衝撃的な災害や事件を前に、音楽は?world's end girlfriendに訊く

圧倒的なリアルを前に、芸術表現は何ができるのか? 国内ではまたしても大規模な自然災害が起こり、海の向こうのアメリカでは大統領選挙に付随して、ミュージシャンが政治的な言動を繰り返した2016年は、改めてそんな問いを突き付けられた年だったように思う。

そして、world's end girlfriendの実に6年ぶりとなるフルアルバム『LAST WALTZ』はその命題に真正面から向き合った傑作だ。直接的なメッセージを掲げるわけではなく、あくまで聴き手の想像力を喚起する形で、圧倒的な音の世界を作り上げている。

アルバムのテーマはずばり「world's end girlfriend」。アートワークからミュージックビデオに至るまで、すべてが超然とした美しさに満ち、本人も「今回は100%自分自身」と胸を張る。ぜひ、芸術表現の力強さを隅々まで味わい尽くしてほしい。

(震災のときに)津波が街を飲み込む映像が散々流れたじゃないですか? 破壊衝動ではなく、あの津波そのものがWEGのイメージにすごく近いんです。

―『LAST WALTZ』はフルアルバムとしては6年ぶりの作品になります。前作のリリース時から自身のレーベルVirgin Babylon Recordsがスタートし、様々な形態で作品を発表してきたわけですが、WEGさんはこの「6年」という期間をどのように捉えていますか?

WEG:曲はずっと作っていたんですけど、アルバムとしての形がなかなか見えなくて、時間がかかったっていう感覚はあります。ただ、やっぱり長編には長編の意味があるというか、フルアルバムじゃないと掘れない深さが、辿り着けない領域があるなっていうのは、今回のアルバムを作っていて改めて思いましたね。

world's end girlfriend
world's end girlfriend

―実際、アルバムとしての形はいつ頃見えてきたのでしょうか?

WEG:1年半くらい前かな? その時点で曲は8割くらいできてて、「こういうアルバムになりそうだな」と見えてきて、そこからまた何曲かは作ったんですけど、ホントはもうちょっと早く、春くらいには出そうと思ってたんです。ただ、なんやかんやで少しずつずれていって、そうしたら(Virgin Babylonに所属する)Have a Nice Day!が「新作を11月に出したい」って言うから、そっちの制作手伝ってさらにずれていったっていう(笑)。

―そんな変遷もありつつ、遂に『LAST WALTZ』が完成したわけですが、今回のテーマはずばり「world's end girlfriend」だということで、これにはどのような意味合いがあるのでしょうか?

WEG:アルバム全貌が見えてきたとき、その世界観が1周したのか2001年くらいにやってた感じというか、当時自分がイメージしていた根源のWEG像にすごく近いなって思ったんです。ただ、俺が思うWEGのイメージって、たぶんリスナーが思ってるようなロマンチックな感じとか、センチメンタルな部分って、ほとんどなくて。

―とすると、どのようなイメージなのでしょうか?

WEG:自分にとって東日本大震災がやっぱりすごく大きくて、津波が街を飲み込む映像が散々流れたじゃない? 破壊衝動ではなく、あの津波そのものがWEGのイメージにすごく近い。人間的な喜怒哀楽とか、善悪とかを超えたもので、海は命を与えるものでもあり、奪うこともある、「自然」の圧倒的現象。

不謹慎ではないと思うけど、少し躊躇もあるけど、あくまで自然現象として見たときに、感動すら覚えるような、あれが自分にとってのWEGのイメージなんですよね。津波=破壊ということではなくて、あくまで津波や海そのものの在り方が、自分の表現したいものと近いなって。

world's end girlfriend
world's end girlfriend

―そもそも最初に「world's end girlfriend」という名前を付けたときは、何かイメージのようなものはあったのでしょうか?

WEG:いや、最初からはっきりと意識してたわけではなくて、自分が表現したい音楽にハマる言葉を探していて、「world's end girlfriend」を思いついたときに、「これが正解だ」ってすぐにわかったんです。ただ、その意味合いを言語化することはできなかったんですけど。

world's end girlfriend初期の名曲

―3.11を経験したことによって、当時漠然と思い描いていたWEGのイメージをより具現化できるようになったということでしょうか?

