PAELLAS、DATSら、日本の音楽の更なる成熟を予見させた

音楽シーンの更なる成熟を感じさせた夜。一番手のSentimental boysが見せた、ギターロックの未来

3月30日、音楽アプリ「Eggs」とCINRAの共同主催による無料音楽イベント『exPoP!!!!!』がTSUTAYA O-nestにて開催された。95回目の開催となったこの日、5組の出演アーティストが示した五者五様のアイデアとアティチュードは、今、日本の音楽シーンが更なる成熟期を迎えていることを感じさせた。

音楽とは物語だ。そんなロマンと衝動を示して見せたのは、オープニングアクトとして登場した4ピースバンド、Sentimental boys。去年10月開催の同イベントにも出演した彼らだが、今回は3月下旬という、「青春」や「旅立ち」をテーマにした曲が多い彼らにぴったりの季節での登場となった。

1曲目は、“metro.”。轟音、しかし柔らかく包み込むようなギターサウンドが会場を覆う。Sentimental boysは、形骸化した「ギターロック」という手法に、新たな可能性をもたらしている。「音」は「音」だけで、どれほどの景色を聴き手に見せられるのか? 「言葉」は「意味」を断定するだけではなく、聴き手の想像力をどれほどかき立てることができるのか? それらの問いに真っ向から向き合い続けることで、Sentimental boysは「ギターロック」の在り方を更新する。

Sentimental boys
Sentimental boys

最後に演奏された“青春は過ぎてゆく”は、決してノスタルジーに溺れる曲ではなく、新たな青春に向かって歩き出すための曲だ。ギターミュージックの可能性を、そして人の心と未来に可能性を信じているがゆえに刻まれた力強さが、会場中に響き渡った。

京都発、バレーボウイズという新種のユースミュージック

「never young beach、銀杏BOYZ、前野健太、鎮座DOPENESS、筒美京平」――観終わった後に自分の手帳を見れば、そんな名前がメモしてあった。この日、2番手に登場した京都出身の7人組バンド、バレーボウイズ。

バレーボウイズ
バレーボウイズ

上記した名前からくるイメージをミックスすれば、「フォークや昭和歌謡の持つ豊潤な詩情を、モダンな形でバンドミュージックとして咀嚼しながら、パンクの衝動性とストリート感を合わせ持ち、なおかつ、R&Bやヒップホップの持つ横揺れのグルーヴ感を自然と生活のなかに溶け込ませてきた世代による、新種のユースミュージック」ということに(筆者的には)なるのだけど、このバンドはかなりの衝撃だった。

2016年結成というから、その衝撃はなおさらだ。男女ツインボーカルは昭和のアイドル歌謡のようなメロディーを朗々と歌い上げ、しかし演奏は極めてダイナミック。ステージ上の七人だけが感じていた独自のグルーヴが、次第にフロア全体を浸食していく様子は圧巻だった。

バレーボウイズ

1曲目に演奏された楽曲のタイトルが“祭”だったのだが、この曲は生活のなかに「祭り」を生み出すために作り上げられたような、「人生」と「自由」が対等に存在している若者たちによる音楽だった。今後、要チェックのバンドである。

踊る!ディスコ室町がぶっ放したファンクの、悲しさと優しさ、そしてカッコよさ

「かっこうをつける」ことは、なんてカッコイイことなんだろう。そんなことを考えさせてくれたのが、続いて登場した京都出身の6人組バンド「踊る!ディスコ室町」。

踊る!ディスコ室町
踊る!ディスコ室町

去年の『FUJI ROCK FESTIVAL』では「ROOKIE A GO-GO」に出演し、勢いに乗る彼らが奏でるのは、圧倒的なグルーヴ感でフロアを揺らす、汗が飛び散り笑顔が舞うファンクミュージックだ。

しかし、それはただ「楽しい」だけではない。岡村靖幸や在日ファンクがそうであるように、ポップミュージックの歴史のなかで、アフロアメリカンたちが生み出してきたブラックミュージックの本質をなんとか自分たちのものに咀嚼しようと試みながら、それでも絶対にジェームス・ブラウンにもプリンスにも、あるいはブルーノ・マーズにだってなることはできない――「日本人」としての悲しみがそこには刻まれている。

踊る!ディスコ室町

だからこそ、彼らのファンクミュージックには、ぽっかりと空いた心の穴のように「何者にもなれない」という感覚が存在する。しかしそれは、同じように「何者でもない」人たちを抱きしめる優しさに変わる。音楽は最高にキマっているが、メンバーの佇まいにどこかユーモラスな「キマらなさ」を携えた、踊る!ディスコ室町。しかし、こんなにも優しいファンクが自分たちの音楽であることが、僕らの誇りなのだ。

ミキクワカド(Vo)
ミキクワカド(Vo)

「アートの洪水」ともいえる時代に、DATSが投げかける問い

音楽もアートも、あらゆるものが情報と共に溢れかえる時代。その全てに埋もれて窒息死することは容易いが、そのなかから本当に大事なものを掴み取れれば、人は今まで以上に自由に息をすることができるのではないか? そんな問いかけを感じさせたのが、4番手に登場したDATS。

DATS
DATS

yahyelのメンバーも在籍するこの4人組の音楽的基調としてまず存在するのは、「インダストリアル」と「ハウス」、つまり「Arca以降」「Disclosure以降」という「今」を捉えたビートだ。

演奏が始まった当初、縦横無尽に打ちつけられたパーカッシブなリズムは、曲を追うごとに次第にハウス特有のユーフォリックな響きを持ち始める。そこに感じるのは、DATSにとってリズムとは人と人を「繋ぐ」ために存在するのだということ。ときにフロアに手拍子を求め、リズムから生まれる熱を人に伝えようとするその姿には、「ポップ」の最も原初的な姿があった。

