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Eveが『Smile』で果たした変化と独白。クロスレビューで探る

Eve『Smile』
2020/02/14
Eveが『Smile』で果たした変化と独白。クロスレビューで探る

胡乱なこの世界で泣き笑いをするために、彼はこの歌を紡いだ
テキスト:小川智宏

最後の“胡乱な食卓”を聴き終えたあとに残る、チクリとした痛み。それは確かに痛いのだが、同時にどこか心地よくもある。なぜなら、ここにEveと僕たちの生活の接点があるからだ。ダイナミックに展開するアルバムの世界から、薄い膜を破って「こちら側」に伸びてくる手。それは救いなのか裁きなのか、それとも愛なのか。まあいずれにしても、僕やあなたと同じようにEveもまた悩み、混乱し、希望と絶望が絡み合った日々を暮らすひとりの人間なのだという事実を、この『Smile』というアルバムは教えてくれる。

「Eveは人間である」ってそんなの当たり前じゃん何言ってんの、とあなたは思うだろうし僕も思うが、それでもこれは画期的だ。『おとぎ』『文化』という2作のアルバムを聴いたとき、まるで要塞のようだと感じたことを思い出す。<ドラマチックな展開をどっか期待してんだろう>(“ドラマツルギー”)、<あぁ 結末は知らないでいたい / 少し寂しくなるくらいなら このまま続いて欲しいかな>(“君に世界”)。隙間なく積み上げられた音のブロックと、その上に塗られた真っ白なペンキ。中には光も闇もちゃんと用意された、完璧な箱庭が設えられている。外界からの侵攻も外界への漏出も許さない、というよりもそれを防ぐ鉄壁のガードの内側で、文字通り世界の縮図が展開していく――そんなイメージ。

『文化』(2017年)収録

ネット発の歌い手という彼の出自に対する先入観があったのではないかと言われればそのとおりだと思うし、もしかしたらそれは先入観というよりも偏見に近いものだったのかもしれない。だがそんな箱庭的な物語が、僕を含む聴き手にとって強力なレメディとして作用していたことも確かで、たとえネガティブな感情や痛みや孤独を歌おうとも、Eveの音楽は究極的にはある種の癒やしやシェルターとして存在していたのだと思う。しかし『Smile』はその真っ白な壁を、『Smile』のEveは他ならぬ彼自身の手によってぶち抜いていく。

肉体性を増しただけではなく、ジャンルやスタイルという意味でもアッパーからダウナーまでの大きな高低差を表現しきるという意味でも劇的な拡張を遂げているサウンド(“闇夜”や“バウムクーヘンエンド”の血がどくどくとめぐるような感覚は出色だ)、“LEO”で<唸れよ 応答してくれよ / たまたまそちら側に居て / 何も知らないだけ>と「宣告」し、“虚の記憶”で空に向かって広がっていくような音に乗せて<だけど 心に穴が空いたままな僕は / 満たされない 気づきたくないのに>と本心を吐露し、“mellow”に至って<この人生は歩く影法師のような物語>とその虚構性を自ら暴露する歌詞。今いる場所がかりそめ――“mellow”の歌詞中の言葉を借りるなら「夢」――であることを自ら看破し、その外側にある「胡乱」な現実にフォークを突き立てる。『Smile』とはそういうアルバムなのだ。その意味では、“白銀”や“心予報”のようなキャッチーなタイアップソングの圧倒的な普遍性と上に挙げたような自らの心をえぐるような楽曲のディープさは表裏一体だといえる。

涙を流す横顔の絵に『Smile』の文字。そんなジャケットワークが、このアルバムと、そこに込められた人間の姿を象徴している。泣き笑いなんてあらゆる生物のなかで人間にしかできない芸当だし、そこに折り重なった複雑な感情こそが僕たちだ。表でも裏でもない、AでもBでもない、光でも闇でもない――いや、正確にいえばどちらでも「ある」この世界で、いかにして本当の意味で笑ってみせることができるのか。それはEveにとってみれば『どろろ』の百鬼丸に感情移入することで歌うことができた<呪われた世界を 愛せるから>(“闇夜”)という言葉を本当の意味で自分のものにするための闘争であり、映像表現やライブでの表現という部分ではすでにその闘争は新たな展開を見せ始めている。

Eve『Smile』初回盤ジャケット写真
Eve『Smile』初回盤ジャケット写真(Amazonで見る
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リリース情報

Eve『Smile』初回盤
Eve
『Smile』初回盤(CD+DVD)

2020年2月12日(水)発売
価格:4,180円(税込)
TFCC-86702

1. doublet
2. LEO
3. レーゾンデートル
4. 虚の記憶
5. いのちの食べ方
6. 闇夜
7. 朝が降る
8. 心予報
9. 白銀
10. バウムクーヘンエンド
11. mellow
12. ognanje
13. 胡乱な食卓

※特製ボックス仕様

Eve『Smile』通常盤
Eve
『Smile』通常盤(CD)

2020年2月12日(水)発売
価格:3,080円(税込)
TFCC-86703

1. doublet
2. LEO
3. レーゾンデートル
4. 虚の記憶
5. いのちの食べ方
6. 闇夜
7. 朝が降る
8. 心予報
9. 白銀
10. バウムクーヘンエンド
11. mellow
12. ognanje
13. 胡乱な食卓

イベント情報

『Eve Live Smile』

2020年5月23日(土)
会場:神奈川県 ぴあアリーナMM

プロフィール

Eve
Eve(いぶ)

2枚の自主制作アルバムを経て、2016年に全国流通盤『OFFICIAL NUMBER』をリリース。2017年に発表したアルバム『文化』は初めて全曲自作となり、収録曲“ドラマツルギー”はYoutubeで5,000万再生を突破。2018年~2019年は、12,000人を動員したワンマンツアー『winter tour 2019-2020 胡乱な食卓』を含めて全公演が即完。2019年2月発売の『おとぎ』はオリコンデイリー2位を獲得した。2020年2月12日にニューアルバム『Smile』を発売し、5月23日にはアリーナワンマンライブ『Eve Live Smile』を予定している。

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