アメリカとメキシコの国境でピクニック? 仏作家JRのアートプロジェクト

メイン画像:JRのFacebookより

アメリカとメキシコの国境で「ピクニック」?

フランスのアーティスト・JRがメキシコとアメリカの国境でピクニックをするアートプロジェクト『GIANT PICNIC』を発表した。

現地時間の10月9日に行なわれたこのプロジェクトでは、アメリカとメキシコを隔てる柵を挟んで巨大なピクニックテーブルが出現。国境を中心に、アメリカ側、メキシコ側の双方に等しくテーブルが伸びている。テーブルの両側には人物の瞳を捉えた白黒の写真が貼り付けられており、真っ直ぐに上を見つめている。

JRがアメリカとメキシコの国境に出現させた巨大なピクニックテーブル

「フランスのBanksy」とも言われるアーティスト・JRとは

フランス出身のアーティスト・JRは、弾圧や貧困、差別といった苦難のもとで暮らす人々を撮影し、その巨大な写真を現地の人々の手を借りて建物の外壁や屋根に貼り付けるプロジェクトを世界中で展開してる。

参加者が自分で送った白黒のポートレートが巨大なポスターとなって送信者のもとに届き、被写体となった参加者自身で好きな場所に貼ることのできる『Inside Out』プロジェクトでは、震災後に東北の被災地を訪れたほか、今年の『Reborn-Art Festival』で写真撮影室付きのトラックが半島や市街地を巡ったことも記憶に新しい。

『Inside Out』プロジェクトより、インドのスラム街の子供と親を写した写真

また2015年にワタリウム美術館で開催された映像作品展では、かつて移民たちのアメリカへの入り口であったエリス島をモチーフにした『エリス』などを発表した。

JRによる『TED』でのプレゼンテーション『アートを通して世界をひっくり返す』

メキシコからアメリカを覗き込む巨大な赤ちゃんの作品も

JRは『GIANT PICNIC』の発表に先駆けて、9月に同じアメリカとの国境沿いにあるメキシコの街・テカテに巨大な赤ちゃんの写真『Kikito』を出現させた。

アメリカ側からフェンスを見上げると正面から見ることのできるこの作品は、テカテに住む1歳の男の子の赤ちゃんの写真を使ったもの(「Kikito」はこの男の子のニックネームだそう)。写真は男の子がメキシコ側から国境を隔てるフェンスに手をかけているかのように設置され、アメリカを覗き込むその表情は「柵の向こうには何があるんだろう?」と好奇心に満ちているようにも映る。

『Kikito』をアメリカ側から見た様子

『Kikito』の公開と時を同じくして、アメリカではトランプ大統領がオバマ政権時に導入されたDACA(幼少期に親と共に不法入国した「ドリーマー」と呼ばれる若者の強制送還を猶予する措置)の撤廃を発表。JRはこの措置と同時期に作品を公開する意図はなかったようだが、メキシコの壁建設を公約に掲げるアメリカ大統領の反移民政策への反対運動と共鳴する形となった。

ピクニックテーブルに映る目は「ドリーマー」の目 「しばらく壁のことを忘れた」

『GIANT PICNIC』は1か月間にわたる『Kikito』の公開の終了にあわせて発表された。

JRはこのプロジェクトについてSNSに「ドリーマーの目の周りで、人々は同じ食べ物を食べ、同じ飲み物を飲み、同じ音楽を楽しんだ。僕らはしばらく壁のことを忘れた」と投稿。「ドリーマー」という言葉からは、「夢を見る者」という文字通りの意味と共に、移民救済制度「DACA」に登録していた若い移民たちのことも連想される。

柵を挟んで茶を飲みかわすJRとアメリカの国境警備隊

ピクニックというアート、アメリカとメキシコの国境沿いという場所

「共に食事をするアート」というと、鑑賞者に食事を振る舞うパフォーマンスなどで知られるリクリット・ティラバーニャを筆頭に、観客との共同作業体験やコミュニケーションにフォーカスしたリレーショナルアートの作家たちの表現が思い浮かぶ。『GIANT PICNIC』における国境の柵を挟んで別々の国にいる人々が共に食卓を囲むという体験は、参加者ひとりひとりが柵の向こうに思いを馳せ、互いへの連帯感を生じさせる効果があるだろう。

JRによる『GIANT PICNIC』の様子。柵の後ろから『Kikito』の赤ちゃんが見下ろしている。

一方で「ピクニック」という集まりは、かつて東ドイツの市民が国境を越えて西側のオーストリアに脱出し、後にベルリンの壁崩壊へと繋がった「汎ヨーロッパ・ピクニック」など、政治集会として取り入れられた例もある。

またアメリカとメキシコの国境は、トランプ政権誕生後特にアートプロジェクトの舞台となっている。Chim↑Pomは、昨年から今年にかけてメキシコ側からアメリカを臨むツリーハウス『U.S.A. Visitor Center』を制作。『レヴェナント: 蘇えりし者』『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』などを監督したメキシコ出身のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥは、メキシコからアメリカへの越境を試みる不法入国者たちの過酷な現実を体験できるVR作品を今年の『カンヌ国際映画祭』で発表した。

 
ロサンゼルス現代美術館で開催中のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥのVRインスタレーション『CARNE Y ARENA』ウェブサイトより(サイトを見る

トランプ大統領は、先日もアメリカ議会においてメキシコ国境沿いの壁建設にかかる予算の確保を再度要求。「国境の壁」はアメリカで試作品の工事も進められている。国境を隔てて『GIANT PICNIC』のテーブルに貼り付けられた「ドリーマー」の2つの視線は、「アメリカ・ファースト」の大統領には届きそうもない。

それでもJRは今回のプロジェクトを次のように振り返る。「今日のピクニックは明らかに禁止されているけど、中止はさせられなかった。やってみるもんだね」。



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