『ニセ札』木村祐一監督インタビュー

放送作家、芸人、そして料理人など多彩な顔を持つ才人、ご存知キム兄こと木村祐一が、映画監督としての初長編作品『ニセ札』を世に問う。プロデューサーから「あなたは映画監督になる人だ」と熱烈なラブコールを送られ、倍賞美津子、段田安則などの豪華なキャストを迎えて実現した本作は、戦後まもない時期、実際にとある村で起こったニセ札製造事件に基づいている。普段はお笑いの世界で活躍している彼が、どのような思いで映画制作に臨んだのか。おおらかな人間性と同時に、言葉をていねいに選ぶ繊細さを感じさせる姿勢で、その思いを語っていただいた。

映画監督って、大人になっても子どもの部分を残せる職業やと思います。

―『ニセ札』は、木村さんにとって初となる長編映画の監督作品なわけですが、メッセージ性のある、とても素晴らしい作品に仕上がっていましたね。特に、ラスト近くの裁判所のシーンで、倍賞美津子さんがおっしゃる印象的なセリフが好きでした。

木村:ありがとうございます。僕も、あそこ好きなんですよ。あのセリフを言わせたかったんですよね。

『ニセ札』木村祐一監督インタビュー

―今回のお仕事をされたことで、これまでに持っていた「映画監督」という職業のイメージに、何か変化はありましたか?

木村:世の中に、映画監督と呼ばれる職業に就いている方々はたくさんいらっしゃると思いますが、その一人ひとりによって全く別物なんやろうな、と実感しましたね。表現方法こそ、スクリーンに映写した作品を劇場でお客さんに見てもらうという共通点がありますが、それ以外はバラバラというか、個人によって全く異なる職業だと思います。以前から、漠然とはそう思っていたんですけれど、映画を撮り終わってからその思いがますます強くなってきましたね。また、そういうものとして、周りからも見てもらいたいという希望もあります。「映画監督」というくくりで、他の方々と同じような扱われ方を僕がされてしまうのは、失礼かなとも思っていますし(笑)。一人ひとりの個性を大事にするというのは、世界各国での映画監督の教育方針でも同じやないでしょうか。そういう意味では、大人になっても子どもの部分を残して仕事をできる職業やな、とも感じましたね。

―なるほど。子どもの部分を残せるというのは、すごく素敵なことですね。

木村:もちろん、子どもの部分だけでは務まらないんですけどね。まあ、普通の社会人でも、子どもの部分を残したまま大人になっている人もいますよね。例えば、おっさんが、新幹線のグリーン車で、アイスクリームを食べてるところを見かけたときなんかそう感じますよ(笑)。けっこう食いよるんですよね、アイスクリーム(笑)。あんまり家で堂々と食べられへんのやろな、と勘繰ってみたりするんですが。

自分の感性にウソをついてまで、間口を広げて作品を創るようなことはしないです。

―木村さんはお笑いの世界で長くキャリアを積まれてきたわけですが、お笑いを創ることと、映画を創ることとの間に、なにか共通点はあるのでしょうか?

木村:それはやっぱり、頭で考えていることを、どれだけ役者さんを通じて伝えられるか、ということでしょうね。お笑いはおもに舞台表現なので、お客さんが舞台上のどこを見ているのかわからないため、しゃべっている人以外もずっと演技をしている必要があるという点では、映画とは違っています。ですが、どちらの表現も、これを言いたいんだとか、これを面白いと思うんだ、などといった命題をはっきりさせて、伝えていこうとする点では同じなんです。あることを言いたくて、コントなら5分や7分、映画なら90分という尺になっていく。それが必要な時間なんだ、と感じさせる作りにするんですね。

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―言いたいことがしっかりしているのが、いいお笑いやいい映画作品につながっていくんでしょうかね。

木村:言いたいことがない作品なんてない、と思います。そりゃあ共感してくださる人数や共感を呼ぶ箇所が、作品によっていろいろと違ってくるのは当然なんですけれども、多くの人が理解できるように、自分の感性にウソをついてまで間口を広げて作品を創ることはしないです。ウソって、バレますからね。映画を創り上げるのには、現場での判断がとても重要になってきますが、監督として映画制作のプロたちと接するときにも、無理に彼らと意見を合わせようとはしないです。あるいは支持者がいないかもしれない、という思いは頭をよぎりますけれど、そこはわかりませんからね。信念を持ってやらないと、支持されるもんもされなくなりますから。

