安心したいという欲を捨てろ。『ゴールデンコンビ2025』企画演出の橋本和明に聞くコンテンツ作りの本質

『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ2025』が11月21日からPrime Videoで独占配信中。

昨年10月末に第一弾が配信された『ゴールデンコンビ』シリーズは、芸人が1日限りのオリジナルコンビを結成し、優勝賞金1000万円をかけて即興コントの頂点を決めるお笑いサバイバル番組。

即興だからこそのライブ感や、200名の観客審査による、「一番面白くない芸人が投票で脱落していく」という緊張感のある構成から大きな話題となり、Prime Videoのオリジナルバラエティ番組視聴者数歴代ナンバーワン※を記録した。

※Amazon MGM スタジオが日本で手掛けたバラエティ作品における配信後1か月以内の国内視聴数

今回の記事では、同番組の企画・演出を担当する橋本和明にインタビュー。橋本は日本テレビで『有吉の壁』や『マツコ会議』を立ち上げたのち退社。現在は『ゴールデンコンビ』シリーズやABEMA『愛のハイエナ』など配信番組の企画・演出、TikTok『本日も絶体絶命。』の演出も行っている。

テレビ、配信、SNSを股にかけて活躍する橋本に、『ゴールデンコンビ』の面白さや、枠に囚われない「企画の作り方」について話を聞いた。

「作り手は『安心したい』っていう欲をちゃんと捨てないといけないんです」

─2024年10月に配信された『ゴールデンコンビ』は大きな話題となりましたね。

橋本:本当にいろんな方に観たと言われましたし、特に芸人さんはめちゃくちゃ観てましたね。「自分がやるのはきついな」とか「組むんだったら誰だろうな」とか。

配信はテレビと違い、視聴するタイミングも人それぞれ異なるし、同時に同じものを観るのが難しいと思うので、こんなに反響があってとても嬉しかったですね。

─特に嬉しかった反応はありますか?

橋本:出演した芸人さんが喜んでくれていたのが嬉しかったです。

「一番面白くないコンビを決める」っていう番組のフレームは過酷だし、一歩間違えば「出なきゃよかった」になるじゃないですか。でも、出たことでそれぞれの魅力が伝わって、出てよかったと思ってもらえたので、成功だったということだと思います。

─『ゴールデンコンビ』はこれまでにないかたちのお笑いサバイバル・バトルだと思いますが、企画はどう決まっていったのでしょうか?

橋本:2023年の1月ぐらいから、テレビ朝日を退社したAmazonのプロデューサーさんと一緒に考えはじめました。最初に考えたことは「セットがせり上がってくるコントのショーをやりたい」ということです。

コントの舞台が競り上がってくる良さって、全員が一斉にお題を見るってことなんですよね。視聴者も演者も同時にお題が見えて驚く。その瞬間のみんなのリアクションが一斉に見えることにリアリティがあって良いと思ったんです。

その後2人でディスカッションをやるなかで、「オリジナルのコンビでやったら面白いじゃないか」っていう話になり、即興でお題を出す形式も決まりました。

一番面白くないコンビが消えるのは残酷だと思いつつ、制作者としてやりたいと思ってしまった部分でもありました。一番面白いコンビに投票して最低得票のコンビが落ちるのは「丸く収まる」じゃないですか。面白くないコンビに投票するというフォーマットであれば、芸人さんは絶対本気になるし、観客にも意図を持って投票してもらえる作りになると思いました。

─「即興性」という要素が作り出していく面白さはどんな部分でしょうか?

橋本:どうなるのかわからない部分は、やっぱり面白いですよね。時代が進むほど視聴者も「見たことないものを見たい、リアルなものを見たい」という気持ちが強くなっていると思います。

『ゴールデンコンビ』では即興コントであることがリアルさを担保していますが、番組がつまらなくなる恐怖は制作側にもあるんです。完璧に台本を作って、完璧に練習してきてもらったほうが安心できるのですが……制作が不安を引き受けるってことが大事だと思っていて。

「上手くいくの?」とみんながドキドキしながら見るからこそ、上手くいったときに盛り上がるし、奇跡が起こる瞬間がある。スタジオ裏でもスタッフが沸き上がって、本気でみんなが笑っている瞬間があって、そのためには作り手が「安心したい」っていう欲を捨てないといけないんです。

展開が読める部分は6〜7割にして、「うまくいきそうだな」くらいでコンテンツを作ることが大事だと思います。

─不安を制作が背負うというのは、勇気がいる部分でもありますね。

橋本:でも、本当に上手くいくときってちょっと不安なときだと思うんです。あとは度胸の問題なので、場数を踏んでいくしかない。

若いうちは企画書もガチガチに作るじゃないですか。僕が駆け出しのときも死ぬほど台本を書いて、演者さんに一言一句、ボケについても説明して。いま考えると自分はどれだけ恥ずかしい説明を芸人さんにしてたんだって思いますが(笑)。そういう経験を経て台本を超えてくれる人の凄さを知っていくんですよね。

MCの千鳥さんはその最たる見本で、思ってもない角度から突っ込んでみんなの魅力を引き出してくれるんです。芸人さんがどれだけ大変な戦いに挑んでいるかガイドしつつ、そのなかで見つけたそれぞれの面白さを増幅してくれるじゃないですか。それは台本では絶対にできないし、裏方ができないことだと思います。

「企画は『人』から考えると楽だと思います」

─橋本さんはテレビ、配信、SNSなど様々な媒体でコンテンツを作られていると思いますが、媒体ごとに意識していることはありますか?

