかわらず、「カニバリズム」という宿命を背負う彼女は、悲痛な問題に直面する。「好きな異性と触れ合いたい」という、正常な願いと、秘められた欲望=カニバリズムという人間社会のルールを逸脱するタブーが絡み合う。そこで彼女は、求めるアドリアンを噛みつき傷つけてしまうと同時に、自分自身の心をも傷つけてしまうだろう。

求めれば求めるほどに相手と自身をも深く傷つけてしまう彼女は、まるで「ヤマアラシのジレンマ」の寓話のようだ。本作が描き出す葛藤の痛みは、カニバリズムという過激な内容や描写にではなく、求める相手や社会との適切な距離を必死に探し、もがく姿にこそある。だからこの映画はセンセーショナルで突飛な内容とは裏腹に、きわめて普遍的な私たち自身の物語でもあるのだ。

『RAW~少女のめざめ~』場面写真 / © 2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHT RESERVED.
『RAW~少女のめざめ~』場面写真 / © 2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHT RESERVED.

作品情報

『RAW~少女のめざめ~』
『RAW~少女のめざめ~』

2018年2月2日(金)よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国ロードショー
監督・脚本:ジュリア・デュクルノー
出演:
ギャランス・マリリエ
エラ・ルンプフ
ラバ・ナイト・ウフェラ

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

シャムキャッツ“完熟宣言”

<もしも願いが叶うならば はぐれた仲間の分まで 幸せな未来をちょうだい>。円陣を組んでシャムキャッツの4人が歌っている。大切な人との別れ、当たり前だった日常が失われていくことも横目に、ステップは絶えず前に。無邪気に笑顔を振りまく姿に、大人になるのは哀しくも楽しく、なんてことを思う。(山元)

  1. 香取慎吾の日本初個展『BOUM! BOUM! BOUM!』レポ 「僕の全部を見て」 1

    香取慎吾の日本初個展『BOUM! BOUM! BOUM!』レポ 「僕の全部を見て」

  2. 星野源のNHK特番、『POP VIRUS』&ドームツアー回顧&最新ライブ映像も 2

    星野源のNHK特番、『POP VIRUS』&ドームツアー回顧&最新ライブ映像も

  3. 小山田圭吾×大野由美子対談 「音に触れる」空間音響がすごい 3

    小山田圭吾×大野由美子対談 「音に触れる」空間音響がすごい

  4. 箕輪厚介×國光宏尚対談 終わりが見える「SNS社会」の次を語る 4

    箕輪厚介×國光宏尚対談 終わりが見える「SNS社会」の次を語る

  5. 平手友梨奈が真紅のCDGを纏う&市川染五郎と“黒い羊”語る雑誌『SWITCH』 5

    平手友梨奈が真紅のCDGを纏う&市川染五郎と“黒い羊”語る雑誌『SWITCH』

  6. なぜ今ライブハウスを? 吉祥寺NEPOが語るこれからの場所作り 6

    なぜ今ライブハウスを? 吉祥寺NEPOが語るこれからの場所作り

  7. 知英がセクシーな喰種・イトリ役 窪田正孝主演『東京喰種2』に出演 7

    知英がセクシーな喰種・イトリ役 窪田正孝主演『東京喰種2』に出演

  8. フィッシュマンズの歴史が更新された夜。ceroとの時を超えた邂逅 8

    フィッシュマンズの歴史が更新された夜。ceroとの時を超えた邂逅

  9. 上白石萌音が杉野遥亮&横浜流星の間で心揺れる 『L♡DK』新映像3種公開 9

    上白石萌音が杉野遥亮&横浜流星の間で心揺れる 『L♡DK』新映像3種公開

  10. 映像作家・山田智和の時代を切り取る眼差し。映像と表現を語る 10

    映像作家・山田智和の時代を切り取る眼差し。映像と表現を語る