一生懸命になっている人間の姿が、愛おしいんですね。

―本作では、向井康介、井土紀州の各氏と共同で、脚本の執筆にもあたられていますね。特にこだわったシーンについて教えてください。

木村:登場人物たちが、河原でピクニックをしているところですね。ほぼワンカットで撮影して、人物たちの結束感を出しました。あんまりダラダラと長くならないように、何時間にも及ぶピクニックのうちの1分間だけ、というように、凝縮した形で取り出して見せました。

―その場の空気感が伝わってくる、いいシーンでした。ああいった普段の生活があるからこそ、いざ事件が起こったというとき、観客は素直に引き込まれるんですよね。

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木村:登場人物たちが、お互いに気を許し合っているシーンを入れたかったんですね。ロケ地の河原ですが、前の日に雨が降ったので、河の増水が気になっていたんですよ。音はうるさかったんですが、無事に撮影を済ませることができました。撮った直後に、ざんざん降りになったんです。

―ツキがあったんですね。

木村:ニセ札のお話しですが、ほんとは警察に捕まらなくてもよかったんじゃないかなと思うくらい、スムーズに撮影が進みました。こんだけ晴れてんのやから捕まらなくてもええんちゃうか。成功して終わりでいいんちゃうかな、みたいな(笑)。

―その登場人物たちについてですが、一筋縄ではいかない方々ばかりに見えました。どういう人物たちを描こうと意図されたんでしょうか?

木村:まずは、その村に住んでいる代表的な人物像を描きたい、ということがありました。いろいろな性格や職業を持った人物が出てきますけれど、一人ひとりの欲望や希望を、人物同士の差異を踏まえつつ、わかりやすく表現しようとしました。欲望や希望って、一人にひとつきりではないですよね。例えば、食べたい飲みたいあれ欲しいとか、これ着たいとかあそこ行きたいとかいろいろな欲望があるので、それをなるべく描き込みたいなと。お客さんには、あの人のこんな部分が分かる、というように、取捨選択して感情移入してもらえればと思っています。

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―映画を見ているうちに、自分たちの欲望に忠実で、一生懸命になっている登場人物たちが、だんだん愛おしく思えてくるんです。そこで最後に、木村さんにとって、この人のこういうところは愛おしいだとか、逆にこういうところは許せないということがあれば、教えていただけますか?

木村:やっぱり、一生懸命になっている人は愛おしいですね。何に打ち込んでいてもいいけれど、これが好きでやってるんだ、という思いが伝わってくる人。感性が豊かで、物事の受け止め方がはっきりしているような人は愛おしいなと思いますね。それに対して、人の気持ちを汲んでやれない人は、「許せないな、考えられへん!」と思う。

例えば、家族には優しいけれど、他人には厳しい態度を取るとかね。街でビラを配ってるお姉ちゃんを冷やかしたりしている人なんかを見ると、お前にもそれぐらいの娘がおるだろうに、娘が街でそんなこと言われていたらどうだ、と頭に来ます。ある人の一場面だけを見て判断するんじゃなくてね、自分を相手の立場に置き換えてみて、ああいう状況であればこうなってしまうんやろうな、と考えられる人、つまり他人をおもんばかれる人が好きです。

イベント情報
『ニセ札』

2009年4月11日(土)より、テアトル新宿、シネカノン有楽町2丁目他全国ロードショー

監督:木村祐一
企画・原案:山上徹二郎 小笠原和彦
脚本:向井康介 井土紀州 木村祐一
撮影:池内義浩
編集:今井剛
プロデューサー:渡辺栄二
製作:山上徹二郎

キャスト:
倍賞美津子
青木崇高
板倉俊之
木村祐一
西方凌(新人)
村上淳
段田安則

配給:ビターズ・エンド
製作:「ニセ札」製作委員会、吉本興業、シグロ、バップ、ビターズ・エンド、CELL、リトルモア
35ミリ/ビスタサイズ/DBデジタル/94分

プロフィール
木村祐一

1963年京都府生まれ。ホテルマン、染色職人などを経て、86年漫才コンビ「オールディーズ」としてデビュー。94年、東京進出。「ダウンタウンのごっつええ感じ」(CX)で構成作家としてもデビュー、料理関係などの著書多数。主な映画出演作に、『誰も知らない』(04/是枝裕和)、『ゆれる』(06/西川美和)、『松ヶ根乱射事件』(07/山下敦弘)などがある。



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