WEG:単純に、デビューからは15年くらい経っているので、作曲家としても、人間としても成長して、より深いところまで表現できるようになったとは思います。『Ending Story』(2000年にリリースされた1stアルバム)に収録されていたタイトル曲を作ったときに、WEGの世界観が固まってきて、次の『farewell kingdom』(2001年)はまだまだ色々未熟だったけど、その分わかりやすかったとは思う。あの時期からやりたかった世界観の根っこに、今回やっと直接触れることができるところまで来たんじゃないかな。

優雅に自分の命や存在を全うしたいっていう気持ちの表れなんです。

―アルバムはヘヴィなギターの“LAST WALTZ”から始まって、キラキラした音色の“LAST BLINK”で幕を閉じます。先ほどの話を踏まえると、3.11後の世界に対してシビアな現状認識があって、「暗闇の中から光を見出そうとした」という風にも受け取れると思ったのですが、実際いかがでしょうか?

WEG:いや、「暗闇から光へ」みたいな流れは考えていなくて、あくまで人間の意図や感情を超えた領域を描きたかったんですよ。だから今回はジャケットやミュージックビデオからも人間や人工的なものは排除してるんです。

WEG:“Plein Soleil”のミュージックビデオには日南響子さんが出てきますけど、あれはあくまで象徴であって、演技も、感情表現も最小にしてもらってます。なので、「現実の世界がどうだから」っていうのは今回の作品には直接は関係なくて、ただ命とか存在の強さや美しさを扱っているだけ。それを別のものに置き換えて、音楽化するっていう作り方なんですよね。

―「テクノロジーにまみれた社会の中で、人間の生命力を捉え直す」みたいなアングルでもない?

WEG:でもないですね。もっとシンプルな根っこというか、「命とか存在はただあるだけで強い」っていう。だから、ミュージックビデオで日南さんはただ歩いてるだけですけど、それでも「命を産み、奪う海と花が燃える大地の間に存在してるもの」みたいな、そういう強さと美しさが感じられる。例えば、ボーっと一日中パソコンをしてるだけでも、存在の奥底にある命は本来それだけで強いものなんです。

―すでに公開されているもう1本のミュージックビデオ、“Crystal Chrysalis”に出てくる花と昆虫からも、確かに命の強さが感じられました。

WEG:あのミュージックビデオは命ごとの時間の表現というか――俺が昔から思ってることで、時間は一本線で流れてるんじゃなく、それぞれの命から放射線状に広がっていくイメージで、その命ごとの時間は影響し合ってる。水面に波紋をいっぱい作ったときのようなイメージっていうかね。なので、ミュージックビデオでも花の時間軸と昆虫の時間軸がずれてて、花が死にゆくときに、蛹が蝶になったりしてるんです。

―『LAST WALTZ』というタイトルに関しても、命や存在に対する考えが背景にあるのでしょうか?

WEG:地震で大地が揺れるのをダンスとして捉えて、津波にしても、そのダンスから沸き起こった現象だっていうのがまずひとつ。あと今回は人間の感情の表現ではないんだけど、そこに命とか存在の担い手としての人間はいて、俺の命や存在のありようとして、たとえ死ぬことが見えてるような状態だとしても、ちゃんと優雅に誰かと自由に踊れる魂でありたいっていう想いがあります。「メメント・モリ」とか「死の舞踏」とか、恐れたり、やけっぱちになって踊るわけじゃなくて、そのもっと先で遺される相手のこともおもいやって優雅に踊りたい。そのように自分の命や存在を全うしたいっていう気持ちの表れなんです。

―印象的なアートワークからも、今の話に通じる感覚を覚えました。

world's end girlfriend『LAST WALTZ』ジャケット
world's end girlfriend『LAST WALTZ』ジャケット(Amazonで見る

WEG:花が燃えている写真を使いたいと思って、ネットでそういう作品を作ってる人を探したら、Jiang Zhiの作品が一番自分のイメージに合ってたので、使わせてもらいました。これはつい最近知ったんですけど、この人普段はもうちょっと現代美術っぽい作風で、この作品だけ他のよりちょっとロマンチックに見える作品なんですね。

