『あいちトリエンナーレ』で巡りたい喫茶店、酒場、宿泊ガイド

芸術祭の見どころ作品と、街の魅力をあわせて紹介

『あいちトリエンナーレ2016』が8月11日に開幕する。3回目となる今回は、『虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅』をテーマに文化人類学者の港千尋が芸術監督を務め、その土地の独自の文化を問い、地域に根差した作品制作にも力を入れる。

アート鑑賞だけでなく「街」の空気も体感するのが多くの芸術祭に共通する楽しみ方であるとすれば、港が掲げるコンセプトは、こうした近年の芸術祭のあり方に則したものと言える。そこで今回は、主会場となる名古屋市・岡崎市・豊橋市の展示の見どころを紹介しながら、あわせて巡りたい個性的な店や街の風景を紹介していくことにする。3つの都市の魅力に目を向けると、『あいちトリエンナーレ2016』がいっそう充実したものになるだろう。

名古屋の「喫茶店文化」のルーツは、「茶の湯文化」にあり

名古屋の中心繁華街である栄は、メイン会場の愛知芸術文化センターで大巻伸嗣やジェリー・グレッツィンガーによる空間を使った作品が展示されるほか、名古屋市美術館、損保ジャパン日本興亜名古屋ビル、旧明治屋栄ビル、名古屋駅周辺も会場となっている。

大巻 伸嗣『Echoes-Infinity』「MOMENT AND ETERNITY」Third Floor-Hermès Singapore 2012 Created with the support of the Fondation d’entreprise Hermès for Third-Floor Hermès Gallery -Singapore 2012.
大巻 伸嗣『Echoes-Infinity』「MOMENT AND ETERNITY」Third Floor-Hermès Singapore 2012 Created with the support of the Fondation d’entreprise Hermès for Third-Floor Hermès Gallery -Singapore 2012.

ジェリー・グレッツィンガー『Jerry's Map』 2016 Courtesy of the artist
ジェリー・グレッツィンガー『Jerry's Map』 2016 Courtesy of the artist

名古屋は第二次世界大戦で市街地が甚大な被害を被り、しかしそれをバネに全国に先駆けて都市整備を進めた街でもある。復興のシンボルだった名古屋テレビ塔を中心に整然と区割りされた街並を歩いていると、街の発展と足並みを揃えて開かれた喫茶店にいくつも出くわすだろう。名古屋は「喫茶王国」と呼ばれるほど喫茶店の数が多く、モーニングをはじめ独特のサービスが発達している。会場周辺にもそんな喫茶店文化の香りを満喫できる老舗がいくつもある。

テレビ塔と同じ昭和29年6月19日開業の「エーデルワイス」はトーテムポールや仏像や裸婦像、天井びっしりの絵画などが彩るフォークロアアート空間。

エーデルワイス(撮影:大竹敏之)
エーデルワイス(撮影:大竹敏之)

昭和33年オープンの「ライオン」は重厚な調度品と大理石の狛犬や浮世絵の装飾が不思議な調和を保つ。

ライオン(撮影:大竹敏之)
ライオン(撮影:大竹敏之)

「洋菓子・喫茶ボンボン」は赤い革張りシートが映えるレトロな店内で、半世紀以上にわたり名古屋っ子を魅了してきたケーキを昭和価格で味わえる。

洋菓子・喫茶ボンボン(撮影:大竹敏之)
洋菓子・喫茶ボンボン(撮影:大竹敏之)

名古屋の喫茶文化の根底に流れるのは、尾張徳川藩政期から育まれてきた茶の湯の文化。茶道に熱心だった殿様の影響で、町人の間でもお茶を楽しむ習慣が古くから根づいていた。そんな生活スタイルに応えた場が喫茶店であり、迎え入れる側のおもてなし精神が生んだのが、激安のモーニングをはじめとした、過剰にも思えるサービスとも考えらえる。アート鑑賞の合間に「いっぷく」し、地域密着の生活文化に浸りたい。

立ち飲み店が急増、アートと酒屋が共存する長者町会場

メイン会場のひとつである名古屋市美術館は、オフィス街でありながら豊かな緑に覆われる白川公園の一角。前衛芸術家集団「フルクサス」とパフォーマンスを行なったこともある小杉武久の作品や、リオデジャネイロを拠点に活動するジョアン・モデの作品などが展示される。巨匠・黒川紀章が名古屋城や熱田神宮など名古屋の伝統的な意匠を取り入れた建築にも目を向けたい。

ジョアン・モデ『NET Project』 豊橋 子ども未来感ココニコ 2016 (撮影:港千尋 / 『あいちトリエンナーレ2016』芸術監督)
ジョアン・モデ『NET Project』 豊橋 子ども未来感ココニコ 2016 (撮影:港千尋 / 『あいちトリエンナーレ2016』芸術監督)

