SPARKSのユーモアは取扱注意。キャリア半世紀超、アウトサイダーを貫く兄弟バンドが語る実験精神

ユーモアは使う方だけでなく、見る方の感性も試される。「笑える / 笑えない」の境目はそのときどきの時代背景や共有されている文脈にも委ねられる。ユーモアは危険なものにも、想像力を刺激するものにもなりうるものだ。半世紀におよぶキャリアを誇り、昨年の『カンヌ国際映画祭』監督賞を受賞した『アネット』で原案と音楽を担当した唯一無二の兄弟バンド、SPARKSの楽曲は、「笑うべきなのか泣くべきなのかわからない」と言われるのだという。

トレンドや周囲の声に惑わされず、芸術性とユーモアセンスを武器に独創的なポップミュージックを世に放ち続けてきたSPARKS。そんな彼らに『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)や『ベイビー・ドライバー』(2017年)などのエドガー・ライトが2年間にわたって密着したドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザーズ』が公開される。彼らの表現のなかにある「ユーモア」をキーワードに、SPARKSの二人、ロン・メイル、ラッセル・メイルに話を聞いた。

キャリアの長さは半世紀以上。SPARKSとは一体何者か?

ロン・メイルとラッセル・メイルの兄弟によって結成されたロックバンド、SPARKS。彼らはかれこれ半世紀以上も活動してきたが、その作品はいまなお新鮮さを失っていない。「セックス、ドラッグ、ロックンロール」な人生とは無縁に、毎日スタジオに入って曲をつくり、いつも決まったカフェでお茶をしているが、それでいて新作は毎回、挑発的だ。ベック、モリッシー、エドガー・ライト、レオス・カラックスなど、さまざまなアーティストが憧れてきたSPARKSとは一体何者なのか?

カリフォルニアで生まれ育ったメイル兄弟は、The WhoやThe Kinksなどイギリスのロックバンドに憧れて、Halfnelsonというバンドを1968年に結成。1972年にバンドをSPARKSと改名してイギリスに拠点を移し、『Kimono My House』(1974年)を発表してブレイクする。

SPARKS『Kimono My House』収録のヒット曲“This Town Ain't Big Enough For Both Of Us”(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

SPARKSはグラムロック風の派手なギターサウンドを奏でたが、めまぐるしく展開する曲の構成は独創的で、ラッセルがファルセットヴォイスで歌うのも異色だった。そして、彼らは、オペラ、ジャズ、パンク、テクノなどさまざまな音楽性をロックに取り入れて、次々とスタイルを変化させていく。なかでも、大胆にシンセサウンドを導入した『No.1 in Heaven』(1979年)は1980年代のニューウェイブシーンに大きな影響を与えた。

『No.1 in Heaven』収録曲“The Number One Song In Heaven”。このアルバムのプロデューサーはジョルジオ・モロダー(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

そして、New OrderやPet Shop BoysなどSPARKSから影響を受けたバンドが活躍するなかで、彼らは知る人ぞ知る伝説的存在となっていく。そんななか、モリッシーが主宰した『メルトダウン・フェスティバル』(2004年)にSPARKSをゲストで招いたり、Franz Ferdinandと共演アルバム『FFS』(2015年)を制作したことで若い世代のリスナーから人気を集め、23枚目のスタジオアルバム『Hippopotamus』(2017年)がSPARKSとしては43年ぶりにイギリスのヒットチャートのトップ10入り。最新作『A Steady Drip, Drip, Drip』(2020年)はイギリスのインディーチャート1位に輝いた。

さらに彼らが初めて手掛けたミュージカル映画『アネット』(2021年、日本では2022年4月1日から公開中)のサントラが、『セザール賞』で最優秀オリジナル音楽賞を受賞するなど、近年の活躍ぶりには目を見張るものがある。そんななか、彼らの波乱に富んだキャリアに迫った初めてのドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザーズ』が公開される。

『スパークス・ブラザーズ』予告編。監督は『ベイビー・ドライバー』『ラストナイト・イン・ソーホー』などのエドガー・ライト

「鈴木清順に通じるポップセンスがある」。監督をエドガー・ライトに任せた理由

SPARKSの熱烈なファンであるエドガー・ライト監督は、「SPARKSに問題があるとしたら、SPARKSのことを知らない人が多いこと」という強い使命感のもとに『スパークス・ブラザーズ』を3年の月日をかけてつくり上げた。