それでバイオグラフィーを調べてみたら、この作品は亡くなった奥さんへの哀悼の表現で、奥さんの名前に「蘭」っていう字が入ってたから、花を燃やす『LOVE LETTERS』っていうシリーズで3年くらい続けているものだったんです。最初は全然知らなかったんですけど、つながってるなって。

―まさに「命」がテーマの作品だったんですね。

WEG:Jiang Zhiは詩人でもあるから、写真に対しておとぎ話を作っていて、あの炎を蝶に喩えて、蝶が花に恋をして、花が枯れるときに、蝶も一緒に死のうとするんですね。でも、あの写真の花は燃えて死に行く姿だけど、写真では花は綺麗なままで、それは蝶が花に対する「不滅の愛」のようにも見えるんですよね。

(津波の映像を見て)「あれには勝てないよな」って思いながら、それでも「あれ以上のやつを何とか作りたい」っていう、その感情の方がずっと強くありましたね。

―音楽的には「2001年くらいの感じに戻った」という話もありましたが、確かに作風が大きく変化したというよりは、美しくも暴力的でもあるWEGの世界観をそのまま今にアップデートしたような印象を受けました。

WEG:より根本に近いというか、シンプルにストレートな表現をしました。前作『SEVEN IDIOTS』のときはもう少し複雑な作り方だったけど、今作は「変なことをしちゃってるなあ」みたいなのもなかったし、「今の世の中がこういう状況だから、こういうことをやろう」とかも全くなくて、自分の求めてる表現をストレートにやった感じですね。意味合いとして、命を扱う表現だから、声を全体的に多く入れてるんですけど、意識したのはそれくらいで。

―ゲストボーカルで参加している湯川潮音さんはこれまでにも何度かWEGの作品に参加しているので、これもストレートなチョイスと言えそうですね。

WEG:俺の中で潮音さんの声は少女と老婆が混ざってるっていうか、その両方入ってる感じが好きかな。

湯川潮音は新名義「sione」でVirgin Babylon Recordsからフルアルバムをリリース予定
湯川潮音は新名義「sione」でVirgin Babylon Recordsからフルアルバムをリリース予定

―さっき言った「美しくも暴力的」っていうのもそうですけど、常に対極が存在するっていうのも、WEGの世界観の基本かと。

WEG:子供の頃から世界とか人間をそうやって見ていたというか、もともと近代の歴史ドキュメンタリーとかがすごく好きで、第一次世界大戦から現代までの流れを見るのが好きだったから、そこには多くの悪い面と一部の強く美しい面が見えて、世界とか人間はその両方を含んだ上で存在してるんだろうなっていうのは昔から思っていました。

―そういった歴史に対する視座もありつつ、WEGは直接的なメッセージを投げかけることはしませんよね。今年はアメリカで政治的・社会的なメッセージを含んだ楽曲が数多く見られましたが、そういった音楽に触発されることはないですか?

WEG:直接的な表現をやりたいとは全く思わないです。ただ、人間の奥底には触れたいと思っていて、逆に言うと、それを表現しているから、わざわざ直接的なことを言う必要がないというか。

美しい作品は人間の奥底に触れます。触れられた人が、より自分を世界を良くしようとするか、何もしないままかは、その人の選択次第。素晴らしい芸術作品っていうのは、メッセージは必要とせず、人間を変える力が、より良くする力があると信じています。

―ただ、直接的な方法ではないやり方で、人間の奥底に触れるというのは、音自体に相当の説得力を必要としますよね。『LAST WALTZ』がすごいのはまさにその部分ですが、それでも、津波の衝撃から、それを作品化するには6年という月日を要したわけで。

WEG:そうですね……一時期はホントに毎日津波の映像を検索したり、1年くらいずっととにかくいろんな映像を見てたんです。そういう映像を見てまず思うのは、「表現が負けてるな」とか「音楽よりすげえな」っていうことで、当事者ではない自分が軽々しく言うことではないと思うけど、自然とわき上がるのはそういう想いで。まあ、「人間の表現は自然現象には勝てない」って昔から言われてるけど、それでも何かしら表現したくて、物語にしたり、音楽にしたり、どうにか対抗したいというか……自分はそう考えちゃうかな。

―「自分が作品を作る意味はあるのだろうか?」という考えにはなりませんでしたか?

