鈴木慶一が先端を歩み続けられる理由とは?45周年ライブから考察

東京タワーも、鈴木慶一の45周年を祝っているようだった

澄み渡った冬の青空に、東京タワーがよく映えていた。1958年12月23日に完成した東京のシンボルとも言える電波塔とは、気心知れた長年の仲間のようなものだろう。東京都出身の音楽家・鈴木慶一、1951年8月28日生まれ、東京タワーより少し年上。元祖シティボーイのミュージシャン生活45周年を祝うコンサートが、12月20日、芝公園にほど近いメルパルクホールで行われた。

この日は、THE BEATNIKS、ムーンライダーズ、はちみつぱいという日本の音楽史における「レジェンド」のメンバー、そして鈴木が近年取り組んでいるロックバンド・Controversial Sparkや、最新アルバム『Records and Memories』の楽曲を演奏するために結成されたマージナル・タウン・クライヤーズ(以下、マージナル)らが参加。45周年を祝うにふさわしい、じつに豪華なライブとなった。それは、鈴木の長きにわたるキャリアをじっくりと振り返りながらも、自身の最新型を明確に提示する内容だった。

まだまだ「過去の伝説」になる気配はない

鈴木慶一が他のレジェンドと呼ばれるミュージシャンたちと一味違うのは、やはり、音楽家としての最新型を堂々たる様で見せるところにある。はちみつぱいの『センチメンタル通り』(1973年)や鈴木慶一とムーンライダーズの『火の玉ボーイ』(1976年)を、ポップスやロックの教科書として聴いてきた筆者としては、今回のライブに対して「“塀の上で”の生演奏だ! くじら(武川雅寛。はちみつぱい、ムーンライダーズのメンバー。2015年6月に体調不良により緊急手術を受けた)が復活してる! わー、本物だぁ!」と「感動」というチープな言葉以外の何物でもないディープな感慨もあった。しかし、アメリカンロックやニューウェイブ、そしてアヴァンギャルドと、音楽の地平を行き来する偉大なるミュージシャンがいま取り組んで夢中になっているものを目の当たりにするのは、過去の伝説を目撃するのとはまた一味違う悦びと驚きがあったのだ。

はちみつぱい
はちみつぱい

ムーンライダーズ
ムーンライダーズ

THE BEATNIKS
THE BEATNIKS

証言あり。鈴木慶一は若手ミュージシャンへの関心を絶やさない

昨年の秋、恵比寿のLIQUIDROOMで行われた森は生きているとOGRE YOU ASSHOLE(以下、オウガ)のライブで、鈴木慶一の姿を見かけた。森は生きているのリーダー・岡田拓郎とオウガのライブを観ながら談笑していた。筆者は「こんな有名な音楽家が若手のライブに……」と驚いたのだが、マージナルにギタリストとして参加しているトクマルシューゴに話を聞いたところ「慶一さんとは行くライブが重なることが多かったんです」と言っていた。「やはり、足繁く偵察に来ているのだ……」と慶一翁の隠密活動を知ってしまったような気分になった。

鈴木慶一の若手ミュージシャンに対する感度の高さは特筆すべきところだ。ceroのキャリア初期にプロデュースを手がけたこともそのひとつ。ceroの鈴木に対するリスペクトは、1stアルバム『WORLD RECORD』のジャケットが、『センチメンタル通り』と『火の玉ボーイ』の折衷案のようにとれるところにも表れている。

cero『WORLD RECORD』ジャケット
cero『WORLD RECORD』ジャケット

はちみつぱい『センチメンタル通り』ジャケット
はちみつぱい『センチメンタル通り』ジャケット

鈴木慶一とムーンライダーズ『火の玉ボーイ』ジャケット
鈴木慶一とムーンライダーズ『火の玉ボーイ』ジャケット

鈴木自身が曽我部恵一と作ったアルバム『ヘイト船長とラヴ航海士』(2008年)では『レコード大賞優秀アルバム賞』を受賞。相対性理論・やくしまるえつことのコラボレーションは(2010年発売『Keiichi Suzuki:Music for Films and Games』に収録)、任天堂の伝説的なゲーム『MOTHER』(1989年発売)の音楽を手がけていた頃の鈴木との直接的なリンクがあるもので、言うまでもなく素晴らしかった。

Controversial Spark、そしてマージナルでベースを担当している岩崎なおみに、ライブ前に話を聞いたところ、「慶一さんは若いミュージシャンと共演している時、とっても楽しそうなんですよね」と語った。時代の空気を吸い込みながら良質な音楽を作る新進気鋭のミュージシャンたちと何かを作ってみたいという純粋な興味関心……それが鈴木を過去の音楽性に固執せず、貪欲に新しいものを創り出そうとする試みに向かわせるのではないだろうか。

岩崎なおみ
岩崎なおみ

「コスモポリタン」と呼ぶべき、鈴木慶一の懐の広さ

自他共に認める鈴木慶一ファンであり、リスペクトを捧げるマージナルのキーボーディスト・佐藤優介(カメラ=万年筆)は、「慶一さんとの共演は、最高に緊張するが、最高に楽しい」と語る。アルバム『Records and Memories』にも参加し、マージナルのドラマーを務めるあだち麗三郎は「曲を演奏していると、いつの間にか慶一さん以外のバンドメンバーに光が当たっていることも多くて、慶一さんのバックでやっているという気がしなくなる」と、鈴木とのコラボレーションを形容した。

佐藤優介(カメラ=万年筆)
佐藤優介(カメラ=万年筆)