映画で多彩なコメンテーターがSPARKSへの愛を語るなかで印象的だったのは、ベックやサーストン・ムーアなど音楽関係者に混じって、コメディアンが数多く登場していたことだ。思えばエドガー・ライトはイギリスのコメディー界と深いつながりがあり、音楽に詳しいだけではなくユーモアのセンスにも長けている。「ユーモア」はSPARKSの大きな特徴のひとつだ。SPARKSはライトに監督を任せた理由を、こんな風に語ってくれた。

これまで何度かドキュメンタリーの話が来たけど、どれもピンとこなかったんだ。でも、エドガーはSPARKSをあらゆる面から理解してくれていた。彼は音楽に詳しいから、ぼくらが音楽的にやろうとしていることを、この作品を通じて映画的な手法で表現してくれた。それに彼が手掛けてきた作品は、すごくユーモアのセンスがあるし、とても動的(キネティック)で、そのスピード感がぼくらの音楽に通じるところがあるんだ。
- ラッセル・メイル
彼には独自のポップセンスもあるしね。どこか鈴木清順の『東京流れ者』に通じるものを感じるよ。
- ロン・メイル

「マーク・ボランがヒトラーと共演している」とも称された、二人の際立ったキャラクター

エドガー・ライトと鈴木清順を並べるところがSPARKSらしいが、ユーモアと並んで「映画」もSPARKSの重要なエッセンスだ。ロンとラッセルは子どもの頃から映画館に入り浸り、共にUCLAでアートと映画を学んだ。SPARKSの作品には、至るところに映画的なイメージがちりばめられているが、そもそも二人のキャラクター、特にロンの存在が映画的だ。

SPARKSがイギリスでブレイクするきっかけは、イギリスの人気テレビ番組に出演したことだった。その際、彼らはその奇妙なキャラクターで注目を集めた。明るく笑顔を振りまくハンサムなラッセル。ちょび髭で無愛想なロンという対照的な組み合わせは、イギリスの若者たちに強烈な印象を与えた。番組を見ていたジョン・レノンがリンゴ・スターに電話して「マーク・ボランがヒトラーと共演しているぞ!」と報告した、というジョークが当時広まったとか。

『スパークス・ブラザーズ』で当時のロンのインタビューが紹介されているが、インタビュアーに「あなたの髭はチャップリンのようにもヒトラーのようにも見えますね」と尋ねられたロンは「どちらも漫画のキャラクターみたいだしね」と答え、チャップリンが演じた浮浪者風のコスプレで撮影をしている。チャップリンがヒトラーを揶揄して『独裁者』という映画を制作したことを、当然ロンは知っていただろう。

また、SPARKSと改名したのは、コメディアンのマルクス兄弟(20世紀前半に活躍したアメリカのコメディー俳優グループ。5人兄弟で構成)にちなんでのことで、Halfnelsonの頃のロンは、三男グルーチョ・マルクスのイメージに近かった。

イギリスで再出発するにあたって、ヒトラーとチャップリンという両極端のイメージを読み取れるキャラクターを創造したのは、映画に精通したSPARKSの二人がキャラクターをつくり出すことの重要さを知っていたからだろう。

着物の東洋人女性、ボクシング対決、兄弟で「結婚」……CDジャケットは「バンドを語るまたとないキャンバス」

こうした映画的なイメージとコミカルさは、ジャケットのアートワークでより鮮明に反映されている。

例えば『Kimono My House』では、二人の日本人女性が着物を着てふざけている。そこにはバンド名もタイトルも一切書かれていないため、一体どんな音楽なのかまったくわからない。

『Kimono My House』から伝わってくるのは挑発的なユーモアだ。このアートワークは、第二次世界大戦中の『LIFE』誌に掲載された写真にヒントを得てラッセルが考えた。その写真では、二人の日本人女性がイギリスの首相、ウィストン・チャーチルの写真を持って、チャーチルをバカにしていた。『Kimono My House』の女性たちは、型にはまったロックの美意識を笑っているようにも見える。

