誰だって幸せを感じていい sgt.インタビュー

前作『capital of gravity』発表時の取材で、sgt.のリーダーである明石はこんなことを言っていた。「(インストロックが)ブームではなく文化として、ひとつのジャンルになってほしいっていうのは強く思います」と。あれから約2年が経ち、今年もLITEやkowloon、L.E.D.といった多くのインストバンドに取材させてもらっていることを考えると、インストロックが定着の道を進んでいるのは間違いないと思うが、それと同時に各バンドがそれぞれのやり方で新しい展開を模索していると感じることは非常に多い。そんな中、明石は新作『BIRTHDAY』を制作するにあたって、一編の物語を作り、それを音楽で表現したのだという。そこには「何より重要なのは、自分たちの世界観である」という、彼らの基本姿勢が明確に示され、その姿勢を基にして、新しいsgt.の音楽性を見事に確立したのが『BIRTHDAY』という作品なのだ。なお、取材時にその物語の概要を聞いてはいるのだが、詳細はここでは掲載しないでおく。明石もインタビュー中で語っている通り、聴き手がそれぞれで解釈し、そこから何かを感じてもらえればと思うのだ。

ライブは激しいし、感情的になるんですけど、曲を作るときはより音楽的に表現したいというか、新しいことにもチャレンジしたいっていうのがあったんです。(成井)

―『BITHDAY』は約2年ぶりの新作ですが、まず昨年はどんな年でしたか?

明石(Ba):ホントにライブをたくさんして…「地方に行こう」っていう年でしたね。

成井(Vn):どんどん新しいところに行こうって。あと、カナダでの演奏ですね、初めての海外ツアーだったので。

―カナダは、uhnellys、MASS OF THE FERMENTING DREGS、susquatchと4組で回ったんですよね。いかがでしたか?

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成井幹子

成井:すごく楽しかったです。ジャンルというか、表現することが全然違う4組だったので、とても刺激を受けたし、より頑張ろうって気持ちになったし。あと、カナダの人たちの音楽に対する姿勢が、より生活と密接なんだなって感じましたね。


―ライブの盛り上がりもすごかったですか?

明石:そうですね。やっぱり、僕らは歌がないじゃないですか? そこに意味を感じられたというか、ホントにサウンドと僕ら人間の雰囲気だけで楽しんでもらえたと思います。

成井:「この盛り上がり、この評価が欲しかった!」みたいな(笑)。物販とかも躊躇なくすぐ買ってくれるんですよ。

―日本以上にダイレクトに反応が返ってくるわけですね。

明石:それを感じたツアーでしたね。あとは風景とか、土地から貰うものもありました。日本の田舎とはまた違う、でかい、広い…基本はバス移動だったんですけど…

成井:ずっと枯れた森が続いてたりとか(笑)。

明石:そこで新しいものを感じたのを経て、アルバムの制作に挑めましたね。

―では、実際の新作についてですが、前々作『Stylus Fantastics』の頃みたいなバンド全体で押し寄せてくるような勢いのある曲っていうのはわずかで、その分、1曲1曲の方向性が明確になりつつ、なおかつアルバムとしてのトータルの流れがある作品だなって思いました。

成井:…的確です(笑)。

明石:上から目線やな(笑)。

成井:いやいや(笑)。自分でもちょっと感じていたのが、ライブは激しいし、感情的になるんですけど、曲を作るときはより音楽的に表現したいというか、新しいことにもチャレンジしたいっていうのがあったんです。あとは長年の付き合いの中で、お互いの意思疎通がソリッドになってきたなって。考え方の筋道も、最終的に同じところに行きついたり…大人になったのかな(笑)。

―前作『capital of gravity』は田岡さんが正式加入しての初めての作品で、バンドを再構築するような側面があったと思うんですね。そこから2年経って、よりバンドとして強固になったということでしょうか?