DATS

そして、もうひとつ。DATSには「歌」がある。オーウェン・パレット、ANOHNI、そしてArcaの近作が示したように、どれだけ音が情報として溢れたとしても、人間が、その存在を音楽に託そうとしたとき、そこからは「歌」が溢れる。この日、杉本亘(Vo)の歌声は本当にエモーショナルに響いた。そこにあるエモーションこそが、次の時代の扉を叩く鍵なのだろうと感じた。

杉本亘
杉本亘

日々の豊かさと音楽、カルチャー。PAELLASの音が証明したこと

いつだってクールであること。ファッショナブルであること。それはカルチャーを信じるということだ。この日、トリを飾った東京出身の5人組、PAELLASは、どこまでも洗練されたメロウなサウンドを奏でることで、そんな事実を証明してみせた。

PAELLAS
PAELLAS

ファッション業界とも通じ合う彼らの「都会的」とも評されるサウンドは、インディーロックもモダンR&Bも飲み込みながら、徹底的にスタイリッシュに夜を彩ってみせた。PAELLASのサウンドは、単音のギターが奏でるメロディーラインも、繊細に刻まれるビートも、ふくよかなシンセが重なり合うことで生まれるバンドアンサンブルも、そして、熱を持たせすぎず、まるで感情のバランスを保つかのごとく囁くような歌声も、その全てがこだわりぬかれた末に生まれたものなのだとわかる。

誰しもが、毎日着る服や食べるものにこだわりを持つことで1日1日を丁寧に、豊かなものに作り上げていくように、PAELLASは、丁寧に、そして豊かに、音楽やステージを作り上げていく。その豊かさこそが「カルチャー」なのだ。

PAELLAS

この日の『exPoP!!!!!』は、そんなPAELLASのスタイリッシュな音楽と共に幕を閉じた。メロウなファンクネスにゆらゆらと身を任せながら彩られていく夜。それはとてもロマンチックなものだった。

イベント情報情報
CINRA×Eggs presents
『exPoP!!!!! volume95』

2017年3月30日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
DATS
PAELLAS
踊る!ディスコ室町
バレーボウイズ
Sentimental boys(オープニングアクト)
料金:無料(2ドリンク別)

CINRA×Eggs presents
『exPoP!!!!! volume96』

2017年4月27日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
Aunbeatz
JABBA DA HUTT FOOTBALL CLUB
Ryu Matsuyama
ちゃんみな
音の旅crew(オープニングアクト)
料金:無料(2ドリンク別)

プロフィール
Sentimental boys
Sentimental boys (せんちめんたる ぼーいず)

長野県上田市出身の4人組ロックバンド。 2012年より本格的な活動を開始。2015年9月に満を持して1stフルアルバム『Parade』を全国リリース。同年12月に下北沢SHELTERにて行われたツアーファイナルは見事ソールドアウト。2016年は会場限定EP『グッドバイ e.p.』をリリースし、地元長野で行われた『OTOSATA ROCK FESTIVAL』や『りんご音楽祭』への出演を果たす。2017年2月にはバンド史上初のワンマンを成功。ミディアムテンポの楽曲群は限りなくエモーショナルなうねりが渦巻いており、誰の心にも存在する原風景のような懐かしい景色と色彩を映す。

バレーボウイズ

2016年、京都市左京区民で結成されたナツカシイサウンズバンド。昭和歌謡とアイドルサウンズの融合を目指す。切ないギターの音と田舎臭い歌詞が誰もが経験したことのある、あの頃の懐かしい感覚を呼び起こす。活動拠点は主に京都ですが、お呼びとあらばどこへでも。

踊る!ディスコ室町 (おどる でぃすこむろまち)

京都の6人組ファンクバンド「踊る!ディスコ室町」。京都は上京区、室町通り、武者小路を下がったところ、アパートディスコ室町の420号室からやってきたファンキーでグルーヴィな男たち。2012年に結成。2015年、全国流通1stフルアルバム『洛中にてファンク』をリリース。ロッキング・オン主催『RO69JACK』で入賞を果たし、2016年には2ndミニアルバム『新しいNEWネオ室町』発表。同年、『FUJI ROCK FESTIVAL '16』にて、新人の登竜門ステージ「ROOKIE A GO-GO」に出演した。

DATS (だっつ)

杉本亘(Vo,Gt)、伊原卓哉(Ba)、早川知輝(Gt)、大井一彌(Dr)の4人組。2014年と、翌2015年の2年連続で『SUMMER SONIC』に出演し話題を集め、同年デビューEP『DIVE』をリリース。また、Ykiki Beat、Yogee New Waves、LUCKY TAPESら同世代のバンドを招いた自主企画イベント『MUSIC WORLD』を開催し、その活動やライブパフォーマンスが各方面より高い評価を獲得。さらに、杉本と大井が、yahyelのメンバーとしても活動しており、次世代のシーンを担う存在として現在注目を集めている。

PAELLAS (ぱえりあず)

東京を拠点に活動する5人組。あらゆるジャンルの要素を独自のセンスで解釈し生み出すサウンドは、セクシュアルかつロマンチック。都会に漂うメランコリックな情景やその儚さを想起させるライブパフォーマンスも支持され、あらゆるシーンや時代を超えた存在になる可能性を秘めている。これまでにUnited ArrowsやPeach John、新宿のセレクトショップJackpotのCM等に楽曲を提供し、ファッション業界やニッチな音楽層からも注目を集め続けている。



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