『Kimono My House』をはじめ、SPARKSのアルバムのアートワークはどれも強烈なイメージを発信してきた。『Propaganda』(1974年)では二人が猿ぐつわをされてモーターボートに乗せられ、『Indiscreet』(1975年)では墜落したセスナ機の前で途方にくれる。1980年代に入るとさらに喜劇性を帯びて、『Whomp That Sucker』(1981年)では兄弟でボクシング対決(ロンの勝利)。『Angst In My Pants』(1982年)では兄弟で結婚(花嫁はロン)したりと悪趣味を極めた。

『Propaganda』(1974年)ジャケット
『Indiscreet』(1975年)ジャケット
『Whomp That Sucker』(1981年)ジャケット
『Angst In My Pants』(1982年)ジャケット

ロンは「ぼくらのアルバムのジャケットは映画のスチールのようなもの」というが、機知に富んだアートワークは、バンドにとって音楽同様に重要な表現方法なのだ。

ぼくらはジャケットにはとても誇りを持っている。SPARKSというバンドを語るにはまたとないキャンバスだからね。

ジャケットは音楽以外のやり方で自分たちのキャラクターを伝えることができる。一枚の写真を見たとき、一体どういう状況なのか、すぐにはわからないものが好きだし、ときには見るものを挑発する刺激的なイメージを求めている。リスナーに想像力を膨らませてほしいんだ。

例えば『Hippopotamus』のジャケットでは、ぼくらがプールを見ていて、水面からカバが少しだけ顔を出している。そこにシリアスな雰囲気が漂っているけど、アートワークを見ているだけでは何が起こっているのかわからない。ぼくらのジャケットは、答えのない問いを投げかけているんだ。
- ラッセル・メイル

「『SPARKSの曲は、笑うべきなのか泣くべきなのかわからない』ってよく言われるよ(笑)」(ラッセル)

そして、そんなジャケットと同じようにユニークな歌詞もリスナーの想像力を刺激する。それは通常のロックの歌詞とは異質なものだ。例えば、ラッセルの話に出たアルバム『Hippopotamus』のタイトル曲では、自宅のプールに突然カバが現れ、さらにはヒエロニムス・ボスの絵画、ヒッピーが運転しているマイクロバスが次々と現れて、「何でここに?」と問いかけ続けるシュールな展開。最新作『A Steady Drip, Drip, Drip』に収録された“Lawnmower”は、芝刈り機に恋するあまり、恋人か芝刈り機か、どちらかを選ばなくてはいけなくなった男の物語だ。

「SPARKSの曲は、笑うべきなのか泣くべきなのかわからない」ってよく言われるよ(笑)。「歌詞で描こうとしてる感情がわからない」ってね。でも、ぼくらにしてみれば、それが一番よく書けた歌詞なんだ。感情を揺さぶられるけど、普通の状況ではないから一体どう感じたらいいのかわからない。そのモヤモヤした感覚がぼくらのユーモアなのかもしれないね。
- ラッセル・メイル

追い詰められるスタンダップコメディアンを描いた『アネット』、叶わなかったジャック・タチとの協働

そんなSPARKS独特のユーモアのセンスや実験精神が、ひとつの物語に昇華されたのが、彼らが原案と音楽を担当したミュージカル映画『アネット』だ。監督はSPARKSのファンだったレオス・カラックスで、彼が『ホーリー・モーターズ』(2012年)にSPARKSの曲を使ったことから両者のあいだに交流が生まれ、SPARKSは自分たちが温めていた映画のアイデアをカラックスに持ちかけた。この映画もSPARKSの音楽同様、奇妙な設定だ。

ロンによると、最初は「歌う赤ちゃん(アネット)」というアイデアが思い浮かび、そこから物語を広げていったという。そこで赤ちゃんの両親として思いついたのが、スタンダップコメディアンのヘンリーとオペラの歌姫、アンだ。SPARKSは初期の段階からロックにオペラやクラシックの要素を取り入れてきたが、洗練された芸術性とエッジが立ったユーモアのマリアージュ、という点では、ヘンリーとアンのカップルはSPARKSの世界を表しているようでもある。

意識してなかったけど、言われてみれば確かにそうだね。極端なカップルにすることで、そこでどんな感情が生まれるのか描いてみようと思ったんだ。ただ、ヘンリーにとってコメディーは楽しいものではない。彼にとってはセラピーみたいなところがあるんだ。
- ロン・メイル
『アネット』予告編