明石:そうですね。今回は「これ!」っていうテーマを最初に決めて、そこから全部曲を作っていったんです。ホントに…僕のわがままっていうか、こういう作品で、こういう意図で、こういうイメージで、こういう流れでっていう細かいところまで、明確に説明しました。

2/3ページ:テーマ性はもう、愛ですね。今ここにいて、幸せでいていいんだって、みんなが思えるようなものにしたくて。(明石)

テーマ性はもう、愛ですね。今ここにいて、幸せでいていいんだって、みんなが思えるようなものにしたくて。(明石)

―そのイメージはどういうイメージだったんですか?

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明石興司

明石:まず、「星の少女が旅をする」って物語を作って、それを口頭でみんなに伝えて、イメージしてもらったんです。その物語を表現するために一生懸命曲を作って、なおかつ1曲1曲にも物語があって完結してるんだけど、トータルで聴かないと意味がないようにしたくて、それもメンバー理解の上で…


成井:そうですね…大変でしたけど(笑)。リーダーの要望というか、わがままを(笑)、自分たちなりに受け取って、それを消化して、パスを返して、オッケーサインをもらえるかっていう作業でした。

明石:すごい面倒くさいことをしてるっていうのはわかってたんです。譜面書いて、文章も書いて、「これをやるから」っていうのができればいいんですけど、それはできないですし、それをやると…

成井:ダイナミクスがなくなっちゃうような…

明石:それもそうだし、ホントに「明石興司のバンド」になっちゃうんで。あくまで僕は提案者で、メンバーがもがきながらも返してくるっていうのがsgt.の良さだと思うんです。

―sgt.って、これまでも音そのものじゃなくて、何か違うところにインスピレーション源があって、それを音に変換するような曲作りだったんですか?

明石:今までもそうです。ただ、これまでは曲にお任せしちゃうところもあったんですけど、今回は先にある想いに曲を近づけたくて、ゼロからケツまですべて作りこんだって感じですね。

―では、その物語にはどんなテーマ性があったのでしょうか?

明石:テーマ性はもう、愛ですね。今ここにいて、幸せでいていいんだって、みんなが思えるようなものにしたくて。色んなことがあっても、今立ってる場所が幸せな場所なんだよっていうのを伝えられたらいいなと思って書いたんです。

―なぜ今ストレートな「愛」っていうテーマが出てきたんでしょう? 震災も関係あるんでしょうか?

明石:でも物語を書いたのは震災の前なので…なんでしょうね…

成井:あの、たぶん…メンバー3人今年結婚するんですよ。そんなメンバーの感じが愛に向かっていたんでしょうね(笑)。

明石:なんやねん、それ(笑)。

―(笑)。いや、でも関係なくはないかもしれないですよね。前回取材させてもらったときに、「西洋的で、きれいで」ってよく言われるけど、自分たちとしてはバンドの生々しい部分も大切にしてるっておっしゃってたじゃないですか? そういう意味では、実際の生活が作品に反映されるのも自然かなって。

成井:物語をリーダーが語り始めたときは、彼女ができたときで(笑)。

明石:関係ないわ(笑)。

成井:あるよ!「愛やで!」って言ってたの覚えてるもん(笑)。

―(笑)。

明石:去年の秋に、カナダツアーが終わって作品を作りたいと思ったので、その影響はあるかもしれないですね。僕、海外に初めて行ったんですけど、世界中にいろんなやつが生きてて、そこに立ってるっていうのは、それ自体「あり」じゃないですか? それをもっとみんな主張したらいいと思って。生きてること自体が「あり」だって。

―生きていることの肯定?

明石:そう、すぐ否定的な空気が広がったりとかするじゃないですか? それは違うんじゃないかって。政治的までいかないですけど、メッセージ性をちゃんと伝えたいって思ったんです。でも、それをそのまま言うんじゃなくて、物語にして、あとは受け取る方にお任せするしかない。そういう作品から、みんながいろんなものを感じてもらえたらなって。

―成井さんは、明石さんから物語のことを聞かされたときはどう思いましたか?