WEG:3.11の後に「曲が作れなくなった」って言う人もいたけど、俺はその感じは全然わからない。「あれには勝てないよな」って思いながら、それでも「あれ以上のやつを何とか作りたい」っていう、その感情の方がずっと強くありましたね。

world's end girlfriend

『LAST WALTZ』は、自分がこれまで考えてきたこと、哲学とか思想が全部詰まっていて、今までで一番「自分」っていう作品になったと思います。

―『LAST WALTZ』には、具体的な物語性はどれほど含まれているのでしょうか?

WEG:『The Lie Lay Land』(2005年)、『Hurtbreak Wonderland』(2007年)、『SEVEN IDIOTS』(2010年)に関しては一作品ごとの明確なストーリーがあったし、三作でのストーリーもあって。『SEVEN IDIOTS』は天国から地獄に下っていく話だったんですけど、その前の『Hurtbreak Wonderland』の最後の曲で主人公が死んでいて、その主人公に会いに行くっていう話だったんです。

今回はそういうはっきりとしたストーリーはないんですけど、“Plein Soleil”のミュージックビデオみたいに、はっきりとはしてなくても、でも物語を感じることはできる、そういう作りにはしているつもりです。流れとしては、9曲目の“Girl”でアルバムの世界観が終わって、“LAST BLINK”は現実に戻るためのエンドロールみたいなイメージで。

―“Girl”は2014年にアナログ限定で出た『Girls/Boys Song』に収録されていた“Girls”のリアレンジ版ですよね。8曲目の“Radioactive Spell Wave”が長尺のプログレッシヴな曲であるのに対して、“Girl”は1フレーズの強さを持っている曲だなと。

WEG:“Girls”を“Girl”にしたのは、WEGを一人の人に置き換えたというか、存在そのもの、命そのものになったっていう感じかな。最後にそれを表現しないと終われなかったので、流れ的にもこの位置しかなかったって感じですね。

―自分自身である「world's end girlfrined」をテーマにした今回のアルバムが、世の中でどのように響いてほしいとお考えですか?

WEG:音楽シーンがどうこうみたいなのは全然興味なくて、リスナーの心の奥底の何かを震わせたいっていう、それくらいかな。『LAST WALTZ』を聴くことで、何かしらの反応が起きて、嬉しいでも、楽しいでも、悲しいでもない、それまで知らなかった、名前の付けられないような感情を呼び起こすことができたらいいなって、それを望むくらい。自分は、人間なら誰しもが持っている何かしらにつながっている部分を表現してるつもりだから、そんなに難解な作品でもないと思うし、多くの人に聴いてほしいですね。

―Virgin Babylon Recordsの主宰としては、世の中の動きも気にしつつ、WEGとしては、あくまで自分の表現を追求すると。

WEG:そうですね。『LAST WALTZ』は、自分がこれまで考えてきたこと、哲学とか思想、「人間とはどういうものか」とか「命とはどういうものか」とか、そういう考えが全部詰まっていて、ジャケットとかミュージックビデオも自分の想いに合うものだけで100%固めているので、今までで一番「自分」っていう作品になったと思います。

リリース情報
world's end girlfriend
『LAST WALTZ』(CD)

2016年11月26日(土)発売
価格:2,484円(税込)
Virgin Babylon Records / VBR-039

1. LAST WALTZ
2. Plein Soleil
3. Angel Ache
4. Flowers of Romance
5. Void
6. Crystal Chrysalis
7. in Silence / in Siren
8. Radioactive Spell Wave
9. Girl
10. LAST BLINK

プロフィール
world's end girlfriend
world's end girlfriend (わーるず えんど がーるふれんど)

1975年11月1日かつて多くの隠れキリシタン達が潜伏した長崎県の「五島列島」に生まれ10歳の時に聴いたベートーヴェンに衝撃を受け音楽/作曲をはじめる。2000年デビュー。アジア、EU、USツアーなどを行い『ATP』『Sonar』など各国フェスにも出演。映画「空気人形」の音楽を担当し2009年カンヌ映画祭や世界中で公開された。2010年『Virgin Babylon Records』を設立し「SEVEN IDIOTS」をワールドワイドリリース。圧倒的世界観を提示しつづけている。



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