毒気たっぷりの笑いで人気を得ていたヘンリー(アダム・ドライバー)だが、美しく才能溢れるアン(マリオン・コティヤール)に劣等感を感じ、さらにスキャンダルが発覚して追い詰められていく。SPARKSの歌詞に出てくる男たちの多くは、ヘンリーのようにコンプレックスを抱いていて、その劣等感が自虐的なユーモアを交えて歌われる。

『アネット』でヘンリーが観客に向かって歌う“You Used To Laugh”はSPARKS自身が特に気に入っている曲だが、映画ではヘンリーが自分のネタに笑わなくなった観客と歌で罵り合う。痛々しさとバカバカしさが隣り合わせなところがじつにSPARKSらしい。

SPARKSによる『アネット』オフィシャルサウンドトラック(Apple Musicはこちら

また、コメディアンといえば、先に触れたチャップリンやマルクス兄弟と並んでSPARKSとゆかりがあるのが、『ぼくの伯父さん』(1958年)などで知られるフランスのコメディアン、ジャック・タチだ。

『スパークス・ブラザーズ』でも触れられているが、1970年代なかば、タチとSPARKSは一緒に映画を撮る企画を進めていたことがあった。それはテレビ局を舞台にしたコメディーになる予定で何度か打ち合わせも行なわれたが、タチの体調悪化で企画は流れ、その後、残念ながらタチは亡くなってしまう。タチとSPARKS、まさに夢の組み合わせだが、両者に通じるユーモアのセンスとはどんなものだったのだろう。

タチとの映画がつくれなかったのは本当に残念だった。もし出来上がっていたら、彼のユニークなビジョンにSPARKSの音楽が加わって面白いものが出来たと思う。タチのユーモアはお腹を抱えて笑うようなものではなく、現代社会を鋭く分析して、観客が『そう、そう』と頷きたくなるようなものだ。

ぼくらの曲“Suburban Homeboy”では、歌の主人公は郊外出身なのに、まるでスラムに暮らしているようにヒップホップのファッションを身につけて歌っている。そういう軽妙で自虐的なユーモアのセンスは、タチとぼくらの似ているところかもしれないね。
- ロン・メイル

SPARKS“Suburban Homeboy”。2002年のアルバム『Lil' Beethoven』収録曲(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

「ユーモアには危険なところがあって、おかしいところだけ注目されて、メッセージが伝わらないことがある」(ロン)

SPARKSの目的はコミックバンドのように笑わせることではない。ヒトラーとチャップリンという二重のイメージを持ったロンのキャラクターが象徴するように、彼らのユーモアは社会や個人が抱えているシリアスな問題とも繋がっている。

『A Steady Drip, Drip, Drip』で上から垂れてきたカラフルなペンキに襲われている二人の姿は、溢れかえる情報に翻弄される現代社会を揶揄しているとか。一見ふざけたアートワークや風変わりな視点で描かれた歌詞にはそうした諷刺が込められていて、人が当たり前に感じている価値観を挑発している。ユーモアは権威に立ち向かうとき、新しいものを創る時に役に立つ武器なのだ。

ユーモアを武器にしてロックの可能性を切り開いてきたパイオニアがThe Beatlesだ。彼らの歌詞やサウンドにThe Beatles特有のユーモアが息づいているが、ユーモアを音楽と同じ次元で扱い、ポップスのなかで機能させることは難しい。繊細な技術とセンスが必要だ。

その点、SPARKSはThe Beatlesの志を受け継いだバンドと言えるかもしれない。『スパークス・ブラザーズ』でRed Hot Chili Peppersのフリーが「ポップミュージックにおいて、人々のユーモアに対する受容性が欠けているから、SPARKSはビッグになれないんだ」とコメントしていたが、SPARKSはポップミュージックシーンのアウトサイダーとしてしぶとく活動を続け、その成果が半世紀を経たいま、大きな成果を生み出しているのだ。

The Beatlesと同じ文脈で扱ってくれて嬉しいよ。ユーモアには危険なところがあって、おかしいところだけ注目されて、そこに込められたメッセージが伝わらないことがある。ぼくたちはユーモアを通じてシリアスな問題に切り込んで、面白さと真剣さという二つのポイントから何かをつくり出そうとしているんだ。