成井:「ああ、次はそう行きますか」って先を不安に思う、みたいな…(笑)。

明石:そういうリアクションはされるんですけど、結局は一緒に歩んでくれるんで、すごく信頼感があるんですよね。

成井:やっぱり長年の、10年ぐらいの付き合いなので、もう家族みたいなものですからね。

3/3ページ:kimくんに出会って、すごくソウルフルで、メッセージ性があって、私たちの表現したいことと合致したんです。(成井)

kimくんに出会って、すごくソウルフルで、メッセージ性があって、私たちの表現したいことと合致したんです。(成井)

―今回の作品にはkowloonの中村圭作さんをはじめとしたゲストプレイヤーもたくさん参加されていますが、彼らもその物語を表現するために必要だったと。

成井:そうですね…自分たちで弾けるなら弾きたいんですけど(笑)。無理にたくさん入れようと思ったわけじゃなくて、「ここにはこれがあった方がいいよね」って。

明石:「何が必要か」から始まって、「この人にお願いしよう」っていう。その人のセンスを信頼した上での話なので、僕らが伝えたことによりいいものが返ってくるだろうって確信もありました。

誰だって幸せを感じていい sgt.インタビュー

―前作で今の4人でのsgt.というのがひとつ固まったからこそ、今回は他の人がたくさん参加しててもsgt.としての色が出せる自信があったっていうことでもあるんでしょうか?

明石:そうですね。自分がやりたいことを伝えると、メンバーが自分たち流に返してくれるんで、どんな人が入っても埋もれることがないのはわかってたので。あとはやっぱり表現の幅を広げたかったんですよね。4人のバンドスタイルでできることもたくさんあるんですけど、それだけだと今作のイメージじゃないって感じることががたくさんあって、どうしても管楽器や鍵盤が必要だったんです。

―中でも、やっぱりuhnellysのkimさんが参加した初のボーカル曲“Zweiter Weltkrieg”が印象的でした。さっきからおっしゃってるように、あくまで物語の世界観を表現するためにボーカルを必要としたのか、それとも音楽的にボーカル曲を作ってみたいという考えがあったのか、どちらが先だったのでしょう?

明石:前者ですね。その前の曲(“breathless”)である人物の演説を使ってるんですけど、その流れから曲を作りたかったんです(“Zweiter Weltkrieg”は、ドイツ語で「第二次世界大戦」の意)。それで演説っぽい喋りの人はいないかと思って…実際は全然違うんですけどね(笑)、彼ならちゃんと歌詞を伝えられるっていう印象があったので。

―インストのバンドがボーカルを入れること自体は珍しくなくなってきましたけど、楽器的な取り入れ方をするバンドがほとんどだと思うんですよね。ここまで言葉の印象が強いボーカルが入ってるのは珍しいなって。

明石:そうなんですよ。でも、それぐらい伝えたかったんです。

―迷う部分もあった?

明石:僕どこかの取材で「絶対歌は入れないっすね」なんて言った覚えがあります(笑)。

成井:元々、声を入れることに憧れはあったんですけど、私たちのやりたいことを上手く消化してくれるようなボーカリストとの出会いがなかったんですよ。でもkimくんに出会って、すごくソウルフルで、メッセージ性があって、私たちの表現したいことと合致したんです。

明石:昔は声を入れることに抵抗があったんですけど、今までは、おっしゃったように楽器のように使ってみたいって思いつつこれまで来てて。それが、このタイミングで「物語を伝えたい」っていう風に変ったので、何の迷いもなくお願いしました。

八方ふさがりな中で、これからやるべきことを考えたら、単純に世界観を重視し続ければいいんじゃないかって思ったんですよね。表現者として作品を作るということを、時代に流されずにやり続けたいなって。(明石)

―では、アルバムタイトルの『BIRTHDAY』ですが、つまりはその物語のタイトルが『BIRTHDAY』だったっていうことなんでしょうか?