橋本:それぞれの媒体の特性はかなり考えていますね。Prime Videoだと観ているお客さんの数も多いですし、Amazonの配送サービスを便利に使いたくて入会する人もいて、お客さんの間口が広いので、『ゴールデンコンビ』はどの世代でも見られるお笑いコンテンツとして企画しました。

逆にTikTokなどはランダムでお客さんに当たるので、お笑いに興味がなく、1人も芸人を知らない人にも動画が回ってくるわけです。その人たちが面白いと思うかがコンテンツが広まる最低条件になるので、ファーストカットの作り込みや3秒でわかるような面白さの伝え方にすごく注力しています。

ただ、どの媒体でも「見たことがないものを作る」という部分は共通していると思います。

─既存の枠に囚われない企画を作るために、橋本さんが意識している部分を教えてください。

橋本:食や旅など、ジャンルで考えると凡庸な企画になってしまいがちなので、「人」から考えると楽だと思います。面白い人を見つけたときに「この人の面白さってどうやったら一番伝わるんだろう」みたいな。

例えば『愛のハイエナ』であれば“軍神”こと心湊一希さんっていう面白いホストがいるとか、『ダマってられない女たち』なら小森純さんが今ネイルサロンのオーナーになっててすごいぞ、とか。人生ってすべてに学びがあるし、「こんな考え方を持った人がいる」ってことを面白がって魅力的に伝えれば良いので、意外とシンプルなんですよね。

人それぞれすごい能力があるので、それを生かす仕組みを企画としてどう作っていくか。その結果、旅番組になったり、お笑いの賞レースになったりするんです。

人と接したときにどんな魅力があるか見抜いて、どんな面白いものができるかを考えられるセンサーは、作り手としてすごく大事だと思います。

「音楽の世界だと共創するのが当たり前ですが、映像コンテンツはそれがすごく遅いと思うんです」

─橋本さんご自身がインプットされている媒体やジャンルはありますか。

橋本:映画や舞台は山ほど観に行きます。インプットの時間をちゃんと作らないと世界が広がらないですよね。自分が本当に腹から笑ったり、すげえって思ったり、悔しかったりとか思うのが原動力になると思うんです。

あとは、「このクリエイターと作ってみたい」という意味でも人に興味があります。『ゴールデンコンビ』を一緒に作ったプロデューサーさんはまさにこのパターンです。

音楽の世界だと共創するのが当たり前ですが、映像コンテンツはそれがすごく遅いと思うんです。すごい演出家やプロデューサーがいて、その人の思いで全部作りがちなんだけど、そうじゃない作り方のほうが豊かだし、面白いことができるんじゃないかなって。

『ゴールデンコンビ』だと、セットをせり上げたいと言ったのは僕だけど、番組のテーマソングを作りたいと言ったのはプロデューサーさんで……1人で作っていると自分の引き出しの外のことってあんまりやろうとしないし、やることが多すぎて手が回らないことも多いんです。

共創することでコンテンツが良くなると思うし、自分が持っていなかった手法を知って次にやってみることも成長としては大事なんだろうなと思いますね。

─Xでは「映像制作を24歳から始めて23年。AD、ディレクター、演出、総合演出と積み重ねてきて、やっとコンテンツ作りの本質が少し見えてきた」とポストされていましたが、橋本さんから見たコンテンツの本質はどんなことでしょうか?

橋本:「誰も見たことがなくて、やったら面白い。でも誰もやってなかったこと」をあらゆる障害を乗り越えて作ることだと思います。

コンプライアンスやお金、キャスティングなど様々な壁がありますが、経験値を積んでいくことで、ちょっとずつ乗り越えられるようになっていくんです。

『ゴールデンコンビ』は実力のある芸人さんが出てくださって、技術さんが協力してくださって、舞台がせり上がる素敵なセットができて、みたいな形で全部実現していったんです。

でも、たぶん若いうちは「舞台がせり上がって、面白くない人に投票するサバイバルをやりたい」って思っても、実現することが難しい。それを実現する力は毎日仕事を一生懸命するなかでついていくし、一生懸命仕事をすることで生まれる信頼でみんながベットしてくれる。

映像の世界においては信頼を貯金するためには10年から20年のスパンが必要なので、若い子は二の足を踏むとは思うのですが、映画やドラマの世界でも、本当に大きいものを作るためには、かじりついて貯金していくしかないんですよね。

「日本のバラエティも世界に出ていった方がいいと思うんです」

─第一弾の『ゴールデンコンビ』を経て、今回変わった部分などはありますか?