あだち麗三郎
あだち麗三郎

マージナルのもう一人のギタリストであるダスティン・ウォングは、鈴木慶一を「ひとりの『人』という枠を超えて、『コスモポリタン(地球市民)』だと思う」と述べる。この日、アンコールで演奏された楽曲は『MOTHER』『MOTHER2 ギーグの逆襲』から“エイトメロディーズ”。ライブに参加したすべてのミュージシャンがステージに上がり、観客と共に力強い愛のメロディーを歌う光景が目の間に広がった時、鈴木慶一を「コスモポリタン」と形容するその言葉の意味がわかった。過去の楽曲も、今回初披露された楽曲も、同じ強度でもって今の音楽として聴こえたのは、楽曲の軸となる部分は揺るがないが、その上でプレイするミュージシャンたちには高い自由度が与えられていたからだ。自分に固執するのではなく、それぞれのミュージシャンが鳴らす「音楽」がいつでも中心に来る。これこそがまさに鈴木慶一という一人のミュージシャンが、45年というキャリアを経て至った境地なのだろう。

 

「私はずっと人様の親切にすがって生きてきましたの」

鈴木は最後のMCで、自身の45周年のキャリアを「私はずっと人様の親切にすがって生きてきましたの」と、茶目っ気たっぷりに語った。しかし「親切にすがる」というのは、相手を本当に信頼し、尊敬していないとできない。そして、それを実践することはとても難しい。鈴木慶一の「凄み」は、それを口笛を吹きながら笑顔でやってのけてしまうところにある。

3時間弱に及ぶライブを観終わり会場を出ると、東京タワーが見慣れぬ色で輝いていた。今朝、堂々たる姿で立っていた東京タワーが、夜になって普段よりも少しだけ着飾ったカラフルなライトアップで佇む。ぼーっとその美しい立ち姿を見ていると、「いろんなことを知ってるつもりになってましたけど、何にも知らなかったんだと思います」と、いつの間にかつぶやいていた。

鈴木慶一

『鈴木慶一ミュージシャン生活45周年記念ライブ』セットリスト

Controversial Spark
・In May
・In June
・Hello Mutants

鈴木慶一 with マージナル・タウン・クライヤーズ
・男は黙って…
・無垢と莫連、チンケとお洒落
・愛される事減ってきたんじゃない?ない
・Memories~Untitled Songs Part 1

THE BEATNIKS
・No Way Out
・Total Recall
・ちょっとツラインダ

斉藤哲夫
・されど私の人生

ムーンライダーズ
・火の玉ボーイ
・ビデオボーイ
・スカーレットの誓い
・くれない埠頭 with PANTA
・BEATITUDE

はちみつぱい
・こうもりの飛ぶ頃
・センチメンタル通り
・月夜のドライブ
・塀の上で
・煙草路地
・ぼくの倖せ

アンコール
・エイトメロディーズ
・Scum Party

イベント情報
『鈴木慶一ミュージシャン生活45周年記念ライブ』

2015年12月20日(日)
会場:東京都 芝公園 メルパルクホール
出演:
鈴木慶一
武川雅寛、駒沢裕城、本多信介、渡辺勝、和田博己、橿渕太久磨(はちみつぱい)
高橋幸宏(THE BEATNIKS)、ゴンドウトモヒコ
岡田徹、白井良明、鈴木博文(ムーンライダーズ)
あだち麗三郎、岩崎なおみ、佐藤優介、ダスティン・ウォング、トクマルシューゴ(鈴木慶一with マージナル・タウン・クライヤーズ)
近藤研二、矢部浩志、岩崎なおみ、konore(Controversial Spark)
田中宏和、山本哲也
斉藤アリーナ、上野洋子、湯浅佳代子、澤部渡
斉藤哲夫、PANTA、KERA

リリース情報
鈴木慶一
『Records and Memories』(CD)

2015年12月16日(水)発売
価格:3,024円(税込)
PCD-28027

1. 男は黙って…
2. 愛される事減ってきたんじゃない?ない
3. 無垢と莫漣、チンケとお洒落
4. ひとりぼっち収穫祭
5. Sir Memoria Phonautograph邸
6. 六拍子のワルツ
7. Records
8. 危険日中毒
9. バルク丸とリテール号
10. Livingとは Lovingとは
11. Memories
12. Untitled Songs
13. My Ways

イベント情報
鈴木慶一 with マージナル・タウン・ クライヤーズ(あだち麗三郎、岩崎なおみ、佐藤優介、トクマルシューゴ、ダスティン・ウォング)
『COME TO TOWN Tour 2016,Welcome for 46 years』

2016年2月13日(土)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:京都府 磔磔
ゲスト:
本日休演
料金:前売5,500円 当日6,000円(共にドリンク別)
京都公演公式ウェブ先行販売(2015年12月25日まで)

プロフィール
鈴木慶一
鈴木慶一 (すずき けいいち)

1951年8月28日 東京生まれ。1970年、あがた森魚と出会い本格的に音楽活動を開始。以来、様々なセッションに参加し1971年には「はちみつぱい」を結成、独自の活動を展開するも、アルバム『センチメンタル通り』をリリース後、解散。「はちみつぱい」を母体にムーンライダーズを結成し1976年にアルバム『火の玉ボーイ』でデビューした。ムーンライダーズでの活動の傍ら高橋幸宏とのユニット「ビートニクス」でもアルバムをリリース。また膨大なCM音楽の作編曲、演歌からアイドルまで幅広い楽曲提供、プロデュース、またゲーム音楽などを作曲し日本の音楽界に大きな影響を与えてきた。2012年、ソロアルバム『ヘイト船長とラヴ航海士』が第50回日本レコード大賞優秀アルバム賞を受賞。映画音楽では、北野武監督の『座頭市』で日本アカデミー賞最優秀音楽賞、シッチェス・カタロニア国際映画祭で最優秀音楽賞を受賞した。2015年、ミュージシャン生活45周年の節目にソロアルバム『Records and Memories』をPヴァインよりリリース。



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