明石:いや、物語のタイトルは決まってなかったんですよ。大体sgt.は最後にタイトルを決めるんですけど、今回も、タイトル考えるのが大好きな(笑)ドラムの大野さんがアイディアを持ってきて。物語の最後に星の少女は生まれ変わって人間になるので、『BIRTHDAY』。あとはsgt.がもう1回生まれ変わったってことでもあるし、さらなるオプションで、成井さんが妊娠してるっていうのもあって。

―やっぱりプライベートとリンクしてますね(笑)。

明石:これまでのsgt.から脱したいっていう面も僕は強かったです。もちろん、変えたくない部分もたくさんあるんですけど、次の段階にどうしても行きたくて、いろいろ考えました。そういう中で、世界観を伝えなきゃいけないっていうのはずっと勝手に思ってたので、それで物語を書いたんです。世界観を強くするには、世界観そのものを表現するしかないんじゃないかって。

―前回の取材で、インストバンドっていうのがブームで終わるんじゃなくて、文化として、ひとつのジャンルになってほしいっていうことをおっしゃってたじゃないですか? あれから2年経って、実際ブームみたいなものは去って、定着して、今って各バンドが次を目指してる状態だと思うんですよね。

成井:難しくなりましたよね。みんな上手いし、変拍子とか、難しいアンサンブルに挑戦したり。もちろん、そういうのも大事だと思うんですけど、やっぱり心に響く音楽っていうのを伝えたいので、ストーリーに付随するものを自分たちで再現したりする方が、心に訴えかけることができるんじゃないかと思って。

―それぞれのバンドが個性とかオリジナリティを出そうとしてて、違う楽器を使ったり、よりプログレッシブになったり、それこそボーカルを入れてみたりする中、sgt.は物語を作って、世界観をより強く打ち出すことで、より伝わる音楽を作ろうとしたと。

明石:そうなんです。周りにインストやってる友達や先輩がいっぱいいて、大体やる事やり尽くしてるんですよね。僕等としてはそんな八方ふさがりの中でこれからやるべきことを考えたら、単純に世界観を重視し続ければいいんじゃないかって思ったんです。表現者として作品を作るということを、時代に流されずにやり続けたいなって。

―それってめちゃめちゃ大事なことですよね。技術的なことを言ってもやっぱり限界はあるし、そこじゃなくて、根本にある自分たちの世界観を大事にするっていう。

明石:改めてそこに戻ったというか、そこだけを大事にすればいいのかなって思ったんですよね。

リリース情報
sgt.
『BIRTHDAY』

2011年8月17日発売
価格:2,500円(税込)
Penguinmarket Records / PEMY-017

1. 古ぼけた絵本
2. cosgoda
3. ライマンアルファの森
4. アラベスク
5. 221B Baker
6. breathless
7. Zweiter Weltkrieg
8. あなたはわたし
9. きみは夢をみている夢がきみをみている

イベント情報
『BIRTHDAY RELEASE TOUR』

2011年9月18日(日)
会場:大阪府 鰻谷 SUNSUI

2011年9月23日(金・祝)
会場:石川県 金沢 social

2011年9月24日(土)
会場:京都府 京都 VOX hall

2011年9月25日(日)
会場:愛知県 名古屋 Lounge VIO

2011年10月8日(土)
会場:山形県 山形 Sandinista

2011年10月9日(日)
会場:宮城県 仙台 BIRDLAND

2011年10月8日(月・祝)
会場:福島県 福島 club SONIC IWAKI

2011年10月15日(土)
会場:広島県 広島 MUGEN5610

2011年10月22日(土)
会場:東京都 渋谷 O-nest

プロフィール
sgt.

1999年結成。2003年より現在のメンバー編成にて活動開始。映画音楽的な手法にロック、ジャズ、ノイズ、エモ、即興といったサウンドが融合したマルチ・インストゥルメンタル・バンド。昨年には初の海外ツアーでカナダへ行くなど海外への活動範囲を広げている。2005年に1stミニアルバム『perception of causality』でデビュー。2008年には1stアルバム『Stylus Fantasticus』を発売し、国内に留まらず海外でも高い評価を受ける。2009年には2ndミニアルバム『capital of gravity』を発売。メンバーの成井幹子は、大友良英率いるONJOのライブに出演や、木村カエラ、ILL(ex.SUPERCAR)、ジム・オルークのバック・バンドへの参加。また勝井祐二(ROVO)とのデュオバンド「PHASE」を始動させたばかり。若手女性バイオリニストとして高い注目を浴びている。



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