橋本:去年の『ゴールデンコンビ』が上手くいった分、スタッフにも出演者にもプレッシャーがかかったと思います。

でも、そのなかで裏切っていく部分も作らないといけないので、セットの構造を変えたり、お互いの様子がわからない状態でネタをやるようなステージを作ったりと、大事な部分は残しつつ、わくわくするような変更点も用意しています。

─今回の出場芸人も豪華ですが、どのような基準で選ばれたのでしょうか?

橋本:最初の8人は即興でどんな戦いをするのか見たいと思った方を選びました。相方は本当にそれぞれの芸人さんにお任せしています。

そこがこの企画の肝でもあって、新山さん(さや香)が指名した小薮さんなど、制作側からは大先輩でオファーするのが難しい方の出演が決まりました。せいやさん(霜降り明星)についても、制作側で同じ人をオファーするのは避けていましたが、盛山さん(見取り図)が「せいやだったら絶対勝てる」と指名したことで出演が決まりました。唯一戦場のリアルな空気を知っているせいやさんが、どう戦うのか、わくわくしますよね。

─『ゴールデンコンビ2025』を楽しみにしている視聴者の方に、期待してほしい部分についても教えてください。

橋本:前回はホリケンさん(ネプチューン)と屋敷さん(ニューヨーク)など、様々なドラマや奇跡が生まれて、今回はどうなるか不安でしたが、また違うかたちでドラマチックな展開になりました。すごい絆や関係値を持ったコンビがたくさん出てきて、前回を超える出来になってるんじゃないかなと。

─最後に、橋本さんにとっての仕事のやりがいや、今後の目標について教えてください。

橋本:『ゴールデンコンビ2025』でも起こったような「奇跡の瞬間」がやりがいですね。こんな面白いことあるんだ、こんなに腹抱えて笑うことって目の前で起きるんだ、みたいなことは、企画を作ったからこそできるわけじゃないですか。

いま取締役を務めているQREATIONっていう会社でビジネスというより、クリエイターがやりたいと思った面白いコンテンツを少しでも多く具現化できる世の中に変えていくことを、後押ししたいっていう思いがあって。

いまの世の中は楽しいものを作って発表しようという機運が高まっていて、クリエイティブが盛り上がってるし、いいほうに向かっていると思うんですよね。それはAmazonさんがこういうコンテンツに力を入れてくれていることも大きくて、「こんなこと日本でやれるんだ」と多くの人が力をもらって、さらに良い流れが広がっていくんだと思います。

今後は日本のバラエティも世界に出ていったほうがいいと思うんです。僕らは台本のないバラエティを作ってきた人間なので、世界で戦える土壌を作るのが、いまの目標ですね。

作品情報
『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ2025』

2025年11月21日(金)より毎週金曜20:00からPrime Videoで独占配信中
作品ページ:https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0FS4SZ76Y

話数:全5話
1話&2話(第1ステージ~第3ステージ)
3話&4話(第4ステージ~敗者復活戦)
12月5日(金):5話(決勝)

MC:千鳥(大悟、ノブ)

出場芸人:
①新山(さや香) &小籔千豊
②田中卓志(アンガールズ)&川北茂澄(真空ジェシカ)
③ゆりやんレトリィバァ& とにかく明るい安村
④長谷川忍(シソンヌ)& 松尾駿(チョコレートプラネット)
⑤盛山晋太郎(見取り図)& せいや(霜降り明星)
⑥大久保佳代子(オアシズ)& 吉住
⑦阪本(マユリカ)& 芝大輔(モグライダー)
⑧狩野英孝&福井俊太郎(GAG)
番組サポーター:林瑠奈(乃木坂46)

コピーライト:©2025 Amazon Content Services LLC or its Affiliates.

※配信内容・スケジュールは予告なく変更になる場合がございます。
※作品の視聴には会員登録が必要です(Amazon プライムについて詳しくはホームページをご確認ください)。
プロフィール
橋本和明

1978年生まれ。2003年に日本テレビに入社し『有吉ゼミ』『有吉の壁』『マツコ会議』などの企画・総合演出を務めヒット番組に。「24時間テレビ」の総合演出も担当。 2023年、日本テレビを退社して「株式会社WOKASHI 」を設立。 Amazon Prime「ゴールデンコンビ」、Netflix「ファイナルドラフト」、 Abema 「愛のハイエナ」 など、様々なプラットフォームでヒット作を演出。 TikTokでは縦型ショートコント「本日も絶体絶命。」を制作し、1年で16億回再生を記録。佐藤勝利・蓮見翔とのコントユニット「グラタングミ」を結成。 メディアを横断してヒットコンテンツを作り続けている。



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