Rhizomatiksの個展『After Understanding』が9月12日からKOTARO NUKAGA(天王洲)で開催される。
同展の中心となるのは、回転するステンレスの円盤にダイヤモンドの針で一筆書きの線を刻み続けるプロッター。線は途切れることがなく、一度入った溝は消すことも塗り直すこともできない。
会場では、稼働するプロッターの実機と、刻み終えた金属作品を同時に展示。プロッターは会期を通じて線を刻み続けるため来場のたびに円盤の状態は変わる。来場者が「人間に残る知性とは何か」を自身の目で測り直す場になるという。
RhizomatiksによるKOTARO NUKAGAでの個展は、天王洲の新スペースのオープニングを飾った『Rhizomatiks Beyond Perception』(2024年)以来、2年ぶり2度目となる。
展覧会の見どころ
(1)理解の外側で、知識が動き始める
知識は、長いあいだ、人間に理解され、説明され、共有されることによって知識になってきました。しかしいま、その順序が揺らぎ始めています。理解されるより先に生まれ、確かめられ、次の出来事を動かしていくものが現れています。
ここで変わるのは、知識の量や速度だけではありません。「わかること」が、知識の成立条件ではなくなることです。確かであることと、理解していることが分かれ、その意味や成り立ちを誰も全体として見渡せないまま、ひとつの結果が次の結果を生み出していきます。
人間がその循環から消えるわけではありません。しかし、立つ位置は変わります。生み出す中心から、意味を与え、価値を選び、結果への責任を引き受ける場所へ。理解は知識の入口ではなく、出来事の後から追いつこうとする行為になるかもしれません。
本展は、この時間差をひとつの運動として提示します。目の前で何かが生まれ続けている。その規則を知り、結果を見ることはできても、起きたことの全体を読み戻すことはできない。理解の外側で進み続けるものと向き合うとき、人間は何を見て、何を信じ、何を引き受けるのでしょうか。
(2)「人間に残る知性とは何か」を問う
会場では極座標型のプロッターが稼働し、回転するステンレスの円盤をダイヤモンドの針で削り続けます。一度入った溝は塗りつぶすことも消すこともできず、機械が進んだ跡は、そのまま消えない傷として残ります。
機械は、自らが刻んだ跡を読み取ります。これから進む先の金属がどれだけ刻まれているかを予測し、実際に測り、予測が外れた分だけ曲がります。外れなければ、まっすぐ進みます。
この規則には、目標も報酬も与えられていません。良し悪しの基準もなく、乱数も使われていないため、同じ命令からは何度でも同じ線が出ます。線を曲げる原因になり得るものは、予測の誤差以外にありません。円盤の溝は、機械の意図を映したものではなく、機械が間違えた場所だけを記録した地図です。
ここで起きているのは、機械が人間より速いという事態ではありません。読み解くための手がかりが、はじめから無いのです。規則は全文が公開されていて、誰にでも検証できます。それでも、どの線が先に刻まれたのかは、金属の表面に残っていません。
真鍋は本作に至る実験で、線の込み入り具合と、機械が一枚ごとにつけた点数との相関を測っています。結果はほぼゼロでした。込み入った線のほうが手が込んでいるはずだ、という私たちの直感は、この作品では通用しません。
同じ実験では、見た目が完全に同一な2枚も現れました。機械は、その2枚に別の点数をつけています。差はいつ刻まれたかだけで、それは金属の表面には現れません。
読み解こうとして読み解けない。本展は、来場者が「人間に残る知性とは何か」を自身の目で測り直す場になります。
(3)画面の中のAIから、金属を削る身体を持つ機械へ
前回展「Rhizomatiks Beyond Perception」では、「AIと生成芸術」をテーマに、Rhizomatiksが自ら制作し著作権を保有する映像から切り出した約17万枚の画像だけを学習データとして、《Beyond Perception Model》をゼロから開発しました。既存の基盤モデルに依存せず、自分たちの表現を学ぶモデルそのものを作品として提示する試みでした。
その発展形である「recursive」では、《Beyond Perception Model》が生成した画像を大型LEDに表示し、その画面をカメラで撮影して、再びモデルの学習へ戻しました。自己の出力だけを循環させるのではなく、カメラに映り込む来場者や周囲の環境も学習過程に介入します。AIが自己を見ながら変化し続ける再帰的な創作プロセスを、展示空間に開いた作品です。
本展「After Understanding」では、回転する円盤と、その中心を通る直動レールでできた極座標プロッターが、外部の情報を取り込まず、自分が刻んだ傷だけを読みます。それは同じ動きに落ち着かず、この機械が身体をもち、会期中、金属を削り続けていくのです。
参考画像:「After Understandig」八機械時間、720mの試作(提供;Rhizomatiks)
参考画像:「After Understanding」八十機械時間、720mの試作(提供;Rhizomatiks)
参考イメージ:「After Understanding」八機械時間、720mの試作で見えた曲線の5つのパターン(提供;Rhizomatiks)
参考図版:Rhizomatiks「recursive」(2024)
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