長者町会場は古いビルの内部や駐車場の壁など、既存の空間をそのまま作品展示に活かしていて、まさに街ごとアート巡りできる。中でも昭和32年開業の伏見地下街は、前回のトリエンナーレで描かれた錯視を誘うアートが残されたユニークな空間。今年に入って突如立ち飲み店が急増し、名古屋で今一番熱い飲み屋横丁になっていて、酒場とアートの共存がこれまた面白い。

長者町 伏見地下街&地下鉄伏見駅連絡通路出入口 / 『Blue Print』 2004 courtesy of OU studio
長者町 伏見地下街&地下鉄伏見駅連絡通路出入口 / 『Blue Print』 2004 courtesy of OU studio

前回の芸術監督が最も衝撃を受けた、デコラティブな「喫茶 丘」

名古屋を巡り終えたら、少し足をのばして岡崎・豊橋会場にも目を向けてみたい。中心地から距離はあるが、その街ならではの魅力を楽しめる。

まず岡崎では、岡ビル百貨店、岡崎シビコといった往年の花形商業ビルを会場として活用。歳月を重ねたビルの熟成感が展示作品にどんな作用をもたらすかが見どころだ。岡崎公園に期間限定(10月1日~16日)で設置される巨大なドーム型の空気彫刻はオランダのアーキテクツ・オブ・エアーによるもの。光と色彩によってデザインされた空間の内部に入れる仕組みで、周囲の自然との調和が注目される。

アーキテクツ・オブ・エアー『ペンタルム』2013 photo: Alan Parkinson
アーキテクツ・オブ・エアー『ペンタルム』2013 photo: Alan Parkinson

名古屋に続いて岡崎でも個性派の喫茶店に目を向けたい。前回の『あいちトリエンナーレ』芸術監督・五十嵐太郎をして「愛知県で最も衝撃を受けた」と言わしめたのが「喫茶 丘」。壁や天井を銀色のアルミと蛍光色の幾何学模様で埋め尽くしたデコレーションは、あたかも現代美術のインスタレーション。なぜこんなに派手なのか? マスターに尋ねると「店が古くなって汚れを隠そうとしてアルミを貼ったんです」と、拍子抜けするような理由に思わず脱力する。

喫茶 丘(撮影:大竹敏之)
喫茶 丘(撮影:大竹敏之)

厨房からめったに顔を出さない控えめな人柄だが、今回のトリエンナーレに向けて壁の模様をひそかにリファインしているところがほほえましい。派手さとは裏腹な邪心のなさはアーティストやその予備軍ほど何かしら心に刺さるものがあるのでは?

下町情緒と地域活性の両方を味わえる元・喫茶店の「西アサヒ」で旅の疲れを癒す

豊橋の会場で注目したいのは大豊水上ビル。昭和30~40年代に建てられた連続する3つのビルの総称なのだが、「水上」の通称の通り、もともとここを流れている農業用水にふたをする格好で建てられている。延長1km近くもあり、水路に合わせてビルもうねっているのが、土地と建築との有機的なつながりを感じさせてくれる。

大豊水上ビル(撮影:港千尋 / 『あいちトリエンナーレ2016』芸術監督)
大豊水上ビル(撮影:港千尋 / 『あいちトリエンナーレ2016』芸術監督)

入居するテナントは渋い飲食店やスナック、花火が盛んな土地柄ならではの何軒もの花火問屋、日用雑貨店など、長く営業を続けている店が大半。店主らとやりとりしながら買い物、飲食すれば、街の輪の中に入ることができる。

今回のテーマ「虹のキャラヴァンサライ」の「キャラヴァンサライ」とは、ペルシア語で「隊商宿」のこと。宿泊スポットもこだわるなら、レトロなムードを残しつつも、新店のオープンラッシュにも沸くアーケード商店街の中にある名古屋市内の「西アサヒ」が面白い。もともと昭和初期に創業した喫茶店だったという店内に、洗練されたリノベーションがほどこされ、居心地の良い空間が生まれている。下町情緒と地域活性の熱気を合わせて感じられる、地元の人にも新参者にも開かれた場所だ。

西アサヒ(撮影:大竹敏之)
西アサヒ(撮影:大竹敏之)

芸術祭はアートが街に何をもたらすかが大きなテーマ、意義でもある。作品と会場、そして周辺スポットとの間にどんなつながりがあるか。それを意識して巡ると、感じ方、見え方にも広がりがもたらされるに違いない。

イベント情報
『あいちトリエンナーレ2016』

2016年8月11日(木・祝)~10月23日(日)
会場:愛知県 愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、名古屋市内、豊橋市内、岡崎市内の各会場



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