でも、なぜかポップミュージックにおいては、ユーモアを使うと真剣じゃない、と思われてしまう。ユーモアを使わずにシリアスでいた方が評価されがちなんだけど、ぼくらはそれが良いとは思わないし、それで無視されても平気だったんだ。
- ロン・メイル
タチもカラックスもぼくらも、アウトサイダーだというところでとても似ている。この三者はそれぞれ自分たちのルールのもとに独自の世界をつくり出してきたんだ。もちろん、ぼくらがタチやカラックスと同じくらい優れている、と言ってるわけじゃないよ(笑)。
- ラッセル・メイル

そんな風に謙遜する姿勢の低さもまたSPARKSらしい。そういえば、SPARKSには“Self-Effacing”というひたすら謙遜し続ける男の曲があるが、それは男らしさを誇示するロックの歌詞に対して書かれた曲だ。「ポップスの歌詞にはもっと挑戦する余地がある」(ラッセル)、「最近のポップスはつまらないものが多いけど、ぼくらはポップスの可能性を信じている」(ロン)と二人は言う。

では、SPARKSにとってポップスとは何か? と尋ねると、それは人を楽しませるものでも、ましてや感動させるものでもなく、「驚かせるもの」だとか。彼らはシリアスなテーマをシリアスに表現するより、ユーモアを交えてポップに表現することの難しさを知っている。だからこそ、創作意欲を刺激されてポップミュージックに挑戦し続ける。彼らは生粋の芸術家であり、職人でもあるのだ。

「ぼくらは家にいるのも好きだけど、結局落ち着かずに寅さんみたいに旅に出るんだ」(ラッセル)

ちなみに日本映画も大好きなSPARKSの二人は、『男はつらいよ』シリーズの大ファン。『スパークス・ブラザーズ』では、二人が葛飾柴又に聖地巡礼して、寅さんの銅像と一緒に映っている映像も登場する。アウトサイダーで世界中をツアーで旅しているSPARKSは、寅さんとも通じるところがありますね、と話をふると二人は嬉しそうに微笑んだ。

『男はつらいよ』はいつも同じストーリーなのが楽しいね。チャーミングだけど哀しい、愛すべき寅さん。いつも理想の女性を追いかけてるのに結局は巡り会えなくて、柴又の虎屋に戻って来ては、また結局はそこから旅立って行ってしまう。ぼくらは家にいるのも好きだけど、結局落ち着かずに寅さんみたいに旅に出るんだ。
- ラッセル・メイル
そして、いつも何かに失敗して、「うまくいかなかった」って心を痛めている(笑)。
- ロン・メイル

自信作が全然売れなかったり、レーベルから契約を切られて6年間作品が出せなかったり。二人は音楽業界で浮き沈みを経験してきたが、失恋し続けた寅次郎に負けないほどタフだった。そして、その苦難をまったく感じさせず、嬉々として奇妙なポップソングをつくり続ける。

『スパークス・ブラザーズ』でラッセルは、医療が発達して寿命が延びればあと200〜300枚はアルバムをつくりたいと言っていたが、たとえ1,000枚作っても彼らの作品が新鮮さを失うことはないだろう。ユーモアと実験精神を失わない限り、SPARKSのポップセンスは不老不死なのだ。

作品情報
『スパークス・ブラザーズ』

2022年4月8日(金)からTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイント他全国公開

監督:エドガー・ライト
出演:
SPARKS
ベック
アレックス・カプラノス
トッド・ラングレン
フリー
ビョーク(声)
エドガー・ライト
ほか
配給:パルコ ユニバーサル映画
プロフィール
SPARKS (スパークス)

アメリカ合衆国カリフォルニア州サンタモニカ出身のロン(1945年8月12日生まれ)とラッセル(1948年10月5日生まれ)のメイル兄弟によるアートポップデュオ。前身バンドはHalfnelson。1972年にデビューし、27枚のアルバムをリリース。1974年に米国から英ロンドンに拠点を移し、『Kimono My House』を発表、瞬く間に世界中で社会現象を巻き起こし、その後のSPARKSの創造的な音楽性を方向付けた。2017年の『Hippopotamus』は、高い評価と商業的成功を獲得。最新アルバム『A Steady Drip, Drip, Drip』(2020年)も同様に世界的に高評価を受け、『Kimono My House』(4位)、『恋の自己顕示(Propaganda)』(9位)に続いて、1974年以来2度目の英国でのトップ10アルバム選出となった。レオス・カラックス監督、アダム・ドライバー、マリオン・コティヤール主演のミュージカル映画『アネット』(4月1日公開)では、音楽と歌詞を担当。



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